IT Market Trend

第15回 日本国内パソコン市場、需要はいつ回復するのか?
――2002年の日本国内パソコン市場の前半実績と後半見通し――

ガートナージャパン株式会社
データクエスト コンピュータシステム産業分析部
パーソナルコンピュータ

蒔田佳苗
2002/08/23


ガートナー データクエストでは、景気の動向、ユーザーの買い換え状況などから2002年第2四半期の当初予測(第2四半期時点での予測)から2002年第2四半期は7.5%減になると見込んでいた。ところが、2002年第2四半期の暫定調査結果によれば、法人・個人市場ともに予想以上の落ち込みとなり、出荷台数の対前年成長率で12%減となっている。また、需要を取り巻く環境は、現時点でも見込みより厳しく、そのため2002年後半の市場成長も抑制されるものと見ている。これまでのガートナー データクエストの予測では、日本国内のパソコン市場出荷台数成長率は2002年通年で微減の1.1%減としていたが、秋期修正予測では大きく下方修正を行い、10%〜5%減の幅になりそうだ。なお、本稿執筆時点で2002年第2四半期のパソコン市場出荷統計は最終調整段階であり、今後確定する最終統計、および秋期修正予測とは数値が異なる可能性があるので注意していただきたい。

ワールドカップの影響:開催期間中は日韓両共催国でパソコン売り上げが減少

 2002年6月1日から31日間に渡り日韓共催で開催されたサッカー・ワールドカップは、両開催国のパソコン売り上げにマイナスの影響を与えた。

 まず韓国においては、韓国チームが準決勝に進出したことから、韓国全体がこのイベントに集中し、個人・企業の両市場でパソコンの売り上げが止まってしまったのだ。これに大きく起因して、2002年第2四半期における韓国パソコン市場出荷台数は、対前年同期比で8.2%減にまで落ち込んでいる。パソコンの売り上げが減少した一方で、大画面テレビやビールが記録的な売り上げ増を示している。

日本および韓国のパソコン市場出荷台数の推移
出典:ガートナー データクエスト(2002年5月)
注:PCサーバを除く

 もう1つの開催国である日本においても、ワールドカップの影響がはっきりと現れている。調査結果によれば、5月に各大手ベンダから個人市場向けに夏モデルが出荷開始されたのにもかかわらず、6月の出荷は停滞していた。一方で、やはり韓国と同様、家電店における消費者の需要は大型テレビなどに集中しており、店頭におけるテレビの売り上げは大幅な増加となっている。

■ワールドカップの影響:二重の減速要因
 本来6月は、ボーナス月であることから、日本国内のパソコン個人市場の夏商戦期が始まる時期である。PCベンダは、今年もそれに備えて、5月後半から新製品を発表・出荷開始している。しかし、5月末から6月にかけて販売する予定であった5月の初期出荷分の多くが店頭在庫となったため、大手ベンダからの6月の店頭向け出荷は停滞した状態となった。

 パソコン販売店によると、ワールドカップ開催期間中は店頭を訪れる消費者数が目立って減少したという。通常ならば、来客が増加するアフター5と週末が、今年はワールドカップ観戦にあてられていたためだろう。また、この時期に来店する消費者の需要は、ワールドカップ特需として大型テレビにシフトしている。このように、来客数の低下と売れ筋商品のシフトという二重の理由から、店頭のパソコン販売がマイナス影響を受けたわけである。

■2002年第2四半期の日本市場:ワールドカップ以外の市場成長の減速要因
 日本市場ではそもそもワールドカップのほかに、複数の市場成長の減速要因が存在している。当初予測に折り込み済みのマイナス要因としては、以下の項目があった。

  • 法人市場において、景気低迷による中小企業におけるパソコン普及の減速
  • 企業市場全体におけるIT投資額の縮小
  • 買い替え需要のボリュームが小さい時期

 このことから、法人市場は当初予測でも対前年成長率12%減を見込んでいた。

 さらに、予測では折り込んでいなかった市場成長阻害要因として、2000〜2001年度の企業市場で起きた、組織の統合・合併のためのシステム入れ替え・再構築による特需に対して、2002年はそのしわ寄せがあったことが挙げられる。2000〜2001年にかけて、多くの大企業が生き残りをかけた組織の統合・合併を行った結果、従来のシステムからの移行が行われ、ハードウェアの入れ替え需要が増加した。これが2002年度に続いておらず、特需のあった前年に比べて出荷成長率が伸びにくくなっているのである。また、2001年の特需の一部には2002年の買い替えが前倒しされていたことも考えられる。そのため、法人市場全体も当初予測以上に深い落ち込みとなり、最終確定値では対前年成長率が17%減まで落ちるものと見ている。

 個人市場におけるワールドカップの影響以外のマイナス要因として、1998年後半〜1999年前半にWindows 98の出荷に合わせてパソコンを購入したユーザーや、その後1999年〜2000年にかけて市場の裾野を拡大した新規ユーザー層の買い替えが進んでいないことが挙げられる。このユーザー層も、前回のパソコン購入からそろそろ3〜3年半を迎えようとしており、本来ならば買い替えや買い増しが行われる時期に入っている。しかし、実際には多くのユーザーが買い替えや買い増しを行っていないのが現状だ。これは、多くの既存ユーザーにとって、パソコンの用途がWebブラウジングや電子メールといったものであるため、それほど高い性能が求められず、システム・アップグレードの必要性が見当たらないことが要因として考えられる。また、2002年夏モデルでは、液晶パネルやメモリなどの部材コストが上昇したため、それを反映してシステム価格が値上げされことも影響している。これにより、春モデルに比べて夏モデルに割高感が生じてしまい、買え控えの原因となったと考えられる。そのうえ、ボーナスの支給に遅れが見られたことなども、一部の消費者の購買意欲にマイナス影響を与えている。

2002年後半のパソコン市場の見通し

 韓国パソコン市場における2002年第2四半期のマイナス成長は、主としてワールドカップの影響によるもので、売り上げの減速は一時的な現象と考えられている。そのため、第3四半期はリバウンドによる需要の盛り上がりを期待している。しかし、日本市場では、ワールドカップの影響が全体のマイナス成長の一端を担っているに過ぎない。経済・市場環境・ユーザー環境的背景などさまざまな短・中期的マイナス要因が、この後も引き続き存在するためである。また、ワールドカップ終了後の7月の店頭では、来客数回復・増加が期待されたが、実際の売り上げは対前年同期比で改善を見せていない。すでに夏のボーナスは大型テレビという高額商品の購入に使ってしまった消費者も多く、その時点でパソコン購入は見送られたものと考えられる。これらのことから日本市場では、当初予測と同様に、第3四半期の出荷台数は前期よりもさらに低下するものと見ている。

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日本パソコン市場出荷台数の対前年成長率の推移
出典:ガートナー データクエスト(2002年8月)
注:PCサーバを除く

 ただし個人市場に限っていえば、2001年第3四半期は、Windows XP出荷開始に向けて厳しい在庫調整が行われた時期であったことから、この市場の対前年成長率が41.0%減と大きく下がっている。そのため数値的には、2002年第3四半期は対前年成長率では2けた台の大幅な成長に転ずるものと見ている。逆に2002年第4四半期には、一時的に第3四半期よりも対前年成長率は低くなるが、やはり1けた後半から2けた台の成長と見込んでいる。だが、この第3四半期以降の個人市場におけるプラス成長は、「統計要因的な現象」である。需要の増加は年内についていえば限定的なものとなり、本来の需要主導型による個人市場の回復は、2003年第1四半期以降となりそうだ。

日本パソコン市場出荷台数の予測(暫定値)
出典:ガートナー データクエスト(2002年8月)
注:PCサーバを除く
注:2002年第3四半期〜第4四半期の予測は暫定値。今後の修正予測では変更される可能性がある

 企業市場では、1999〜2000年第1四半期に西暦2000年問題を控えて大量にパソコンの買い替えが行われている。その買い替え潜在需要が、2002年後半から増え始める。これまでの予測ではこれに伴って、2002年度の限られた予算の中で限定的であるとしても、2002年第3四半期の中間期末需要期から、徐々に買い替え需要による引き合いが強くなり始めると期待していた。だがこれには、米国経済が2002年中盤から回復基調に入り、それを受けて2002年後半には日本経済も好転を見せ始める、という前提条件があった。ところが、米国経済が当初好転を見込んでいた2002年中盤に、米国内の会計不祥事を引き金とする株安などの影響で、春先から見せていた好転基調が鈍化し、先行きの不透明感が増してしまった。この影響を受け、日本経済の先行きにも懸念が広がっている。そのため、多くの企業は財政面でさらに保守的な姿勢を示すことが予想され、年度末である2003年第1四半期までパソコンの買い替えを延期する可能性が高くなっている。

 企業需要予測の前提条件となる、今後の経済の見通しについてはまだ予測策定中である。だが、脆弱な経済状況がさらに長期化することにより、悪くすると2002年度予算の凍結により、2002年度内のパソコンの買い替えが2003年度に先送りとなる危険性もある。2002年第3四半期は、中間期末による従来の季節変動的な需要の上昇は厳しく抑制され、対前年同期比でもマイナスを記録し続けるものと見ている。これまでの予測で「法人市場は、2002年第4四半期から対前年成長率でプラスに転じる」としていたが、2002年第2四半期の結果と2002年後半を取り巻く環境から、秋期予測では、2003年第1四半期までマイナス成長、またはよくても同時期前年並みとなりそうだ。

 以上に述べた背景から、次回の予測では日本市場全体では2002年第3四半期も通常の季節成長パターンを下回る可能性があると考えている。しかし対前年成長率では、前述のように個人市場において統計的な成長率アップとなるため、2002年第3四半期以降は対前年成長率で5四半期続いたマイナス成長に終止符を打ち、プラスに転じることになるだろう。2002年通年では、これまでの予測の1.1%減から下方修正となり、5%減から最悪で10%減を考慮に入れている。

製品メッセージとインダストリアル・デザインの重要性

 このように市場が減速する中、パソコン/システム・ベンダはユーザーから求められるものだけを提供し、需要が回復するのを手を束ねて待っていているしかないのだろうか、最後に考察してみよう。

 このIT時代の中、今後ますますコンピュータ技術は進化し、広く一般的に使われる一方で、日本のパソコン市場も確実に米国のような飽和市場に近づいてきている。すでに右肩上がりではない市場において、システム・ベンダはその利益をサービスやサポート、ソフトウェアなどのハードウェア以外の部分で求め始めている。企業として生き残るためには、より利益を追求できそうなところに注力するのは当然のことだろう。しかし、この風潮にあって忘れられがちなのは、サービス、サポート、ソフトウェアは、ハードウェアの普及あってのものであるという点だ。

 企業によっては、パソコン事業自体から撤退する決断もあるだろう。しかし、パソコン事業を継続していく企業にとって、取り扱うハードウェアのラインアップ次第では、自社のパソコン製品がユーザーに選択されないということもある。自社のパソコンが選択されないということは、システム案件を受注して、サービスやサポート、ソフトウェアの提供を行う市場が縮小することにもつながりかねない。ただし、ここでサービスなどを含めた最終的な利益のためだけに、単なるパーツとしてパソコンを販売しているという消極的な考え方では、厳しい競合市場の中で、ユーザーに「選ばれる製品」を提供することは難しい。「選ばれる」ためには、積極的・効果的アプローチに乗せる明確な製品メッセージが不可欠となる。

 日本において、パソコンはすでにコモディティ(日常品)化し、どこにでも存在する。だからこそ、これまで技術の進歩の結果として取り扱われてきたIT社会の実現やライフスタイルの提案を、今後は製品の本質の中に求めるべきではないだろうか。パソコンは、システム全体の中の一端末として業務効率の改善を図るだけではない。人と向き合うパーソナルなデバイスとして、進化するIT技術によって可能となるワークスタイルやライフスタイルを提案するものでもある。そのために、技術ではなくソリューションを提供するという観点から見れば、パソコンのインダストリアル・デザインはソリューションの提案・提供に欠かせない要素であるともいえる。

 用途、技術、提案内容に見合った外観(デザイン)は、単なる「ゆとり」や「おまけ」ではなく、技術と同様に製品計画の重要項目として取り扱われるべきだ。なぜならば、見る者、使う者に、製品メッセージ、提案内容を直感的かつ継続的に伝達・アピールするのが、外観だからである。残念ながら、現在は法人向け・個人向け製品ともに、中身(技術)、提案している用途(アプリケーション)と外観の関連性が希薄なものが多い。これは、ベンダ自身が、実現したいワークスタイルやライフスタイル、提案したい用途について明確かつ具体的なイメージに乏しく、伝えたいメッセージが欠如しているからだろう。

 現在の日本の社会構造や生活環境には、IT技術によって改善し得る部分が多く残っており、その具現化が強く期待されている。しかし、これを実行するためには、まずシステム・ベンダ自身が、自社のパソコン製品や構築システムによって、どのような社会やライフスタイルを実現したいのかを明確化する必要がある。そして、明確なイメージを持って事業計画を行い、そこでのメッセージを、ユーザーに受け入れられるまで根気よく継続することが肝心だ。逆にいえば、こうした明確なイメージを持たないベンダの製品では、数年後に到来する買い替え需要主導の飽和市場で新規顧客はおろか、既存顧客の買い替え需要においても、選択されることはないだろう。このことを、企業理念レベルの話にとどめることなく、いかに事業の本質として扱い、最終製品の訴求力にまで活かしきるのか、ベンダのパソコン事業に対する姿勢と取り組みが大きく問われてくるはずだ。記事の終わり

 
     
 
「連載:IT Market Trend」

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