帳票ベンダ・インタビュー 第22回

3DデータのExcel帳票で
日本製造業の現場力向上を


吉田育代
2008/2/22

3次元CADデータの軽量化技術XVLを使った帳票をご存じだろうか? これを使うと製造業の現場力が向上するという。その理由を聞いてみた

 オープン環境の企業情報システムにおいて、帳票ニーズはいまどのような状況になっており、それに対して帳票ベンダはどのようなソリューションを提供しているのか。帳票ベンダへの直接取材でその解を探るシリーズ。第22回は、ラティス・テクノロジーの「Lattice3D Reporter」を取り上げる。これは、同社が開発した3次元CADデータの軽量化技術XVL(eXtensible Virtual world description Language)を基にした帳票作成ツール。従来は共有が困難だった3次元データを、Excel上で取り扱えるようにした。対象市場を製造業界に絞り込んでおり、3次元データ入りの部品表や作業指示書を流通可能にすることで、製造現場の“見える化”促進を目指している。

 

情報の3次元化が進んでいるのに
恩恵を受けているのは設計者だけだった

 人間はX軸、Y軸、Z軸に座標を持つ3次元の立体である。そんな人間の用をなす事物も、当然ながら3次元の立体である。最終的に立体として着地するのであれば、こうした事物をこの世に生み落とす際も3次元で考えた方が分かりやすい。分かりやすければ話が早くなる。それが、そもそも3次元CAD(Computer Automated Design)というものがスタートした背景だった。

 今日、製造業界では、大手を中心に国内外を問わず3次元CADが普及しつつある。3次元CADのメリットは明白だ。それは、とにかく経験が必要だった設計業務を平準化、簡素化でき、分担を可能にする。

 また、設計したデータは蓄積・長期保存しやすく、再利用も容易だ。ITを活用することによって、人間の単純ミスや煩雑な手計算を回避できる。さらに、それまでは設計中には困難とされていた部品間干渉や強度解析のチェックが可能になり、設計完了後の修正や実際の試作を軽減できる。

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷浩志氏
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷浩志 氏

 「しかしながら、実はこうした設計データの3次元化による恩恵は、これまで設計者しか受けていなかった」。そう語るのは、ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷浩志氏である。

 一般的に、複雑な事物を設計できるCADソフトウェアは高機能だけに高価である。また、作成されたデータの多くは、ギガバイト級の膨大な容量になる。いくら1人1台のPC環境が実現した今日であっても、CADデータが設計の後工程でそのまま共有されるほどには機は熟していないのである。

 そのため、生産技術部門や製造部門、検査部門では、相変わらず平面図面と文字列の帳票を使った、あまり効率が高いとはいえない仕事を余儀なくされていた。せっかく豊富な情報を持ったCADデータがすぐそこにありながら、非常にもったいない話ではある。

 

豊富な情報を持つ3次元データが
Excel帳票の中で扱え、連動させられる

 製造現場のこのようなジレンマを解決しようとラティス・テクノロジーが開発したのが、3次元データ活用の帳票ソリューション「Lattice3D Reporter」だ。

図1 「Lattice3D Reporter」(出典:ラティス・テクノロジー)
図1 「Lattice3D Reporter」(出典:ラティス・テクノロジー)(クリックして拡大表示)

 これは、同社が開発した3次元CADデータの軽量化技術XVLを基にした帳票作成ツールである。3次元CADデータを軽量化するばかりではなく、このデータに含まれる属性情報を併せて表現できる。これにより、CADソフトウェアが搭載されていないコンピュータ上であっても、3次元データの利点を享受しつつ、効率的に業務を進めることができる。

 では、具体的にどのような点が特徴なのか。大きく2つある。

Microsoft Excelに3次元データを取り込める

 製造現場の多くで、帳票のフォーマットとしてよく使われているのがExcelだ。Lattice3D Reporterは、このExcelファイル上に、XVLフォーマットに変換された3次元データを取り込むことができる。実際には、Excelのプラグインツールとして機能する。データ保存の際、XVLはXLSファイルの中に包含可能であるため、管理上はシンプルなXLSファイルとして扱うことができる。

 鳥谷氏は、「3次元データが見られる専用ビューアが数々あるが、Excel上でこれを可能にしたのは当社の製品だけだろう」と、これが製造現場の現実に根差したソリューションであることに胸を張る。

 いくら軽量化されているといっても、3次元データを扱うならCPUやメモリのスペックが高くないと、とつい思ってしまう。だが、その心配はなく市場に普及しているOA用のPCで問題なく稼働するという。

3次元データと属性情報を連動させることが可能

 XVLが3次元データと属性情報を併せ持てることは先に触れたが、その2つをExcel上で“呼応”させることもできる。

 1つのExcelファイル上に3次元データと文字列の属性情報を混在させて配置し、属性情報のあるセルをクリックすれば、それに対応する3次元データの部分を指し示せるといったことが可能だ。これは逆も可能で、3次元データ内のある部分をクリックして、対応する文字列を指し示すこともできる。

 

CADデータを軽量化できる理由と
データ変換の仕組み


  なぜ、ギガバイト級の容量を持つ3次元CADデータが、普通のOA用PCで扱えるようになるまで軽量化できるのか。

 XVLでは、容量を肥大させる根源である曲面データ部分を持たないのである。そして、曲面の周りの形状から曲面部分を類推して表示する。そのため、曲面が多ければ多いほどデータの軽量化度合いは高いといい、1/100ほどに小さくできるものもあるという。逆に曲面が少なければ軽量化度合いは低い。それでも1/15ぐらいには軽量化できるそうだ。

 製品デモでは、自動車のエンジン部分を構成した3次元データを見た。ギガバイト級だったCADデータが、属性情報を含めて1MB程度に軽量化されていた。

 このツールでは、CADデータをXVLフォーマットに変換することで3次元データの流通を可能にしているわけだが、このXVLフォーマットへのデータ変換手法については2系統ある。

 1つは、Lattice3D Reporterで直接読み込む方法。読み込める3Dフォーマットの種類は、XVLと図2の赤い部分になる。

 もう1つは、3次元CADデータをPDFフォーマットに変換するソフトウェア「Adobe Acrobat 3D」およびそのプラグインソフトウェアであるラティス・テクノロジーの「XVL Plug-in for Adobe Acrobat 3D」を利用する方法である。

 Adobe Acrobat 3Dで変換されたPDFフォーマットの3次元部分を、XVL Plug-in for Adobe Acrobat 3DがXVLフォーマットに変換する。これにより、図2にある紫色の部分のCADファイルの種類、青い部分の3Dフォーマットの種類がExcelで直接扱えるようになるという。

図2 XVL StudioとLattice3D Reporterが読み込めるファイル群
図2 XVL StudioとLattice3D Reporterが読み込めるファイル群

 

連動可能な3次元データが入ることで
部品表や図面帳票が画期的に変化

 このLattice3D Reporterを利用すると、製造現場の帳票利用がどう変わるか。鳥谷氏は、その例として以下のようなものを挙げた。

部品表の作成

 1つのExcelファイルの中に3次元データと部品リストを混在させた部品表を作成し、デジタル文書として流通させることができる。部品名をマウスでクリックすれば、3次元データ内の該当する部品が示される。3次元データ内の一部品をクリックすれば、その部品の名称を知ることができる。2次元の図面を別に用意して、両方を見比べながら確認するといったことは必要なくなる。

簡略図面の作成

 製造現場では、情報伝達・交換・共有のために図面を張り込んだ帳票をよく作成する。だが、従来は高機能のCADソフトウェアを操作してスナップショットを撮っては1枚1枚帳票画面に張り込まねばならず、作業が煩雑になりがちだった。

 Lattice3D Reporterでは、Excel内に取り込んだXVLデータを使って、ビュー、寸法図、断面図を作成でき、それとリストのひも付けも可能であるため、簡略図面が容易に作成できる。

 

ほかのXVL製品との組み合わせで
さらなる展開が可能に

 XVLをベースとした3次元データの新しい活用方法を提案するラティス・テクノロジーでは、Lattice3D Reporter以外にも、さまざまなXVL製品をリリースしている。

 例えば、「XVL Studio Standard」はXVLデータの編集ツールだ。この製品を利用すると、簡易イラストを作成したり、アニメーションを定義したりといったことが可能になる。これとLattice3D Reporterを組み合わせることで、Excelファイルでアニメーションの入った作業指示書を配布することができる。

 また、XVL Studio Standardには「XVL Studio Pro」という上位製品や「XVL Studio Basic」というエントリ製品もある。XVL Proでは、既存のXVLデータに寸法入力や注記作成、断面作成などが行える。この機能を利用することで、検査工程のための検査指示書など正確な情報伝達を必要とする帳票が手軽に作成できるようになるという。

 Web上で3次元の部品表や組み立て指示書を作成できるツールもある。

図3 「XVL Web Master」の使用例
図3 「XVL Web Master」の使用例(出典:ラティス・テクノロジー)(クリックして拡大表示)

 「XVL Web Master」上にXVLデータをドラッグ&ドロップすれば、HTML形式の3次元ドキュメントへの自動変換が行われる。ただし、閲覧できるWebブラウザはInternet Explorer 5.0以上に限られ、アニメーションを見るには同社が無償で配布しているXVL Playerがプラグインとして必要だ。

 「XVL Web Master」の製品デモでは、電気製品の組み立て工程が3Dアニメーションで再生される様子を見た。これにより、部品をどの順でどのように取り付けるのかを具体的に示すことができる。鳥谷氏は、「言語環境の異なる製造現場でも利用でき、技術研修用コンテンツとしても使える」と語る。

 

日本の製造業の
現場力アップに貢献したい

 Lattice3D Reporterが最初に発売開始されたのは2007年4月のこと。同年12月には、アニメーション対応機能を付加したバージョン2が出荷されている。製造業界に的を絞って開発しただけに、機能を紹介すれば“これとこれを組み合わせてうちのこの帳票が実現できる”といわれることは多く、高い引き合いを感じているという。

 「日本はモノづくり大国でありながら、CAD/CAM/CAEソフトウェアの分野では欧米に範を示せなかった。この先、日本の製造業が勝ち残っていくためには、さらに設計力を高めると同時に、製造工程全体の現場力を十分に引き出していかなければならない。そこにLattice3D Reporterを生かしてもらえる」(鳥谷氏)。

 帳票ソリューションといえば汎用的な業務帳票開発をイメージしがちだが、それとは一線を画す路線をラティス・テクノロジーは選択している。3次元データは帳票活用シーンを一新するか。今後の展開が楽しみだ。

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