解説

最新Pentium 4-2.53GHzに見るPCの買い替え時

1. 533MHz FSB対応のPentium 4発表

元麻布春男
2002/05/08


 ご存じのようにここ数年、プロセッサの性能向上は著しい。例えば3年前の1999年5月時点の最新プロセッサはPentium III-550MHzであったが、2002年5月7日にはPentium 4-2.53GHzが発売になっている。単純に動作クロックだけで比較すれば、5倍も速くなっていることになる。もちろん、Pentium IIIとPentium 4ではマイクロアーキテクチャが異なっているので、単純に動作クロックだけで性能は比較できないが、それにしても大幅に性能が向上しているのは間違いない。

 一方で、2000年問題を前に導入された1999年ごろのPCは、そろそろ企業におけるリース期間が終了する時期だが、景気後退の影響なのか古いPCでも機能に障害がなければ、多少性能が劣っても継続して使いたいという要求も強くなっているようだ。確かにPentium III-550MHz程度でも、オフィス・アプリケーションを使ううえでは、大きなストレスを感じることはないだろう。しかし、古いPCを使い続けることは、生産性に影響を与えないのだろうか? プロセッサだけでなく、この3年間ではハードディスクの容量やグラフィックス・カードの性能など、状況は大きく変わっている。そこで最新のPentium 4と3年前のPCをベンチマーク・テストで比べ、適切なPCの買い替え時期を考えてみよう。

533MHzのFSBに対応したPentium 4

 ゴールデンウィーク明けの2002年5月7日、IntelはPentium 4に新しいラインアップを加えた。新しく追加されたのはPentium 4-2.26GHz、2.40B GHz、2.53GHzの3種類である(インテルの「Pentium 4-2.53GHzに関するニュースリリース」)。コア自体は、すでに提供されている2次キャッシュが512KbytesのNorthwood(ノースウッド)コアで変わりはないものの、これまでのPentium 4のように動作周波数がキリのいい数字*1でないことから分かるとおり、FSBが533MHzに引き上げられている。今回発表された2.40GHz動作のプロセッサが、2.40B GHzとされているのは、すでにリリースされているFSB 400MHzのPentium 2.40GHzと区別するためである。

*1 従来のPentium 4のFSBは、100MHzのクロック信号に対して4倍の速度でデータを転送する仕組みである。動作クロックはこの100MHzの整数倍になるため、「キリのいい数字」になっていた。一方、新しいPentium 4では、ベース・クロックが100MHzから133MHzに向上しているため、動作クロックも133MHzの整数倍である2.26GHz(=133MHz×17倍)/2.40GHz(=133MHz×18倍)/2.53GHz(=133MHz×19倍)となっている。

Intel 850Eのノースブリッジ
従来から出荷されていたIntel 850のノースブリッジのマイナーチェンジ版ともいえるもの。機能面での拡張は、533MHzのFSBに対応しただけだ。

 引き上げられたFSBに対応するチップセットとして、3種類のPentium 4と同時に発表されたのがIntel 850Eだ。最初のPentium 4対応チップセットとしてリリースされたIntel 850*2のマイナーチェンジ版であり、Intel 850との違いは対応するFSBの違いだけといってよい。すなわち、100MHzのFSB(データ・レートは400MHz)のみをサポートしたIntel 850に対し、100MHzと133MHzの両方のFSBをサポートしたのがIntel 850Eということになる。Intel 850Eのサウスブリッジも、Intel 850と同じICH2で変わりがない。


*2 Intel 850は、Direct RDRAMをメイン・メモリとして使用するPentium 4向けチップセット。現在ではハイエンドPCのセグメントのみをカバーしている。

 このIntel 850Eを用いたマザーボードとしてIntelがラインアップしているのがD850EMV2とD850EMD2の2種だ。前者がATX、後者がmicroATXフォームファクタだが、D850EMV2の写真を見れば、両者のデザインは共通点が多いことが分かる(D850EMD2は、基本的にD850EMV2の右端の拡張スロット部分をカットしたものと考えられる)。いずれもすでに発売されているD850MVとD850MDのノースブリッジを82850から82850Eに変えただけ、といってもよいもので、オンボードのAC'97 CODECチップもこれまでと同じAnalog DevicesのAD1885である。

Intel 850Eを搭載したD850EMV2
533MHzのFSBに対応したノースブリッジ(82850E)以外は、すでに発売されているD850MVと変わらない。

Analog Devices製のオーディオCODECチップ
AC'97 Rev.2.1に準拠したオーディオCODECチップ「AD1885」。Intel製マザーボードではお馴染のものだ。

 同じデザインでありながら、D850EMV2/D850EMD2で改められたのは、D850MV/D850MDでは出荷時オプションであった日本電気製のUSB 2.0ホスト・コントローラが標準搭載となったことだ。OEM先のリクエストによっては非搭載モデルもあるのかもしれないが、基本的にボックス製品(店頭売りの可能な市販品)として流通するものは、すべてUSB 2.0ホスト・コントローラを実装したUSB 2.0対応マザーボードとして販売されることになる。提供されるUSB 2.0ポートは、背面のI/Oパネル部に2ポート、CNRスロット(オンボードLANなしモデルのみ)に1ポート、そしてフロントパネル用にオンボードのピン・コネクタに2ポートの合計5ポートである。つまり、ICH2*3が内蔵するUSB 1.1対応のUSBホスト・コントローラは、D850EMV2/D850EMD2では無効にされている。


*3 ICHとは「I/O Controller Hub」の略で、現在のIntel製チップセットにおいて、IDEやUSBなど各種I/Oのインターフェイス回路を集積したチップを指す。旧来の「サウスブリッジ」に相当するものだ。ICH2は初代ICHから数えて2代目のもので、Ultra ATA/100対応などの強化が図られている。ちなみに3代目はノートPC向けのICH3-Mとして登場済みだ。

日本電気製のUSB 2.0ホスト・コントローラとICH2
左上にあるチップが、USB 2.0に対応したUSBホスト・コントローラ「μPD720100」。右下に見える写真で逆向きのチップはICH2である。なお日本電気は、4月8日に消費電力を低減して性能を向上させたUSB 2.0ホスト・コントローラ「μPD720101」を発表しているが、このチップへの変更はないという。

 上述のとおりIntel 850Eは、サウスブリッジにUSB 1.1対応のICH2を採用しているため、USB 2.0に対応するにはこのように外付けのUSB 2.0ホスト・コントローラが不可欠だ。しかし、すでにIDF Japan 2002 Springなどで公開されたPentium 4向けチップセット「Intel 845E/845G/845GL」には、USB 2.0ホスト・コントローラ機能を内蔵したICH4が組み合わせられており、なぜIntel 850EでICH4の採用が見送られたのだろうと考えてしまう。どうやら、Intel 850Eのようなハイエンド向けのチップセットなら、外付けホスト・コントローラ分のコストを吸収できる、ということのようだ。もちろん、Intel 850Eが大量に売れると見込めるのなら、Intel 850Eのサウスブリッジもバリデーション(検証)などの開発費を投入してICH4にしたハズだ。Intel 850EのサウスブリッジがICH2になったのは、Intel自身もIntel 850Eが大量に販売できるとは思っていないことの証だろう。

 IntelがIntel 850Eについて強気になれない最大の理由は、Intel 850がDirect RDRAM対応のチップセットであることだ。皮肉なことに現在の市場価格はDirect RDRAMもDDR SDRAMも大差ないものの、Intel 850がデビューした時点において、Direct RDRAMの価格は極めて高価であり、メインストリームのPCで用いることができないほどだった。そこでIntelはSDRAMとDDR SDRAMをサポートしたIntel 845のリリースを余儀なくされ、いまやIntel製チップセットがサポートしていくメインストリーム向けメモリは、将来的にもDDR SDRAMであることが明らかになっている。現時点でDirect RDRAMをサポートしたIntel 850は、数量の出ないハイエンドで細々と生き残るに過ぎない。

 しかも、このD850EMV2で用いることが可能なDirect RDRAM(D850EMV2で検証されているメモリ)は、PC800 RDRAM、それもRowアクセス時間(tRAC)*4が40nsのものとなっている。これまで市場で流通していたRIMMが、すべてtRACが45ns以上のものであることを考え合わせると、Intel 850Eは新しいメモリを必要とする、ということも可能だ(tRACが45nsのPC800 RIMMが使えないということはないのかもしれないが)。これではなおさらIntel 850Eを用いたマザーボードは売れなくなってしまう。これをもって、Intel 850Eはスキップして、DDR SDRAM対応のIntel 845E/845Gのリリースを待てというIntelのメッセージと見るのは、あまりにもうがちすぎた見方だろうが、何とも不思議な方針である。

*4 RDRAMを制御する電気信号のタイミング規定の1つで、行アドレス(Rowアドレス)をRDRAMに与えてから、実際にデータが読み書きできるようになるまでの時間を表す。このtRACの値が小さいRDRAMほど、ランダム・アクセスが高速である。

 次ページからは、ベンチマーク・テストを実施し400MHzと533MHzのFSBによる性能、Pentium 4-2.53GHzを搭載したPCと3年前のPCとの性能の違いについて、それぞれ見ていくことにする。

  関連リンク
Pentium 4-2.53GHzに関するニュースリリース
 
 
 
 INDEX
  最新Pentium 4-2.53GHzに見るPCの買い替え時
  1.533MHz FSB対応のPentium 4発表
    2.Pentium 4-2.53GHzの性能を測る
    3. ベンチマーク・テストの結果
 
 「System Insiderの解説」


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