頭脳放談

第101回 AMDのファブ売却に見る業界再々編

Massa POP Izumida
2008/10/27

 「AMDがファブを分離して『投資家』に売ってしまう」というニュースを聞いてもあまり驚かなかった(AMDのニュース「AMDとアブダビのAdvanced Technology Investment Company社最先端の半導体製造企業を設立)。最近、半導体業界においては、分離分割、売却買収、この手の話が多すぎてもはや不感症になってしまっているからだろう。

 すでに「業界再編」は相当に進んでいるはずだったのだが、ここにきて「再々編」も含めてさらに動きが加速しつつあるようだ。金融崩壊、そして不況への道にみんながおののく中、金詰まりでそういう動きが阻害されるかというとそうでもなく、より混とんとした軌跡を描いているように見える。現段階でいえば、金融崩壊のために、お金をかき集めレバレッジ(手持ちの資金よりも多い金額を動かすこと)を効かせて「買収」するような「バブリーな」やり方はまったくもって難しくなっているように思われる。もともと「現金」をいっぱい持っているような会社であれば、株が下がっているいまはまさに「買いどき」なのかもしれない。その背景には業界そのものの変質と、生き残りをかけたサバイバル・レースがある。米国の投資銀行という業種がたかだか1週間ばかりの攻防の後に消滅した事例を見ていれば、半導体業界も早い動きで決断していかないと、少々の遅れが命取りとなる、ということだろう。

 確かだいぶ前に、NXP(エヌエックスピー)やFreescale(フリースケール)の分離独立のときにも少々コメントさせてもらった記憶があるが、このごろは次々と「新たな名前」が登場して、もう把握しきれなくなっている(頭脳放談「第75回 フィリップスの半導体事業売却に見る業界再編の動き」)。ついこの間も新聞記事で「スイスの半導体大手」という表現があり、「あれ、どこだっけ?」と一瞬とまどってしまった。よく考えて、Numonyx(ニューモニクス)であることに気付いた。IntelとSTMicroelectronicsのフラッシュメモリなどの部門がそれぞれから切り離されて統合独立した会社である。当然、世界中に拠点のある「ワールド企業」だが、本社のロケーションがスイスだったのだ。2008年に独立したが、まさに船出からメモリ価格の急落に直面しているはず。前途多難といわざるを得ないだろう。

 再々編、メモリといえば、Qimonda(キマンダ)もある。これまた半導体分社化のInfineon Technologies(インフィニオン テクノロジーズ)のDRAM部門が独立した会社で日本のエルピーダとの協業話も流れていたが、どうも経営が苦しいようだ。Micron(マイクロン)に買われてしまうという話が出ている。その名前にようやくなじんだと思ったら名前がなくなってしまうかもしれない。Qimondaは大丈夫だろうか……。

 なくなるかもしれないといえば、Atmel(アトメル)もある。AVRマイコンなどナカナカよいマイコンを出している会社で歴史もあるのだが、PICマイコンで有名なMicrochip Technology(マイクロチップ テクノロジー)がON Semiconductor(オン・セミコンダクター)と「組んで」買収を仕掛けている。Microchipにしたら、AVRマイコンを持つAtmelは有力な競合のはずで、それを飲み込んでしまおうという意図のようだ。2社で組んでの買収話なので、買収できた暁には、かわいそうにAtmelは分割され、マイコンはMicrochipへ、RF(無線)などのデバイスはON Semiconductorへという「皮算用」になっているようだ。「バラバラ」にされるかもしれないというのは、少々むごい感じもするが、昨今の「弱肉強食」な状況を見ていると「ビジネスにはいらざる感傷」なのだろう。

 しかし、買収を仕掛けられて跳ね返した会社もある。パワー半導体などで特徴のあるICを出しているInternational Rectifier(インターナショナル・レクティファイアー)である。Vishay(ビシェイ)からTOB(公開買い付け)をかけられていたが、買収は成功しなかった。このところ半導体業界ではロジックものやメモリなどは総じて「市場は軟調、気持ちは弱気で」ダメ、「強気」のところというとパワー系の半導体をやっている会社が多いようだ。

 日本でも2008年は、富士通の半導体部門の分離や、沖電気の半導体部門をロームが買収したなどの再編が進んでいる。この調子で「再編、再々編」などが進んでいくと、数年後には「知らない名前ばかり」になっているかもしれない。また、「業態あるいは品種」による集中が加速している感じなので、「半導体業界」といってもそれぞれの「品種」によりホンの数社の主要なところが残るだけ、ということになりそうだ。

中東勢がファウンダリを征服する?

 さて、最初のAMDに戻ると、AMDのファブ(ドイツのドレスデンが主力)を買うのは、アブダビのATICという投資会社である。この会社、聞いたこともないなと思ったら、できたてほやほや、2008年の設立である。中東各国ともこの間までの石油価格の高騰もあり相当に現金を持っていそうなので、どこかのファンドのようにお金がなくなるということはなさそうに想像される(このところ石油価格は急落しているのでそれなりの影響はあるのだろうけど、もともと持っている量が違うだろうし……)。

 中東諸国は大体、石油資源が有限であることを踏まえて、インフラ整備とか脱石油の将来への布石にお金を使い始めているから、今回のAMDのファブの買収も「利ざや稼ぎ」の短期保有というよりは、長期的なものを考えているのだろうと思われる。ファブだけでなく、AMD本体にもお金を入れているところは、そういう配慮の証拠に見える。

 それに、仮称とはいえAMDのファブを独立させてつくる会社の名前がなかなかよい。「The Foundry Company」である。定冠詞「The」というところに「意気込み」が感じられるではないか。これがただの「Foundry Company」だと一般名称で仮称でしかない感じだが。

 だいたい、まだ分離買収が法的に正式認可された段階ではないと思われるのだが、手回しよくこの新会社はホームページまで持っているのだ(The Foundry Companyのホームページ)。お金がなかったAMDが単に苦し紛れでファブを分離した、というより、半導体業界に進出(もしかすると征服)を狙う中東勢のシナリオに苦しかったAMDが乗った、ということなのかもしれない。

 投資会社に売られたというとふとよぎる名前がある。前に取り上げたNXPである。このときの投資会社はいかにも「2〜3年保有で転売」というようなスタンスだったと記憶している。NXPの資本構成など調べたこともないのだが、うまくいったのだろうか? まぁ、このところのNXPの勢いを見る限りかなりの数のハテナマークが付きそうだ。

 AMD−ATICの場合はどうだろうか。もう、10年以上前になるのだが間接的にAMDのファブの実力が示されたことがある。そのころもAMDの主力プロセッサが性能でIntelの後塵を拝する、という事態で苦境に陥ったAMDが、ベンチャーのNexGen(ネクスジェン)を買収し、そのプロセッサを自社の主力に据えて急場を凌いだことがあったのだ。そのとき、NexGenのプロセッサはAMDのプロセスとはまったく互換性のないプロセスで製造されており、それを製品にファブを合わせ込む形で、AMDのファブは1年で量産まで持ち込んだ、ということがあった。これはなかなかすごい実力である。いまもその伝統が途切れていないなら、世界的に見てもレベルの高いファブだと思う。頑張って生き残ってもらいたいものだ。しかし、そのときは台湾勢に代わって、中東勢がファウンダリ業界の主力になっていたりして……。記事の終わり

  関連記事 
第75回 フィリップスの半導体事業売却に見る業界再編の動き
 
  関連リンク 
AMDとアブダビのAdvanced Technology Investment Company社最先端の半導体製造企業を設立
The Foundry Companyのホームページ


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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