特集
無線LAN構築のABC

1. アクセス・ポイントのチャンネル設定

デジタルアドバンテージ
2002/07/31


電波は思ったよりも遠くへ届く

 導入する規格が決まったら、アクセス・ポイントの設置場所を決めることになる。ここで気をつけなければならないのは、窓際などに設置すると、屋外にも電波が漏れてしまうことだ。予期せぬ第三者が電波を傍受することにより、不正なネットワーク侵入やデータの盗聴を許しかねない。無線LANの電波は意外と広い範囲に到達するので注意が必要だ。カタログでは、屋内で50m、屋外で100mといった記述を見かけるが、設置場所によってはさらに遠くへ到達することがある。例えば、電波の到達距離が半径50mだったとしたら、約70m四方(約1485坪)のオフィスの中心にアクセス・ポイントを1つ置くだけで、すべてカバーできることになる。逆にいえば、これよりも狭いオフィスでは、電波が届いてほしくないエリアにまで届いてしまうことになる。複数の会社/組織が1つのフロアやビルに同居しているオフィス・ビルの場合は特に注意が必要だろう。

無線LANの電波の到達距離
アクセス・ポイントが無指向性アンテナの場合で、約70m四方のオフィスならば、1台のアクセス・ポイントでカバーできる。ただし、約70m四方のオフィスでは、電波の一部が外に漏れてしまうので注意したい。

 企業向けの無線LAN機器の中には、電波の送信出力を落として、到達距離を短くする機能を持つものもある。例えば、インテルの「PRO/Wireless 2011B LANアクセス・ポイント」では、フル出力の64mWから、30mW、15mW、5mW、1mWまでの5段階で制御が行える。送信出力を下げれば、それだけ外部への電波の漏えいは少なくなるはずだ。実際にPRO/Wireless 2011Bの送信出力を64mW、15mW、1mWに変えて試してみたところ、確かに無線LANクライアントの受信感度(アンテナの数)は弱まっていた。とはいえ、当編集部のある事務所で計測が可能な15m程度の範囲では十分に通信可能であった。そのことから考えると、一般的な日本国内のオフィスでは、送信出力を1mWに落としたとしても、通信速度が11Mbits/sから1Mbits/sに落ちることはあっても、通信できなくなるということはないかもしれない。電波の到達距離が長いことは、1台のアクセス・ポイントで広い範囲がカバーできるというメリットもあるが、オフィス外からもアクセスできることを意味するのでセキュリティの点で気を付けなければならないことに注意したい(詳細は後述)。

PRO/Wireless 2011B LANアクセス・ポイントのRF設定画面
PRO/Wireless 2011B LANアクセス・ポイントでは、64mWから1mWまで5段階で送信出力を設定できる。企業向けのアクセス・ポイントでは高価だが、その分このように細かな出力制限や設定が行える。
  電波の出力制限が設定できる。オフィスの大きさなどを考慮して出力を検討したい
  SSID(ESSID)のブロードキャストを無効にするかどうかの設定を行う(規格上はブロードキャストが有効)。ただし、ブロードキャストを有効にしていると、外部の第三者も簡単にSSIDを知ることができてしまう。セキュリティ上は無効(Disabled)に設定しておきたい

本格的な無線LANの構築は難しい

 もう1つアクセス・ポイントの設置場所で気をつけなければならないのが、アクセス・ポイント同士の電波干渉である。IEEE 802.11bでは、さらにBluetoothや電子レンジなど、同じ2.4GHz帯を利用する機器との電波干渉も考慮に入れる必要がある。

 ネットワークの用途によっても異なるが、1台のアクセス・ポイントで快適に利用できる無線LANクライアント数は、16台程度までといわれている。ある瞬間、アクセス・ポイントに接続できる無線LANクライアントは1台だけなので、ほかの無線LANクライアントはその通信が終了するまで待たされることになる。そのため、1台のアクセス・ポイントを利用する無線LANクライアント数が増えれば、結果的に無線LANクライアントのデータ通信速度が落ちることになる。サーバやインターネットに依存した業務を行っているような場合は、5〜6台の無線LANクライアントに対してアクセス・ポイントを1台設置するくらいの方が望ましいだろう。

 つまり、無線LANクライアントの台数が多い場合は、複数のアクセス・ポイントがオフィス内に設置されることになる。前述のように無線LANの電波は意外と到達距離が長いので、複数のアクセス・ポイントを設置すると必ずカバーするエリアが重なることになる。そこで問題となるのが、アクセス・ポイント同士の電波干渉である。IEEE 802.11bの場合、2.412GHzから5MHzおきに第1〜14チャンネルまでが日本国内で利用できる(アクセス・ポイントによっては第14チャンネルに対応していないものもある)。ただし、通信には中心周波数の前後11MHz分の合計22MHz分を利用する。そのため、利用する無線周波数が重ならない(電波干渉が生じない)ように設定するには、下表のようなチャンネルの組み合わせにする必要がある。

チャンネル 中心周波数 組み合わせ1 組み合わせ2 組み合わせ3 組み合わせ4 組み合わせ5
第1 2.412GHz
第2 2.417GHz
第3 2.422GHz
第4 2.427GHz
第5 2.432GHz
第6 2.437GHz
第7 2.442GHz
第8 2.447GHz
第9 2.452GHz
第10 2.457GHz
第11 2.462GHz
第12 2.467GHz
第13 2.472GHz
第14 2.484GHz
表区切り
IEEE 802.11bが利用する中心周波数
各チャンネルの中心周波数は5MHzおきに連続しているが、最後の第14チャンネルだけは不連続になっている。〇は、オーバーラップしないように割り当てる場合の中心周波数帯。「組み合わせ1」の第1、6、11、14チャンネルを選択すれば、最大4台のアクセス・ポイントが設置可能だが、それ以外の組み合わせでは3台までとなる。

 1カ所に4台のアクセス・ポイントまでならば、電波干渉を起こさない設定ができるわけだ。なお、IEEE 802.11a/bともに、電波ノイズや干渉への対策として、ある程度広い範囲の周波数に分散させながらデータ通信を行うため、アクセス・ポイントを同じチャンネルに設定しても、通信自体は可能だ。しかし、同じチャンネルに設定していると、一定の確率でアクセス・ポイント同士が利用する周波数が重なり、必ず通信エラーが発生することになるため、データ通信効率は落ちてしまう。なるべくチャンネルがオーバーラップしないように設置した方がいいだろう。

 前述のように、1台のアクセス・ポイントに対して5〜6台程度の無線LANクライアントを割り当てるとすると、最大でも24台しかネットワークに接続できないことになる。さらに接続する無線LANクライアント数を増やすには、アクセス・ポイントのアンテナを無指向性から指向性に変えて、電波の重なりが起きないようにするなどの工夫が必要になる。

 また、L字型のオフィスや柱があってアクセス・ポイントが死角に入るような場所では、通信状態が悪くなる可能性がある。こうした場合もアクセス・ポイントの設置場所を工夫したり、アンテナの種類を変更したりするなどの対処が必要だ。一方で、外部やほかの部署に電波が届かないようにする必要がある場合は、窓ガラスに電波の漏えいを防ぐシールを貼ったり、電波のシールド効果を持つパーティションを設置したりしなければならない。壁があると、その先には電波が届かないような気がするが、IEEE 802.11bが利用する2.4GHz帯の電波はガラスや薄い壁ならば通過してしまうので注意が必要だ。電波という目に見えないものを扱うだけに、無線LANの設計は意外に難しい。


 INDEX
  [特集]無線LAN構築のABC
  1.アクセス・ポイントのチャンネル設定
    2.SSID設定のコツ
    3.無線LANで必須のセキュリティ設定
 
 「System Insiderの特集」


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