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頭脳放談

第59回 アキバとサブカルと電子デバイスとマトリックス

Massa POP Izumida
2005/04/23

 この話題を取り上げることに少々ちゅうちょしたのだが、最近、周りの人々に話すたびに「困ったスケベ・オヤジ」と思われている話を書くことにする。このごろ、秋葉原で幅をきかせている「コスプレ・フィギュア」の話である。ちょっと待て、マイクロプロセッサどころか、半導体にもPCにも全然関係ない! というなかれ。筆者の頭の中ではいまや分かち難く結びついているのである。「困ったオヤジ」のゆえん。

 ちょくちょく秋葉原へ行っている「現役」世代であればよくご存じだろう。筆者の世代だと「昔は」足しげく秋葉通いをしたツワモノでも、このところはトンとご無沙汰で知らない人が意外と多いようだ。いまや秋葉原(アキバと書いた方がしっくりくるかもしれない)は、「フィギュア」「アニメ」「コスプレ」といった「カルチャー」に占有されつつあるのだ。先だって、ちょっと電子パーツを買いに駅前のラジオ会館の若松通商へ行ったのだが、途中がすべてフィギュアなどで埋め尽くされ、また人がけっこう入っているのが印象的であった。電子パーツを買っている人は、まばらというよりほかにいなかった。よく見ると昔デバイス屋だったところもガランとして、所々テナントが抜けている。

 この現況を憂える人も多いが、こりゃアキバの基本性格だと筆者は思う。筆者の記憶では、数十年前は家電屋さんに混じって、オーディオ、ハム関係(こんなことに注釈するのもなんなのだが、アマチュア無線のこと)のお店の存在感が大きかった。多分その前は「ラヂオ」かもしれないが、筆者もそこまでは古くない。その後、マイコンが現れて、それがパソコンと呼ばれるようになって、一時のアキバはコンピュータに制覇された感があった。またそれがゲーム・ソフトやビデオ・コンテンツに変遷し、そして「コスプレ」「フィギュア」へと至るのである。結局、昔からアキバはオタクの街だ。そのときどきのオタクのトレンドをいち早く取り込んで、しっかり商売してきているのだ。そしてアキバが扱っているトレンドは常に「世界をリード」する「技術力」に裏打ちされていて、そこで養成されたパワーが後で日本の輸出産業を支えることになる。何せ、数千、数万の若者が日々その世界で研鑽しているので、技術力が高くならないはずはないのだ。これはどうも昔のオーディオから、いまのフィギュアまで変わらないように思われる。

アキバはバーチャルとリアルのボーダーライン?

 さて年寄りがこのアキバ系「サブ」カルチャー史を概観していて、1つ思い当たったのが、根底に流れるバーチャルなものへの追求である。確かに、オーディオ装置はリアルな物体なのだが、音楽そのものは頭の中で「像」を結んで、ようやく快感というか価値を生む。ゲームやフィギュアもまた同じではないか。明らかにガソリンとかお米のような、その中に含まれるエネルギー自体がリアルな価値として測れるものとは異なり、物に乗った「情報」が価値を結ぶのは頭の中でしかなく、他人にはその価値の大きさが測れないのである。ところが、どうも人間はリアルな物には客観的に測れる市場価値でしかお金を払わないが、バーチャルな物には天井知らずにお金を払ってしまう生き物のようだ。麻薬が一番端的な例であろう。自分の脳の中の幻影に人間は埋もれてしまうものらしい。

 アキバが常に「うさんくさい」場所なのは、そのバーチャルな世界に半身浸りつつ、一応リアルな「物品」を売って成り立っているというボーダーラインの危うさであろう。

コスプレ・フィギュアの先にあるマトリックス的なもの

 ここでやっと電子デバイスの世界に話が行き着く。電子デバイスの商売もまた、アキバと同じスタンスに立って商売してきた。電子デバイスとアキバは、表裏一体の関係なのだ。端的にいえば、20世紀中、デバイス屋は映像や音を追い求めてきたのだが、その価値というのはつまるところ人々の頭の中に描くものであった。片やアキバは、21世紀になり、いち早く急速に変貌した。その変貌はより一層心の奥底へとアプローチしていくもの、といったらコスプレやフィギュアを持ち上げすぎだろうか。

 アキバとは表裏一体の関係にある電子デバイス業界も、この先、多分、変化は避けられないだろう。映像や音で勝負した20世紀的価値観はすでに過去のものかもしれない。この先も映像や音を支えるデバイスはなくなることはないが、あって当然の世界であって、一要素でしかないように思われる。アキバの変貌の方向から推察するに、多分、これからはもっと心の奥底へ直接アプローチすることになるように思われる。どうも「コスプレ・フィギュア」系の技術の本質とは、心の底の何か琴線といったものにアプローチし、心を「萌え」させる技術のようである。そしてすでに日本にはかなり先鋭化した技術が存在するようだ。

 そこでデバイス屋としてまず考えが及ぶのが、人間の頭脳と電子系がある種のフィードバック・システムを構成するにあたっての、欠落した要素があることだ。電子系システムから人間へ入力する手段としては、映像やら音やらが発達しており、それはそれである程度の水準に達している。しかし、人間側が電子系システムに働きかけるために、キーボードにせよ、ゲーム・パッドやスタイラスにせよ、依然として原理的には「スイッチ」のようなものに頼っていて、実にか細い、ということが欠落している点である。理想的には、脳の動きをそのまま捉えて、電子系にフィードバックをかけられると完璧ではないか。生体をセンシングして心の動きを読んで動く電子系といったらよいだろうか。貧弱なゲーム・パッドでも興奮するゲームなど、もし心の動きが読めたらどんなに凄くなるか恐ろしいものがある。

 また、最近はやりの「ロボット・バトル」のようなものにも近い要素がある。腕にセンサなどを装着して、その動きを検知させて、遠隔でロボットを操作するものもあるが、いまのところそれは「見て」腕を動かしているにすぎない。ロボットの腕が相手に当たろうが、空を切ろうが、人間には見る以外のフィードバックがないのだ。本来、生体の動作は常にある種のフィードバック機構を伴うから、ロボットの操作とは逆向きにロボット側で検知した力を人間の腕側にフィードバックして戻せれば、多分、人間はもっと上手に操作できるのではないかと思う。実際、こういうフィードバック系は戦闘機から始まって、いまや自動車まで浸透しつつある。現在はメカ的なものが主流だが、物理的、化学的なものでも、生体に対するフィードバック系があり得るだろう。

 そして実際、電子デバイスの世界では、昨今生体を扱うようなデバイスが増えてきているように思われる。それはいまのところ、生体認証向けであったり、医療分野用途であったりするが、露出も多いので確実に増えているはずだ。生体とのインタラクションこそが、ポスト映像・音世代の本命になりそうな予感がある。

 こうして書いていくと、映画「マトリックス」の延髄にセットする脳とシステムが混然一体となった世界が思い浮かぶ。古いところではダグラス・トリンブルの「ブレインストーム」も脳と電子系の結合を描いていた。どうも、電子デバイスやコンピュータの奥底にある「情報」というバーチャルなものと、人間の脳の中にある「情報」というバーチャルなものは、同じ次元で相互に引き合っているらしい。「コスプレ・フィギュア」の行く先は、実は「マトリックス」の世界であって、いままさにデバイス屋が作っているデバイスはそこへの第一歩なのかもしれないのだ。恐ろしいような気もするが、見てみたい気もする。そんなことになったら人類破滅か? だとしたら、「コスプレ・フィギュア」くらいで満足しておくのが身のためかもしれない。でも、ちょっとおじさんは恥ずかしくて「その手のお店」には入れない……。記事の終わり


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
   
 
     
「連載:頭脳放談」

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