頭脳放談

第107回 景気対策と生き残りと半導体メーカーの統廃合と

Massa POP Izumida
2009/04/27

 民間企業は生き残りに必死だし、政府は対策を打ち出してはいる。対策を評価しないわけではないけれど(お前が評価してどうなる、という面もままあるが……)、ある種「大局的な見地」からなされる政府の対策は、下々のところで細かな軋轢や戸惑いを起こすことがあるようだ。

 いま話題の省エネ家電のポイント還元制度にしても、悪いことではないと思う半面、制度ができるまで待とうということで買い控えを誘発しているように見える。かくいう筆者も、まだポイント制度の話が出る前だったが、「そろそろブラウン管テレビを買い換えなければならないのか?」と聞く実家の年とった母親に「地デジ対応のために政府が追加の支援策を出すに違いないから、それを待ってからでよい」と言ってしまっている。買う側にしたら当然すぎる行動であろう。「早いところ決めて始めてくれ!」というのが家電業界の多くの方々の気持ちではないだろうか。

 ほかにもある。あまり話題になっていないが「理系離れを食い止めるために学校の理科の教材に大盤振る舞い」というニュースも読んだ。実験教材もろくに買う金のない学校が多いので、もっと勉強させるための指導要領の改訂を機会に「経済対策」もかねて一気にそろえようという話らしい。これも趣旨は悪くないとは思うが、零細なところが多いように思われる実験教材屋さんに一気に発注して、1年間の繁忙をもたらした後にその後何年も発注が途絶えてパッタリみたいな話にならないように気を付けていただきたいものだ。

 だいたい、理系離れが進行しているのは、顕微鏡やフラスコが足らないからでなく、以前にも少々書いたが、理系出身者の待遇が悪いからである(頭脳放談「第45回 エンジニアという職業の魅力と特許の関係」)。エンジニアはもちろん、理系研究者も「明日をもしれぬ浮き草商売」では、わざわざ「難しくて時間のかかる」勉強をしようとは思わないだろう。

 そんなことを考えていたら、「民間」からも動きの早い「大きな」アクションのニュースが飛び込んできた。ルネサス テクノロジとNECエレクトロニクスの統合話である。東芝を主軸にNEC、ついでに富士通みたいな話が流れた後であったから、意外性がある。そういう状況から推測すると、そんなに前から練りこんだ話でなく、急遽ばたばたと進行した話に違いない。法人にせよ、人にせよ、「くっつく」ときは前々からのうわさなどを裏切る意外な組み合わせで「急」ということがまま多いようである。新聞などでは、「世界3位だ」と囃し、残った東芝、富士通、パナソニックあたりはどう動くのか、といった論調だ。

再びルネサスはマイコンの統廃合に動くのか?

 まぁ、一緒になって世界で戦える規模を確保するというのは、「これまた悪くはなさそうな」話ではあるのだが、筆者なんぞは下々が気になる。その中で一番気になるのがマイコンだ。マイコン屋の端くれとして両社のマイコン部隊がどうなっていくのか、いろいろと想像してしまう。

 ルネサス テクノロジ自体(このくらいの「歴史」なら若手の人も記憶にある範疇だろう)、日立製作所と三菱電機の半導体部門の合併で生まれた会社である。マイコンに関してならば、旧日立製作所系には「H8」「SH」という2枚看板を代表に分厚いラインアップがあり、片や三菱電機にも「M16」という大看板あり、どちらも小さいところから大きいところまでフルラインアップ、「充実しきった」と形容できる製品群を持っていた。そこで、この両社の合併によりスタートしたルネサスのマイコン・ラインアップは、2倍どころか、ほかの会社のフルラインアップの4倍くらいあった。いや、いまでもあるのだ。

 そう簡単に整理統合できないのがマイコン製品だからである。マイコンの開発にはメーカーがお金をかけるだけでなく、ユーザーもそのマイコン向けにソフトウェアやツール、ノウハウを、お金をかけて蓄積する。だから、すぐにメーカーの都合で、別のマイコンに載せ替えるわけにもいかないのだ。それにマイコン業界の裾野はかなり広く、開発ツール屋さん、ボード屋さん、ソフトウェア・ハウスなど、いろいろな人たちがそれぞれのマイコン系列の周りに「生息」しているから、「マイコン系列が統廃合」されたりすると死活問題になる人だっているのだ。いろいろな契約も縦横に張り巡らされている。

 しかし、会社が1つになったからは、統合の「効果」を出すためにも古いラインアップを整理して、よりもうかるラインに統一していかないと世間が(多くは株式アナリストという人たちが)納得しない。そのため、「統合の効果が現れるのが遅い」などと批判を浴びつつ、時間をかけ、いろいろなタイミングでユーザーや、関係者の利害を調整し、統合整理するといったプロセスを進めていくことになるだろう。

 ルネサス テクノロジを見ていると、何年かかったであろう、ようやく最近、そのマイコン・ラインアップに統合の兆しが見えてきて、整理がつきかけてきたような感じがする。そこまでの道のりは長かったのではないか。それが「またか!」という感じになるかもしれない。

 これは単なる想像だが、ルネサス テクノロジ内での「統合」でも、数限りない軋轢や、闘争、失望、葛藤が繰り返されてきたのではないか。筆者なんぞは想像するだけで嫌になる。それが、これまたNECエレクトロニクスの伝統の「V」シリーズの大看板とまた「やらねばなければならない」ということになるかも、だ。

 普通に考えれば、頭から統廃合するようなことはなく、取りあえずは並列、やはり時間をかけて調整しながら進める、ということになろう。ルネサス テクノロジ組は「そういう経験」がある分、楽か、それともいままででもう「疲れている」ので、この先また5年も10年もかけてやりたくないか。NECエレクトロニクス組にしても、これまでの競合と「呉越同舟」状態を想像すれば、心穏やかではいられまい。まぁ、あまり内輪の軋轢にエネルギーを消耗しないことだろう。ぼやぼやしていると動きの速い海外のマイコン・メーカーにシェアを奪われてしまう。

 下々には、大波に翻弄されて、必死にジタバタと手足を動かしているしか生き残る方策はないのかもしれない。頑張りましょう。記事の終わり

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第45回 エンジニアという職業の魅力と特許の関係

Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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