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第14回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(8)〜Intelに挑戦し続けるAMD
1. 互換プロセッサ・ビジネスにこだわったAMD

元麻布春男
2003/03/15


 「第7回 PCのエンジン『プロセッサ』の歴史(1)〜i8088からIntel386までの道のり」から「第13回 PCのエンジン『プロセッサ』の歴史(7)〜デスクトップPC向けと袂を分けたサーバ向けプロセッサ」までの7回にわたって、主にIntel製プロセッサの歴史ならびに機能拡張について見てきた。今回はその最大のライバルともいえる「AMD(Advanced Micro Devices)」のプロセッサを取り上げる。

セカンドソース・ベンダの決断

 AMDの設立は、1969年のこと。1968年にFairchild Semiconductorを退社したジェリー・サンダース(Jerry Sanders)氏などによって設立された。サンダース氏は、2002年にヘクター・ルイス(Hector Ruiz)氏へ引き継ぐまで、設立当初からAMDのCEOであった(何度か投資家から引退をほのめかされることもあったが、そのたびに拒否し続けた)。余談になるが、Intelの創設者たちもFairchild Semiconductorの出身である。

 設立当初のAMDは、他社のロジック製品などのセカンドソース生産を主たる業務としていた。1975年になると、Intelの8080Aのセカンドソース生産を開始し、プロセッサ市場に参入することになる。このころは、AMDを始め、NEC、Harris Semiconductor、Siemens(現Infineon)などが、Intel製プロセッサのセカンドソース生産を行っていた。セカンドソースとは、開発元からの正式なライセンス提供を受け、開発元が製造するものと寸分たがわぬ半導体製品を製造、販売する制度だ。つまり、製造元は違うものの同じ設計による、ほぼ同じ特性/機能を持った製品ということになる。同じ機能を持つが、設計が異なる「互換」製品とは異なる。以前は現在に比べて買う(システム・ベンダ)側の力が、売る(半導体ベンダ)側の力よりはるかに強く、システム・ベンダは半導体製品購入の条件として、セカンドソース供給も含めた安定供給を求めることが多かった。Intelもその例外ではなく、多くの会社にセカンドソースを認めていた。

 その方針が変更されたのが80386の時代に入ってからだ。80386以降、それまで認めていたセカンドソースを、Intelが供給に責任を持つということを理由に、原則的に認めないことにしたのである。Intelは、「80386においてセカンドソースを廃したわけではない」ともいっているが、実際問題として80386以降のプロセッサにセカンドソース生産品は存在しない。1985年に発表された80386がIBMに採用されるまで2年を要したのは、これが影響したからかもしれない。

 この方針変更により、大きな影響を受けたのが上記のセカンドソース・ベンダだ。このうちNECは、80286のセカンドソースを行わず、自社開発の互換プロセッサ「V20」「V30」路線へと転換していく。1985年、NECは日本国内向けに販売していたPC-9801シリーズでV30を搭載したPC-9801U2を販売するなど、一時は互換プロセッサ市場への参入を試みている。ただし、これもIntelとの知的所有権紛争につながり、他社へのプロセッサ販売はほとんど進まなかったようだ。残るセカンドソース・ベンダの多くは、すでに獲得しているライセンスを生かして、本家であるIntelには存在しない高クロック版の80286の製造を取りあえず行うことにした。こうして生み出された高クロック版80286は、動作クロックが高いことを除けば、マイクロコードも含めて純正の80286とまったく同じものだ。Chips & Technologiesなど、当時勃興しつつあったチップセット・ベンダのサポートもあり、高速版80286はけっこう売れた。現在は頑なに互換プロセッサを採用しないDell Computerも、当時はこうした高速版80286を搭載したシステムをリリースしていたのである(日本国内ではPC-9801互換機を販売していたエプソンが同様に高速版の80286を積極的に採用していた)。

 この時点(1986〜1987年)において、80386の機能を利用可能なソフトウェアなど、実際にはほとんど存在していなかった。Windows 2.0(英語版)がリリースされるのが1987年4月のことだが、当然80386をサポートした機能などない。80386のプロテクト・モードや仮想86モードを利用しなければ、同一動作クロックの80386と80286で性能差はほとんどない(正確にはリアル・モードのソフトウェア環境なら1〜2%ほど80286の方が速かったハズだが、たいした差ではない)。Intelのプロセッサが33MHz止まりの80386である間は、高クロック版の80286でも十分に対抗できた。しかし、同じ動作クロックで1.5倍近い性能を発揮するIntel 486の時代を迎えると、新しいプロセッサのライセンスを受けられないセカンドソース・ベンダは窮地に追い込まれることになり、多くが撤退することとなった。

セカンドソースから独自開発の互換プロセッサへ

 そんな中、x86互換プロセッサのビジネスにこだわったのがAMDだ。AMDは、Intelとのクロスライセンス契約に基づき、80386以降のプロセッサについてもマイクロコードの使用権があると主張した。1995年に和解するまで、AMDはIntelとの間で長い法廷闘争に入ることとなる。結局、AMDは法廷での結果が出る前にAm386(AMD版の80386互換プロセッサ)やAm486(AMD版の486互換プロセッサ)を世に出すため、途中からマイクロコードの自社開発に乗り出すことにした。当初はIntelのマイクロコードが使えると考えていたことから、設計変更が生じ、プロセッサの市場投入が大幅に遅くなってしまった。Am386を投入した1991年、すでにIntelはIntel 486DXをリリースしており、完全に出遅れてしまうことになる。Am486は、1993年の出荷となってしまい、Intelはすでに次世代となるPentiumのリリースを準備していた。つまり、この時点でAMDのプロセッサはIntelから完全に1世代遅れていたことになる。蛇足となるが、これがトラウマになったのか、以降、AMDはことあるたびに、自社のプロセッサの世代を口にするようになる。

 この遅れを取り返すべく、AMDが大きな期待をかけたのが「AMD-K5」だ。1993年に発表されたAMD-K5は、組み込み機器向けで有名だったAm29000 RISCプロセッサで知られるマイク・ジョンソン(Mike Johnson)氏のデザインによるもの。当然内部アーキテクチャはRISCプロセッサをベースにしたもので、IntelのPentium Proよりも早く、RISCコアのx86プロセッサとして市場にデビューするハズだった。もちろん性能も、同一クロックのPentiumを上回る予定であった。

Am486をベースとして開発された「Am5x86」
Am486をベースに33MHzシステム・バスの4倍である133MHz動作を実現したプロセッサ。486ピン互換ながら、Pentium相当の性能を実現するということから、Pentium(P5)対抗をイメージする「5x86」と名付けられた。

 しかし、AMD-K5の出荷は何度も延期され、Pentium(P54C)のソケット互換プロセッサとしてリリースされたのは、1996年6月のことになる。Intelは半年以上前に、さらに次の世代となるPentium Proをデビューさせていたことを考えると、やはり1世代遅れてしまったことになる。AMDは、AMD-K5のリリースが遅れる間、Intel製プロセッサとの性能差を少しでも埋めるべく、外部バス・クロックの4倍でコアが動作する486互換プロセッサを、1995年11月に「Am5x86」としてリリースするなどした。だが、この時点でプラットフォームの主流は、すでにPentium+PCIバスに移行しており、486互換(主流はVL-Bus +ISAバス)のAm5x86では対応プラットフォームの面でも苦しくなっていた。

 Pentium(P54C)のソケット互換でようやく登場したAMD-K5は、確かに同じ動作クロックのPentiumよりも高速だったものの、動作クロック自体が思うように上げられず(AMD-K5の動作クロックは75M〜116.7MHz)、すでに200MH動作のプロセッサ(Pentium Pro)を持つIntelとの差は明らかだった。AMD-K5は、自社でアーキテクチャを開発したプロセッサとして、AMDにとってはエポックメーキングなプロセッサだったが、あまりにも開発に時間がかかりすぎた。

NexGenの買収で開発スピードを加速

 Intelとのギャップを早急に縮めるべく、AMDはある決断をする。それは自社開発したAMD-K5の改良に見切りをつけ、外部から有望なプロセッサ・コアを調達することだった。AMDが目を付けたのは、NexGenの「Nx686」である。AMDは、NexGenを1996年に買収することで、1995年10月に公表されたばかりのNx686を手に入れる。Nx686は、専用の2次キャッシュ・インターフェイスを内蔵する(IntelのP6マイクロアーキテクチャと同様にバックサイド・バスを持っていた)など、当時としては意欲的な設計を行ったプロセッサであった。ちなみに、NexGenの株主には、Compaqやアスキーなどが名をつられていた。

 AMDは、独自インターフェイスだったNx686の外部バスをP54C互換(Socket 7互換)に変更し、さらに1次キャッシュを増量したものをAMD-K6(最初のAMD-K6 Model 6)として1997年4月にリリースした。性能を見る限り、AMD-K6は決して悪いプロセッサではない。少なくともAMD-K6により、AMDは初めて同時期のIntel製プロセッサに対し、互角といわないまでも、競争力のあるコアを手に入れた。ただ、残念だったのは、プラットフォームの部分でまたしてもIntelに遅れをとったことだ。

独自のマルチメディア命令「3DNow!」を実装した「AMD K6-2」
AMD K6-2は、AMD K6をベースにマルチメディア命令を追加するなど、改良を加えたもの。ちょうど、IntelがPentium IIをリリースした時期であり、プラットフォーム的には完全に世代遅れとなってしまった。

 AMDがAMD-K6をリリースして間もなく、Intelは新しいSECCパッケージを採用したPentium IIをリリースする。それと同時に、バス・インターフェイスの主力をPentium/MMX Pentiumが採用するSocket 7からP6バスへと切り替え始めた。これにともない、IntelはSocket 7プラットフォームの改良を止め、新しいP6バス対応チップセットに開発の主眼を移していく。そしてIntelは、Socket 7対応チップセットのFSBを66MHz止まりにすると同時に、新しくグラフィックス用に導入したAGPをSocket 7用チップセットに持ち込むことはなかった。

 そこでAMDは独自にSocket 7を拡張した「Super 7プラットフォーム」を提唱、最大100MHzまでFSBクロック周波数を引き上げ、AGPの実装を促すこととした。だが、Super 7をサポートするチップセット・ベンダは、VIA TechnologiesやSiSなどのサードパーティのみ。新しいインターフェイスであるAGPの導入時期とも重なったため、これらサードパーティ製チップセットの安定性は、「純正」であるIntel性に比べ、高いとはいえなかった。結局、AMD-K6の評判に影を落とすことになった。これを嫌ってか、GatewayはAMD-K6を採用したものの、最後までIntel製チップセットとの組合せにこだわり、66MHz FSBのAMD-K6を使い続けたほどだ。それでも、AMD-K6はノートPCを中心にしばらく後まで使われたが、このチップセットの問題(悪印象)が最後まで足を引っ張ってしまったのは残念に思う。AMD-K6はAMDの面目を完全に回復させるには至らなかったが、性能面では将来への展望をもたらすものだった。

 次ページでは、Intelを一時追い詰めることになるAMD Athlonの歴史を振り返る。


 INDEX
  第14回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(8)〜Intelに挑戦し続けるAMD
  1. 互換プロセッサ・ビジネスにこだわったAMD
    2.IAサーバの新時代を築くプロセッサたち
 
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