頭脳放談

第90回 捨てるウエハあれば拾う太陽電池あり?

Massa POP Izumida
2007/11/22

 最近、値上げのニュースが相次いでいる。風が吹けば桶屋がもうかる式で、ガソリンを始めとする石油製品が高騰しているのがまずあって、そのガソリンの代替のためのアルコール燃料を作るためにトウモロコシなどの穀物の値段が上がり、さらにそのために、果物畑が転作されてオレンジ・ジュースの値段も上がるわ、熱帯雨林は焼き払われ地球温暖化が心配になるわ、といまや世界中のすべてか連関してしまっている観がある。元凶ともいうべき石油などの高騰は、BRICSなどの国々の台頭による需要増が指摘されたり、余ったお金が石油へ向いたためなのだ、あるいは中東情勢の不安定さだ、といろいろと指摘されたりしている。多分、どれも間違った指摘ではないのだろう。

 このまま行くと南極の氷床は溶け、砂漠化が進んでしまう。いまや「地球に優しい」企業でなければ継続できない、という理念も国内外問わず行き渡っている。本気なところから、雰囲気や気持ちだけのところまで、あまねく広くいろいろな取り組みがなされているのは、みなさんよくご存じのとおりである。そんなご時世なので、電子デバイス業界の中で、急速にスポットを浴びたデバイスがある。いわずと知れた太陽電池である。ここでその利点や欠点を論じようとは思わないが、何せじかに太陽光からCO2なしにエネルギーを取り出せるのである。「エコな」ところをアピールできるだけでなく、実際、石油価格が上昇してくると経済的にも折り合ってくる。昔は、代替エネルギーの開発が進まない程度に石油価格は操作されている、といった話もあったが、このごろはそうでもなさそうなので見込みも立ってきた。

 ひところは、太陽電池といえばその応用も製造も日本の業界が先導していたのであるが、これもいつの間にか怪しくなってきている。アジア圏で専業のメーカーが現れ、応用では欧州なども進んでいる。おかげで、太陽電池用のシリコン・ウエハの需要が急速に高まり、シリコン・ウエハの需給がタイトになったくらいだ。せっかく日の目を見るまで日本メーカーはがんばってきたのに、スポットが当たるころには、海外コンペが林立してもうからないという図式にもなりかねない。

IBMが太陽電池を作るの?

 そんな中で先ごろ流れたニュースについ目がいってしまった。「IBMが『捨てる』ウエハを太陽電池に再利用」というような趣旨のものである(IBMのニュースリリース「IBM Pioneers Process to Turn Waste into Solar Energy」)。つい「さすがIBM、そんなことまで考えていたのか」とIBMの偉大さに感銘を新たにしてしまうとともに、「太陽電池まで作るの?」と短絡してしまった次第である。

 けれど、「太陽電池なんか作って売っちゃうんだ」という筆者の第一印象、何か、ちょっと違ってない? 心の奥から疑問がわいてくる。腐っても(腐ってはいないと思うが)IBM Microelectronicsである。間違ってもそんな「面積を売ってなんぼ」の不動産商売はしないだろう。まずは、ちゃんと元のリリース文を読んでみるべし。

 ニュースリリースを見れば、太陽電池パネルを持った担当者(?)の写真がまず目立つ。「顔出し」を嫌ったのかグラサンを決めている。ちゃんと廃棄ウエハを再生して太陽電池を作っているようだ。読み進むうちに段々分かってきた。やっぱりどうもIBM Microelectronicsが自分で大いに太陽電池を製造して売りまくろう、ということではないようだ。IBMが「開発」したのは、すでにパターンが形成されてしまったウエハ表面を削り取って「再利用」する技術だったのだ。「再利用」といっても、再度、高度な微細加工が必要とされるマイクロプロセッサが製造できるほどにウエハを再生できるにはほど遠い。そこで、まずは削ったものを「モニタ・ウエハ」として再利用するようだ。

廃棄ウエハから再生した太陽電池(IBMのニュースリリースより)
IBMが開発した廃棄ウエハの再利用プロセスで製造された太陽電池パネル。この再利用プロセスを広く業界に提供するとしている。

 半導体工場で働いている人なら「モニタ・ウエハ」はおなじみだろうが、それ以外にはなじみがないだろう。かくいう筆者も設計畑ばかりなので、「モニタ・ウエハ」など眺めてみたことなどないのだが、どこの工場でもけっこうな枚数を使っていることは知っている。実際の製品になるウエハでなく、あくまで工場内での製造条件などを確認するために使用されるものである。決して安くはないシリコン・ウエハを「モニタ」に使って消費してしまうのだからこれを削減できれば半導体工場はハッピーである。廃棄ウエハから再生できる、それも何度もというのはとてもよいかもしれない。

 その先が立派なのだが、何度も使えるだけモニタに使ったウエハを最後にきれいにして太陽電池メーカーに売り払う、ということのようである。しゃぶれるだけしゃぶったカスをさらに下取りに出す感じ。エコなうえに、経費を節減、そのうえ、いくらかお金ももうかる、という一石何鳥だかのシナリオである。

 マイコン屋の筆者には、太陽電池メーカーが受け入れられるウエハのレベルがどんなものだか分からないが、ちゃんとニュースリリースに太陽電池パネルの写真が出ていることを見れば、十分なレベルで「下取り」に出せるのであろう。ニュースリリースにはご丁寧にも、その「再生」工程のビデオまでついており、ウエハを磨いているのが分かる。プロセスに関して素人の筆者にはぜんぜんハイテクに見えないが、見る人が見ればIBMの凄いところが分かるのかもしれない。

 そこまで読んできて、ふと引っかかったのが、全世界で廃棄されるウエハの枚数は、年間300万枚という数字が挙げられていたことである。半導体業界全体のこの膨大な廃棄ウエハが再生できると。ただ、IBM社内で廃棄ウエハが何枚になるか、といった数字は書いていなかった。まぁ、IBM自体、良品ウエハでも年間300万枚も作っていないだろうし、IBM単独の廃棄ウエハにしても、せいぜい数万枚くらいではないだろうか。

IBMの狙いは廃棄ウエハ再生技術のライセンス?

 リリースには何も書いていなかったけれど、この意味することは明らかであろう。IBM Microelectronicsは、この技術を自社内で活用して、自分がエコになるだけでなく、同業他社にも広く使わせてあげよう、全世界に広げよう、と思っているのに違いない。「もちろん有償で」だ。勝手な推論だが、ここまできてようやく合点がいった。すでに物を作って売るだけ、といったビジネス・モデルからは卒業しているIBMだから、これはいずれ「ライセンス」ビジネスになるのかもしれない。表の売りは、環境、省資源だが、「モニタ・ウエハ」の件では、現場のコスト削減にもつながるので工場の人も心が大いに動くだろうと。

 ただ結局のところ、太陽電池は面積である。もちろん、効率はメーカー間で熾烈な競争になっているが、面積が大事だ。全世界の300万枚の廃棄ウエハが、どのようなサイズであるのか筆者には分からない。取りあえず、最先端とはいえないが工場の数は多そうな8インチ(200mm)・ウエハとしてざっくり計算してみた。意外にも面積的には東京ドーム2個分、という数字になってしまった。全世界でやってもたいしたことはない。計算を間違えているのだろうか。

 それにしても、このごろは、シリコン・ウエハなど使わない太陽電池もいろいろ出てきているし、どのくらいのインパクトがあるのだろうか。太陽電池業界には疎いので、このIBMのエコな技術がどのくらい受け入れられるのかは正直分からなくなってきた。ただし、お役所やマスコミとかの受けはよさそうだ。記事の終わり

  関連リンク 
IBM Pioneers Process to Turn Waste into Solar Energy

Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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