頭脳放談

第80回 半導体IPの「継続的」ビジネスはどこにある?

Massa POP Izumida
2007/01/17

 年が明けて、業界誌やらWeb媒体やら眺めてみれば、恒例の「トップ・インタビュー」的な記事が数多く掲載されていた。さすがに1月中旬ともなると、すでにこれらの記事は旬を過ぎてしまった感じだ。こうした記事は、「年頭には新年の抱負を述べねばならないという企業側の観念と、正月休みで業界ニュースが止まってしまうという媒体側の事情」が生んだ、「縁起物」といった位置付けだからだ。

 若い頃の筆者は、そうした記事を読んで「何でみんなが、すでに知っているようなことをことさらに繰り返すのだろう?」といった疑問を抱き、経営層の力量に疑いを持ってしまったこともある。いま思えば、それは筆者が大馬鹿だった。少し歳をとり社会の仕組みの一端が分かるにつれて、こうした発言が当然のことであることに気付いたからだ。上場企業の経営層ともあろうものが、1つの媒体インタビューに対して、株価が変わるような重要な情報を漏らすはずがない。そのため、すでに「公開」済みの情報の範囲内で「思い」を語るしかない。その結果、みんなが知っているようなことを繰り返すことになってしまうわけだ。

 それでも時々、想定外のことまで「ついちらっと」をいってしまう人がいるようである。当然、事前に各社の広報担当のチェックが入っているはずなのに、それもすり抜けて表に出てしまうことある。この手の記事の楽しみは、時々あるそういうハプニングを探すことか、と分かった次第だ。とはいえ、かなり低い確率の「小さな」ハプニングを探すために、少々退屈な記事を読むのは苦痛だ。このごろは正直いえば斜めに読んで終わりである。

システムLSIの現実

 そんな中、多くの人が述べていた「情報家電時代にはシステムLSIで日本半導体は復活」という勇ましい論調が、ここ数年ですっかり影を潜めたのは、よい兆候かもしれない。多分、勇ましい論調が主流だった数年前でも、すでに各社担当レベルでは、そんなにうまくいくものではないと気付いており、多分ドキドキしていたはずだ。その「システムLSIの現実」というようなものが、ようやく経営層まで「共有」された結果ではなかろうか。

 現実というのを端的にいってしまえば、日本企業のシステムLSIが、とてもお金がかかる割には、それほど儲からない、下手をすると赤字、という体質にあるということである。システムLSIというものが不要である、ということではまったくない。いまや必須の中核部品であり、最終製品の仕様を左右する重要な要素であるにもかかわらず、難しい金食い虫だということだ。

 巨大な集積度の実現は、非常に高度な最終製品の仕様を可能にしたが、それに必要な技術要素も非常に多岐に渡る。しかし製品開発サイクルは短縮化し、それほど開発期間もかけていられない。そのうえ、特許を握っている人もいる。大企業といえども1社では、システムLSIに必要なIP(Intellectual Property:半導体の設計データやシミュレーション・モデルなど。ここではシステムLSIを構築するための半導体部品)をそろえることができない。結局、あちらこちらからかき集めてきて、組み立てるのがシステムLSIの常道ということになってしまった。

 ここで注意しなければならないのは、システムLSIのハードウェア部分のIPだけではなく、ファームウェアとしてROMに書き込まれるIPの方の比重も高くなっているという事実である。ただそれも、ハードウェアはVerilog(デジタル回路設計用の論理シミュレータ)のVHDL(デジタル回路設計用の記述言語の1つ)で書かれており、ファームウェアはC言語かC++で書かれている、といった言語の違いでしかない、といってしまえばそのとおりなのだ。このようにシステムLSIを組み立てるには、さまざまなハードウェア/ソフトウェアIPが必要になってきているのだ。

IPも売ります・買いますの時代?

 こういうことを書いていくと、儲けているのはシステムLSIを設計している側の会社ではなく、IPを設計している方かと思われるかもしれない。確かに、名前は書かないけれど、そういう企業がないわけではない(例えば英国の方とかの……)。けれども多くのハードウェア/ソフトウェアIPを作っている側にしても、それほどバラ色だというわけでもないのだ。多分、IPベンダ側もカツカツの状態ではないかと思われる。

 これは多くの情報家電や携帯電話の「末端価格」を見てみるとよく分かる。値段はどんどん下がる。あるいは、同じ値段ならどんどん機能が追加される。その際、前の世代で使われたハードウェア/ソフトウェアIPは、多くの場合、次の世代でもその機能が必要とされるのならば、そのまま使われるか、アップグレードされて実装される。さらに、それらに加えて、次々と新機能のIPが追加され続けている。1つのシステムLSIに関係するIPの数はうなぎのぼり、といってよいだろう。しかし、最終製品の価格を考えればシステムLSIに使えるお金も限られ、結局、その限定されたお金を増え続けるIPにどう配分するか、という話になってくる。

 新規のIPに対しては、それなりのお金を払えるが、当然ながら古くて一般化したIPなどとなると、「ない袖は振れない」ということになる。米国などではIPにも「売ります、買います」などを仲介するWebサイトが登場してきたくらいで、流通性も高まっている。権利関係が特許などで守られていて手を出せないものを除けば、ソースも多様化しつつある。IPベンダにしてみたら、あまり突っ張ったことをいい張っていると、売れるIPも売れなくなってしまう。「お金になるうちに売り切っておこう!」が、IPベンダの流れになっている。

 そういうことで、大量生産される製品に搭載される「ポピュラーな」IPに支払われるお金は、時間的に「竜頭蛇尾」型の決して安定的とはいえないお金の流れにならざるを得ないのである。そのような市場では、次々に売れるIPを開発し続け、売り続けてようやく「自転車操業」が可能になる。それはとても辛いから、結局、IPベンダの多くは、ほかのいくつかの道を模索することになる。

サポート代を細く長く

 一番の道は、「技術を独占」し、左うちわでお金を払い続けてもらうことである。このためには、逆説的だが「技術そのもの」よりは「特許、契約、規格化」などでの「芸術的な立ち回り」が重要だ。しかし、そのような「芸術」を持たない企業の方が多い。特に英語力に問題のある日本のIPベンダには無理難題かもしれない。

 その場合の「瞬間芸」といえる技が、米国ベンチャーに多い「当たった瞬間に売り抜ける」という手法だ。継続を目指すのでなく、会社そのものを売ってしまう。一瞬の成功から最大の価値を引き出す技である。ただし、この手のIPの場合、売った方はよいが、IPを買った方は後で不幸になる可能性が高い。日本発のIPベンダでもできない技ではないのだが、米国なら同じ人間が何度も繰り返してもあまり問題にならないが、いまだに狭い社会の日本では何度もやれるほど売り先がなさそうだ。

 残念ながら、どちらも普通のIPベンダ、特に日本発のIPベンダにはそぐわないように思われる。となると、残っているのは、竜頭蛇尾に終わるIP代でなく、汗を流して「サポート代」を細く長く頂戴する、というモデルである。機種変更ごとのチョイ直しから、改造、改良など、きつい納期と叩かれるコストにめげずに働いてお代をいただくのだ。ある意味、ストールマン(Richard Stallman:フリーソフトウェア運動の中心的存在)的には清く正しいビジネス・モデルである。

 ただこれも、元になるIPの寿命というものに大きく左右される。市場環境が変わって、そのIP自体が不要になってしまえば、その時点で仕事がなくなる。しかし多くの場合、サポートの仕事に追われてしまって、新たに売れるようなIPの開発に遅れをとってしまい、一所懸命働いていたのに気が付いたら崖っぷちという悲惨なことにもなりかねない。

 IPビジネスは、なかなか「難しい」商売なのだが、職人芸的な充足感も大きく、これに魅せられる人々は依然少なくない。健闘と新たなビジネス・モデルの創出を祈る。記事の終わり


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
   
 
     
「連載:頭脳放談」

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