解説

64bitプロセッサ普及の鍵を握る64bit版Windowsの動向

元麻布春男
2003/11/15

解説タイトル


 2003年10月下旬、マイクロソフトは同社新宿オフィスのセミナールームにおいて、月例の報道関係者向け説明会(月例プレス説明会)を開催、Windows Server 2003の国内出荷100日後の状況に関する説明を行った。基本的に月例プレス説明会は新しい技術や製品を発表する場ではなく、この日も話題の中心はWindows Server 2003の好調なスタートとパートナーとの連携強化についてであった。しかし、64bit版のWindowsに関しても、いくつか興味深い情報のアップデートがあった。その後に米国カリフォルニア州ロサンゼルス開催された開発者向けのカンファレンス「PDC(Professional Developers Conference)」で、64bit版のWindowsに関するアップデートが行われることを期待したのだが、残念ながら次世代Windowsの「Longhorn(開発コード名:ロングホーン)」一色で、64bit版Windowsに関するセッションはなかったようだ。

64bit版Windows Server 2003にStandard Editionが追加

 現在リリースされているWindows Server 2003はIA-32Itaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)に対応しており、IA-32向けはWeb Edition、Standard Edition、Enterprise Edition、Datacenter Editionの4種類が、IPF向けはEnterprise EditionとDatacenter Editionの2種類がそれぞれ提供されている(64bit版Windows Server 2003についてはWindows Server Insiderの「Windows Server 2003完全ガイド:エンタープライズ市場を開拓する64bit版Windows Server 2003」参照)。さらにIPF向けは、ボリュームライセンスのみに限定されている。これに加えて、MicrosoftはAMDの64bitプロセッサ(AMD64)であるAMD OpteronとAMD Athlon 64に対応した「Windows Server 2003 for 64-bit Extended Systems」のStandard EditionとEnterprise Editionの2種類と、IPF向けにWindows Server 2003 Standard Editionを提供すると発表した。

 まず追加された3種の発売時期だが、現状では未定としながらも、「年明け早々には発表できるのではないか」という展望が示された。マイクロソフトが製品の出荷時期を発表するのは出荷が始まる1カ月以上前だが、半年以上前になることはないというタイミングが通例だ。それから考えると、AMD64に対応したWindows Server 2003の2種とIPF向けのStandard Editionの出荷時期は2004年第2四半期ごろになりそうだ。

 また提供形態については、「パッケージでの提供も含めて検討しているが、ドライバ・サポートの点などを考えると難しいのではないか」という見解が示された。ただ、同時に「販売はプレインストールが中心になる」という展望が示されたことから考えて、現状のIPF向けにおけるボリュームライセンスのみでの提供という形から、ボリュームライセンスに加えOEM版の提供という形になることが十分に考えられる。OEM版が提供されるようになれば、いわゆるホワイトボックス系のサーバ・システムで64bit版Windows Server 2003を採用することが可能になるため、販売に大きく弾みがつくことも予想される。また、クライアントPC向けのWindowsなどのように、コンピュータ販売店がOEM版をプロセッサなどとセットで販売する可能性もあるので、ボリュームライセンスの敷居が高い中小企業などにおいても、IPF搭載サーバやAMD Opteron搭載サーバの普及が進むかもしれない。

64bit版Windows Server 2003 Standard Editionのサポート・メモリ容量は?

 この発表で注目されたのは、AMD64とIPFの両アーキテクチャに対し、より安価なStandard Editionをリリースすることが明らかにされた点である。特にIPFに関しては、9月に安価なデュアルプロセッサ対応のItanium 2がリリースされたことを受けてのものである。が、気になるのはこのStandard Editionがサポートするメモリ容量だ。これまでStandard EditionはIA-32版のみしか存在せず、そのサポート・メモリ容量は4Gbytesに過ぎなかった。これでは64bitアーキテクチャのメリットを生かすことができない。

 この点について月例プレス説明会において質問したところ、「64bit版Standard Editionのサポート・メモリ容量は、Enterprise Editionと同じになる」という回答が得られた。すでにリリースされているIPF向けのEnterprise Editionのサポート・メモリ容量は64Gbytesであることから、Standard Editionのサポート・メモリ容量も64Gbytesになるものと考えられる(もし「32bit版Enterprise Editionと同じ」という意味なら32Gbytesということになる)。このことから、ハードウェア・サポートに関する限り、64bit版のStandard EditionとEnterprise Editionの大きな相違は、対応可能なプロセッサの数だけ、ということになる(このほか、クラスタリング・サポートなどの違いもあるが)。このあたりについては表にまとめておいたので、そちらを参照していただきたい。

Windows Server 2003 IA-32 IPF AMD64
Web Edition  あり なし なし
最大プロセッサ数
2個 N/A N/A
最大メモリ
2Gbytes N/A N/A
Standard Edition あり 新規追加 新規追加
最大プロセッサ数
4個 (4個) (4個)
最大メモリ
4Gbytes (64Gbytes) (64Gbytes)
Enterprise Edition  あり あり 新規追加
最大プロセッサ数
8個 8個 (8個)
最大メモリ
32Gbytes 64Gbytes 64Gbytes
Datacenter Edition  あり あり なし
最大プロセッサ数
32個 64個 N/A
最大メモリ
64Gbytes 512Gbytes N/A
表区切り
Windows Server 2003のEditionごとのハードウェア対応仕様
()内は筆者の推定

IPF向けにWorkstation版がリリースされるか?

 さて、64bit版のWindowsはWindows Server 2003だけとは限らない。AMD64についてはクライアントPC向けの64bit版Windows XPがリリースされることが明らかにされている。また9月に開催されたIntelの開発者向けカンファレンスである「Intel Developer Forum 2003 Fall(IDF 2003 Fall)」において、Intelのエンタープライズプラットフォーム事業本部のマイク・フィスター(Mike Fister)上級副社長は、IPF向けにWorkstation版のリリースをMicrosoftに要請していることを明らかにした。こうしたクライアント向けの64bit版Windowsは、Windows Server 2003 Standard Editionをベースに作成されるものと考えられる。

 実際、AMD Athlon 64の発表会において参加者に配布されたWindows XP 64-bit Edition Version 2003 for 64-Bit Extended Systems Beta 1 Build 1069(現在MSDNで配布されているAthlon 64向けのものと同じ)は、明らかにWindows Server 2003のベータ版を元にしたものだ。いい換えれば、こうしたクライアント向けの64bit版Windowsは、64bit版のWindows Server 2003より先に出ることはない、ということにもなる。つまり、早くても夏、おそらくは2004年の後半にならなければ登場してこないものと考えられる。それを示すかのように、上記のBeta 1の現状は、ネットワーク・カードやサウンド関連のドライバがサポートされないなど、まだ開発が初期段階にあることをうかがわせる内容である。IDFにおいてフィスター上級副社長は、2004年末にItanium 2に対応した新しいチップセット(おそらくはデュアルプロセッサ構成に最適化されたもの)の投入を示唆したが、あるいはこのチップセットのリリース時期は、64bit版クライアントWindowsの提供時期を暗示しているのかもしれない。

 低価格な64bit版Windowsの登場は、IPFやAMD Opteron/Athlon 64といった64bitプロセッサを搭載するサーバ/クライアントPCの普及には欠かせない。Microsoftが、64bit版Windows Server 2003 Standard Editionのリリースを明らかにしたことは前進といえるだろう。特にサーバ分野において、64bit版Windows Server 2003 Standard Editionがリリースされる2004年後半から2005年にかけて64bitプロセッサの普及が進む可能性がある。そろそろ64bitプロセッサ搭載機の導入を検討する時期に入ったのかもしれない(AMD Opteron搭載サーバについては「特集:x86互換の64bitプロセッサ「AMD Opteron」の実力と課題」参照)。記事の終わり

  関連記事 
x86互換の64bitプロセッサ「AMD Opteron」の実力と課題

  関連リンク 
Windows Server 2003完全ガイド:エンタープライズ市場を開拓する64bit版Windows Server 2003
 
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