頭脳放談

第55回 シリコン・サイクルに隠れたトレンドの変化を見逃すな!

Massa POP Izumida
2004/12/21

 どたばたあがいているうちに、また2004年も暮れが来た。こういう毎年のサイクルも、年齢とともに何度も何度も重ねているうちに、こんなものか、と受け入れてしまっている自分に気付く。景気もまたそのようである。2004年はオリンピック・イヤーであり、米国大統領選挙の年でもあり、幸いなるかな業界的には期待どおりに書き入れ時であった。しかし、すでにオリンピックも大統領選挙も終わってしまったので、案の定というか、暗雲が垂れ込めてきている。

 いまのところ、見る人により悲観・楽観が錯綜しているようだが、楽観側の人は楽観したい理由がある人ばかりなので、それほど当てにできない。曰く「確かに在庫調整はあるが、これは一服のものでまだ設備投資は強気だ」、曰く「地域により消費は堅調」などという話である。長年半導体業界にいると、「BBレシオ(Book-to-Bill Ratio:出荷額と受注額の割合)が下がってきているので、すでに下降局面だ」といわれた方が納得が行く。そうだよね、シリコン・サイクルだもんね……。

シルコン・サイクルと気候変化の相関

 シリコン・サイクルである。いいときの後には悪いときが来る。かの有名なシリコン・サイクルという名の共有体験の数々によって、「また厳しい時期がきっと来るであろう」とみんながみんな目をつり上げて警戒している、というのが現在だ。シリコン・サイクルは、時期の多少の前後、山や谷の高さ深さに差はあるものの、オリンピックと選挙に同期し、だいたい4年サイクルの変動を繰り返してきている。ちょうど4年前にも、「頭脳放談:第8回 シリコン・サイクルは神の見えざる手か、都市伝説か」でシリコン・サイクルを取り上げている。そんな業界の景気変動を5回も6回も経験してくると、「まぁ、こんなものさ」と流してしまいそうになる。

 しかし危ない危ない、周期性の中にベースの大きな変動が隠されていることが往々にしてある。突飛なたとえかもしれないが、気候の温暖化がよい例である。いろいろな周期変動や現象のばらつきに隠されて、昔は人間活動の寄与分がなかなか分離できなかったが、現在では人間活動の影響分がかなり明確になってきたようだ。そこではっきり温暖化のトレンドが検出できるようになってきたというのである。

 同様に、半導体業界の景気変動も、周期的変動だけでなく、ベースのトレンドの変動も相当よく見ておかないとマズイように思う。そしてこれも気候とアナロジーできるのだが、現れ方は単純ではないようだ。例えば、地球温暖化という全体トレンドの中でも、ヨーロッパは寒冷化するというように局所的には異なる現象が発生するとする説があるし、気候システムの再構築は短時間に起こり、そのトランジション(変換)の時期には、非常にブレの多い不安定な気候が続くという説もある。もしかすると時ならぬ12月の嵐も、ブレの中の一現象にすぎないのかもしれない。平均は緩やかに遷移しても、個々に現れる事象は激烈な変化を伴うのだ。そんな地球に比べれば、小さな小さな業界の動きだが、ここでも相反する現象が同時に存在し、かつブレも不安定もやってくる、と腹をくくらざるを得えない。こちらでもベース・トレンドは動いているのは確実なのである。

猟場が違えば景気も違う?

 12月8日のこと、一種の象徴的な件が発表になった。筆者はこれをアジアのある都市のホテルのテレビで見たのだが、まさにトレンドの動きの一端を垣間見る思いであった。IBMがPC事業を中国の聯想集団有限公司(Lenovo)へ売却した件である(IBMのニュースリリース「LenovoへPC事業を売却」)。当然ながら、中国パワーの強さをそこに見た人も多いだろう。これは地域的な偏りの話だが、それはすでに織り込み済みだろう。どちらかといえばバブル気味となっている中国経済の着陸点の方が気になるかもしれない。

 利幅が下がりPCのハードウェア・ビジネスが儲からなくなったということを見る人も多いだろう。そしてPCからデジタル家電などへのシフトという「トレンド」が語られる。これは市場分野ごとの偏りの話で、確かにそういう現象もあるのだけれど、それが根底の「トレンド」とは思えない。実際、デジタル家電などというが、PCのように1個の市場というよりは、1990年代に「マルチメディア」などとカテゴライズされてきた一連の技術の子孫であって、ひとまとめにして語るにはすでに独自の道を歩み過ぎているように思われる。

 しかし、市場カテゴリを離れ、またIBM固有の事情を取り去っても、いまや同じような指向がシステム製品メーカーにあまねく存在しているのではないか、と思われるのだ。それは「ハードウェアを製造する」軸足よりは、「これから売れる市場を見つけ出し、そこで売れるシステムを素早く企画して、ほかに先駆けて市場に入って売りさばく」という狩猟者的な行動様式の軸足への変換である。それは部品屋として、いささか長い間部品をシステム製品メーカーのエンジニアの方々に買っていただいているうちに得た確信である。

 過去を振り返れば、アプリケーションの設計の多くはシステム製品メーカー側で仕切っており、われわれ半導体屋がアプリケーションの設計そのものに口を出すようなことは極めて少なかった。アプリケーションを知り、仕様を作れるのはシステム屋で、半導体屋の多くは、いわれるがままの仕様で物を作って納めていた。それをアプリケーションに仕上げるのは、結局システム製品メーカーであった。いまでもそうして基礎からの物作りにこだわっているシステム製品メーカーも多いのだが、昨今はそうでないケースも多い。そんなに基礎からアプリケーションの構築に時間をかけていたのでは、いち早く市場に入れず、チャンスを逃してしまうのだ。売れるとみたら、どたばたでもいいから製品を作り、パッと作ってパッと売る。そして利益が出なくなる前にさっと手仕舞いして、次の市場へ移動する。

 そういった行動では、あまり「こだわった」開発をしているわけにはいかない。使える部品をかき集め、ともかく企画から製品化までを短縮しなければならない。そして手仕舞いも考えれば、製造ラインも自社に抱え込みすぎるのはまずい。自然、EMS(Electric Manufacturing Service:電子機器装置の製造を請け負うサービス)などを多用するようになる。

 そして付加価値は「サービス」となる。ハードウェアを売って稼ぐというよりも、そのハードウェア上で提供される「サービス」で稼ぐ。サービスの中には、ソフトウェアやソリューション構築、コンテンツ、通信インフラ、消耗品、そしてメンテナンスなどが含まれる。ハードウェア・システムはお金を稼ぎ出すシステムのパーツでしかなく、お金を稼ぎ出す「システム」そのものの考案こそがシステム製品メーカーの仕事であると、気付かれつつあるようだ。

 当然、われわれ半導体屋も変革を迫られる。半導体側で、ほとんど半完成品といえるようなレベルのICとソフトウェア、リファレンス設計まで作って納めるケースが増えている。あたかもシステム製品メーカーと半導体屋の守備範囲がそれぞれ少しシフトしたのではないかと思えるほどにである。

 しかし、仕事を半導体屋に押し付けて、システム製品メーカーが楽をしているわけでないことは、上に述べたとおりである。結局、システム屋も半導体屋も、うつろう市場の中で、いち早く猟場を見つけ狩りを始めるために走らざるを得なくなっているのである。いい猟場を確保できたところは生き延び、遅れたところは食うものも食わずに、再び次の猟場に向かって走らなければならない。そして猟場によって景気はまだらで気まぐれである。ブレの多い不安定な気候の中で狩りをすることになるのだ。こんな中では全体平均であるシリコン・サイクルは個々の狩人にはもはや意味のないものなのかもしれない。記事の終わり

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  関連リンク 
IBMのニュースリリース「LenovoへPC事業を売却」

Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
   
 
     
「連載:頭脳放談」

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