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第13回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(7)〜デスクトップPC向けと袂を分けたサーバ向けプロセッサ
1. Pentium Proから始まるサーバ向けプロセッサの歴史

元麻布春男
2003/02/19


 第7回第12回の6回に分けて、主にIntelのデスクトップPC向けプロセッサの歴史を振り返ってきた。今回は、ここまでほとんど触れなかったサーバ/ワークステーション向けプロセッサについて、簡単にまとめておきたい。

Pentium Proから始まったサーバ向けプロセッサの歴史

 Intelによるサーバ/ワークステーション向けと呼べるプロセッサは、1995年11月に発表されたPentium Proだ。それまでのIntel 486やPentiumを搭載したサーバが製品化されていたが、これらはデスクトップPC向けのプロセッサを「流用」したものであり、「サーバ/ワークステーション向け」として何らかの味付けがなされたものではなかった。

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サーバ向けとして初めてリリースされた「Pentium Pro」
プロセッサの歴史的には、MMX PentiumとPentium IIの間に挟まり存在感が薄いが、サーバ向けプロセッサとして初めてリリースされたプロセッサという意義は大きい。ここから本格的なIAサーバ時代が始まったともいえる。

 Pentium Proについては、P6マイクロアーキテクチャの起源として「第9回 PCのエンジン『プロセッサ』の歴史(3)〜商業的には失敗だった『Pentium Pro』の功績」で触れているのでここでは繰り返さない。だがPentium Proの1つのパッケージ内にプロセッサ・コアと2次キャッシュという2つのダイを封入するというアイデアは、サーバ/ワークステーション向けだから可能であったという点は強調しておきたい。多少製造コストがかさんでも、単価の高いサーバ/ワークステーション向けなら、それをカバーできる高い価格で販売できるからだ。

 4ウェイ以上のマルチプロセッサをサポートしたサーバ向けのプロセッサとしてのPentium Proの寿命はことのほか長く、その後継であるPentium II Xeonが登場するのは、Pentium Proのリリースから2年半以上が経過した1998年6月のことだ。この間、2次キャッシュを1Mbytesに倍増するというテコ入れが行われたものの、動作クロックが引き上げられることはなかった。いまから考えると優雅な時代だったといえるかもしれない。ただ、サーバ向けプロセッサのPentium Proの登場が、現在のIAサーバの基礎を築いたのも間違いない事実である。

Pentium III XeonでデスクトップPC向けとは別設計のコアに

 Pentium II Xeonの基本的なアーキテクチャは、MMX命令をサポートするなどデスクトップPC用のPentium IIと同一である。ただ、2次キャッシュを大容量化し、その2次キャッシュ・バスもプロセッサ・コアと同一クロック(Pentium IIはプロセッサ・コアの2分の1)で駆動されるなど、Pentium IIに対して拡張が行われている。また、プロセッサ・カートリッジの形状も大型化されており、「Slot 2」と呼ぶスロットを採用するなどの違いがあった(Pentium IIのスロットは「Slot 1」)。さらに細かく見ていくと、温度センサの内蔵やプロセッサ情報ROMの搭載、システム・ベンダが書き込み可能なスクラッチEEPROMの採用など、管理機能の充実が図られている。

 次に登場するのが、開発コード名「Tanner(タナー)」で呼ばれた「Pentium III Xeon」である。Pentium III Xeonは、デスクトップPC向けの「Katmai(カトマイ)」に相当するものだ。この時点では、プロセッサ・コアとは別のダイで2次キャッシュを搭載していた。SSE命令を搭載した点がPentium II Xeonと異なる点だ。ただ、当時のサーバにSSE命令の使い道があったかというと疑問*1で、デスクトップPCのコア・アップデートにともないサーバ向けプロセッサもアップデートされた、という印象が否めない。

*1 SSE命令の普及によって、現在では暗号化などのセキュリティ関連アプリケーションを中心として積極的にSSE命令が利用されている。サーバにおいてもSSE命令は必須の機能となっている。

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Slot 2パッケージを採用する「Pentium III Xeon」
第1世代のPentium III Xeonは、デスクトップPC向けのKatmaiに相当するプロセッサ・コアを採用し、別ダイで搭載した2次キャッシュ容量を増やしたものであった。第2世代になると、デスクトップPC向けとは異なるデザインのプロセッサ・コアが採用されるようになる。ただし、パッケージはカートリッジ形状のままであった。

 2世代目のPentium III Xeonである「Cascades(カスケード)コア」は、デスクトップPC向けのCoppermine(カッパーマイン)に相当するものだ。ここからサーバ用プロセッサは、デスクトップPC用プロセッサと異なる道を歩み始める。Tannerまでは2次キャッシュが別ダイであったため、大容量の2次キャッシュを搭載するサーバ用プロセッサであっても、プロセッサ・コア自体は、デスクトップPC用とそれほど大きな違いはなかった。しかし、0.18μmプロセスに移行したCascadesの世代では、大容量の2次キャッシュをプロセッサ・コアと同一のダイ(オンダイ)に集積することになり、別途サーバ版を用意する必要が生じてきた。

 このことに関連し、サーバ用プロセッサは以後、2プロセッサまでのマルチプロセッサをサポートしたDP(Dual Processor)版と、4ウェイ以上のマルチプロセッサをサポートしたMP(Multi Processor)版に分かれることになる。基本的にDP版が、デスクトップPC向けのプロセッサと同容量の2次キャッシュで、おそらくプロセッサ・コアのデザインもほぼ同じであるのに対し、MP版は大容量の2次キャッシュを搭載した別デザインのダイを用いるようになった。提供時期も、DP版がデスクトップPC用のプロセッサとほぼ同じタイミングでリリースされるのに対し、MP版はDP版より遅れることが多くなった。MP版のPentium III Xeonが登場したのは、DP版から半年以上後のことである。

 もう1つ、デスクトップPC向けのプロセッサとの違いを見せたのがパッケージだ。コストが重視されるデスクトップPC向けプロセッサでは、2次キャッシュがオンダイになると、カートリッジ・タイプのパッケージに加え、ただちにPGAパッケージのプロセッサ(スロットではなくソケットに装着するプロセッサ)が提供されるようになった。が、サーバ用のプロセッサでは、カートリッジ・タイプのパッケージが引き続き使用された。

Intel XeonとItaniumによるサーバ向けプロセッサ新時代の到来

 サーバ用プロセッサのパッケージがソケット・タイプに切り替わったのは、次のIntel Xeonからだ。デスクトップPC向けのPentium 4と同じNetBurstマイクロアーキテクチャを採用したサーバ版プロセッサだが、Pentium 4 Xeonではなく、単に「Intel Xeon」というネーミングが採用された。先に登場したのは第1世代のPentium 4(Willametteコア)に相当する「Foster(フォスター)コア」を採用したDP版のIntel Xeonで、512Kbytes/1Mbytesの大容量2次キャッシュを採用したIntel Xeon MP(Foster MP)のリリースは10カ月近く遅れた2002年3月のことである。

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Pentium 4をベースとするサーバ向けプロセッサ「Intel Xeon」
Pentium 4と同様、NetBurstマイクロアーキテクチャを採用している。サーバ向けとはいえ、デュアルプロセッサまでの対応に限定されており、プロセッサ・コアのデザインもほぼ同じである。

 この遅れは、プロセッサの開発スケジュールだけによるものではなく、対応するチップセットのスケジュールにも影響を受けたものと考えられている。4ウェイ以上のマルチプロセッサをサポートしたIA-32プロセッサ用のチップセットは、いまのところIntelの製品ラインアップには存在せず、もっぱらサードパーティ(ServerWorks)に依存している。これがプロセッサの発表スケジュールを狂わせてしまった。

 DP版のIntel Xeonとほぼ同時にデビューしたのが、Intelのサーバ向けプロセッサとしては初の64bitアーキテクチャを採用したItaniumである。開発コード名「Merced(マーセド)」と呼ばれた初代Itaniumは、HPとIntelの共同開発による、VLIWに類似点を持つEPICと呼ばれるアーキテクチャを採用した。並列処理の最適化の大半がコンパイラで処理されるEPICは、IA-32とは著しく異なるアーキテクチャで、64bit OSと64bitアプリケーションの実行に主眼が置かれている。なおItaniumは、IA-32に対する命令レベルでの互換性も有しており、既存のIA-32用アプリケーションも動作する(実行速度はそれほど速くないため、あくまで互換性を持つ、というレベルにすぎないが)。Mercedは、リリース・スケジュールが遅れた影響や、デビュー時点でIA-32プロセッサに対する性能アドバンテージがほとんどなくなってしまったことなどから、実用のプロセッサというよりも、第2世代のItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)の登場を踏まえた実験機、あるいは開発マシン的な色彩が強くなってしまったように思う。本来、IPFで利用できるハズのOSが揃わなかったこと*2も、余計にその印象を強くする。

*2 Mercedのプロジェクト発表後、Linux、Windows 2000 Server(Microsoft)、Solaris(Sun Microsystems)、HP-UX(Hewlett-Packard)、AIX(IBM)など、多くのOSがIPFへの対応を表明した。しかし、製品発表が近付くにつれ、Solarisの対応が中止され、Windows 2000 ServerとHP-UX、AIXの移植が遅れるなど、結局Itaniumの発表時に正式リリースされたOSはLinuxだけとなってしまった。Windows 2000 Serverは限定版としてリリースされたものの、結局製品版になることなく、Windows Server 2003に引き継がれることになった。なお、Itaniumプロセッサ・ファミリをサポートするOSは、現在のところLinuxとhp-ux 11i、AIX 5Lとなっている。Windows Serverは、2003年前半に製品版が正式にリリースされる予定となっている。
 

 INDEX
  第13回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(7)〜デスクトップPC向けと袂を分けたサーバ向けプロセッサ
  1.Pentium Proから始まるサーバ向けプロセッサの歴史
    2.IAサーバの新時代を築くプロセッサたち
 
 「System Insiderの連載」


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