マンスリー・レポート

2003年はIT業界の転換期?(2003年1月号)

デジタルアドバンテージ
2003/01/08


 例年12月は、米国ではクリスマス休暇、日本ではボーナス商戦明けで年末ということもあり、製品発表は少ない。そこで、1年を振り返りながら、2003年のIT業界を予想してみることにしよう。

新生HPの2003年は?

 IT業界における2002年最大の話題というと、Hewlett-Packard(HP)とCompaq Computerの合併が挙げられるだろう。米国では5月7日、日本では11月1日のことだが、ずいぶんと前のことのような気がしてしまう。また、WorldComが経営破綻したことも記憶に新しい。再建を開始したWorldComの新CEOに就任したのが、直前までHPの役員であり、CompaqのCEOだったマイケル・カペラス(Michael Capellas)氏だったのも話題になった。

 WorldComは、1990年代後半にインターネットの普及により奇跡的な急成長をとげた世界最大規模の通信会社である。傘下に企業向けの大手インターネット・サービス会社のUUNETを持つなど、インターネットを陰で支えていた企業でもあり、同社の経営破たんがインターネットに与える影響も懸念されていた。幸いなことに、事業は継続され、現在のところ大きな混乱も起きていない。ただ、通信業界全体が厳しい状態に置かれており、1990年代後半の過剰投資の清算も済んでいないことから、WorldComの再建には時間がかかりそうだ。

 一方、IT投資が減少する中、HPは合併で一時的に膨らんだ人員や設備などのリストラを進め、業績の向上を果たさなければならない。快進撃を続けるDell Computerと、コンシューマ向けPCやハードディスク事業などを捨ててビジネス・コンピューティングに資源を集中するIBMを相手に、2003年はどのような戦いを見せるのだろうか。

「自律」が2003年のキーワード

 そのHPは、12月4日に同社が推進する新しいコンピューティング環境「Service Centric Computing」に対応したインフラストラクチャ・コンセプト「hp Adaptive Infrastructure」とデータセンター・ソリューション「hp Utility Data Center リリース1.1」を発表している。Service Centric Computingは、IBMのオートノミック・コンピューティングやSun MicrosystemsのN1、Intelのモジュラー・コンピューティング、NECのVALUMOなどと同様、自己回復機能やリソースの最適再配置などの自律機能をサポートするコンピューティング環境のコンセプトである。

 2002年は、各社からこうした新しいコンピューティング環境のコンセプトならびに一部対応した製品が発表された年であったが、2003年はより具体的な製品として全体像が見えてくるはずだ。特に先行するIBMは、すでにOSやミドルウェアを中心にオートノミック・コンピューティングへの対応が始まっており、2003年にはハードウェア製品への展開が期待される。また、Intelはモジュラー・コンピューティングを実現するデザイン・ガイドのようなものを2003年内に公開するとしており、各社の対応ならびにハードウェアの標準化動向に注目が集まるだろう。一方で、こうしたコンセプトを提唱していないDell Computerがどのような動きを見せるのかも気になるところだ。2003年は、2004年から2005年にかけて本格化する自律型コンピューティングの幕開けの年となるだろう。

2003年のクライアントPC/サーバの動き

 製品の動きについても予想しておこう。ノートPC向けプラットフォーム「Banias(開発コード名:バニアス)」が2003年第1四半期に出荷開始となることから、2003年はノートPCに注目が集まることになる。Baniasでは、無線LAN機能が標準搭載されるのが特徴で、性能と消費電力のバランスを優先した設計となっている。Intelは、ノートPCに無線LAN機能の装備を推進していくとしていることから、現在のイーサネット・インターフェイスのように多くのノートPCが無線LAN機能を標準装備するようになるだろう。また2003年後半には、Pentium 4の後継となる開発コード名「Prescott(プレスコット)」で呼ばれる次世代プロセッサが出荷となる。Prescottは、より微細な90nmプロセス製造となるだけではなく、新しい機能の追加などもあるようだ。日本では、IT減税が行われることから、こうした新しいプロセッサの投入が企業のクライアントPCのリプレイスを推進することになるかもしれない。

 サーバでは、開発コード名「Madison(マディソン)」で呼ばれていた0.13μmプロセス製造となるItanium 2が出荷となる。また、Intel Xeon/Xeon MPは、動作クロックの向上が主で、新たな機能追加などは2004年に入ってからとなる模様だ。

 AMDからは、同社独自の64bitアーキテクチャを採用したプロセッサ「Hammer」シリーズが投入される予定となっている。クライアントPC向けは「AMD Athlon 64」、サーバ/ワークステーション向けは「AMD Opteron」のブランドがそれぞれ採用される。これまで、IntelとAMDの緊張(性能競争)が高まると、プロセッサのコストパフォーマンスが飛躍的に向上した。それだけに、Hammerシリーズの登場によって、両社間の緊張が再び高まり、コストパフォーマンスが向上することに期待したい。特にエントリ・サーバからミドルレンジ・サーバまでのセグメントでは、現在Intelにライバルはいない状態である。AMD Opteronの登場によって、このクラスに競争が生まれ、さらなる低価格化と高性能化が期待できる。

 2003年には、待望のサーバOS「Windows .NET Server 2003」もリリースされる。ただ多くの企業は、すぐに導入することはなく、2003年は様子見という状態が続くだろう。しかし、2004年にはサーバ自体のリプレイスにともない、Windows 2000 ServerからのWindows .NET Server 2003への移行が急速に進むと予想する。このように2003年は、2004年から2005年に来る大きな流れへの転換期となりそうだ。記事の終わり

Pick Up Online Document――注目のオンライン・ドキュメント
マイクロソフトWindows NTで稼動するインテル・アークテクチャ・ベースのサーバによる高可用性の実際PDF
インターネット・ホスティングの運用サービスを手掛けるDigex社が記した、IAサーバの可用性に関するレポート。ハードウェアの不具合の発生率がいかに低いかを述べたあと、そのほかの不具合の原因とその対策が実例で示されている。
オンライン・ドキュメントは「Online DOC Watcher」へ
 
Pick Up Release――1カ月間の主なニュースリリース
サーバ関連
日立製作所、HA8000シリーズにIntel Xeon搭載モデル「HA8000/70W」とIntel Xeon MP搭載モデル「HA8000/580」を追加(2002/12/05)
サン・マイクロシステムズ、通信事業者向けCompactPCIサーバ「Netra CT 810/410」2モデルを発表(2002/12/05)
テンアートニ、SAN/NAS/DASに対応可能な4Uサイズのストレージ・サーバ「Storage Server 8400」を発表(2002/12/06)
NEC、Intel Xeon-2.80GHzのデュアルプロセッサ構成をサポートしたブレード・サーバ「Express5800/420Ma」などを発表(2002/12/09)
日本ユニシス、セイコーインスツルメンツとセキュリティ・アプライアンス製品「TrustGate」を共同で開発(2002/12/12)
インテル、533MHz FSB対応のIntel Xeon向けマザーボードなどサーバ・プラットフォーム製品を発表(2002/12/17)
ホワイト・ボックスと呼ばれる販売店ブランドやVARなどが販売するサーバ向けのパーツ製品。ホワイト・ボックス市場が大きくなっていることもあり、インテルはここ1年ほど、この市場向け製品のラインアップを増やしている。
日本ストレージ・テクノロジー、IDEハードディスクを採用したストレージ・ブレードを搭載したディスク・サブシステム「BladeStore」を発表(2002/12/18)
日本IBM、「eserver xSeries 440」にIntel Xeon MPの16ウェイ構成が可能なモデルを追加(2002/12/19)
テンアートニ、マウンテンビュー・データでNASアプライアンスサーバで協業(2002/12/19)
ロジテック、ミラーリング・ディスク採用の省スペース・エントリ・サーバ「LSV-PF24CA/B」を発表(2002/12/20)
Hewlett-Packard、Itaninum搭載のhp superdome上でhp-ux/Windows/Linuxを同時稼動させるデモを実施(2002/12/20)
 
ネットワーク関連
日立製作所、ルーティング処理能力320万パケット/秒を実現したギガビット・ルータ「GR2000 BHモデル」を発表(2002/12/03)
NEC、IEEE 802.11bとIEEE 802.11aのデュアルバンドに対応した企業向け無線LANソリューションの提供を開始(2002/12/06)
Intel、AT&TやIBMなどと全米を網羅する無線LAN公衆アクセス・サービスを提供する「Cometa Networks」を設立(2002/12/09)
Pico Communications、IEEE 802.11bとBluetoothに対応したアクセス・ポイント「PicoBlue II」を発表(2002/12/09)
アライドテレシス、ギガビット・イーサネット対応のレイヤー3スイッチング・ハブ「CentreCOM 9812T」「CentreCOM 9816GB」を発表(2002/12/10)
ノーテル、ギガビット・レイヤ2スイッチング・ハブ「BayStack 380-24T」「BayStack 380-24F」を発表(2002/12/12)
■プラネックス、1000BASE-T対応のスイッチング・ハブ2モデルを発表−−4ポートの「FXG-04TX」8ポートの「FXG-08TX」(2002/12/24)
 
ストレージ関連
Seagate Technology、シリアルATA対応でプラッタ容量80Gbytesのハードディスク「Barracuda 7200.7」「Barracuda 7200.7 Plus」を発表(2002/12/02)
IBM、米国連邦取引委員会が日立製作所とIBMのハードディスク事業の統合を承認(2002/12/02)
2003年1月1日に日立製作所とIBMのハードディスク事業を統合した新会社「Hitach Global Storage Technologies」を設立、営業を開始している。新会社は、サーバ向けや小型ハードディスクに強みを持っており、こういった分野では台風の目となるかもしれない。
日立製作所、複数サーバにストレージ・リソースの割り当てが可能なモジュラ型の中小型ディスク・アレイ「SANRISE9500Vシリーズ」を発表(2002/12/04)
日本ユニシス、ミッドレンジ市場向けSAN製品「SANARENA1500シリーズ」2機種を発表(2002/12/04)
ロジテック、ホットスワップ/オートリビルドに対応したRAIDシステムに容量320Gbytesの「SDA-RA320F」「SDA-RA320S」「SDA-RA320AK」3モデルを追加(2002/12/05)
 
そのほか
Xerox、プラスチック基板に回路の形成が可能な有機ポリマー素材を開発(2002/12/03)
東芝、ソニーと共同で65nmプロセス技術によるDRAM混載システムLSI技術を開発(2002/12/03)
日本HP、Service Centric Computingを実現するインフラストラクチャ・コンセプト「hp Adaptive Infrastructure」を発表(2002/12/04)
日本HP、自動化された仮想IT環境を構築する「hp Utility Data Center」を発表(2002/12/04)
Service Centric Computingを実現するインフラストラクチャのコンセプトが「hp Adaptive Infrastructure」で、それを具現化した第1弾の製品が「hp Utility Data Center(UDC)」という位置付け。UDCは、データセンターにおける自律型コンピューティングを実現するためのサーバやストレージ、ソフトウェアなどで構成される。
AMD、2002年第4四半期の業績見通しを発表−−売上高を2002年第3四半期の35%増の7億ドルに上方修正(2002/12/05)
Intel、2002年第4四半期の業績見通しを発表−−売上高を予測の65億〜69億ドルから68億〜70億ドルに上方修正(2002/12/06)
NEC、業務システムの自動運転/復旧機能を強化した統合運用管理ミドルウェア「WebSAM Ver4.1」を発表(2002/12/06)
エーピーシー・ジャパン、USB対応で出力容量1.5kVAの2Uラックマウント型UPS「Smart-UPSR 1500RM」を発表(2002/12/09)
NEC、UNIXサーバ上で部品故障の自律復旧や処理負荷の自律調整などを実現する「HA/GlobalMaster R1.2」を発表(2002/12/10)
日本HP、Alphaプロセッサ「EV7」に対応したUNIX「hp Tru64 UNIX」を発表(2002/12/11)
総務省、平成15年(2003年)度のテレコム・郵政事業関係の税制改正の概要を発表−−IT投資に関する減税を3年間で5000億円規模で実施(2002/12/13)
ガートナー ジャパン、日本国内のITサービス市場の規模予測値を発表−−2002年の日本のITサービス市場規模を8兆1914億円と予測(2002/12/16)
Gartner Dataquest、2002年世界半導体市場のマーケット・シェア(速報値)を発表−−Intelが11年連続でシェア1位(2002/12/16)
マイクロソフト、Windows .NET Server 2003日本語版のRC2のの開発を完了 −−開発パートナー各社やベータ・プログラム参加者への配布を行う「早期評価プログラム」を開始(2002/12/18)
三菱電機、日立製作所とのシステムLSI事業を中心とする半導体会社「ルネサス テクノロジ」を設立(2002/12/26)
 
ニュースリリースは「2002年12月1日〜15日」「2002年12月16日〜31日」へ
     
 
 「System Insiderの連載」


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