頭脳放談

第97回 電池なしで動く無線センサーの怪?

Massa POP Izumida
2008/06/23

 実をいえば(いや「いわなくても」)自分のゲテもの好きは知られているところなので、編集者からも少々変なデバイスが出てくると、この連載のネタとして「これはどうだ」と振られることになる。そして、今回はというと「電池なしで動くセンサー・システムが発表されたのだけれど?」ときた(CAP-XXのニュースリリース「Perpetuum and CAP-XX Team on Battery-Free Wireless Condition Monitoring」)。米国の「新興」学会で発表があったからだろう。面白そうなゲテものがありそうなので、来年は行ってみたいものだと思うが、まだ行ったことがない。振られた題材は、つれなく「そんなの普通じゃん」と切り返してしまうこともできたのだが、まぁ、いろいろ思うところを述べておくよい機会なのでコメントさせてもらうことにした。

電池不要の無線センサー・システムが必要な背景

 発表されたのは、イギリスとオーストラリアというイギリス連邦の2社による共同開発による無線センサー・システムである。プラントなどにセンサーをちりばめて計測する用途のようだ。無線センサー・システムといいながら、どちらの会社もセンサーの専門会社でもなければ、無線の専門会社でもない。オーストラリアのCAP-XXという会社はスーパー・キャパシタ(電荷を蓄える素子の一種)の製造会社であり、イギリスのPerpetuumという会社が振動から発電する微小発電機のベンチャー企業のようである。つまり、イギリスの会社の微小発電機を使って振動から発電し、スーパー・キャパシタを充電することで、センシングや無線デバイスを駆動するエネルギーを賄おうというものなのだ。この発表の「売り」は、センサーでも無線でもなくて、「電源」の部分なのである。

 しかし、重箱の隅を突っつくようないい方をすれば、ニュースリリースの「電池なし(Battery-Free)」というのは「微妙」な表現だ。確かに1次電池のような化学エネルギーから電力を生み出す「電池」は持たず、力学的なエネルギーから発電するのだけれども、スーパー・キャパシタという「電池」に相当する装置を内部に持っているからだ。まぁ、あまり杓子定規なことはいわないでおこう。

 なじみのない方のために背景を整理しよう。ここで狙っているような対象のあちこちに分散して配置するセンサー・システムの場合、「有線=センシングの結果も必要な電力も有線で送ればよい」という考えは捨てた方がよい。それは、対象物が広大(例えば、ある国とある国の国境地帯数百km2)とか、物理的に配線が張れないとか、コストが掛かりすぎるとか、有線ではやり難い何らかの理由があるのが「普通」だからである。それゆえ「無線でデータを飛ばす」ということが必須であり、かつ、その無線とセンシングのためのエネルギーをどこから持ってくるのか、という電源の問題は常に存在し続けているのだ。

 しかし、そんな「無線によるセンシング」においては、意外かもしれないが、電池がないというのも、そう珍しいものでもない。「トランスポンダ」という技術分野がある。単純にいってしまえば、飛んでくる電波をいったん受けて、それに自分の中のデータを乗せて「返事をする」装置である。これは第2次世界大戦で実用化された技術であるといえば、その古さが分かるだろう(筆者は、現場を目撃できたほど年寄りではないが)。

 多くの場合、トランスポンダはレクティナと呼ぶ読み取り装置が送ってきた電波を整流し、電流に変え、キャパシタに貯めるための装置を内蔵している。ちゃっかり信号電波から信号だけでなく、エネルギーも引き出してしまっているのだ。そして、ここに貯めた電力を「原資」として回路を動かし、必要なデータに応じて、飛んでくる電波に「ぶら下がっている」負荷を変化させる。決して、自分から電波を出すような大変なことはしない。しかし、電波を出している側からすると、微妙に変化を加えられた電波が跳ね返ってくることになり、相手の持っている情報が読み取れる、ということになる。ある意味、2重にちゃっかりしたデバイスである。トランスポンダに貯まった電力(どこにためるかといえば「キャパシタ」なのだが)を使ってセンシングできれば、立派な無線センサー・システムが一丁上がり、ということになる。例えれば、SuicaやPASMOのカードの中にキャパシタとセンサーが入っているイメージだ。

 こういう無線センサー・システムは、「電池がいらない」のだが、センシングし、その結果を送り出せるのは読み取り機にかざしたときだけ、ということになる。不便なようだが、これでも十分に使い道がある。例えば、何か装置やインフラが壊れていないかと、メンテナンスの人が読み取り機を持って回るような用途である。読み取りの頻度が月に1度とか年に1度であるならば、それほど不便ではないだろう。それどころか、橋やビルなどのコンクリートの中に埋め込んでしまう、といった「電池交換不可能」な用途には、電池を持たないトランスポンダは非常に向いている。ただし、送れる電力は微々たるものだから、通信には十分でも、ある程度の電流が欲しいセンシングには不十分ということはままある。そんなときは電池が欲しくなる。

 さらに定常的、頻繁にセンシングして、その結果を通信する必要がある場合には、トランスポンダは向かない。そのような場合、まずは有線をまず考えるだろうが、先ほど述べたようにこの手のシステムは有線に無理があるからの選択であるので、まずは電池を積む、というのが普通の解法である。電池で、センシングと無線通信の両方をまかなう。

 何といっても、電池は素性のよく分かった、かつ扱いやすいエネルギー源であり、その上、大きさの割に発生できる電気エネルギーが大きい。唯一ともいえる欠点が「電池はいつか空になる」というものなのである。「100年持つ電池」があればともかく、普通は「せいぜい数年」といった設計になるので、電池入りのシステムをコンクリートに埋め込んでしまうことはできない。定期的に電池を交換するか、使用期間を決めて使い捨てるしかない。

無線センサー・システムの行く先に超高度管理社会が透けて見える?

 そういった、電池レスの無線センシングと電池付き無線センシングの間を埋める可能性があるのが、今回の発表のような自ら発電するシステムなのである。自ら発電するので、電池付き同様、読み取り装置が近くにいなくても動作でき、また、自分からセンシング結果が送信できる。そのくせ、電池のように「空になる」ことはない。まさに理想的な特性である。

 実はこれも古くからあるカテゴリであり、代表的な発電装置としては太陽電池がある。ほかにも流体の流れがあるような場合では、それで発電するような装置も存在する。そして、最近、いろいろできてきているのが、メカニカルな発電装置である。今回発表のイギリスのPerpetuumの製品もこれで、振動からエネルギーを得るようだ。

 これが意味を持つも持たないも、それが「センシングと無線に十分な電力を得るだけの効率があるかないか」に掛かっているが、1つ考慮に加えられるのが、エネルギーの発生と消費の時間の差を埋められるキャパシタの存在である。つまり、発電機の発生できる電力の瞬間最大値が無線には十分でなくても、長時間の発電量とごく短時間の無線通信やセンシングの総必要電力が釣り合うならば(もちろん損失分はあるが)、その間をキャパシタで取り持てるということである。ある意味、微小発電機とスーパー・キャパシタという今回の発表は絵に描いたようなコラボではあるのだ。ただしビジネス的に成功するもしないも、ほとんどすべては発電装置の性能とコスト、そして「振動」というエネルギー源の適用範囲の広さに掛かっている、といってもよい。

 今回はターゲットがプラント分野らしいし、それはそれでよいだろう。しかし、いつも思うのは、この手のセンシング技術の行く先の「怖さ」である。プラントはよいが、対テロリストやら、警備となってくると、段々きな臭くなってくる。ましてやごく普通の社会に、ごくごく普通にいつの間にかばら撒かれるような状況を考えると、唯でさえ息苦しくなってきている「高度管理社会」がさらに意識狭窄して、「超高度管理」な世界に入ってしまうのではないか、とも思えるのである。「自分も、そのお先棒のいくらかを担いでいるだろう」といわれればそのとおりなのだが……。記事の終わり

  関連リンク 
Perpetuum and CAP-XX Team on Battery-Free Wireless Condition Monitoring


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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