頭脳放談

第79回 次世代不揮発メモリの開発レースの戦い方

Massa POP Izumida
2006/12/23

 一部で、ショックキングなニュースとして受け取られているのが、調査会社のiSuppli Corporationが発表した半導体市場の売り上げランキング(現時点では未確定の暫定ランキングだが)で、NECエレクトロニクスがトップ10から脱落したことである(iSuppli Corporationのニュースリリース「2006年世界半導体市場マーケットシェア・ランキング(暫定速報値)PDF」)。「ついにそこまで落ちてしまったか」という印象を受けるものの、トップ10といったランキングにどれほど意味があるのは分からない。しかし、感覚的にたとえれば「一部リーグ落ち」といった悲哀が漂い、当然、周りの見る目も変わり、ひいてはビジネスにも影響するかもしれない。そして新たにトップ10に入ってきたのが、AMDとHynix Semiconductorだった。AMDは、プロセッサが好調な上、グラフィックス・ベンダのATI Technologiesの買収でさらに規模拡大した結果である。Hynix Semiconductorは、メモリが好調というのが理由になっている。

2005年ランキング 2006年ランキング 会社名 2005年売り上げ(100万ドル) 2006年売り上げ(100万ドル) 伸び率 売り上げシェア
1
1
Intel
35,466
31,359
-11.6%
12.1%
2
2
Samsung Electronics
17,210
19,207
11.6%
7.4%
3
3
Texas Instruments
10,745
12,832
19.4%
5.0%
4
4
Toshiba
9,077
10,166
12.0%
3.9%
5
5
STMicroelectronics
8,881
9,931
11.8%
3.8%
7
6
Renesas Technology
8,266
8,221
-0.5%
3.2%
15
7
AMD
3,917
7,471
90.7%
2.9%
11
8
Hynix
5,560
7,365
32.5%
2.8%
9
9
NXP
5,646
6,221
10.2%
2.4%
10
10
Freescale Semiconductor
5,598
6,059
8.2%
2.3%
8
11
NEC Electronics
5,710
5,696
-0.2%
2.2%
NA
12
Qimonda
0
5,549
NA
2.1%
12
13
Micron Technology
4,775
5,290
10.8%
2.0%
6
14
Infineon Technologies
8,297
5,195
-37.4%
2.0%
13
15
Sony
4,574
4,875
6.6%
1.9%
16
16
Qualcomm
3,457
4,466
29.2%
1.7%
14
17
Matsushita Electric
4,131
4,124
-0.2%
1.6%
20
18
Broadcom
2,671
3,657
36.9%
1.4%
17
19
Sharp Electronics
3,266
3,476
6.4%
1.3%
28
20
Elpida Memory
1,776
3,354
88.9%
1.3%
19
21
IBM Microelectronics
2,792
3,151
12.9%
1.2%
18
22
Rohm
2,909
2,964
1.9%
1.1%
24
23
Spansion
2,054
2,617
27.4%
1.0%
22
24
Analog Devices
2,428
2,599
7.0%
1.0%
23
25
nVidia
2,069
2,475
19.6%
1.0%
    そのほか
75,985
80,212
5.6%
31.0%
    合計売り上げ
237,260
258,532
9.0%
100.0%
表区切り
iSuppli Corporation発表の2006年世界半導体市場マーケットシェア・ランキング(暫定速報値)
*社名は発表資料のまま

 よく見れば、NECエレクトロクニス同様、トップ10から「消えた」会社がある。Infineon Technologiesだ。Infineon Technologiesが圏外に去ったのには、NECエレクトロニクスとは異なる単純明快な理由がある。2006年5月に半導体メモリ部門をQimanda(キマンダ)として分割したためである。つまり、Infineon Technologiesの分割により、「1部リーグに残れるワク」が1増したにもかかわらず、10位に残れなかったというところにNECエレクトロニクスの悩みが見える。それどころか、下をみれば、分割されたInfineon Technologiesの片割れであるQimanda、そしてMicron Technologyがしっかりついてきている。その下にはInfineon Technologies本体もいる。「1部リーグ」復帰どころか、下手をするとずるずると「2部リーグ」に定着してしまいそうだ。

 それにしても、このランキングを見ていると、メモリ・ビジネスの存在感が増している感じがする。一時期、日本の大手半導体各社とも、これからはシステムLSIなどといっていたことを思い出すと、皮肉な傾向である。DRAMも復活してきたのだが、それ以上にノンボラメモリ(ノンボラタイルメモリ:不揮発性メモリ)、つまりはフラッシュメモリのビジネス規模の増大がランキングを大きく左右しているようだ。

IBMが開発した不揮発メモリに見るメモリ・ベンダの思惑

 そんな中、IEEEの学会発表に合わせて、IBMが新たな相変化メモリの一種であるノンボラメモリを発表した(IBMのニュースリリース「Promising New Memory Chip Technology Demonstrated by IBM, Macronix & Qimonda Joint Research Team」)。相変化メモリそのものについては、「第21回 変り種メモリはいつ花咲くのか?」で、Intelの同様な原理のメモリを取り上げたことがあるので今回は触れないが、「IBMが新材料を使って大変よい特性を出したので注目!」ということになる。巨大に成長したフラッシュメモリの市場であるが、しかしフラッシュメモリにもちらちらと技術的限界が見え隠れするようなフェイズに入ったので、それが多くの人々を新たな不揮発メモリの開発に駆り立てる原動力となっているようだ。

 今回の相変化メモリの仕事は、米IBMの研究所でなされたので、「IBMが」とつい単独名称で書いてしまったが、正確にいえば3社共同の仕事である。ほかの2社のうちの1社は、先ほどから話に出ている欧州のQimandaであり、もう1社はアジア(台湾)のMacronix Internationalだ。

 最初にIBMについてコメントしておくと、IBMはすでに量産メーカーとしての立場を捨てており、「頭脳を売る」という方向に転換して久しい。それゆえノンボラメモリも、技術を作ってそこから利益を得る意図はあっても、自身が量産して価格競争を戦うつもりは毛頭ないものと考えられる。それゆえ実際にメモリを量産するパートナーが必要だ。だから、共同開発に乗った2社の方により興味を惹かれるのである。

 リリース文だけを見ていても、共同開発2社の本当の意図はよく分からない。けれど想像してみることは十分にできる。まず、Qimandaの方であるが、押しもおされぬ立派なメモリ・メーカーではあるが、DRAMの会社であって、もう少し製品にバリエーションがほしいところである。同じDRAMメーカーといっても、Micron Technologyなどはノンボラもあり、CMOSセンサーもありで、いち早く多角化に成功している。「第76回 半導体とバイオの融合が新産業を生む?」で取り上げたエルピーダメモリだって、DRAM以外を考えているに違いない。Qimandaが、次世代のノンボラで主導権を握りたいという目論見を持ったとしても不自然ではないだろう。

 次にMacronix Internationalの方であるが、こちらはある意味、将来に対する保険かリスクヘッジということだろう。失礼ながらMacronix Internationalというと、安価なメモリ・メーカーというイメージで、いまもフラッシュメモリ・ビジネスにまい進しているはずである。その最中に、これからはフラッシュメモリでなく相変化メモリだ、などと進行中のビジネスの足を引っ張るようなことをいうはずがない。ともかく、既存ビジネスに注力するのは変わらず、相変化メモリは長期スパンの布石のつもりだろう。

不揮発メモリ・レースはまだまだ続く

 それにしても、新たな不揮発メモリの開発は混みあっている。学会があったので当然だが、IBMとほぼ同時にシャープもRRAM(Resistance RAM)と呼ぶメモリの新規書き換え方式を発表している(シャープのニュースリリース「次世代不揮発メモリRRAMの基礎技術を開発」)。しかし、先が長いのだな、メモリは……。

 第21回でも書いたが、新たな材料を使い、新たなプロセスで、新たなメモリを作るというのは、ほとんど新規の物理現象を扱うような世界であって、これを自在に制御して安定な量産に持ち込むまでには、ひどく時間がかかるのだ。今回のIBMの3社連合にしても量産できるようになるのは相当先になるだろう。

 乱立する新機軸の不揮発メモリの中で、量産になっているものもないわけではないが、大きな商売になっている、というものはまだ聞かない。それは、苦労して量産できるレベルに技術が到達しても、今度は、ビジネス面で大きな壁が立ちはだかるからだ。フラッシュメモリなど、先行する既存の不揮発メモリとの競争が待ち受けているのだ。

 当然、新機軸の不揮発メモリは、どれもフラッシュメモリにない良い「特性」を売りにしている。曰く、「書き換え速度が速い」「書き換え可能回数が多い」「集積度が上げられる可能性が大きい」「消費電力が小さい」といった特性である。もちろん、そのような特性は売りにはなるのだが、そのような特性が絶対に必須でそれしか使えない市場というのは、実はそれほど大きくない。というより、そういう不揮発メモリがあれば、市場が形成されて大きく伸びる潜在的可能性があるにはあるのだが、過去にそういうものがなかったため、まだ現実の需要になっていない。すると、すでに存在する用途をフラッシュメモリと奪い合う状況に陥り、結局、メモリといえばビット単価の競争に落ち着くのである。この点からするとフラッシュメモリの壁の厚さは相当なものである。よちよち歩きで量産効果の出ていない新機軸の不揮発メモリが挑んでも、そう簡単には突き抜けられない。ましてや「売りの特性」が十分に発揮できないともなると目もあてられない。

 そう考えると、あまり早くに市場に出ていくのも実は考えものかもしれない。いろいろなフラッシュメモリの限界は取り沙汰されているものの、まだしばらくは改善、改良の余地がありそうだ。一気に置き換えられるほどの物ができればよいが、そうではない場合、一度市場に出てしまえば、ともかくニッチなところからでも用途を開拓し、フラッシュメモリを抜ける日まで、とにもかくにもビジネスを続けていかなければならない。しかし、量産をしているという一点で、これには膨大なエネルギー(費用)を必要とする。ぶっちゃけたところ、競争相手のフラッシュメモリが息切れする前にお金が続かなくなって頓挫、という危険性も出てくる。

 であれば、フラッシュメモリが本当に限界に近づいて、足取りがおぼつかなくなるまで、潜行して開発に専念していく、というのも手かもしれない。こちらの場合、会社としての忍耐力があれば、それほど大きなエネルギーをかけなくてもついていくことはできる。しかし、そのときが来て、いざ、というときには、先行して量産しているほかの技術の後塵を拝する可能性は高い。

 先行するのか、まくるのか、はてさて不揮発メモリのレースもまだまだ長丁場、みなさん、落馬しないようにがんばらなければならない。だが非情にも、本当に勝つのは1つ、何とか残るものを入れても、数種類ではないかと思う。それがどれかは、多分、現時点では誰にも分からないだろう。その上、いま表に出ているものだけでなく、隠れているものが突然浮上してトロフィーをさらって行くこともあり得る。厳しいレースの見所といえば見所ではないか。記事の終わり

  関連記事
第21回 変り種メモリはいつ花咲くのか?
第76回 半導体とバイオの融合が新産業を生む?

  関連リンク 
2006年世界半導体市場マーケットシェア・ランキング(暫定速報値)PDF
「Promising New Memory Chip Technology Demonstrated by IBM, Macronix & Qimonda Joint Research Team
次世代不揮発メモリRRAMの基礎技術を開発
 

Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
   
 
     
「連載:頭脳放談」

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