プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」

第4回 なぜインテルはホスティング事業を行うのか?
――低迷するホスティング業界で着実に顧客を確保するインテルの秘密 ――

1. インテルにおけるホスティング事業の位置付け

デジタルアドバンテージ
2002/05/18


 米国でのインターネット・バブル崩壊後、Intelは急速に半導体を中心としたビジネスに集約し始めている。CCD顕微鏡(Intel Play QX3コンピュータ・マイクロスコープ)やシリコン・オーディオ・プレーヤ(Intel Pocket Concert Audio Player)などを手掛けていた家庭向け製品事業からは撤退を決め、すでに販売を中止した。Intelの最高経営責任者(CEO)であるクレイグ・バレット氏は、講演の中で「Intelは、半導体を中心としたコア・コンピテンスに事業を集中する」と述べており、以前に述べていた「インターネットのビルディング・ブロック・サプライヤを目指す」という目標は聞かれなくなっている。

 もともと「インテル オンライン サービス」(以下、IOS)は、「インターネットのビルディング・ブロック・サプライヤを目指す」という目標のもと、インターネット経済をけん引する役割として開始された事業だ。企業のeビジネスを加速させるために、Intelが技術力などを補うこと目的としていた。つまり、「インターネットのビルディング・ブロック・サプライヤを目指す」という目標がなくなったいま、コア・コンピテンス(半導体事業)ではないIOSの位置付けは不明確な状態にある。そこで、IOSの現在のIntelにおける位置付けや今後の事業展開について、日本ならびにアジア・パシフィックにおけるIOS事業の責任者であるIntel Online Services社アジア パシフィック マーケティング担当ディレクターの町田栄作氏にお話を伺った。なお、Intel Online Services社は、ホスティング事業を展開するIntelの100%出資子会社である。(本文中敬称略)

−−半導体ベンダのインテルがホスティング・サービスを提供する目的をお教えください。

町田:インテル・アーキテクチャをベースとしたシステム運営をする中で、その経験と事例を蓄積し、それをハードウェア開発などにフィードバックすることが1つのミッションとなっています。つまりホスティング・サービス事業は、インテルの半導体ビジネスに対して重要な戦略的意味があるのです。

−−IOSの提供が開始されたホスティング・サービス事業を開始した1999年には、Intelは「インターネットのビルディング・ブロック・サプライヤを目指す」という戦略を立てていました。しかし、1年ほどたち、インターネット・バブルが崩壊すると「コア・コンピテンスの半導体に集中する」という方向に事業方針が移っていると思うのですが、その中で位置付け的にIOSの事業が変わったことは?

町田:変更はありません。インテルが実際に運用しているeビジネスのノウハウは常にIOSに対して提供されていますし、IOSとしても技術を内部に持ち、その中から生まれた技術をさらに、コアの半導体ビジネスにフィードバックしています。IOSが提供しているAppChoiceマネージド・ホスティング・サービスでは、SIや顧客と協力しながらIOS側でシステムを管理・運用しています。つまり、IOSがエンド・ユーザーとしてIAサーバやネットワーク機器などを管理・運用しているわけです。ここでの経験を、最終的にプロセッサやネットワーク機器といったインテルの製品に反映することが、大きな貢献になると思っています。そういう意味では、1999年といまとはIOSで、やらなくてはならないミッションは変わっていないはずです。

IOSの料金体系が分かりにくいのですが

−−IOSでは、料金についてホームページなどで公開していませんが、モデル・ケースで月額いくらというような目安はないのでしょうか?

町田:基本的には、サーバ1台に対して月額いくらという料金体系になっています。ただ、個々のケースによって異なりますので、モデル・ケースという形でも金額を明確にするのは難しいのが現状です。ISPやハウジングでは、1ラック当たりいくらとか、ネットワークの帯域保証などによって料金を明確化していますが、IOSではネットワーク貸しとかラック貸しのビジネスではなく、管理まで含めたサービスになっていますので、料金は顧客の要望によって変わってしまいます。

−−サービスがいくつかあると思うのですが、これはそれぞれ追加オプションという形ですか?

町田:オプションではなく、サーバ1台というベースの中に、IOSで提供するハードウェアのほか、OSやミドルウェア、アプリケーションのライセンスも含まれます。さらに、それらに関するパッチやバージョン管理、ネットワークの監視から、レポーティング、テープへのバックアップといった普段の運用・管理、監視なども入っています。こういった機器とソフトウェア、サービスのすべてで、サーバ1台当たり月額いくら、というような料金体系になっています。

−−さらにMicrosoft ExchangeやOracleのデータベースをサーバ上で運用したい、というとそれは別料金になるのでしょうか?

町田:これらのアプリケーションに関するサービスは別料金になります。ただユーザーは、これらのアプリケーションのライセンスを購入していただく必要はありません。IOSでは、サーバを含めて、ユーザーはできるだけ購入しないという考え方で運営しています。

−−例えば、ビジネスが伸びてきて、もう少しパフォーマンスを上げたいといったときは?

町田:IOS側ですべて対応します。こうした性能に関するアドバイスもIOS側から提案します。IOSでは、プロセッサの使用率やディスクの容量、ネットワークの状況などを監視していますので、そのデータを基に、顧客ごとの技術窓口を通して、どのようなサーバに変更するのが最良なのか相談する仕組みになっています。その中で、サーバの数を増やして負荷分散をするのがよいのか、サーバのランクを上げて単体の性能を向上させるのがよいのか検討し、IOSが変更管理や移行を行います。IOSでは、基本的にすべてのインフラを管理・運用させていただきますので、顧客は本来の業務にだけ集中できるわけです。

−−ユーザーとしては、そういう部分を気にする必要はないわけですね?

町田:まったくありません。eビジネスは常に動いていますから、単に現在のアプリケーションを運用していればいいということではありません。アプリケーションをバージョンアップしたり、新しいコンテンツを追加したりしながら運用しているわけです。当然、ビジネスが伸びてくれば、アクセス数が増えますので、サーバのレスポンスが落ちてくることになります。適正なレスポンス・タイムを保ちながら、サーバを管理・運用していくというのは非常に大変な作業となるわけです。その点、IOSでは管理・運用のすべてを行いますし、その情報をすべて顧客に提供していきますので、ユーザーはシステムの管理・運用という部分について労力を使う必要はないのです。

−−IOSの提供しているAppChoiceマネージド・ホスティング・サービスでは、アプリケーションを含んだ管理も行うということですが、アプリケーションの中身まで理解しているということなのでしょうか?

町田:ある程度、アプリケーションの中身まで理解しないとユーザーの満足できるレベルでの管理・運用はできないと考えています。IOSのセンターの社員は基本的には何らかの資格を持っています。ORACLE MASTERやMCP(Microsoft Certified Professional)、シスコ技術者認定(Cisco Career Certification)といったものから、新しく実施されたWebLogicの認定資格といったものも取得しています。というのは、データセンターで働いている社員は、オペレータではなく、システムやアプリケーションの中身が分かっているエンジニアであるということが重要だからです。そのうえで、顧客とシステム構築を行ったSIを含めた3者で話し合い、初めて管理・運用を行います。

  関連リンク 
インテル オンライン サービスの紹介ページ
 
 
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  プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」
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    2. ホスティング事業成功の秘けつは?
 
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