解説

Itaniumプロセッサ・ファミリがメインフレームを救う?

デジタルアドバンテージ 小林 章彦
2005/06/01
解説タイトル

 NECがItanium 2採用のメインフレーム「i-PX9000」を2004年10月に発表したのに続き、2005年4月には富士通もメインフレーム・クラスのサーバ「PRIMEQUEST」を投入した(NECのニュースリリース「次世代大型メインフレームサーバACOSシリーズ『i-PX9000』の発売について」、富士通のニュースリリース「世界最強のオープンサーバ「PRIMEQUEST」新発売」)。また日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、Itanium 2を採用した新世代のNonStopサーバを2005年5月31日に発表している(日本HPのニュースリリース「インテル Itanium 2 プロセッサ搭載新世代HP NonStop Serverを発表)。日本HPでは、すでに同社のハイエンド・サーバ「superdome」にItanium 2を採用しており、PA-RISCからの移行を進めている(superdomeは、日立製作所やNECなどにもOEM提供されている)。NonStopサーバにおけるItanium 2の採用で、同社のRISCプロセッサ搭載サーバのItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)への移行が完了することになる。

NECのItanium 2搭載のメインフレーム「I-PX9000」
メインフレームOS「ACOS-4」が移植されており、既存のACOSの資産を継承しながら、Windows ServerやLinuxもサポートする。

 日立製作所も、IDF Spring 2005において「Itanium 2向けのチップセットを開発し、メインフレームで提供してきた日立仮想化機構が次世代のItanium 2(開発コード名:Montecito)で動作することを確認した」と発表している(日立製作所のニュースリリース「インテル Itanium 2プロセッサに対応し、FSBを667MHzに高速化したチップセットとインテル社仮想化技術に連動する日立仮想化機構を世界で初めて開発」)。このことから、日立製作所もMontecitoのリリースと同じ時期に、Itanium 2採用のメインフレーム・クラスのサーバを投入するものと思われる。

 このようにメインフレーム・クラスのサーバでは、Sun MicrosystemsやIBM*1を除き、Itanium 2の採用が進んでいる。IntelがIPFをRISC/UNIXサーバならびにメインフレームの対抗に位置付ける戦略は成功しているように見える。一方で海外のアナリストを中心に、AMD64/EM64Tの登場によってIPFの将来性を疑問視する根強い意見もある。IntelのIPF戦略は本当に成功しているのだろうか?

*1 IBMは、 Itanium 2搭載サーバをラインアップするものの、zSeriesでは独自のメインフレーム向けCMOSプロセッサを、pSeriesやiSeries、OpenPowerではPOWER5を採用しており、メインフレーム・クラスにはItanium 2の採用がない。Sun Microsystemsは、そもそもItaniumプロセッサ・ファミリをまったく採用していない

メインフレーム回帰の要因とItaniumプロセッサ採用の流れ

 ガートナー ジャパンの調査によれば、2004年の日本国内サーバの出荷において、日本IBMが15.3%増となったことから、これまで大幅な減少傾向にあったメインフレーム全体の出荷金額が3.5%減に留まった、という(ガートナー ジャパン「2004年の国内サーバ市場動向を発表)。これは日本IBMがメインフレームでLinuxをサポートしたことが大きく影響しているようだ。メインフレームからオープン・サーバ(RISC/UNIXサーバやIAサーバ)に移行していたユーザーの一部が、サーバ統合の流れで再びメインフレームに回帰する現象があるという。

 メインフレームへの回帰現象は、オープン化の流れの中でサーバを次々と導入したことで、管理コストが増大する結果を招いてしまったことに起因している。これまでサーバ・ベンダは、オープン・サーバを導入すれば、システムの導入コストだけでなく管理/運用コストも汎用的な管理ツールの利用などによって引き下げられるとしてきた。また、メインフレームのように訓練された特殊な知識を持つ専任者でなくてもオープン・サーバならば管理が可能であると宣伝してきた。

 ところが導入が容易なことも一因となって、多数のサーバが導入されたことから、むしろ管理が煩雑になり、社内のシステム管理者では手におえなくなってきた。そこで、今度はサーバの統合という流れが生まれた。こうした背景に対し、パーティショニングや仮想化といったサーバ統合に不可欠ともいえる技術において、一日の長があるメインフレームが選択されている、ということのようだ。メインフレームといっても、オープン・サーバとの連携機能やLinuxのサポートなど、以前に比べてオープン・サーバとの共存が容易になっている。

 このように一部でメインフレームへの回帰現象があるとはいえ、メインフレームの市場規模が縮小傾向にあることに変わりはない。すでに独自プロセッサを開発するほどの市場規模は維持できなくなりつつある。そこでNECは、Itanium 2をメインフレームのプロセッサに採用し、メインフレームOSの「ACOS-4」まで移植した。富士通は、PRIMEQUESTではメインフレームOSのサポートまで行っていないが、チップセットを独自に開発し、「メインフレームと同等の高信頼性を実現した」と述べている。前述のように日立製作所も、メインフレーム・クラスにItanium 2の搭載が計画されている。富士通や日立製作所が、NECのようにメインフレームOSをIPFに移植までするかどうかまでは明らかにしていないが、このクラスのサーバのプロセッサがIPFへと移行しているのは間違いなさそうだ。実際、ガートナー ジャパンの調査でも、「基幹系向けサーバであるItaniumサーバが142.9%増と、2003年の1191台から2893台へと拡大した」とIPFの出荷が順調に推移していることを示している。

 これまでメインフレームの重要顧客であった金融機関も、次々とオープン・システムへと移行を開始している。すでにアイワイバンク銀行は、日本ユニシスのItanium 2搭載サーバ「ES7000」を勘定系に導入することを発表している(日本ユニシスのニュースリリース「最新64ビットインテル Itanium 2プロセッサ搭載モデル「ES7000/400」シリーズ販売開始」)。またNECは、PA-RISC/hp-uxサーバ「NX7000」で稼働する銀行の勘定系システム「BankingWeb21」を開発、地域銀行(地銀)を中心に採用が進んでいる。PA-RISCは新しいプロセッサの開発が終了しており、IPFへの移行が進められている。このことから、将来的には「BankingWeb21」もIPFサーバで稼働することになると思われる。このように金融機関も、IPFへの移行が進んでいる。

IPFがターゲットとする市場はIAサーバで置き換えられる?

 以上のように、特にメインフレームを中心にIPFへの移行が進められ、IPFの市場規模は拡大しているように思える。しかし一方では、そもそもIPFがターゲットとしている市場自体が縮小傾向にあり、将来、IAサーバに市場を奪われてしまう可能性も否定できない。海外のアナリストの一部には、「メインフレームやRISC/UNIXサーバも結局は、IAサーバによって市場セグメントを狭められてきた。数年後は、現在メインフレーム・クラスもほとんどの領域がIAサーバ(x64サーバ)でもカバーできるようになる」という根強い意見がある。

 IPFにあまり積極的でないDellや、IPFに対抗するプロセッサを持たないAMDも同じような意見を述べている。両社とも、「x64プロセッサの性能向上やクラスタリング/グリッド技術の進化によって、性能と信頼性の両面でメインフレーム・クラスに近づける」という。Dellは、メインフレーム・クラスやRISC/UNIXサーバのソリューションを持っていないため、それらのソリューションをIPFサーバに置き換えて販売することができない。そのため、4ウェイのIAサーバをクラスタリングして、ミッションクリティカルな領域でも利用可能にするようなソリューションを、このクラスの対抗策として推進している。AMDも同様に、現時点ではIPFに対抗できるような高信頼性をサポートするようなプロセッサはラインアップしていない。AMDでは、IPFのような「特殊なプロセッサ」が必要になる領域は、x64プロセッサの性能向上によってどんどん狭まっており、あえてそこに投資するつもりはない、ということのようだ。

 IPFの将来性に疑問を持つ意見を集約すると、「IPFが必要とされる領域は狭まっており、さらにx64プロセッサの性能向上に従い、IAサーバでも十分にメインフレーム・クラスがカバーできるようになる」というものだ。確かに、これまでもRISCワークステーションがPCワークステーションに取って代わられ、オフコンや企業のファイル・サーバが次々とIAサーバに置き換えられていったことを考えれば、コストパフォーマンスの高いIAサーバによってメインフレーム・クラスが代替可能になる日もそう遠くなさそうだ。

 しかしIntelによれば、IPFの性能はIntel Xeonなどよりも速いペースで向上するとしており、今後むしろ、両者の性能差は広がるとしている。となると、やはり性能や信頼性が必要になる用途において、IPFの市場は残る。IPFが市場から撤退することになるとしたら、x64プロセッサの性能と信頼性の向上によって、メインフレーム・クラスのサーバもカバーできるようになった時だが、その日がいつなのかは市場が決めることになるだろう。

 ただ現時点でいえることは、これからメインフレーム・クラスのサーバを導入する際は、独自プロセッサのメインフレームよりもIPF/x64プロセッサを搭載したサーバの方が将来のサポート切れのリスクが少なそうだ、ということだ。もし、IntelがIPFから撤退するようなことになっても、Intel Xeonなどへの橋渡しを行ったうえでのことになるだろう。一方、それ以外のプロセッサは、市場規模が縮小することで開発費がまかなえなくなり、撤退してしまう可能性があるからだ。これまで、メインフレーム・クラスのサーバを導入する際は、性能や信頼性、導入/運用コストが主な選択ポイントであったが、市場が縮小する現在、将来の互換性確保やサポートの継続性という新たなポイントを加える必要がありそうだ。記事の終わり

  関連リンク
ニュースリリース「次世代大型メインフレームサーバACOSシリーズ『i-PX9000』の発売について」
ニュースリリース「世界最強のオープンサーバ「PRIMEQUEST」新発売」
ニュースリリース「インテル Itanium 2 プロセッサ搭載新世代HP NonStop Serverを発表」
ニュースリリース「インテル Itanium 2プロセッサに対応し、FSBを667MHzに高速化したチップセットとインテル社仮想化技術に連動する日立仮想化機構を世界で初めて開発」
ニュースリリース「2004年の国内サーバ市場動向を発表」PDF
ニュースリリース「最新64ビットインテル Itanium 2プロセッサ搭載モデル「ES7000/400」シリーズ販売開始」
 
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