頭脳放談

第142回 エルピーダ倒産に見るDRAM業界の構造とデジタル革命

Massa POP Izumida
2012/03/29

 エルピーダメモリが会社更生手続開始を申し立てて1カ月が過ぎた(エルピーダメモリのニュースリリース「当社子会社の会社更生手続開始の申立て及び債権の回収不能に関するお知らせ」)。その何カ月も前から資金繰りが困難になっていることがニュースとして流れていたが、国のお金も入っていることだし「ソフト」に解決されるだろう、といったようなことが書いてあった。そんなものかと思っていたら、あの発表だったので驚いた。金融関係者も寝耳に水だったという話が出ているので、筆者のような金融の素人が驚いても別段不思議もないだろう。

 そんな「驚き」のあった申し立てではあるが、業績に関していえば別段な驚きはなかったと言ってよいかもしれない。ここにいたった直接の引き金は、一昨年来の円高や、昨年のタイの洪水などが挙げられている。しかし、DRAM商売に内在する根本的な問題がその前提としてあると思うからだ。それもここ数年といったスパンではなく、もっと根深いものである。

 年寄りなので、またまた昔を振り返ろう。初めてDRAMというものを秋葉原へ買いに行ったのはDRAMの容量が16Kbitの頃だ。いまの容量からすると、冗談のように小さく思えるが、これでも当時は最先端に近いDRAMであった。買いに行ったものの、その日は品薄で手に入らなかった。1カ月くらい待たされて、ようやく小さな16KbitのDRAMを8個(これで16Kbytesの主記憶となるわけだ)を購入することができたのだ。現在、エルピーダメモリの一部となった、会社の1つの製品だった。余談だが、エルピーダメモリは、NECと日立製作所のDRAM事業部が合併してできたNEC日立メモリが前身。その後、三菱電機のDRAM事業を譲り受けている。日本のDRAMメーカーをほとんどひとまとめにしたものというわけだ。

 おぼろげな記憶によれば、値段は確か8個で9800円。「こんな小さなものが1個千円以上かいなぁ」と、まだ半導体業界に入る前だったので、「半導体はいい商売じゃなぁ〜」と思ったキッカケの1つくらいにはなっている。

 すでにそのころから、DRAMは需給が逼迫する時期と、緩む時期の変動が大きい製品であったのだ。逼迫するときには当然ながら値段は高くなり、DRAMメーカーは「がっぽり」儲かる。一方で、緩めば暴落といっていいくらいに下落する。しかし、実はその「暴落」こそがその後のデジタル革命ともいえる今日への道を切り開いてきたように思うのだがどうだろうか。

 売れなくなれば値段を下げるのは当然と思われるかもしれないが、ほかの製品なら「作らない」というのも選択肢になり得る。しかし装置産業なので、作っても作らなくても巨額のお金がかかるDRAM製造では、作らないでいるよりは、値段が下がっても作って売った方がマダマシという判断になってしまう。それに自分が作らない分、ほかのメーカーのシェアが上がったら、後で取り戻すことが難しい。そこで各メーカーとも、引くに引けずに単価の暴落といっていい価格の低下が起こる。

 しかし、その暴落フェイズのお陰で、主記憶メモリのビット単価は年々歳々急速に下がってきたわけだ。それにDRAMは、世代ごとに4倍の勢いで容量が増加するので、この等比級数が加わる。その結果、われわれロジック屋が前提とするメモリ・アドレスは急速に増え、完成品の1台1台に実際に搭載されるメモリ容量は急激に増加、それを前提にしてソフトウェアが作られていき、そしてデータ量や通信量が増えてきたわけだ。極論すればDRAM価格が周期的に暴落することが駆動力の1つとなって、IT装置の高度化が進んできたともいえる。常にDRAMメーカーが安定した収益を上げられるような静的な市場であれば、実はこれほどの速度で今日のIT市場は形成されなかったかもしれないと思う。なにせ主記憶はなくてはならないものなのだから。

 とはいえ、ジェットコースターのような市場の変動は、DRAMを製造するメーカーに大きなリスクを負わせ続けてきた。IT業界全体のリスクを考えたら、DRAM業界のリスク負担の割合はレートが高すぎたのかもしれない。それこそ16Kbitの頃は、ほとんどの大手半導体メーカー(当時大手といっても、いまと比べて規模はささやかなものだった)がDRAMを製造していたので、メーカーは数十もあったのではないだろうか。しかし、いまやDRAMを作っている会社は片手で数えられるほどに減少してしまった。その製造には巨額の投資が必須であり、好況のときは儲かるけれども、一度不況となると一気に苦しくなるそのリスクを、多くの会社が背負い切れないと感じ、撤退や統合が相次いだためである。まさにそのエルピーダメモリも日本に残ったDRAM製造を結集してできあがった会社であることは前述のとおりである。

 エルピーダメモリも、この変動をなんとかやわらげるために、他社との協業などを模索してきたようだ。DRAMだけでなく、フラッシュメモリなどと組み合わせて、揺れを小さくするのも1つの考えだったのだろう。まぁ、同じメモリといっても同じタイミングで同じように価格が動くわけでもないし、組み合わせ技の製品では特殊化されて標準DRAMほどには値段だけのものでもなくなるのは分かる。しかし、大局的な変動には同じようにさらされるから、合わせ技でどのくらい「安定化」できるのかはよく分からない。結局、寡占どころか独占にならないとDRAM市況が安定することはないのかもしれない。しかし、そうなってしまえば、いままでDRAMが果たしてきたIT装置のインフレーション的増大を下支えするという機能も失われてしまうように思われる。そうなったらそうなったで、DRAMを吹き飛ばすような新メモリが登場し、再び群雄割拠の時代に戻るのかもしれないが。記事の終わり

  関連リンク 
「当社子会社の会社更生手続開始の申立て及び債権の回収不能に関するお知らせ」ニュースリリース

Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。

 
     
「連載:頭脳放談」

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