元麻布春男の焦点
プロセッサの性能向上を急ぐIntelとAMD

1. 新登場のPentium 4-2.80GHzの実体

元麻布春男
2002/09/05


 8月に入って、x86プロセッサの主要なベンダであるIntelとAMDは、動作クロックを引き上げた(性能を向上させた)プロセッサを含む、いくつか重要な発表を行った。今回の発表に合わせて、IntelとAMDは、プロセッサ価格の大幅な引き下げを行っており、PCの販売価格にも影響することは間違いない。そこで本稿では、IntelとAMDが発表した内容を検証してみる。

Pentium 4-2.80GHzの登場で大幅に下がったプロセッサ価格

 8月27日にIntelは、Pentium 4プロセッサのラインアップに、動作クロック2.80GHz(FSB 533MHz)、2.66GHz(同533MHz)、2.60GHz(同400MHz)、2.50GHz(同400MHz)の4種を追加した。これによりPentium 4の最大動作クロックは、2.53GHzから2.80GHzへ11%ほど引き上げられたことになる。1000個ロット時のOEM向け価格は、上記の順に6万870円、4万8050円、4万8050円、2万9120円となっている。

 いずれも、すでに発売されている0.13μmプロセスのNorthwood(開発コード名:ノースウッド)コアによるもので、SSE2命令セットのサポートや512Kbytesの2次キャッシュオン・ダイで実装するといった特徴は、従来と変わらない。しかし、プロセッサ・コアの細かいリビジョンを表す「ステッピング」が、従来の「B0」から「C1」へ更新されると同時に、VID(Voltage ID)が1.500Vから1.525Vへと、わずかに引き上げられている。

■今回発表のPentium 4は消費電力も上がった?
 VIDとはプロセッサのおおよその動作電圧を示す目安のようなものだ。現在のIntelのプロセッサは個別にVIDを持っており、マザーボード上の回路はプロセッサのVIDを読み取って実際の動作電圧を決定する。ステッピングの異なるプロセッサは、動作電圧など各種特性が微妙に異なるものだが、このようなVIDの仕組みにより、プロセッサは最適な電源が得られるようになっている。

 さて、プロセッサの実際の動作電圧(Vcc)は、動作電流(Icc)と動作クロック周波数に応じて、一定の値をVIDの値から引いたものになる。従って、必ずしもC1ステップのプロセッサがB0ステップのプロセッサより動作電圧が0.025V高いというわけではないが、C1ステップで動作電圧が若干上がる傾向にあることは間違いない。また、これに伴い消費電力*1も若干上がっており、同じ2.53GHz動作時でB0ステップでは59.3Wだったものが、C1ステップでは61.5Wと2.2Wほど増加している(最高クロックの2.80GHzのTDPは68.4W)。

*1 ここでいう消費電力は、熱設計時消費電力(TDP:Thermal Design Power)を指す。TDPは、チップの冷却機構を設計する際などに想定される、チップの消費電力を意味しており、多くの場合、ピーク時の最大消費電力に相当する。

 
■300mmウエハで製造?
 データシートによると、このC1ステップは今回リリースされた4種のみで採用されるものではなく、2GHzから2.80GHzまでと、ほとんどのPentium 4の動作クロック周波数域をカバーする。C1ステップがB0ステップをただちに置き換えるものであるかどうかは不明だが、ひょっとするとC1ステップは300mmウエハから製造されたPentium 4を意味するものかもしれない。もしそうなら、これまで想定されていた時期よりも早く2GHz未満のPentium 4が姿を消すことになる可能性がある。現在Intelは、半導体製造設備を従来の200mmウエハから新しい300mmウエハへ切り替えている最中だからだ(300mmウエハの詳細については、「頭脳放談:第13回 300mmウエハは2倍お得」を参照していただきたい)。

 200mmウエハから300mmウエハに変更することで、ウエハ1枚当たりの生産量が大幅に増え、その結果、コスト・ダウンが実現できるという(半導体工場の増設が不要になることも大幅なコスト・ダウンになる)。実際、今回の発表に伴ってPentium 4プロセッサの価格は大幅に改定され、8月上旬には6〜7万円を超えていたPentium 4-2.53GHzの価格が、わずか3週間あまりで半額以下になっている(これが300mmウエハによるコスト・ダウン効果の現れなのだろうか?)。また、9月1日にIntelは、2.53GHz以外の動作クロックについてもOEM向け価格の改定を行い、Pentium 4-2.40GHzはFSB 400MHz版と533MHz版ともに、従来より52%も安くなった。その一方で、動作クロックが2.00GHz未満のローエンド品の値動きは小さく、そもそもOEM向け価格表には1.8GHz以上のPentium 4しか記載されなくなってしまった。これは、2.00GHz未満のPentium 4が間もなく舞台を降りる可能性が高いことを示唆している。実際には、このレンジの動作周波数帯はすべてCeleronに置き換えられていくのだろう。いずれにしても、2.4G〜5GHzクラスのPentium 4の値ごろ感が一気に高まったことは間違いない。

内部
クロック
周波数
FSB
クロック
周波数
8月3日 8月10日 8月17日 8月24日 8月31日
2.80GHz 533MHz
 
 
 
6万3200円
6万2700円
(▼536円)
2.66GHz 533MHz
 
 
 
4万9700円
4万9000円
(▼681円)
2.60GHz 400MHz
 
 
 
4万9800円
4万9200円
(▼589円)
2.53GHz 533MHz
7万1300円
6万7100円
(▼4221円)
6万900円
(▼6181円)
4万2300円
(▼1万8617円)
3万200円
(▼1万2025円)
2.50GHz 400MHz
 
 
 
3万4000円
3万円
(▼3976円)
2.40GHz 533MHz
4万5600円
4万3900円
(▼1632円)
4万1900円
(▼2028円)
3万5500円
(▼6419円)
2万5500円
(▼9972円)
2.40GHz 400MHz
4万5100円
4万2600円
(▼2512円)
4万500円
(▼2074円)
3万6800円
(▼3725円)
2万7100円
(▼9709円)
2.26GHz 533MHz
2万9000円
2万8900円
(▼96円)
2万8900円
(▼57円)
2万8500円
(▼357円)
2万4700円
(▼3868円)
2.20GHz 400MHz
2万9200円
2万9000円
(▼192円)
2万9100円
(△77円)
2万8400円
(▼693円)
2万5100円
(▼3308円)
2.00GHz 400MHz
2万3500円
2万3200円
(▼356円)
2万3100円
(▼52円)
2万2900円
(▼239円)
2万1200円
(▼1699円)
1.80GHz 400MHz
2万200円
1万9900円
(▼260円)
1万9900円
(▼22円)
1万9800円
(▼48円)
1万9000円
(▼845円)
1.60GHz 400MHz
1万7200円
1万7500円
(△235円)
1万7400円
(▼40円)
1万7100円
(▼371円)
1万7200円
(△106円)
表区切り
Pentium 4のここ1カ月の価格動向
これは、サハロフ佐藤氏の秋葉原レポートに掲載されているPentium 4リテール・パッケージ(Northwoodコア/478ピン・パッケージ)の価格調査結果をもとに、編集部で計算した平均価格だ。カッコ内は前週との価格差を表しており、▼は値下げ、△は値上げを意味する。これによると、2.40G〜2.53GHzの価格が大幅に下落してきたのが分かる。逆に1.80A GHz以下はほとんど下げ止まりの感がある。なお、8月24日時点で未発表の2.50G/2.60G/2.66G/2.80GHzのPentium 4に価格が付いているのは、秋葉原のPCパーツ・ショップが正式発表前に販売を開始したためだ。

 
■アプリケーション・レベルの性能は?
 現時点での最高クロックとなったPentium 4-2.80GHzの性能だが、これまでの最高クロック品であった2.53GHzと、いくつかのベンチマーク・テストで性能を比較してみた(下表)。テストにより性能向上率にバラつきが見られるが、2%〜14%強の性能向上が見られており、動作クロックが上がっただけの効果はある。今回のテストではPC800 RDRAMをメイン・メモリに使用したが、より高速なPC1066 RDRAMを使えば、動作クロックが高い2.80GHzの性能向上率はもう少し伸びるかもしれない(PC1066の効果については、「特集:Rambusは終えんを迎えてしまうのか?」を参照していただきたい)。

Pentium 4-2.80GHz Pentium 4-2.53GHz 性能向上率
SYSMark 2002 Rating
258
236
109.3%
Internet Content Creation
364
319
114.1%
Office Productivity
183
174
105.2%
3DMark 2001 SE(Build 330)
10143
9825
103.2%
PCMark 2001 CPU
6801
6130
110.9%
Memory
6260
6135
102.0%
表区切り
Pentium 4-2.80GHzの性能向上率

 次のページではIntelの90nmプロセスに関する発表と、AMDが発表した高クロック周波数のAthlon XPについて検証してみる。

 
  関連記事 
第13回 300mmウエハは2倍お得
Rambusは終えんを迎えてしまうのか?

  関連リンク 
サハロフ佐藤氏による秋葉原のPCパーツ価格の調査レポート
 
 
 

 INDEX
  プロセッサの性能向上を急ぐIntelとAMD
  1.新登場のPentium 4-2.80GHzの実体
    2.2003年の準備は着々と進行中
 

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