特集

クライアントの保守管理ツール「デプロイメント・ツール」を試す(前編)

元麻布春男
2002/10/16


 企業や組織の管理者にとって、複数のクライアントPCを管理することは大きな負担となる。同じ仕様のPCを一括大量導入することで、サポートの負担が軽減されるとはいえ、何らかの理由で不調に陥ったPCの復旧、ソフトウェアの一斉バージョンアップといった作業は、管理者に大きな負担を強いることになる。また、企業の研修センターや学校などの教育機関のように、定期的に一定数のPCをクリーンな状態、すなわちOSの上に必要なアプリケーションだけがインストールされた状態に戻す必要のあるところでは、ほうっておくと管理者はOSとアプリケーションのインストール作業だけで忙殺されてしまう。本稿では、こうしたソフトウェアの保守作業にかかる手間を軽減し、管理コストの低減に役立つツール「デプロイメント・ツール」を取り上げ、その機能や有効性を明らかにしてみたい。

バックアップとリストアによる解決

 上記のような管理者に負担を強いるクライアントPCの管理状況を打開する策としてまず思い付くのが、ハードディスクのバックアップとリストアだ。クリーンな状態のPCをバックアップしておいて、必要に応じてリストアすれば、PCを簡単に初期状態に戻すことができる。こうしておけば、ソフトウェア的な不具合がクライアントPCで起きても、リストア一発で元に戻すことができる。もちろん、日々更新されるデータについては別途バックアップをとるなり、普段からサーバに保存するなり、何らかの対策を施しておく必要がある。

 ソフトウェアのバージョンアップについても、複数あるクライアントPCのハードウェアがいずれも同じである限り、モデルとなるPCを選んでソフトウェアをインストールし、そのイメージをほかのクライアントPCに自動で配布すれば、インストール作業の負担を大幅に軽減できる。ただ、そのためには後述のようにインストール・イメージから特定のPCに依存する情報を取り去って、移動可能なものにしておかなければならない。また、これを可能にするには、ソフトウェアのボリューム・ライセンスを取得しておく必要があることはいうまでもない。もっとも、各ソフトウェア・ベンダとも近年はソフトウェアのボリューム・ライセンスに力を入れているので、ボリューム・ライセンスの必要性が障害になる可能性は低いハズだ。

もうテープ・ドライブは役に立たない!?

 このバックアップに使うメディアとして、以前主流だったテープ・ドライブは、ハードディスクの容量増大についていけず、現在ではエンタープライズ向けのオートチェンジャー・タイプが中心となっている。性能や信頼性が高い反面、ソフトウェアも含めて極めて高価なソリューションとなっており、気軽にクライアントPCのバックアップ/リストアを目的に導入するのは難しい。

 そこでテープ・ドライブに代わってバックアップ・デバイスとしての比重を増しているのがハードディスクだ。デバイスとしてのハードディスクは必ずしもバックアップ・デバイスとして最適とはいえない面もあるが、ここ数年で劇的な大容量化を遂げたハードディスクに、容量的についていけるバックアップ・デバイスはハードディスクだけ、という側面は無視できない。特に予算の制約が厳しい個人やSOHO、企業の部署内といった単位では、唯一「使える」バックアップ・デバイスとさえいえるかもしれない。

個人向けイメージング・ツールの隆盛とその限界

 ハードディスクを用いたバックアップという用途で、伝統的なバックアップ・ソフトウェアに代わり、最近人気を集めているのが、Power Quest(ネットジャパン)の「Drive Image」やシマンテックの「Norton Ghost」だ(製品情報ページ:Drive ImageNorton Ghost)。これらのツールは、ハードディスクをドライブ単位、あるいはパーティション単位で丸ごとバックアップし、リストアすることができることから、ハードディスクのイメージング・ツールとか、クローニング・ツールと呼ばれることもある。イメージング・ツールは、テープ・ドライブのようなファイルシステムを持たないデバイスをサポートしないことや、Windows上から自らがインストールされたブート・パーティション(Windows OSのシステム・ファイルが存在するパーティション)を上書きリストアできない、といった欠点がある。反面、バックアップしたデータが1つのファイルとして認識されるため分かりやすく、DVD-RAMなどのリムーバブル・ディスクを併用することでデータを簡単に移動できるなど、ポータビリティに優れるという特徴がある。人気が出るのも当然といえるだろう。

個人向けイメージング・ツールの例
左はPower Quest(ネットジャパン)のDrive Image 2002(2002年10月時点で販売中)で、右はシマンテックのNorton Ghost 2003(2002年11月発売予定)である。以前に比べると、こうしたツールは量販店など一般的なPCソフトウェア売り場でもよく見かけるようになった。認知されてきたということだろう。

 しかし、こうした個人向けイメージング・ツールを、多数のPCが設置された企業の現場で使ってみると、その限界にもぶつかる。個人向けのイメージング・ツールには、複数台のPCで利用するためのソフトウェア・ライセンスが付与されていないことに加え、作成されたイメージのポータビリティが十分でない、ネットワーク・サポートが十分でない、という問題があるからだ。

 通常、イメージング・ツールで作成されたハードディスクのイメージは、稼働しているPCで使われているハードディスクの内容と完全に同一である。バックアップ・ソフトウェアとして使う以上当然のことだが、これは同時に作成されたイメージが、特定のコンピュータ名や特定のSID*1など、固有のPCに依存した情報を持っている、ということでもある。このイメージを複数台のPCにインストールすると、そのままではコンピュータ名やSIDなどが競合してしまい、ネットワーク上で共存することはできない。ソフトウェアをシングル・ユーザー・ライセンスで利用する個人ユーザーの場合、これでも問題ないが、ボリューム・ライセンスで利用する法人ユーザーには、大きな障害となる。そのため、法人向けに開発/販売されているイメージング・ツールでは、SIDやコンピュータ名をPCごとにユニークなものに書き換える手段を提供することでこの問題をクリアしている。

*1 Security ID:セキュリティ識別子と呼ばれる。Windows NT/2000/XPをインストールしたPCに割り当てられるユニークなID。各PCの識別はもちろん、ハードディスク内のデータの暗号化などにも利用されている。

 
法人向けイメージング・ツールではネットワーク・サポートが重要

 また、企業でこの種のツールを使う場合、ネットワークを抜きにして論じることはナンセンスだ。最近では、個人向けのツールでも、ネットワーク・ドライブに直接イメージを作成したり、ネットワーク・ドライブから直接リストアしたり、といったネットワーク機能をサポートしたものが現れているが、法人で利用するにはこれだけでは足りない。1台のサーバから複数台のPCに同時にイメージを転送したり、複数のイメージをグループごとに異なるイーサネット・ポートを使って転送し分けたり、といった機能が必要だ。また、転送の際に占有するネットワーク帯域を調整するなどといった、高度なネットワーク機能も求められる。さらにネットワーク経由でサーバ側からクライアントPCを管理する機能も必要だ。

 こうした法人での利用に求められる機能を備えたイメージング・ツールは、「デプロイメント・ツール」と呼ばれることがある。デプロイ(Deploy)とは、展開するとか配備する、配布するという意味だ。これは法人での利用ではイメージの作成も重要だが、それより作成したイメージをどうやって配布するかにソフトウェアの重点が移っているためだろう。

デプロイメント・ツールの「敷居」の高さには要注意

 当然のことながら、デプロイメント・ツールは、個人向けのイメージング・ツールと比較すると価格は高額だ。その代わり、複数台のPCで利用するライセンスが付与されている。またインストールや設定・運用も、個人向けのパッケージに比べて格段に難しくなる。高度なネットワーク機能を備えるということは、それだけ設定や運用が複雑になるということでもあるからだ。さらに、サーバとクライアントとの間でイメージ・データをやり取りするときには、セキュリティ面に注意が必要だ。クライアントPCの管理やライセンスの管理にSQL ServerのようなDBMSを利用するものも珍しくないが、そうしたシステムではシステム価格の上昇に加え、DBMSの管理や運用のスキルも要求される。リモートでのクライアントPC管理をマシンに依存せず行うためにWebページからコンソール操作を行うものでは、IISなどWebサーバの運用・管理スキルも要求される。

 また詳しくは後述するが、実際に製品を試用したところでは、まだ成熟不足の分野であるためか、ドキュメント類の整備が十分とはいえなかったり、エラー・メッセージが不親切だったり、チュートリアルが不足していたりという感があり、個人向けパッケージのように購入して独習することが必ずしも容易ではないと感じた。こうした複雑さや難しさを克服するため、デプロイメント・ツールのベンダにはセミナーなどを開催しているところも多いが、その対象も必ずしもユーザーとは限らず、SIやVARを前提としていることもある。導入に際しては、ソフトウェアの機能比較だけでなく、こうした部分をきちんと調査してから決定するべきだ。

 ここではデプロイメント・ツールの導入を考えているユーザーに、現在国内で流通しているものから、いくつか選んで取り上げ、どのような特徴を持つのか、どのようなユーザーに向くのか、ということを紹介してみたいと思う。前編である今回はシマンテックの「Symantec Ghost 7.5」を紹介する。

 

 INDEX
[特集]クライアントの保守管理ツール「デプロイメント・ツール」を試す(前編)
    1.Symantec Ghost 7.5によるイメージ作成の実際
    2.Symantec Ghost 7.5によるイメージ展開の実際
 
 「System Insiderの特集」


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