解説

それでもItaniumはなくならない

デジタルアドバンテージ
2004/07/09
解説タイトル

 2004年6月29日、インテルはエクステンデッド・メモリ64テクノロジ(EM64T)対応のサーバ/ワークステーション向け「Intel Xeon」を発表した(EM64Tについては、「解説:IA-32の64bit拡張がもたらすもの」参照のこと)。これによりIntelは、64bitプロセッサとしてItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)とEM64T対応IA-32プロセッサの2つのラインアップを持つことになった。

 EM64Tの登場によって、「IPFはニッチ市場向けの64bitプロセッサになる」という声を聞く。確かにIntelも、「IPFはRISCプロセッサに対抗するものである」と、このニッチ市場向けプロセッサという声を裏付けるとも取れる発言を最近は繰り返している。IPFは、本当にニッチ市場向けのプロセッサなのだろうか。64bitプロセッサの動向を含めた、今後のサーバ向けプロセッサの位置付けを考察してみよう。

IPFはニッチ市場向けか?

 IPFが出荷された当初、Intelの予測は「高性能化と低価格化により、サーバ向けプロセッサはIPFが主流になる」という強気なものであった。それが、2年ほど前から「サーバ向けプロセッサは、IA-32とIPFですみ分けを行う」と、少しIPFに対する主張がやや後退した。そして、EM64Tの発表に合わせるかのように「RISCプロセッサの対抗」と、大幅な後退とも受け取れるものに変わってしまった。Intelは、以下のように述べており、IPFに対するコミットは変わらないと主張する。

「サーバ市場において台数ベースでは85%がIA-32プロセッサであるが、金額ベースでは50%でしかない。つまり、個数ベースでは15%のRISCプロセッサが、売り上げベースでは50%の金額をはじき出している。この『おいしい市場』に対してIPFを投入した。これによって、すべてのセグメントにおいてIntelが対抗製品を得たことになる」

 ハイエンド・サーバ市場(RISCプロセッサが主流)は、現在でも金額ベースで50%のシェアを持っており、決してニッチな市場ではない、という主張である。むしろデスクトップPC向けプロセッサに比べて、単価が高く、利益率もよいことから、Intelとしてこの市場を見逃すわけにはいかない、ということのようだ。

 一方で「RISCプロセッサは、IA-32プロセッサの躍進によって市場を狭めてきた。今後もこの状況は変わることはないだろう。IA-32プロセッサの64bit拡張によって、市場はますます狭くなるはずだ。もはやRISCプロセッサの市場は『将来のない市場』になっている。その市場に向けたIPFもやはり将来がない、ニッチ市場向けのプロセッサである」という意見も聞かれる。

 この意見に対してIntelは、「ハイエンド・サーバ市場は今後も成長し、64bit拡張されたIA-32プロセッサでカバーできるものではない」と反論する。確かにスケーラビリティや信頼性の面において、IPFはIntel Xeonの数段上を行く。それでも、「ハイエンド・サーバ市場は、クラスタリングやグリッドなどの技術によって、64bit拡張されたIA-32プロセッサでも十分カバーできるものになる」という見方は消えない。

 それぞれの意見はどちらも正しいように思えるが、結果は数年後を見なければ分からない。しかし今後、64bitプロセッサ搭載システムに投資するにあたり、ユーザーはIPFかAMD64/EM64T(以下、両者を合わせてx64)かの選択を迫られる。64bitプロセッサ搭載システムを導入する場合、ハードウェアだけではなく新たに64bitアプリケーションに対する投資も必要となるため、IPFかx64かの選択は慎重にならざるを得ない(IPFとx64の64bitモードは、ソフトウェア的に互換性がない性)。サーバの導入担当者は、64bitプロセッサ搭載サーバを導入するにあたり、大きな決断を迫られることになる。

IA-32からx64へ

 IPFかx64の選択を考える上で、IA-32からx64への移行がどのようなものになるか考えてみよう。

 IntelからもEM64T対応のIntel Xeonがリリースされたことから、IA-32からx64への移行が始まったかのように見える。しかし、x64対応のWindows Server 2003/Windows XPは、2004年末から2005年初頭のリリースとなるため、本格的な64bit環境への移行は少し先となる(x64対応Linuxはリリースされているが主にHPC向けである)。

 一方でPentium 4のEM64T対応も表明されており、急速にEM64T対応プロセッサが市場にあふれることになる。x64対応Windowsがリリースされれば、アプリケーションのx64対応は急速に進む可能性がある。x64は、IA-32をベースに64bit拡張を行っているため、既存の32bitアプリケーションをとりあえずx64対応(x64対応OS上で動作する64bitのアプリケーション対応)にするのは比較的容易であるという。さらに「64bit化」は、性能向上のイメージがあるため、64bit化をしても性能や機能面で意味がないアプリケーションもx64対応を表明する可能性さえある(本格的に64bit拡張によるメリットを引き出すためには、アプリケーションの最適化の作業が必要になる)。

x64とIPFのぞれぞれのWindowsとアプリケーションの関係
このように64bit Windowsと64bitアプリケーションは、x64とIPFで互換性がない。なおx64では、64bit拡張を用いなければ、既存の32bit Windowsも利用できる。ただし、その場合は64bitアプリケーションが利用できない。

 サーバ市場において出荷台数の85%がIA-32プロセッサ搭載であることを考えると、数年後にはx64が台数ベースで主流になるのも明らかだ。さらに、クライアントPCのx64対応も進むことから、x64対応Windowsがリリースされれば、アプリケーションの対応は意外と早いかもしれない。

 IAサーバがエントリ領域からハイエンドの方向へ徐々に適用範囲を広げてきたように、性能と機能の向上、アプリケーションの充実によって、x64プロセッサがハイエンド・サーバ市場に食い込んでいく可能性がある。となると、IPFの市場はさらに狭まることになりそうだ。

x64を迎え撃つIPFの戦略

 では、RISCプロセッサの対抗として位置付けられているIPFは、本当にハイエンド・サーバ市場だけをターゲットとしているのだろうか。

 Intelは、2007年にIPFとIntel Xeonのプラットフォーム(チップセットや電源ユニットなど)を共通化し、IPFのコストを引き下げるとしている。そして、この時点でのIPFの性能は、Intel Xeonの2倍を実現するという。これだけ聞けば、むしろIntel Xeonの必要性に疑問を感じることになる。同じコストで、性能が2倍であれば、だれでもIPFを選択するだろう。これだけ性能差があれば、IPFのIA-32EL(IA-32のソフトウェア・エミュレーション機能)を拡張して、x64命令をエミュレーションで実行しても十分にIntel Xeonよりも速そうだ。IPFよりも、マルチプロセッサ向けのIntel Xeon MPの方が、性能でIPF、コストでデュアルプロセッサ向けIntel Xeon(Intel Xeon DP)に挟まれて、存在意義が失われる可能性がある。

現在と2007年のソリューション・コストのイメージ
2007年には、IPFとIntel Xeonのプラットフォームが共通化されることにより、IPFのソリューション・コストが下がる。これにより、IPFの適用範囲が広がる可能性がある。

 以前この点を、Intelの副社長兼エンタープライズ・プラットフォーム・グループのジェネラル・マネージャであるアビー・トールウォーカー(Abhi Talwaklar)氏に確認したことがある。その際の回答は以下のようなものであった。

「2007年において、IPFとIntel Xeonのプラットフォームは共通化され、IPFのプラットフォーム・コストは大幅に引き下げられる。しかし、ソリューション・コストという点では、依然としてIntel Xeonの方が安価になるだろう。IPFのソリューション・コストが下がることで、一部でIntel Xeonとクロス・オーバーする部分が出てくるが、この領域は顧客の選択になる。Webサーバやアプリケーション・サーバの多くは、既存の32bit環境で十分であることから、引き続きIntel Xeonが利用されることになる。一方IPFは、64bitアプリケーションの処理性能とスケーラビリティ、信頼性の高さによって、ハイエンド・サーバを中心に利用される」

 このようにIntelでは、EM64Tによって64bit拡張が行われたとしても、Intel Xeonは32bitアプリケーションの利用が主体になると見ている。確かにファイル・サーバやWebサーバでは、いまのところ64bit対応の必要性はない。これは、IA-32の64bit拡張を「EM64T(Extended Memory 64 Technology)」という名称としたことからもうかがえる。EM64Tは、あくまでもメモリ空間の64bit拡張であり、本格的な64bitプロセッサ化ではないというわけだ。

 しかし前述のように出荷台数においては、x64が64bitプロセッサの主流になるのは間違いない。そのとき、IntelはIPFをどうするのだろうか。いまのところ、Intelから明確なシナリオは提示されていない。

64bit時代の新しいシナリオ

 ここからは筆者の予想だが、仮想化技術とエミュレーション技術によって、IPFとEM64Tを統合するつもりではないだろうか。Intelは、2005年に投入予定の「Montecito(モンテシト)」から順次、サーバ向けプロセッサで仮想化技術「Silvervale(シルバーバル)テクノロジ」をサポートすることを明らかにしている(IA-32プロセッサでもサポートされる予定)。またIPFは、前述のようにx86命令のソフトウェア・エミュレーション機能であるIA-32ELをサポートしており、x64への拡張も技術的には可能だという。性能を抜きに考えれば、逆にIPF命令(EPIC)をEM64T上でエミュレーションすることも可能だろう。

 つまり、2007年のIPFとIntel Xeonのプラットフォーム共通化によってハードウェアの差はプロセッサだけになり、エミュレーション技術によってIPFとx64間の64bitアプリケーション互換が実現する。IPF上でx64対応Windowsとx64対応64bitアプリケーションを実行することが可能になる。さらに仮想化技術を使えば、IPFとx64という2つの環境を同時に実行させることさえも可能になるだろう。このような環境を構築することによって、プロセッサのアーキテクチャの違いを意味のないものとし、次の世代でIPFとx64を統合化するというのが、Intelのシナオリではないかと考える。

 もしこのシナリオどおりならば、64bitプロセッサに対する投資戦略は簡単だ。当面32bitアプリケーションの利用が主流であるならばx64を、データベースなど64bit環境が必須であるのならばIPFを、それぞれ選択しておけばよい。どちらを選択しても、ソフトウェアへの投資は保護されるからだ。

 このシナリオが外れた場合、どちらを選択するかは賭けになる。賭けに外れた場合、投資が保護されなくなるからだ。逆にいえば、ユーザーの投資を保護しないような選択をIntelが行うとは思えないことから、IPFとx64の統合が行われると予想しているのだが。ユーザーの64bitプロセッサへの投資に対する不安を解消するためにも、Intelは64bit時代のシナリオを早く公開すべきだろう。記事の終わり

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