頭脳放談

第48回 デジタル家電は半導体業界の救世主?

Massa POP Izumida
2004/05/21

 テレビのニュースなどでは、日本の景気回復の要因としてデジタル家電の販売が好調であることが挙げられる。このゴールデンウィークも工場は休みなく生産を続けていたとか。数年前、休みでもないのに工場を止めていたのがうそのようだ。このデジタル家電ブームのおかげか、最近の半導体各社の業績も好調といわれている。多分、こういう「説明」は会社の決算や売り上げ見通しを公表するのに広報担当者が書いているか、「アナリスト」という人たちがしているのだろう。いずれも「説明」する先は投資家である。非常に明快に「説明」するのが常であり、それが的確に捉えられていて感心することもあるが、単純化しすぎる印象も受ける。逆に半導体不況になると「半導体事業など止めてしまえ」というアナリストが必ずいるのには閉口する。

 アナリスト的には、どうも日本の会社がデジタル家電を引っ張っているという認識があり、バブル崩壊後、牙城を失う一方だった日本の半導体業界については、久々の買い材料と捉えられているみたいだ。理由はどうあれ、半導体業界が前向きに見られるようになったことはめでたい限りだ。

 プロセッサ系だけでも、デジタル家電向けに開発されているものは目白押しである。どの半導体ベンダも虎視眈々と狙っている市場であることに間違いはない。

そもそもデジタル家電とは?

 デジタル家電というと、フラットパネル・ディスプレイを使ったデジタル・ハイビジョン・テレビ(デジタルHDTV)、DVDハードディスク・レコーダ、デジタル・カメラといった応用がまず挙げられる。これらは、デジタル家電の御三家ということになっているようだ。徳川幕府以来、日本人は御三家好きだが、実際これらの商品が売れ筋なので平伏するしかない。

デジタル家電の御三家
デジタルHDTV、DVDハードディスク・レコーダ、デジタル・カメラがデジタル家電の御三家と呼ばれている。デジタル・カメラがデジタル家電に含まれるかどうかは意見の分かれるところだが、松下電器産業やソニー、三洋電機など家電メーカーもこの市場に参入していることを考えると、家電に含まれるのかもしれない。

 しかし、何と何がデジタル家電で何は入らないのか、筆者には実はいまひとつよく分かっていない。フラットパネルのデジタル・テレビやDVDハードディスク・レコーダなどは、デジタル家電という言葉と前後して一般化した製品であるのでピッタリだ。でも、デジタル・カメラは家電なのだろうか。確かに家電量販店でデジタル・カメラを買うのが普通になっているので、デジタル・カメラを家電に入れるのは間違いではないのだろう。とはいえ、昔の産業統計的にはカメラ業界と家電業界はちょっと違っていたはずだ。いつから家電になったのか記憶が定かでない。

 画像や音声をデジタル化して扱えるのがデジタル家電だということのようだが、そうなると携帯電話やPCまでデジタル家電の領域に入ってくる。これらを入れるとちょっと範囲が広くなりすぎるきらいがある。でも、デジタル化のお陰で、携帯電話でテレビを見て、PCで映画を録画し、PDAでそれを再生し、ゲーム機で音楽が聞けるのである。そうしてみていくと線引きは結構微妙なものに思えてくる。もしかすると同じPCでも、家でビデオ編集するのはデジタル家電で、会社でプレゼンテーション資料を作るのは非デジタル家電といった具合に考えないといけないのかもしれない。デジタル家電がPCなんか飲み込んでしまうぞ、と納得していればいいんだろうか。

「デジタル」の恩恵

 乱暴にいえば、「このところ成長しているか、成長しそうなものがデジタル家電」と言い切ってしまっても現時点ではあながち嘘ではなさそうだ。しかしそれでは部品屋の分析ではあるまい。まずは、部品屋的にこの市場で要求される要素部品を復習してみたい。

 まずは、「デジタル」という言葉に、もともと「アナログ」であったものを置き換えましたというニュアンスが色濃く残っていることに気付く。そのとおりテレビもビデオももともとはアナログであるし、映像も音声も本質的にアナログである。当然、デジタルといいつつアナログ信号を扱う必要は残っているから、アンプやフィルタといったアナログ要素は残っている。

 ただし、それは入口と出口にわずかに残るだけであるようだ。入口のアナログ−デジタル変換と出口のデジタル−アナログ変換の間はデジタルばかりである。そこでは、映像や音声といった信号をデジタルな状態でフィルタをかけたり、圧縮伸張といった信号処理をしたりするので、デジタル信号処理を担うプロセッサや、SoC(System On a Chip:システムを構築する機能を1チップ化にまとめたもの)といったものが回路の中心となる。その結果、デジタルな処理のワーク領域に使う比較的高速な半導体メモリから、処理結果のストレージとしてのフラッシュメモリ、DVD、ハードディスクなどのデバイスも必須になってくる。このあたりは「旧アナログ家電」では不要だった要素部品を大量に使う必要がでてくる。

 さらに機器同士のネットワーク的な相互接続性があり、デジタルのデータをデジタルのまま相互に運用できるというのが、デジタル家電の大きな特徴である。当然、USBやIEEE 1394、イーサネット、無線LAN、Bluetoothのようなデジタル・データを伝送するための回路が必須になる。そうするとそれらを制御するプロトコル・スタックやユーザー・インターフェイスも必要になってくる。ソフトウェアも複雑になるので、リアルタイムOS(RTOS)が実行できる程度の性能や機能を持つプロセッサも必要だ。また装置によっては、それらのソフトウェアの代わりに専用デバイスによってネットワークに接続することもあるだろう。また、忘れてならないのが、暗号や著作権保護などを実現する回路やファームウェアである。

 こうして見ると特段、デジタル家電といって根本的に新規なデバイスが要求されているわけでないことが分かる。それぞれの要素そのものは、どんどん洗練されてきているものの、何か新しいデバイスの登場によってデジタル家電が実現可能になったわけではない。非常に多岐にわたる要素部品すべてを完璧にそろえるのは難しいが、競争力があるかどうかを別にすれば、大手の半導体会社ならカテゴリ的にはそれらの要素はすべて持っているはずだ。

 こういうものをまとめて大量に売れるような装置にするのは、日本の大手家電メーカーの得意なところだろう。しかしよく考えてみると、上のような要素技術は、半導体会社に限らず、PCベンサや携帯電話ベンダでも、持っているものばかりだ。たとえ持っていないものがあっても、適当に買ってくれば、すぐに参入できそうだ。もちろん、単に外部から買ってきただけでは競争力はないし、いろいろ買いそろえて使えるようにするためには少し時間がかかるかもしれない。だが、ぶっちゃけたところ、そのうちだれでも作れるようになるのではないかと、ふと不安がよぎる。

デジタル家電は実装の自由度に楽しみがある

 デジタル家電がPCなどと少し違うのは、x86プロセッサとWindowsのように特定のデバイス・メーカーの製品と業界標準に合わせないと作れない、というわけではないことだ。DVDの仕様とか、外的標準さえ準拠すれば、アーキテクチャもインプリメンテーション(実装)もいろいろなアプローチが採れる。また、そこで工夫しないと競争力はついてこないという部分でもある。その点では、PCのようにアーキテクチャ固定で、特定の会社のプロセッサとチップセットを買えばだれでも作れるという世界にはなっていない。同じような機能を実現する製品を作るにしても、いろいろなアーキテクチャがあり得るという自由度の高さにこそ、デジタル家電向けのSoCなどを作るときのお楽しみがありそうだ。

 将来的には、これぞ定番というようなデバイスが出ないとも限らない。家電はコストが命であり、特にデジタルであるだけに、突然、いままで畑違いと思っていたところからそういう製品が登場して、市場を席巻する可能性がないとはいえない。そうなったときに、本来の家電メーカーの強みは、わずかに残るアナログ的要素の品質、なんてことにならないとも限らない。

 それにしても、オリンピックと米国の大統領選の年にテレビやビデオで業界の景気がよいというのは、ちょっと「定番」すぎる状況である。それって「いつか来た道」ってやつかもしれない、と不安がよぎる今日この頃である。記事の終わり


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
   
 
     
「連載:頭脳放談」

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