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第10回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(4)〜Pentium IIで始まった本格的P6時代
1. Pentium Proの欠点を克服した「Pentium II」

元麻布春男
2002/12/11


 前回の「第9回 PCのエンジン『プロセッサ』の歴史(3)〜商業的には失敗だった『Pentium Pro』の功績」では、P6マイクロアーキテクチャを初めて実装したPentium Proの誕生とその失敗について解説した。今回は、P6マイクロアーキテクチャの本格的な普及を成功させたPentium IIからPentium IIIまでの歴史を取り上げることにする。

Pentium Pro失敗の原因は?

 P6マイクロアーキテクチャは、x86アーキテクチャのほぼ完全なRISC化を実現、それまでのx86プロセッサに比べて飛躍的に高い浮動小数点演算性能を達成すると同時に、将来に対する性能向上のヘッドルームを確保したという点でも画期的なものであった。が、そのままでは最も数量の出る一般のデスクトップPC向けに売ることが難しいという弱点も抱えていた。

 1つは、内蔵する2次キャッシュがプロセッサ・ダイとは別のダイであるため、低価格化が難しかったことである。P6マイクロアーキテクチャは、プロセッサのシステム・バスから2次キャッシュ・バスを分離することで、バスの帯域を拡大する一方、2次キャッシュ構成の自由度を高めた。しかし、最初の実装であるPentium Proでは、プロセッサの動作クロックと同じ速度の2次キャッシュを別ダイとしてパッケージに封入したため、パッケージや2次キャッシュに用いるSRAMのコストそのものに加え、検査用のコストも増大してしまった。P6マイクロアーキテクチャをデスクトップPC向けに売るには、コストを引き下げ、幅広い価格レンジ、特に低価格にも対応可能にする必要があった。

 性能面では、32bitコードに比べ16bitコードの処理性能が落ちることと、MMX Pentiumから導入されたMMX命令を備えていないことが、大きな問題となった。Microsoftは、1993年に同社初の32bit OSであるWindows NT 3.1をリリースし、Pentium Proの発表時点ではWindows NT 3.51となっていた。しかし、クライアントPC向けのOSとしての成功は限定的なもので主流とはなっていなかった。この時点のクライアントPCで主流であったのは、Pentium Proと同じ1995年にリリースされたWindows 95であり、一種のブームとさえなっていた。そして、Windows 95が16bitコードと32bitコードの混在したプラットフォームであったことが、Pentium Proをメインストリームにすることを難しくした。

 もちろん、Windows 95の上であっても、アプリケーションが32bitコードで書かれていれば、Pentium Proの性能がPentiumに対して見劣りすることはほとんどない。しかし、Windows 95のリリース時点においては、アプリケーションも16bitコードから32bitコードへの移行期にあり、Windows 95上の16bitアプリケーションの性能を無視することはできなかった。しかも、当面の間、Windows 95とその流れをくむOS(Windows 9x系のOS)が、改良を加えられながら提供され続けることが分かっていた。そのため、16bitコードの実行性能を改善することは、ほとんど不可避といってよかった。実際、2000年9月リリースのWindows MeまでWindows 9x系OSのアップデートは続けられた。

 一方のMMX命令だが、これが最初にインプリメントされたMMX Pentiumのリリースは、Pentium Proより1年余り後だから、Pentium ProにMMX命令が実装されていなかったとしても無理はない。また、MMX Pentiumがリリースされた時点において、MMX命令を用いたアプリケーションはほとんどなく、この時点ではMMX命令をサポートしていることのメリットをユーザーが実感することがなかったのも事実である。MMX命令を実装するのは、主にIntelの戦略上の問題ともいえるが、MMX命令をメインストリームの技術としてプロモートする戦略の一貫性を考えれば、メインストリーム向けのプロセッサに同命令がなくて済むわけがなかった。

P6マイクロアーキテクチャの本命「Pentium II」の登場

大きな写真へ
P6マイクロアーキテクチャを採用した第2世代製品「Pentium II」
写真のようにPentium IIでは、ファミコンのゲーム・カートリッジのようなパッケージを採用した。このパッケージの中にはプロセッサ・コアと2次キャッシュのSRAMが基板上に実装されていた。

 以上の3点がPentium Proをメインストリームのプロセッサにすることを阻む主な要因であったとすれば、P6マイクロアーキテクチャをメインストリーム向けに仕立てるには、これらを解消したプロセッサを用意すればよい。その答えが「Pentium II」である。

 Pentium IIでは、MMX命令を実装すると同時に、16bitコードを含めた性能の改善を図るために1次キャッシュを2倍とした。さらに、低コスト化を図るため、1つのパッケージにプロセッサ・コアと2次キャッシュの2つのダイを封入するパッケージをやめ、2次キャッシュを外付けにした。ただし、外付けといっても、Pentiumまでのように、マザーボード上に2次キャッシュを配置するのではなく、プロセッサのパッケージを工夫することにした。

 Pentium IIでは、プロセッサの物理的な形状を、それまでのソケットに対応したパッケージから、カード(回路基板)形式に改め、基板上にプロセッサ・コアと2次キャッシュのSRAMを実装したのだ。さらに、全体をプラスチックのカバーと、サーマル・プレートと呼ばれる放熱用の金属プレートで覆うことでプロセッサのPCへの実装や放熱対策などを容易にした。ファミコンのゲーム・カートリッジと似た形状を採用したわけだ。この新しいパッケージをSECC(Single Edge Contact Cartridge)、Pentium IIが採用するコネクタをSlot 1(後に端子数を由来とするSC242に改称された)と呼んだ。このバリエーションとして、サーバ用には電源や温度センサなどの管理用の信号端子が追加されたSlot 2が用いられたほか、デスクトップPC用のパッケージも簡素化されたSECC2に切り替えられることとなる。なお、Slot 2対応のパッケージが採用されたサーバ/ワークステーション向けのプロセッサは「Pentium II Xeon」と命名され、ここで初めてXeon(ジーオン)ブランドが登場することになる。

サーバ/ワークステーション向けの「Pentium II Xeon」
Pentium II Xeonは、初めてサーバ/ワークステーション向けに特化して企画されたプロセッサであった。2次キャッシュの高速化や高容量化、管理機能などの強化などが行われている。

 SECC/SECC2では、プリント基板(サブストレートと呼ばれる)上にパッケージ化されたプロセッサと2次キャッシュ用のSRAMをそれぞれ実装するため、Pentium Proに比べてテストに関するコストが削減できる。Pentium Proでは、プロセッサ・コアとSRAMともに、むき出しのダイを利用して実装するため、それぞれの動作テストに手間がかかることになる。しかしSECC/SECC2であれば、プロセッサ・コアとSRAMが別々に事前にパッケージ化されているため、それぞれを別々にテストしやすい。

 また、Pentium Proの2次キャッシュ用SRAMは、カスタムメイドであったが、SECC/SECC2のPentium IIではメモリ・ベンダが製造した安価な汎用SRAMを調達して利用することにした。この点でもプロセッサの製造コストを引き下げることが可能となった。その一方で、安価なSRAMを外付けするため、2次キャッシュ・バスの動作クロックは、プロセッサ・コアの1/2に引き下げられた。これによる性能低下は、上述した1次キャッシュの増量と、プロセッサの動作クロックそのものの引き上げでカバーすることとなった。Pentium Proの動作クロックが200MHz止まりであったのに対し、1997年3月7日の発表当時においてもPentium IIは233MHz、266MHz、300MHzに設定され、最初からPentium Proを上回っていた。


 INDEX
  第10回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(4)〜Pentium IIで始まった本格的P6時代
  1.Pentium Proの欠点を克服した「Pentium II」
    2.Pentium IIから生まれた低価格PC向けプロセッサ「Celeron」
 
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