頭脳放談

第140回 MS、Intelよ、ビッグシフトに乗り遅れるな!

Massa POP Izumida
2012/01/27

 Eastman Kodakが、Chapter 11(連邦倒産法第11章:日本の会社更生法に相当する)だそうだ(ITmediaニュース「Kodakが破産法適用を申請」)。以前から苦境が伝えられていたので驚きというものはないのだが、年寄りには、かつてのアメリカを代表するエクセレント・カンパニーの1つであり、世界をリードした技術力の会社でもあったという印象が深かったので、感慨深いものがある。

 すでにあちらこちらで報道されているのは、デジタル化の流れの中で、あえて本業である写真フィルムに「選択と集中」をした結果、フィルム市場の急速な衰退により、どうしようもなくなった、という流れである。同業他社がフィルム以外の新事業に活路を見出そうとする中、衰退必至のコア事業に集中した経営判断のまずさといった切り口で語られている。実際、デジタル・カメラがこれだけ普及した現在から過去を振り返ってみれば、フィルムが衰退するというのは歴史の必然であり、「子供でも分かる」と思ってしまいがちである。馬鹿な判断をしたものだ、という見方ではないだろうか。

 しかし、その当時のエクセレント・カンパニーのたぶん「優秀だったはずの」経営陣が、何でまたそんな「馬鹿な判断」をしたのか、という背景についてはあまり立ち入った話は聞こえてこない。その当時にしたら「馬鹿な判断」などではなかったはずで、考え抜いて周辺事業を切り捨て、コア事業に集中したのだろう。当時のオモチャのようなデジタル技術に比べれば、長年培ってきたフィルム技術の優位性は揺るがないと確信していたに違いない。

 真相は当時の経営陣のそれも複数にインタビューし、市場の変化を歴史的に追っていかないと分からないだろうし、アメリカ人はそういうことが好きだから、そのうち誰かドキュメンタリーにでも書いて明らかにするだろう。しかし、部外者が傍観するに、「主導権を持っていたものが主導権を失ったとき」の判断の危うさというものを示す事例じゃないかと思うのである。

IT業界にもビックシフトがやってくる

 Kodakといえば、19世紀末以来、市場をリードし続けてきた会社であった。Kodakが「次はこう」と新たな技術を提示すれば、関連業界の人々も消費者も、コンペティタですらも「フォロワー」となってついてきたに違いないのだ。なぜといえば、彼らが提示する新たな技術で新たな市場が開け、そこにビジネスが生まれて「フォロワー」たちも儲かると思ったからこそ、ゾロゾロとついていったのだと思う。「主導権を持つ」というのはそういうことである。

 ところが、まずかった判断を下した頃には、明らかに潮目が変わっていたのだと思う。すでにそんな「主導権」はどこかに消えてしまっていたのに違いない。しかし、1世紀近くも「主導権」を握り、膨大な技術の蓄積もあるとなれば、そんな潮目を越えてしまっていたことに気付かなかったのではないか。自らがコア事業に集中してよい物を作り出せば、みんなついてくると錯覚していたのではないだろうか、と想像する。けれど、すでに別な「儲かりそうな」新市場が、みんなの目には見えていたのだ。一度、そういうものが見えてきてしまうと、古いコンセプトから「フォロワー」が雪崩を打つように去るのは速い。我勝ちに新しい市場で一儲けを狙うからだ。

 現状、そんな危うい判断のポイントに居そうな「エクセレント・カンパニー」が2社ある。いわずと知れたMicrosoftとIntelである。どちらもパソコン市場を主導してきた。まあ、Kodakが1世紀近くも写真業界を主導してきたのに比べれば高々30年くらいでしかないが。しかし昨今の風向きみると、明らかにその主導権を失いかねないところにいる。

 「ビッグシフト(Big Shift)」などという誰だかが作った造語がなかなかいいところをついている。スマートフォンでクラウド上のビッグ・データを扱う、そこではパソコンは(あえて)外されてしまっているのだ。誰の発案かは知らないが、パソコンを牛耳っていたMicrosoftやIntelにはもう主導権を渡さない、今度儲けるのは、誰だか知らないワシらだ、ついてこい、というようにも聞こえる。そうしてみんな、スマホに流れていく。

 そんな現況に、当然、MicrosoftもIntelもちゃんと危機感は持っている。ご存じのとおり、いろいろと新製品で「ビッグシフト」に乗り遅れまいと動きをかけている。けれど、そういう動き自体に、かつてのパソコンのWintel体制下の2社で決めたことに、みんながぞろぞろとついていく、という主導権の取れていた状態とは明らかに違う状態が見て取れる。フォロワーたちは、「Microsoftを担いだら儲かるのか?」あるいは「Intelを担いだら儲かるのか?」を一歩引いて見ているのだ。儲かると見れば、再びゾロゾロとついていくだろうが、そこが見えなければついていったりしない。技術は大事だが、技術の良し悪しではなく「担いだら儲かる」構図が提示できるかどうかこそがキーなのだと思う。

 スマートフォン、特にAndroidなどは、「誰が儲けられるのか?」などと疑問が呈せられる状況のようだ。いまのスマートフォン市場は、Appleや一部のネットワーク・ゲーム(ソーシャル・ゲーム)のベンダ以外は儲けの構図を描ききれていないようにも見える。まだ、いままでの覇者が「蓄積したもの」をつぎ込んで主導権を取り戻す余地は十分にありそうだ。そのためには「一枚噛ませてくれ」とフォロワー達が寄ってくるような「儲かる」シナリオを提示する必要があるのではないか。パソコンでしていたように、フォロワー達を鵜飼の鵜のごとく自らの儲けをかき集める手段としてシナリオを書いていたら駄目だろう。

 Kodakと違い、2社は、この点をよく分かっていることだろう。そうでなければ、そのうち、Kodakでしたような感慨をまた漏らすことになってしまうだろう。記事の終わり


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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