頭脳放談

第114回 AMDが描くCPU+GPUの先にスパコンが見える?

Massa POP Izumida
2009/11/27

 すでに何件の訴訟があったのかさえ憶えてもいないのだが、AMDとIntelの法廷闘争が和解となって「ついに」終結したようだ。AMDが12億5000万ドルを得る上に、AMDのファブ(半導体製造工場)を分離した新会社(GLOBALFOUNDRIES:AMDと投資会社「Advanced Technology Investment Company」の出資による会社)への権利関係の対応など、取りあえずAMDの意向がかなり通った決着に見える。Intelにしたら、AMDとは和解しても「本命」の独占禁止法の訴訟は引き続きあるので「決着した」感じはまったくないだろう。だが、AMDにとっては同時平行していたいくつかの訴訟を一度に取り下げるらしく、「取りあえず」きれいさっぱりになった感じなのではないだろうか。

 IntelにしたらAMDが存在してくれないと、抱えている独占禁止法の訴訟で不利に働くので、AMDには「そこそこ」な存在でいてほしいという期待もあるのかもしれない。ライバルのAMDが弱体化すれば、ますますIntelのシェアが上がってしまい、独占状態として活動にさまざまな制約が加えられる可能性があるからだ。

 勝手をいって悪いが「このところちょっとパッとしない」感じだったAMDがこれで息を吹き返してくるとまた面白そうだ。AMDは「良くなったり」「悪くなったり」と上がり下がりの振れ幅の大きいイメージがあるのだが、「下がった」ときの「危機バネ」の働かせ方には見るべきもののある会社だと、以前から一目おいているのだ(私が一目おいたからといってどうとなるもんでもないけれど)。

CPUとGPUの融合の先にあるもの

 AMDの「投資家向け」の説明資料が公開されていたのでのぞいてみると、今後の方針が示されていた(AMDの投資家向け説明会「2009 Financial Analyst Day」参照のこと)。当然ともいえるのだが、用途別に「訴求ポイント」を明確にしてアピールしている(アナリスト向けにはこの手の「明確さ」が必須だ。方針と目標とする結果が比較的単純かつ明快なロジックで結びつかないとアナリストはお怒りになるのだ。ただし、必ずしも分かりやすさ=真実というわけでもない)。

 なかでもこれはというのは「FUSION」とネーミングした次世代技術であるところのCPUとGPUの融合製品ラインである。しかしその前に一応、全体の「ロジック」を概観しておこう。

 まずは、サーバ向けのラインアップの整理である。サーバも市場セグメントが分かれ、それぞれに対応製品を出していかないとならないが、全体の流れは「コスト最適」「エコ」に傾いているのは間違いない。やたらと性能だけを追求してよしとはできなくなっているのである。当然、サーバ用のコアもしかり。

 まだ数年先になるが、サーバや上位のデスクトップ向けプロセッサで使う新コア(当然、そのころのハイエンド・プロセッサのコア数は16個といった数を挙げている)に付けた名前が目をひく。「Bulldozer(ブルドーザー)」である。力強くはあるが、知的なイメージはあまりない開発コード名だ。コアが目指すところが、速度追求のスポーツ・カーでなく、巨大なトルクで重い荷重を押していくブルドーザーというイメージに近いからかもしれない。

AMDのサーバ向けプロセッサのロードマップ(2009 Financial Analyst Dayの資料より)
新たな「Bulldozer」コアが採用され、ハイエンド向けのコア数は12個もしくは16個となるという。

 技術的には「トルク」を稼ぐために、マルチスレッド対応CPUのそれぞれのスレッドに実体のある整数ユニットのハードウェアを張り付けている。もともとスーパースカラーの各パイプラインの空きスロットを有効活用するという面のあったマルチスレッド・サポートを実ハードウェアにしてしまったのだから、マルチコアと見間違えそうだ。しかし重い浮動小数点のパスは、「共有」できるようになっているのがミソである。確かにそれぞれのスレッド対応部の独立性は高いが、かといって分離して、コアとして独立できるほどでもないので、1つのコアと見なすべきだろう。これなら2つのスレッドを同時に実行していてもリソースの食い合いは少なそうである。これをコアとして複数個並べると、確かに「トルク」はありそうだ。まぁ、このあたりはちゃんとやるべきことはやっていきます、といったところか。

Bulldozerコアのアーキテクチャ(2009 Financial Analyst Dayの資料より)
Bulldozerコアでは、マルチスレッド対応CPUのそれぞれのスレッドに実体のある整数ユニットのハードウェアを張り付けるという構成を採用する。

 さて、次のFUSIONであるが、これはいまのところは、サーバでなくデスクトップPCやノートPCへの将来対応という切り口で考えているようだ。しかし、世の中の流れは、「マルチコア」の先は「ヘテロジニアス(混在的)なマルチコア」なんだ、というのがAMDの主張である。別にパーソナル・ユースに限ることもあるまい。だいたいプロセッサ業界関係では、用途に応じて複数種類のコアを使い分けていく「ヘテロ」が流行になって大分たつので、素直に受け入れられる考え方かもしれない。どちらかといえば、専用マイクロプロセッサなどで多数試みられてきた「ヘテロ」だが、これでようやく主流のPC用マイクロプロセッサも「ヘテロ」の仲間に入る、といった感じを受ける。

 マルチコアもコアの数で稼ぐのはそろそろ限界に達してきているし、また、PCにかかる負荷の方もストリーミング・ビデオの受信とか、扱うべきものが昔とは大分変わってきているのだから、この際、CPUも変わっていかねばならない、それでCPU+GPUだ、という主張に見える。その上、よく見るとその製品ラインには、CPUでもGPUでもなくAPUと書いてあるのだ。

AMD Fusionのデザインの方向性(2009 Financial Analyst Dayの資料より)
Fusionでは、CPUとGPUをそれぞれ設計し、両者を合体させることで「APU」と名付けた新しいプロセッサを開発するとしている。

 いかにもアナリスト向けだな。「何か新しいものだ」というときに名前を変えてみるのは、よくやる手だが、効果がある。CPU+GPUというような表現だと、単に両者を合体しただけ、みたいに捉えられがちだが、別な名前にすれば違う概念と捉える人が増えるし、その方が効果が際立つ。

 しかし、ネーミングの問題だけでなく、この組み合わせには別チップだったグラフィック用のプロセッサをCPU内に集積した、という以上の技術的なポテンシャルがある。AMDの資料を見ていて再確認したのだが、すでにGPUの方がCPUより使っているプロセスも微細だし、集積度も高い。もちろん演算能力自体、圧倒的にGPUの方が高いのである。これをGPUという名のもとに、表示用のペリフェラル・チップか何かのように扱っていたのでは大変もったいない。

 以前、GPUベースのスーパー・コンピューティングの話を書いたが、GPUの潜在能力は凄いと思う(頭脳放談「第108回 スパコンが机の上に載る日がやってきた」参照)。これが「何がついているか、ついていないか見てみないと分からない」オプション的な位置付けでなく、CPUと一体となって「必ず入っている機能」となれば、いまよりももっと広範囲のソフトウェアがGPUの潜在能力を使い始めるのではないだろうか。ヘテロな世界では、CPUは「ハウス・キーパー」的なこまごまとした仕事を受け持ち、負荷の重い「メイン」の処理はGPUが受け持つという主客逆転方式が主流になって行きそうだ。

 確かにAMDのいうとおり、そうしたGPUの処理をまず使いそうなのは、映像、画像関係を主とするソフトウェアである。これだと現在とあまり変わりはない。そのため、まずは「クライアント」側のPCにこの技術を向けるという筋にも異論はない。しかし、せっかくのパワーである。それこそCPU+GPUを処理ノードとして大量に配せば、議論を呼んでいる「スパコン」くらいできてしまいそうな気がするがどうだろうか。記事の終わり

  関連記事 
第108回 スパコンが机の上に載る日がやってきた

  関連リンク 
AMDの投資家向け説明会「2009 Financial Analyst Day」英語

Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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