頭脳放談

第98回 石油が高ければ太陽があるさ

Massa POP Izumida
2008/07/25

 筆者がわざわざ書かなくても皆さんよくお分かりのとおり、ガソリンの価格が異常に高い。筆者のように田舎に住んでいると、ちょっとした買い物でも車なしには済まないから燃料の高騰は非常に痛い。痛いどころか職業によっては「やってられない」苦しい状況の方もいらっしゃるだろう。高騰の「原因」もニュースなどでいろいろ聞かされているわりには、それによって儲けているヤツの顔は見えてこないので、怒りは地下にたまっている感じである。

 ちょうどいまもクリーニング屋に洗濯物を取りに行ってきたのだが、往復4km。もちろん車である。ガソリン代も気になるが、二酸化酸素(CO2)も出している。どうも筆者の暮らしはエコになれない。どこで読んだのかは覚えていないのだが、都会暮らしと田舎暮らしを「1人当たり」の観点で比べると、田舎暮らしの方がエネルギーを1けた多く使っているという話であった。都会の方が巨大なエネルギーを消費しているのは明らかなのだが、頭割りすると田舎の方が使っているという論理である。都会の方が、電車で移動するし、狭いところにインフラが集まっているので「エネルギー効率」がよい。それに比べると田舎は効率が悪いのだそうだ。田舎には住むな、ということだろうか。

 二酸化炭素といえば、例のサミットも終わったようだ。まずは無事に済んでめでたい。しかし北海道での「お祭り」のために、東京周辺の年中行事の日程まで随分と変更になっていたようだ。これは警備の人員のやりくりの都合だろうが、二酸化炭素を目の敵にするあまり、さまつで本質とは遠いところでの議論も多いように感じる。ほとんどすべての人が「温暖化を何とかしなきゃ」と感じているはずなので、ともかく「CO2が!」、といわれると反対できない雰囲気がある。そのわりには効果の不明瞭な対策に関連する議論も多い。もちろん、二酸化炭素排出を制限しようとすると摩擦が多いことおびただしい。先進国のせいで起きたこの状況を、途上国に押し付けるのかという議論はご存じのとおり。制限のための仕組みやら枠組みづくりやらはいろいろ考えられてはいるが、なかなかうまく進まない。二酸化炭素を出す権利を売り買いしても、枠をはめることにはなるが、結局、二酸化炭素は出る。何が一番の問題なのかはよく考えてみるべきだろう。

半導体が温暖化を止める?

 結局、燃料が高騰しているのも、温暖化も、「化石燃料を燃やしてエネルギーを取り出す」という点が最大の問題なのである(牛や豚のゲップのメタンガスが問題だから、牛や豚を食べないようにしよう、という話もあるが……)。もし、いますぐに「化石燃料を燃やさないでエネルギーを取り出せる」なら、それこそ原油バブルははじけ、儲けているファンドの誰かは真っ青になり、二酸化炭素の排出比率にしたら「さまつな」問題のほとんどは忘れ去られるであろう。

 思うに、「いますぐ」は無理だが、それを可能にするのは「実は(広い意味での)半導体屋」かもしれない、と昨今思い始めている。何かというと、「太陽電池」こそが世界を救う「本命」じゃないかと思うのだ。大げさだろうか。

 しかしである。想像してみるに、日本の総発電量の数十%くらいを太陽電池で賄えるようになったら、どれほどの石油を燃やさないで済むだろうか? また、どれくらい二酸化炭素を出さずに済むだろうか? そういうトレンドがはっきりと統計に表れてきたら、投機筋もばかではないので、このまま石油を買い続けることはないだろう。細かな排出量のやりくりをターゲットにするような議論にあくせくする必要もなくなる。それに、制限するばかりでなく、これからエネルギーが欲しい発展途上国にも、二酸化炭素を出さない「エネルギー」が提供できる、といいことずくめだ。

 現状の技術の中で、各国の総発電量の数十%といったレベルに「すぐに」持ち上げられるポテンシャルを持っている最右翼が太陽電池ではないか、と思うのだ。何せ半導体業界は、有名なムーアの法則のとおり「指数関数的」に生産量を上げるのが得意な産業である。また太陽光発電は、パネルの製造を除けばローカルでローテクな発電所で済むので、巨大な発電所や再処理施設に比べたら作るのは難しくない。「人類の」総力を結集して太陽電池へ向かえば十分に可能だろう、と楽観している。

IBMもIntelも太陽電池へ

 こんなことは筆者がいわずとも、偉大な業界の先達は皆さんお分かりのようだ。もちろん、政府が音頭を取らなくっても、である。さっさと「行動」に移している。「頭脳放談:第90回 捨てるウエハあれば拾う太陽電池あり?」でIBMの廃ウエハを太陽電池に再利用というニュースリリースを取り上げたが、今度はIntelが太陽電池のベンチャーをスピンオフして育成するというニュースリリースが出た(Intelのニュースリリース「Intel Spins off Solar Energy Technology; Intel Capital Invests in SpectraWatt」)。SpectraWatt(スペクトラワット)という社名はなかなかカッコよい。

 また、IBMは日本の東京応化工業という会社と組んで、シリコンを使わない新方式の太陽電池を開発する、というニュースリリースを出してきた(IBMのニュースリリース「IBM and Tokyo Ohka Kogyo Turn Up Watts on Solar Energy Production」)。先ごろはシリコン・ベースで、今度の材料はCIGS(Copper-Indium-Gallium-Selenide:非シリコン系の半導体材料を利用した太陽電池)なので、「節操がない」感じもするが、何でもやるというところだろう。ちなみに東京応化工業というのは、半導体そのものを作っている会社ではないが、半導体を作るための素材や装置を作っている会社なので、広い意味での半導体屋といえないこともない。ほかにも半導体関連の製造装置メーカーや、コネクタ・メーカーなどでも太陽電池関係への進出が活発化してきている。もちろん、老舗のシャープや三洋電機は「頑張る」つもりを表明しているし、将来を考えた石油メーカー、あるいはホンダといった自動車産業まで皆さん取り組んでおられることは心強い。

 太陽電池を作るのにもエネルギー(と二酸化炭素排出)が必要で、以前はそのエネルギー収支も問題にされたが、すでに使うエネルギーに対して取り出せるエネルギーのレシオはかなり向上し、反対に石油採掘に消費するエネルギーと取り出せるエネルギーのレシオは落ちているので、このまま開発が進めば太陽電池の方がよくなるのは必然であろう。すでに逆転したという話も聞いたことがある。また太陽電池で発電したエネルギーを持ち運ぶのに適した電池の技術も発展しているので、自動車などの輸送機関にも適用できる。単に発電の面だけでなく、既存の化石燃料インフラを置き換えられる可能性がある。あとの問題は、日照条件などによる変動を吸収して平準化するための技術とインフラ整備であるが、「技術的には」やる気になりさえすれば、十分にできると思う。最近、「頭うち」になっている「半導体業界」が世界を救うことになるかもしれない?

 しかし、こんなことを書きながら、だいぶ前に屋根に太陽電池を載せようかと思ったときは、結局、値段が高かったので見送っている。それに電力会社などによる電気の買い上げもいろいろ条件があるみたいだったし。でも太陽電池そのものが安くなり、いくらでも発電した電気を買い上げてもらえるとなったら、屋根だけといわず庭にも太陽電池を敷き詰めようかと思う。こんな場合は、田舎という立地が生かせることになる。記事の終わり

  関連記事 
第90回 捨てるウエハあれば拾う太陽電池あり?

  関連リンク 
Intel Spins off Solar Energy Technology; Intel Capital Invests in SpectraWatt
IBM and Tokyo Ohka Kogyo Turn Up Watts on Solar Energy Production


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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