頭脳放談

第100回 テクノロジで希望を作れ!

Massa POP Izumida
2008/09/26

 この原稿を執筆しているいま、世間は総裁選モードというか、その後の「織り込み済み」の総選挙モードに突入している。米国も大統領選が近づいているから、まさに「政治の季節」だ。もちろん、この連載は半導体関連の「テクノロジ」を対象としているものであるから、「テクノロジ」とは別次元にも思える選挙の話などには触れない。しかし、である。「テクノロジ」は「景気」ともろに連結している面がある。そういう面でも「ちょっと」閉塞(へいそく)感の漂ってしまっている最近だ。ぜひとも何か「チェンジ」があって現状を乗り越えられるとよいなぁ、と期待している。多分、ほとんどのみなさんと同じ気持ちではないだろうか。今回は、エンジニアとしての勝手な期待を述べさせていただきたい。「半導体屋」の視点だけれども意外と(?)世の中から外れていないつもりだ。

電子デバイスの応用が地球を救う?

 まずは、2008年7月の洞爺湖サミットではあれだけいろいろ盛り上げていた「環境」関連である。すでに遠い昔の出来事のようでもある。しかし、これは本気でやらないとイケナイ課題だったはずである。どこの国も、誰がリーダーになってもちゃんと予算を付けて実行してくれ。これは目先の利害の調整とは別次元の話である。

 でも、お金のことになると猫も杓子(しゃくし)も首を突っ込んできて、技術は玉石混交となるのが常だ。すでによからぬうわさ話をたくさん耳にする。本質とはかけ離れた、下手をするとかえってためにならない「技術」まで「環境ビジネス」には交じっているから「本質を見抜く目」がないといけない。ついでに宣伝しておけば、日本のわれわれの業界には「適切に育てれば地球を救える技術」があると確信している。

 次に、われわれはいわゆる「2次産業」カテゴリ(すでに「サービス」主体で「3次産業」化している会社も多いが……)だが、「1次産業」カテゴリもこのままではマズイ。「1次」なしの「2次」などありえないのであるから。2008年に入っての石油価格の高騰とその余波で、1次産業のネックというのがあぶりだされたように思われる。結局、漁船も石油がなければ動かず、農業製品、酪農製品といえども、すべてがそうである。

 そのうえ、日本においては「1次産業」就業者の「超高齢化」と外国人労働力によってようやく補完されていることなどまで明らかになってしまった。このままだと「少々補助金」を出してといった小手先の対応をしていたのでは「1次産業」が滅亡する日も近いのではないだろうか。20年もたったら1次産業従事者のほとんどが「後期高齢者」になっているかもしれない。「産業」として将来も継続可能にするための対策が必要に思われる。それも従来型のエネルギーを大量に投入するようなスタイルでない「技術革新」を伴わないとならない。これはかなりハードルが高い。手前みそで付け加えれば、従来、電子デバイスの「1次産業」への応用例はそれほどではなかったが、この先はもっとあるかもしれない。

次世代につながる産業基盤を支えるテクノロジを作れ

 さらに「輸出産業」の中心であり、われわれの属する「2次産業」の問題でもある。端的にいってしまえば、「ワーキングプア」といった状況を引き起こしているのは、海外との厳しいコスト競争にさらされている「製造業」関連にあると思われることだ。働く人が「ハッピー」になれず、擦り切れていってしまうような状態では先は暗い。その証拠に、理工系志望者は減り、すでに閉鎖を決めた工学部まであるらしい。学力についても理数系の成績世界ランキングがどんどん落ちている。どこかの知事さんが成績を上げられない教育委員会を怒っていたが、エンジニアとしてみれば、この状況は同じように怒りたくなる状況だ(自分が勉強しなかったのは棚に上げているが……)。

 たまたま、本稿の執筆中、40年以上昔までの新聞のコピーを目にする機会があったのだが、その1面下部には「ラジオ技術を取得して収入2倍アップ」という趣旨の広告が掲載されていた。やぁ、あのころはまだ、工業に希望があったのだ! いまの日本で工学系に進学してもそんな期待が持てないのが現実である。その背景には「優秀な品質の製品を大量生産」してきた日本型の工業ビジネスモデルの崩壊があるのだ。われわれ製造業従事者みんなの問題だ。近いところでいうと、半導体はもちろん、ほかのデバイス産業でも弱体化は進んでいるように思われる。まだ強い部分もいくらか残ってはいるけれども、防戦一方といった業界も多い。いまのうちに何とか立て直さないといけない。

 やはりエンジニアとしては、「すぐれたテクノロジの芽」にちゃんとお金が回る仕組みを期待したいところである。しかし、どこの会社も余裕はないし、昨今は株主の目もキツイから、なかなか夢のあるようなところにまでお金が回らない。どうしても目先の利益確保に走らざるを得ないから、正直もはや日本の上場企業からは「あっと」いうような新技術は生まれてこないのではないか、という気がしている。かといって、日本の場合、国主導の技術開発プロジェクトというのもあまりよくない。過去の例を見ると、けっこうな金額をつぎ込んだプロジェクトがいくつもあるが、「すべてのサブプロジェクトがすべて予定どおりに完成した」にもかかわらず、「後に何も残らなかった」ものがけっこうある。参加企業は仕事を受注できてよかったけれど、「できるに決まっていることをたんたんとやった」だけというと酷かな。必要なのは、後々、その影響が波及して「産業」を築き上げるようなプロジェクトなのである。

 その点、米国は「アポロ」に代表されるようなそういう巨大プロジェクトの伝統がある。誰の言葉だか忘れたが「大恐慌のとき、誰が40年後に人類が月に降り立つと予想しただろうか」というのがある。そうなのだ、年表を見れば「たった40年」である。それどころか、そのほぼ中間地点には、「マンハッタン」プロジェクト(第2次世界大戦中の米国の原爆開発計画)というもう1つの巨大プロジェクトの「忌まわしい」成功まであった。「マンハッタン」からは巨大な産業が生まれ、あまねく人々はその成果を利用しているのだが、「現世人類」だけでなく「後世」にまで大きな負債も残してしまっている。こういうのはマズイ。

 しかし、このところ、米国発の新技術のニュースなど見ていると気になるのだ。「イラクで実証された」といったフレーズが散見されるのだ。確かに軍事技術開発といったものは、新技術を立ち上げようとするときには効果的だ。大体「本当の新技術」には「まだ市場が存在しない」ので、常に採算と「素早い投資の回収」を義務付けられている現代の企業には、リスクが大き過ぎるものなのだ。失敗したときのダメージの大きさを考えると、二の足を踏んでしまう方が多いかもしれない。その点、軍事関係は、「それほど採算に厳しくない」ので、技術開発にまい進できる。けれど、日本の大多数のエンジニアは、そういうことはできないし、やってはイケナイ、したくナイ、のだ。そういう足枷がはまっている中で、ちゃんと次の世代につながるような産業基盤を支えるテクノロジを作らないとならないのだ。

 さもないと、日本に残る産業は、アニメとゲームだけかもしれない。筆者はどちらも愛しているので、まぁ、それでも悪くはないけれども。記事の終わり


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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