Chumby開発者が語る
誕生秘話とビジネスモデル
仲里淳2008/11/25
そのかわいらしいルックスとハッキングのしやすさが注目を集める「Chumby」。10月から日本での販売も始まり、早速手に入れた方もいるだろう。Chumbyの生みの親であるアンドリュー・バニー・ファン氏に開発のきっかけや今後の展望について伺った。
あえて操作させないことで、受け身でいられる自由を
――どのようなきっかけでChumbyを作ることになったのですか?
3年前にスティーブ・トムリン(Steve Tomlin。Chumby Industriesの共同創業者)が僕のところへやって来て「新しいデバイスを作りたいんだ」っていったんだ。彼が注目していたのは、みんなの生活の中でネットにつながっている時間が長いってこと。言い換えると、いつでもノートPCを抱えているというわけ。でも、人には家庭の生活もあるわけで、そのための時間が必要だよね。ノートPCはそういう面ではイマイチなんだ。
| アンドリュー・バニー・ファン(Andrew "bunnie" Huang) |
| Chumby Industries ハードウェア・エンジニアリング担当副社長兼創業者。「Chumby」のハードウェア開発をはじめ、アーキテクチャ、デザイン、製造、戦略策定、プラットフォームとしての開発環境の整備を担当。Xboxのハッキングでも有名で、これまで幅広い分野でプロジェクトを手掛けてきた。Mobilianでワイヤレス製品、SGIやQualcommではLSIの設計経験がある。デジタルガレージ主催のイベント「The New Context Conference 2008」のために来日した |
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彼は無線技術の分野に投資をしていて、当然Wi-Fiにも注目していた。ただ、Wi-Fiでできることっていうのは、ノートPCからLANケーブルをなくしてしまうってことくらい。投資したくなるようなもっと新しい何かを探していたんだ。
そこで、いろんなアイデアを組み合わせてWi-Fiを使う新しい何かを作ろうといい出したんだ。ネットにつながったままで、かつ現実の生活でいろいろやるための自由な時間も作り出せるものをね。
――ケータイは選択肢になかったのですか?
ケータイはちょっと違うんだ。まず、最初に通信事業者との契約が必要だし、主に通話に使う。ほかにテキストでメッセージのやりとりをするもの。スティーブは、自由なサービスとしてWi-FiとLinuxを使いたいと考えたんだ。インターネットではマッシュアップが自由だけど、これまでのケータイの場合はキャリアに管理されてしまうから、ユーザーができることは限られてしまっていたよね。
――iPhoneやAndroidなどが登場してきて注目されていますよね?
どれも面白いと思うよ。iPhoneは、最初SDKの情報が制限されていて、開発の不便さがあったけど、いまでは軽減されて、App Storeによってアプリの配信料を収益として得ている。ただ、iPhoneのデザインはいいと思うしプラットフォームとしても人気だけど、完全にオープンではない。
Androidは面白いコンセプトだし、オープンなケータイとしてコミュニティに対してもいいアプローチをしている。オープンソースのケータイシステムにはもう1つ「OpenMoko」っていうのがあって、実はAndroidより先に登場したんだ。オープンソースケータイなんてとってもチャレンジングだし期待している。Androidがどう発展していくかも注目している。
――AndroidのアプリケーションをChumbyで動くようにすることは考えていますか?
AndroidはLinuxベースだし、UIレイヤやWebKitといったブラウザがある。すぐに誰かがハッキングして動くようにすると思う。そうやって作った新しいアプリケーションがChumby用にも登場してくるはずだよ。
ただ、デバイスの機能の違いから、多くのChumbyユーザーは、Chumby向けに作られたウィジェットを使うことになると思う。なぜかというと、Androidにはキーボードとかいろんな機能が付いてインタラクティブなデバイスだけど、Chumbyには付いていないから。
Chumbyを設計するときに一番重要だと考えたのは、「パッシブであること」という原則なんだ。
人が時間を確認するときは、時計を見るだけで分かる。株価を知りたいときも見るだけ。友人がTwitterで発言しているのもただ見るだけ。マウスもキーボードもなくて、ただ見るだけ。インタラクションはなくて、パッシブに情報を得るだけ。
もし、いろいろできるようにしてしまうと、ブラウザを操作してコンピュータのように積極的に使うようになってしまう。ケータイも同じで、積極的にあれこれ操作するものだよね。Chumbyは、時計のような存在として設計されてるんだ。時計も、天気も、動画も、ネットにあるコンテンツとしてパッシブなものでしょ? 根本的な使い方が異なるんだ。
――3年前にはまだTwitterは存在しておらずWi-Fiの環境も整っていませんでしたが、近いうちにいまのような世界が来ると予見していたわけですか?
そうかもしれないね。でも、3年前でもMySpaceがあって十代の子たちが夢中になっていたよ。実際、MySpaceのウィジェットをサンプルとして作ったしね。僕らはウィジェットWebって呼んでるけど、いろいろ組み合わせたアイデアがぴったりしてきた。ある意味Web 3.0の始まりといえるかもしれない。個々のサービスがWebサイトを離れ、ブラウザ上だけではなくウィジェットとして小さなデバイスに提供される。これは革命だよ。
――3GやWiMAX、LTEといった次世代の無線技術も出てきますが、Chumbyでそれらを採用するつもりはありますか?
やっぱり、年配のユーザーにとっては買ってすぐに使えるというのは必要だよね。ワイヤレスだけではキャズムは超えられない。
日本では3Gの高速無線に対応する地域が広いので、それを活かしてサービスを展開できたらと考えている。いま、日本のキャリアについて調査をしている段階で、日本のキャリアに高品質で低価格なサービスを提供してもらえる可能を検討しているところだよ。
――年配層もターゲットなのですね。
ターゲットとして強く意識しているよ。年配のユーザーにも使ってもらえるように2つのモデルを用意しているんだ。1つは、できる限りシンプルで使いやすいUIにしたもの。もう1つは、リモート管理が簡単にできるもの。
例えば、メカに強い子供が親にChumbyをプレゼントするという場合。まず、子供が親の家へ行って、Wi-Fiの設定をしてあげる。そして、子供はChumby.comのサイトからリモートで親のChumbyを管理する。Chumby eCard(Make a Flashcan eCard)というサービスを使えば遠隔操作のできるフォトフレームとして使えるから、離れて暮らしていても身近に感じられる。
僕も、母親にこのサービスを使っているよ。彼女はほとんどコンピュータには触らないけど、Flickrなどの写真共有サービスのウィジェットを僕のChumbyから送っているんだ。
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| カードのデザイン画面。さまざまなテンプレートが用意されており、それを基にパーツを配置したりメッセージを入力したりする |
――Chumbyのかわいらしいデザインは誰のアイデアですか?
インダストリアルデザインは、社外の人に依頼したんだ。トーマス・マイヤー・ホファー(Thomas Meyerhoffer)というデザイナで、サーフボードやスキーのゴーグルみたいなスポーツ用品、家具のデザインを数多く手掛けている。
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| トーマス・マイヤー・ホファー氏のWebサイト。Chumbyをはじめ、これまで手掛けた製品などが掲載されている。 |
彼は、初代のiMacやデザインにも携わっていたことがある。つまり、新しいコンセプトの製品をデザインする経験が豊富なんだ。
彼との打ち合わせでは、「僕らはガジェットのようには見えないガジェットを作りたいんだ」という話をした。多くのガジェットというのは、表面がテカテカしていて、プラスチックでできていて硬いものという、どれも同じような感じ。成功するには、見た目もまったく異なるものを作らなきゃいけないって思ったんだ。それでできたのがこのデザイン。全体が柔らかい素材で、キーボードも取っ払って、タッチスクリーンと頭にあるボタンだけ。
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| マグカップや目覚まし時計ほどの大きさのchumby 参照:chumby――米国生まれの情報端末に家電の未来を見る |
トーマスが描いた最初のデザイン案を見たとき、これは作るのがすごく難しいなって思ったよ。電子機器を柔らかい革で包んだ製品を作った経験なんてなかったからね。実際、製造先を探すのにも苦労したんだ。パソコンメーカーのようなところは、電子機器の製造には慣れているけど、革製品については未経験。逆に、バッグなんかを作っているところは、電子機器は専門外だから「無理です。無理です。機械のことは分かりませんから!」っていうしね。「ノートPCのように作って」という指示はできないから、結局Chumby専用の製作工程を用意することになった。
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| ファン氏のブログでは、工場でChumbyが製造される過程の写真や動画が公開されている。(Made in China: Quality (or, The Challenge) |
いまのChumbyにはイタリア製の高級な本革を使っているけど、将来的には合成皮革に変えるかもしれない。Chumbyに興味を持つようなガジェット好きの人たちは、本革かどうかなんて気にしないみたいだから(笑)。最初のChumbyにイタリア製の本革を使おうと思ったのは、何か特別なことをしたかったからなんだ。最初だからね。
――アプリケーションの環境としてFlash Lite 3を採用した理由は?
いくつかあるけど、まずFlash 8の動画が再生できるってこと。Web上にはすでに多くのFlash動画があるから、それを見られるようにしたかった。もう一つは、世界中に200万人以上のFlash開発者がいて、プラットフォームとしてポピュラーだってこと(現在1000を超えるウィジェットが公開されている)。PythonやGTK、ほかのスクリプトが使えるガジェット製品もあるけど、開発者の数が少ない。それに、Flash開発者の多くは、単なる技術オタクというよりは、アーティストやアニメータ、クリエータが多くて、作品の形や動きが美しい。インタラクティブなものも作りやすいから、タッチパネルのインターフェイスには最適だったっていうわけ。
――ディスプレイをこのサイズ(3.5インチTFT液晶パネル)に決めた理由は?
一番の決め手はコスト。3年前の段階でバランスが良かったのが、多くのケータイやPDAでも使われていたこのサイズだったんだ。値段が安くなっていけば、もっと大きなサイズに変えることになるだろうね。
――もっと小さなものを作る予定はありますか? 例えば、バッジくらいのものなど。
そういうのもいいね! 個人用Chumbyってことになるけど、社内でもそういうアイデアはあるよ。ただ問題なのは電源をどうやって供給するか。ケータイだってずっと使いっ放しだと5時間ももたないでしょ。Chumbyは、さっきもいったように常に情報を表示しておくものだから、ディスプレイを消してしまったら意味がない。いつも表示しておくには、大きなバッテリが必要になってしまうんだ。モーションセンサーで、人がいないときにスリープさせるといった省電力のアイデアも考えてはいるけどね。
――太陽電池を使うというのはどうでしょうか?
それはいいアイデアだね! でも大きなソーラーパネルが必要になるな(笑)。
――アーキテクチャもファームウェアのソースも公開されていますが、他社が同じような製品を作り出すとビジネスに影響しませんか?※
| ※Chumbyのファームソースコードは、GPL2やLGPL2などライセンスで公開されている→Chumby source code |
まったく問題ないよ。ソニー製のChumbyが登場したら、とてもエキサイティングだね。僕らが提供しているウィジェットサービスに対応しているなら、ソニーが作ったって構わないよ。Chumbyのビジネスは単なる製品だけじゃなくて、ウィジェットのサービスやネットワークも含めてのものだから。
これから1年くらいの間に、僕らのChumbyではない製品がたくさん登場するのを期待しているよ。ウィジェットサービスさえ使えるなら、ソニーChumbyでもトヨタChumbyでもありだね。
――現在のビジネスモデルはChumbyの販売収益ですか?
販売を収益の柱にしようとは考えていないし、だから他社がChumbyを作っても構わない。日本では少しくらい値段が高くても売れるけど、米国では徹底的に安くないと駄目。だから、製品の販売だけで収益を上げるのは難しいんだ。
いまのところ、ウィジェット配信に広告を入れるアイデアを考えている。例えば、野球中継ウィジェットの次に、チケットを購入できるウィジェットを入れて、そこから広告費を得るとかね。他社からもChumby互換製品が出てきたら、ウィジェット配信先も増えることになるってわけ。Web 2.0企業と呼ばれるものの多くは広告収益モデルだけど、僕らも同じだね。
――@ITをはじめ、多くのWebメディアも同じく広告モデルです。
そうだね。僕らはそれをウィジェットワールドに持ち込んだ。でもこれは、実はとても難しい戦略でもあるんだ。一般的なWebサイトだと、ほかの企業も同じように参入できるから競合は多くなる。でもChumbyというプラットフォーム上でのサービスなら、ほかに競合はいない。ただし、毎年クリスマスにはニンテンドーの製品やiPod、iPhoneなど新しいガジェット製品が登場するから、それらが競合になるんだ。
――Chumbyという名前はどうやって決まったのですか?
最初は違う案をスティーブが出したんだけどそれはイマイチで。次に「じゃあChumbyというのはどうだい?」っていったんだ。親しみやすいし、発音も面白い。それに日本語で友達を「○○ちゃん」って呼んだりするから、日本でも親しみのある名前だと考えて決めたんだ。
――最後に日本のウィジェット開発者にメッセージを。
Flash開発者の皆さん、ぜひChumbyウィジェット制作を楽しんでください。それから、皆さんが考えていることなどフィードバックを待っています。
| 日本の読者への字幕付きビデオメッセージ。「フィードバックをお待ちしています」 |
それじゃ!
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