次世代クライアントの可能性を探る(後編)
WebサービスクライアントとしてのCurl


宮下知起
2005/4/16



 住商情報システム傘下で“リッチクライアント”として新たなスタートを切ったCurlは、国内での導入事例も増え、少しずつ市場での評価を高めつつある。一方で、“次世代インターネット言語”としてのコンセプトも消えることはない。Curlの創始者たちは、Webサービスクライアントとしての可能性、さらには次世代のコンピューティングモデルとしての可能性も含んでいると断言する。

■Webサービスクライアントとしての可能性


 

 前編で紹介したように、Curlは静的なコンテンツ、ユーザーインターフェイス、プロシージャ(手続き型のプログラム)を一元的にコンテンツとして扱う点がユニークだ。ユーザビリティや生産性を向上させるリッチクライアントという意味合い以外にも、自在に機能を盛り込んだ1つの“ノード”として機能できるという特長がある。

 「Curlを研究する際に重要視したことの1つに、インターネット上からデータ層にアクセスして、自由にデータのやりとりをできることがあった。Webブラウザがやりとりできるのはhttpプロトコルだけだが、Webサービスはあらゆるデータを扱うことができる。CurlとWebサービスのコンセプトはマッチする」(米Curl, Inc. バイスプレジデント エンジニアリング 最高技術責任者 デイビット・クランズ氏)

米Curl, Inc. バイスプレジデント エンジニアリング 最高技術責任者 デイビット・クランズ氏(左)、米Curl,Inc. バイスプレジデント プロフェッショナルサービス スティーブン・アダムス氏(右)

 すなわち、Webサービスをクライアントで自在に組み合わせ、ユーザーが必要な機能やデータを提供するWebサービスクライアントに適した特性をもっているというわけだ。

 「Webサービスの技術自体はまだアーリー・ステージだ。WebサービスクライアントとしてのCurlの可能性は限りなく拡がると見ている」と米Curl,Inc. バイスプレジデント プロフェッショナルサービス スティーブン・アダムス氏は語る。「ITのトレンドはさまざまな情報を配信する方向にある。多岐にわたる情報をクライアント側で意味ある情報として加工し表示することに大きなニーズがあるだろう。Curlはそれが可能だ。従来のクライアント/サーバ型アプリケーションでは、フレキシブルに情報を加工・表示できないため不可能である」(同氏)

■クライアントでデータを自在に加工する

 Curlは、大量のデータからビジネスに意味ある情報を分析する経営情報システム、SFA(営業支援)システム、OLAPクライアントや、BIツールのクライアントに適している。また、導入企業も金融・証券、医療、製薬など多種多様であるという。「表示の仕方が頻繁に変わるケースでも、柔軟に対応できるのがカールのメリット」(スティーブン・アダムス氏)。グラフなどのビジュアルにデータを表現するためのAPIが豊富に用意されいてる。例えば、ユーザーインターフェイスを崩すことなく、画面全体を拡大、収縮することも可能だ。

独シーメンス社で導入された経営情報分析システムのポータル画面。経営判断に必要な社内情報を必要なかたちに加工して表示する

 Curlがダイレクトにサーバ側のデータを取得できるメリットを生かす1例として、メタデータをクライアント側に持ち、クライアントのニーズに応じたデータ取得をする使い方があるとスティーブン・アダムス氏は説明する。「メタデータをクライアントに置いておけば、必要に応じて夜間バッチでデータをサーバ側から吸い上げ、それを必要なかたちで見せることができる。クライアントのニーズに応じて、データを柔軟に扱う1例だ。これはリッチクライアントのメリットでもあるだろう」。さらに同氏は「XFormの仕様とCurlは似ている。Curlはデータドリブンなフォームを実現するのが容易である。今後は従来の静的な表現方法から、動的な表現方法が主流となるだろう。Curlはその先取りである」とも述べる。

さまざまなコンテンツを1画面に表示するポータルはCurlの得意な分野だ。この画面は株価表示やRSSリーダを統合したポータル画面の例。世界各国のニュースサイトから収集したRSSとグラフィカルな地図がマッピングされている。ニュースカテゴリで読みたいニュースを選択する機能も実装されている

■プラグインの配布の課題

 不特定多数のコンシューマに向けたサービスを展開するためには、プラグインの配布が課題となる。例えばいまやWebコンテンツには欠かせないFlashは、インターネットに接続されたPCの実に98%にインストールされている。いまのところ市場では、コンシューマサービスにおけるリッチクライアントのプラグインはFlashがメインストリームとして理解されている。Curlプラグインの普及率はデータにないが、非常に低いのは事実だ。

 だが、「これまでCurlプラグインのインストールがCurl導入の足かせになったケースはない」(デイビット・クランズ氏)という。重要なのは普及率ではなく、付加価値の高いサービスを提供できるか否かである点であり、ユーザーが必要性を感じればCurlプラグインはインストールしてもらえるという考え方がそこにはある。ただ、インストールの容易さという点は無視できず「ダウンロードしてからインストールまでのステップをできるだけ減らすよう新たな開発を行っている」(同氏)という。

 日本国内でのコンシューマ向けのサービスとしては、飛鳥資料館や東京三菱銀行の資産分析サービスがある。東京三菱銀行のサービスに関しては、会員の大多数がCurlプラグインをダウンロードしている結果が出ているという。使いたい人は抵抗感なくダウンロードしてインストールしているという結果だ。

飛鳥資料館の情報を発信するホームページ。3DコンテンツがCurlで提供されている。コンシューマ向けのCurlを前提としたコンテンツの1例だ。http://www.nabunken.go.jp/asuka/index.htmlにアクセスして試してみるとよいだろう

 今後の国内での施策として株式会社カール 営業推進グループ アシスタントマネージャー 栗林亘氏は「東京三菱銀行のサービス例に見られるような、プレミアサービスにフォーカスしていく。ユーザーにとってアプリケーションのベネフィットが明らかであればダウンロードを嫌がられることはない。プレミアサービスの中でCurlの技術の優位性や価値が理解され、ユーザーが増えればPCへのプリインストールが受け入れられやすくなる」と説明する。また、ユーザーはLinuxのユーザーも含め広く想定している。株式会社カールは、先日ターボリナックス株式会社と事業提携した。「TurboLinuxとCurlを組み合わせたソリューションを提供する。今後デスクトップLinuxは普及すると見ている」(栗林氏)

■コンピューティングモデルの変遷の中でのCurl

米Curl, Inc. バイスプレジデント チーフアーキテクト ロバート・ホルステッド氏

 米Curl, Inc. バイスプレジデント チーフアーキテクト ロバート・ホルステッド氏は、Curlについて「今後のコンピューティングの形態として期待されるユニバーサルクライアントという考え方を先取りしている」と説明する。「Webブラウザは静的な情報を扱うユニバーサルクライアントだが、Curlはダイナミックに扱うパワフルなソリューションだ」(同氏)。将来のユニバーサルクライアントは、クライアントがダイレクトにデータトランザクションを動かすことも実現していくのだという。同氏はさらに「将来、ユーザーがやりたいことに応じて、ユーザーが恣意的に選択することなく必要なアプリケーションがクライアントにダウンロードされるクライアントが登場するだろう。必要なデータも、恣意的に集めてくる必要もない。Curlはそのような新しいクライアントの可能性を垣間見せるに違いない」とも述べた。

 またスティーブン・アダムス氏は「PtoPモデルも登場する。ユーザーにとって必要なものが必要な時に得られることが重要である。すなわち、それがサーバにあろうがクライアントにあろうが関係なく、すべてのクライアント、サーバが1つのノードとして扱われるモデルも登場するに違いない」と語る。同氏はすでにプロトタイプをCurlで開発した経験がある。Curlは将来のPtoPを実現する技術として非常に有望だと自信を見せた。

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