解説

プラットフォーム指向で垂直統合に向かうIntel

デジタルアドバンテージ 小林 章彦
2005/12/10

解説タイトル

 海外などのニュース・サイトの情報によれば、次期モバイル向けプロセッサ(開発コード名:Yonah)からIntelは、プロセッサ・ブランドを現在の「Pentium」から「Core」に変更するようだ。シングルコアが「Intel Core Solo」、デュアルコアが「Intel Core Duo」になると報じられている。

 これまでIntelは、PentiumやCeleron、Itaniumといったように造語をプロセッサ・ブランド名としてきた。これが「Core」という一般名詞を採用したことに対して、各所でさまざまな分析が行われている。通常、一般名詞をブランド名とした場合、商標登録が受け付けられないか、受け付けられる場合でもすでに他社が登録済みである可能性がある。そのため、造語をブランド名とするのが一般的となっている。

 なぜ今回Intelが一般名詞である「Core」をプロセッサ・ブランドとするのかについては、正式発表前であることから、当然ながら公式な見解は出されていない。だが、2004年後半より推進している「プラットフォーム指向(Platformization)」と無関係ではないだろう。ここでは、Intelのプラットフォーム指向がユーザーに何をもたらすのか考察してみることにする。

プロセッサ単体からプラットフォーム重視に移行するIntel

 プラットフォーム指向とは、プロセッサ単体ではなく、チップセットや周辺チップなどを含めたプラットフォームで、PC/サーバの機能を提供し、その価値を高めるものだ。Intelは、プロセッサとチップセット、無線LANチップをセットで販売したCentrinoモバイル・テクノロジの成功以降、急速にプラットフォーム化を強めている。モバイルPCのプラットフォーム・ブランドとしてCentrinoを採用し、プロセッサ/チップセット/無線LANチップをセットとすることで、欧米での全PCに対するノートPCの比率を、それまでの20%程度から50%近くまで引き上げることができた(デスクトップPC向けよりも、ノートPC向けのプロセッサの方が利益率は高いので、Intelの業績向上に貢献していることになる)。

 もちろん普及の背景には、Centrinoのリリースと同時に、公衆無線LANなどを整備し、モバイルPCの活用範囲を広げたという背景もある。Centrinoによって、プロセッサやチップセットを別々に販売するよりも、セットにして、そこに付加価値(Centrinoであれば無線LAN)を付けることで、市場を広げ、売り上げを伸ばせることが証明できたわけだ。

 この成功がIntelのプラットフォーム指向を加速させたのは間違いないだろう。これまでプロセッサやチップセットに開発コード名が付けられたが、ここ1年ほど前からそれらを統合したプラットフォームにも別に開発コード名が付けられている。これも、プラットフォーム指向への傾倒を象徴している。

 そして、プラットフォーム指向を推進すればするほど、プロセッサの名称はあまり意味を持たなくなる。むしろ、1つの製品に複数のブランド(プロセッサとプラットフォーム)が並ぶことでユーザーに混乱を引き起こしかねない。すでにIntelは、モバイルPCのCentrinoに続き、ホームPC向けプラットフォームのブランド名を「Viiv(ヴィーブ)テクノロジ」とすることを発表している。2006年前半のホームPCには、Viivのロゴが本体に貼られることになるだろう。Viiv対応PCであればViiv向けの動画コンテンツの再生やゲームが楽しめる、というわけだ。Viiv対応PCでは、採用するプロセッサ、チップセット、グラフィックス、ネットワークなどの条件が規定されるものと思われる。

Intelのプラットフォーム・ブランド
ホームPC向けは「Viiv」、モバイルPC向けは「Centrino」のブランド名が付けられている。今後、エンタープライズ向け、チャネル(ホワイト・ボックス製品など)向け、ヘルスケア向けの各プラットフォームに対してもブランド名が付けられる可能性がある。

 つまり、プロセッサ単体ではなく、これらのコンポーネントによって構成されるプラットフォームをユーザーに認知してもらい、購入してほしいという思惑である。プロセッサのブランド名はなくては困るが、あまり目立っても困る、というのが「Core」という一般名詞を採用した理由ではないかと推測する。もちろん、「Windows」のように一般名詞であっても、強いブランド・イメージが作られるケースもあるので、Intelがそれを狙っている可能性も否定できない。

 ビジネス向けPCやサーバのプラットフォームにブランド名が付けられるのかどうかは明らかにされていない。ビジネス向けPCのプラットフォームには「Averill(アベリル)」やIntel Xeon搭載サーバには「Bensley(ベンスレイ)」という開発コード名が付けられていることから、Viivが成功すれば、ビジネス向けPCやサーバにもブランド名が順次付けられることになるだろう。

2006年にリリース予定のビジネスPC向けプラットフォーム「Averill」
2006年には、ビジネスPC向けとして開発コード名「Averill(アベリル)」で呼ばれる
プラットフォームが提供される。Averillでは、プロセッサ、チップセット、ネットワーク、ネットワーク・ドライバがセットで供給されることになるようだ。

プラットフォーム指向は垂直統合への道か?

 これまでIntelは、複数のベンダが協業と競争を繰り広げる水平分業モデルであることが、PC市場の成長を支えてきたとしてきた。1社がプロセッサからOS、アプリケーション、サービスまで提供するメインフレームやRISC/UNIXサーバの垂直統合モデルとは異なるという主張だ。しかし、Intelがチップセットや無線LANチップなどとのセット販売を開始することで、水平分業モデルの一角が崩れつつある。

 Intelは、すでにホワイト・ボックス向けにPC/サーバを提供しており、大手ベンダにも採用されている。またiSCSI対応SANストレージを製品ラインアップに加え、チャネル向けに出荷を開始している。Intelのベンダや販売店向けのチャネル向け製品を見ると、大手コンピュータ・ベンダに匹敵するラインアップを誇っていることが分かる。Intelが製造したPC/サーバのシェアは意外に高いものと思われる。

 OSにおいても、MicrosoftとIntelは切っても切れない仲であるし、Linuxコミュニティに対しても多くの投資を行っている。仮想化技術に対しても、XenSourceへ投資するなどの支援をしており、アプリケーションやサービスといった領域に対しても、技術や資金の支援を多くのベンダに対して行っている。こうした投資は、Intelから見れば、特定の技術やサービスを素早く立ち上げるために必要な行為ということになる。しかし別の見方をすれば、Intelの支配力を高める行為に映るだろう。

 メインフレームなどのように、Intelが1社ですべてを提供しているわけではないが、上述のような間接支配を含めれば、以前に比べて水平分業モデルの中でIntelが占める割合は増えている。垂直統合モデルへと近付きつつあるのは間違いない。これは競合するベンダにとっては脅威となるだろう。PC市場をあきらめて、家電などに進出することで生き延びる道を選ぶしかなくなるからだ。

 一方でユーザーにとっては、新しい技術/機能が急速に立ち上がることから、コンピュータの使い勝手が向上するというメリットがある。以前からも無線LANを搭載するノートPCは存在したが、CentrinoによってノートPCの標準機能になったことで、無線LANの搭載を前提としたサービス(公衆無線LANなど)が急速に立ち上がった。このように、特にスケールメリットが大きい領域では、機能が標準化されることで、サービス価格が低下し、利便性が向上することが多い。半面、製品の選択肢が狭まるというデメリットもある。たとえIntel製プロセッサを搭載しているPCでも、Intelが推奨するプラットフォーム以外ならば、新しいサービスが快適に利用できない可能性があるからだ。

 ユーザーが望むと望まないとにかかわらず、Intelのプラットフォーム指向は当面続くことになるだろう。プラットフォーム指向が、利便性の向上にのみに向かえばユーザーにとってメリットとなるが、これがユーザーの囲い込みといった閉鎖方向に作用した場合、PC/サーバの選択肢を大幅に狭める結果になる。Intelの戦略を注意深く見守る必要があるだろう。記事の終わり

  更新履歴
【2005/12/14】初出において、「Viiv(ビーブ)」と表記しておりましたが、「Viiv(ヴィーブ)」が正式表記となるため、修正しました。
 
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