解説

2007年に向けたIntelのプロセッサ・ロードマップを整理する

2.2007年はデュアルコアからクワッドコアへ

元麻布春男
2006/05/27
解説タイトル

■2006年後半にはTulsaや低電圧版Woodcrestがリリース
 2006年後半に登場するTulsa(タルサ)は、恐らくNetBurstマイクロアーキテクチャによる最後の新製品となるだろう。16Mbytesの大容量共有3次キャッシュを備えた、マルチプロセッサ対応サーバ向けのデュアルコア・プロセッサである。プラットフォームはPotomac(ポトマック)Paxville(パックスビル)と同じ、Intel E8500チップセットを用いたTruland(トゥルーランド)だ。

 この2006年後半には、Sossaman(ソッサマン)の後継となる低電圧版のWoodcrestが、高密度サーバ向けに提供される見込みで、これによりIntelのサーバ・プロセッサはすべて64bit拡張機能(EM64T)に対応したものになる。2006年後半にはMontecitoのリリースも予定されているが、Intelによるプラットフォームの更新はない。

 2007年早々(第1四半期中と思われる)にリリースされるのが、クワッドコア・プロセッサのClovertownとTigertonだ。基本的にはWoodcrestと同等のダイ2個を1つのパッケージに封入したもので、公開されているチップの写真などを見る限り、キャッシュ容量の増大などは図られていない。ClovertownのプラットフォームはBensley(ベンスレイ)を流用することになるが、パッケージあたりのダイを2個に増やしても既存のプラットフォームとの互換性を維持できるわけで、こと性能面では不利とされるFSBアーキテクチャの柔軟性を示した格好だ。

 マルチプロセッサ対応サーバ向けのTigertonは、2006年3月に米国で開催されたIDF Spring 2006で間違ってClovertown-MPと紹介されたことでも明らかなように、スペック的にはClovertownと同等のプロセッサだと考えられる。高価なマルチプロセッサ対応サーバ向けプロセッサ用に機能を拡張したWhitefieldをキャンセルしても、リリース時期を優先して投入されるわけで、Intelが新マイクロアーキテクチャへの切り替えを急いでいることがうかがえる。Tigertonのプラットフォームは、このタイミングで提供されるCaneland(カネランド)で、FB-DIMMへの対応が行われるものと思われる。

IDF Spring 2006でクワッドコア・プロセッサを紹介するパット・ゲルシンガー副社長
IDF Spring 2006でクワッドコア・プロセッサを採用するTigerton/Kentsfield/Clovertownが示された。写真をよく見ると、2つのダイが同梱されていることが分かる。写真ではTigertonがClovertown-MPという表記されている。

 このほか2007年のサーバ向けプロセッサとしてラインアップされているのは、Montecitoの65nmシュリンク版であるMontvaleだ。2007年末には45nmプロセスの導入が始まるが、サーバ向けプロセッサが2007年内にリリースとなるかは微妙なところだ。45nmプロセスでの製造がスタートしたとしても、出荷は2008年へ持ち越しとなるのではないだろうか。2008年には、マルチプロセッサ対応サーバ向けのDunnington(ドニントン)も予定されており、早期のリリースを優先したTigertonと違って、大容量のキャッシュを搭載してくるだろう。ItaniumではTukwilaのリリースと、久しぶりとなるIntelによるItanium向けプラットフォームの更新も見込まれているが、現時点でその時期は不明だ。

2008年以降の計画が明らかにされないデスクトップPC向けプロセッサ

 Woodcrestに1カ月遅れて7月に、デスクトップPC向けのConroeのリリースが予定されている。Intel CoreマイクロアーキテクチャのプロセッサであるConroeだが、すでにIntel Core 2 DuoおよびIntel Core 2 Extremeというブランド名で販売されることが明らかになっている。それぞれの詳細(クロック、2次キャッシュ・サイズ、FSBクロックなど)は公表されていないが、Intel Core 2 DuoにE4000番台およびE6000番台の2種類のプロセッサナンバがあること、Intel Core 2 ExtremeのTDP(熱設計消費電力)がサーバ向けのWoodcrestに匹敵する(75W〜80W程度)ことが知られている。Intel Core 2 DuoのTDPは、既存のPentium Dと同じ65W程度である。

 プラットフォームとしては、メインストリーム向けにはDDR2-800メモリに対応したBroadwater(ブロードウォーター)チップセットを用いたプラットフォームが、ハイエンド向けにはIntel 975Xチップセットを用いたプラットフォームがそれぞれ提供される見込みだ。現在流通しているIntel 975XチップセットはDDR2-667メモリまでの対応だが、Conroeのリリースに合わせてDDR2-800メモリ対応の新リビジョンに切り替わる可能性がある。

 メインストリームとなるBroadwaterチップセットのプラットフォームだが、ビジネス向けにはAverill(アベリル)プラットフォーム(Intel Q965チップセット)が、コンシューマ向けにはBridge Creek(ブリッジ・クリーク)プラットフォーム(Intel G965/P965チップセット)がそれぞれ提供される。なおAverillプラットフォームには、「インテル vPRO(ヴィープロ) テクノロジー」というブランドが採用されることになっている。

 2008年のプランはまだ明らかにされていないが、Averillプラットフォームの後継となるプラットフォームの名称はWeybridge(ウェイブリッジ)プラットフォームと呼ばれるようだ。2008年末には45nmプロセスを用いたプロセッサ「Penryn」が登場する見込みだが、プラットフォームの更新とどちらが先になるのか(あるいは同時更新なのか)は分からない。

安定したロードマップが提示されているモバイル向けプロセッサ

 Intel Coreマイクロアーキテクチャへの切り替えを先導する形になったモバイル・プラットフォームは、逆に新マイクロアーキテクチャの導入を最も急ぐ必要のないプラットフォームである。そのため、Intel Coreマイクロアーキテクチャ採用のモバイル向けプロセッサであるMeromのリリース時期は、サーバ向けやデスクトップ向けに比べ、8月と最も遅い。ブランドはデスクトップと同じIntel Core 2 Duoで、久しぶりにデスクトップとモバイルの2つのプラットフォームでマイクロアーキテクチャとブランドが統一される。

 また、Meromのプラットフォームは現在、Yonah(ヨナ)ベースのIntel Core Duoプロセッサが用いているのと同じNapa(ナパ)プラットフォームであり、新プラットフォームであるSanta Rosa(サンタ・ローサ)の投入は2007年になる見込みだ。Santa RosaではNANDフラッシュメモリを用いたディスク・キャッシュ技術であるRobson(ロブソン)の提供、WiMAXへの対応、グラフィックス・コアの高性能化が図られることになっている。管理機能強化として、iAMTがWiFiへも対応することが明らかにされている。

 Santa RosaはMerom向けに提供され、45nmプロセス世代へ継承される見込みだ。つまり、プロセッサとプラットフォームの更新を互い違いに行うモデルが確立しており、3つのプラットフォーム中、最も安定していることがうかがえる。

 以上のようにここ2年近く、揺れ動いていたIntelのプロセッサ・ロードマップも、Intel Coreマイクロアーキテクチャへの移行が見えてきたことで、何とか落ち着いてきたようだ。しかしAMDの急進による、サーバ・プロセッサ市場でのシェアの低下など、Intelはまだ予断を許せる状態にない。特にマルチプロサッサ対応サーバ向けプロセッサは前倒しや計画の大幅な変更などの可能性もあるだろう。新たなサーバ/クライアントの導入を決める際は、プロセッサ・ロードマップを考慮した方が、古い製品を高い価格で導入してしまった、といったミスを防ぐことができるだろう。記事の終わり

キーワード
■Penryn(ペンリン)
 Intel Coreマイクロアーキテクチャ準拠の2代目のプロセッサ。基本的なアーキテクチャはそのままに、45nmプロセスにシュリンクされる(細かな改良が行われる可能性もある)。2007年に後半に登場する見込み。
 
■Nehalem(ネハレム)
 Intel Coreマイクロアーキテクチャの次のマイクロアーキテクチャ(名称不明)を採用するプロセッサ。45nmプロセスで量産され、2008年に登場すると見られる。
 
■Nehalem-C(ネハレム・シー)
 Nehalem(ネハレム)を32nmプロセスにシュリンクしたプロセッサ。登場時期は2009年と予想される。
 
■Gesher(ゲッシャー)
 Nehalem(ネハレム)の次の世代のマイクロアーキテクチャを採用するプロセッサ。2010年に32nmプロセスでデビューすると思われる。
 
■Weybridge(ウェイブリッジ)
 2007年のビジネス向けプラットフォーム。Averill(アベリル)プラットフォームの後継となる。
 
 

 INDEX
  [解説]2007年に向けたIntelのプロセッサ・ロードマップを整理する
    1.Intel Coreマイクロアーキテクチャへの移行で攻勢をかけるIntel
  2.2007年はデュアルコアからクワッドコアへ
 
目次ページへ  「System Insiderの解説」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間