第15回 グーグル検索エンジンを特定ジャンル専用にカスタマイズ

株式会社ピーデー
川俣 晶

2006/11/29

グーグルの検索エンジンをカスタマイズできるCo-op、見落とされているOffice Liveブランド、SSLBridge、Yahoo!ブックマークなど、Ajax関連9本(編集部)

 ハイライト1・Google Co-op: Vertical Searching

  Google Co-opは、GoogleのBETA版サービスです。インターネット上のリソースを検索する特定用途専用の検索エンジンを作成するための機能を提供します。といっても、よく分からないと思います。実は私もピンと来なかったので、取りあえず自分で1つカスタム検索エンジンを1つ作ってみました。作ってみると、あまりの面白さに驚かされました。

 では、私が作ったカスタム検索エンジンを実例に、Google Co-opとは何かを見てみましょう。私が作ったのは、バンダイ・ナムコの家庭用ゲーム機対応のゲームであるACE COMBATシリーズ専用検索エンジンです。つまり、完全ではありませんが、このシリーズに関係ある情報だけに限定された結果を得ることができる検索エンジンです。

画面1 検索エンジンをカスタマイズするページ。ただし、グーグルアカウントでのログインが必要

 このような検索エンジンにどのような価値があるのでしょうか? 例えば、ACE COMBAT 2で主人公が属する傭兵部隊の名前は「スカーフェイス」といいます(最新作ACE COMBAT X Skies of Deceptionでもちらっと顔を見せる)。しかし、「スカーフェイス」で一般の検索を行うと、ブライアン・デ・パルマ監督の映画「スカーフェイス」などの情報が大量に見つかり、なかなか目当ての「スカーフェイス」の情報に行き当たりません。

 ならば、“ACE COMBAT”のような検索キーワードを補えばいいのかといえば、そうでもありません。確かに、それによって見つかる情報もありますが、そのページに“ACE COMBAT”という文字列がなかった場合は永遠に発見できないこともあり得るからです。さらに、このような検索はもちろん完全ではないので、ゴミの山から宝をより分ける作業がなくなるわけでもありません。

 では、ACE COMBAT専用検索エンジンを使うとどうなるのでしょうか? これは、私が「有益である」として集めてあったACE COMBAT関連のサイトやページに限定して検索を行います。それにより、以下のような特徴を持つ結果が得られます。

  • 意図した検索と関係ない情報が入り込む確率が低い
  • 対象が厳選されているので、役立つ濃い情報が並んでいる確率が高い

 これは、「より少ない手間」で「より有益な情報」にアクセスできる可能性を示唆します。特に、ゴミをより分ける作業が大幅に少なくなることで、作業の対象により深く没入できることは大きな価値といえるでしょう。これは、とても良いものです。さまざまな分野ごとに、このような検索エンジンができれば、とても有益ではないかと思います。

 さて、このようなカスタム検索エンジンは誰でも作れるものではありません。有益な情報がどこにあるのか、それを把握している各分野のスペシャリストだけが作り得るものなのです。そして、それを維持するには手間も必要です。技術的には簡単にできますが、作成と運用は決して楽ではないのです。しかし、それだけの手間を費やしても、作る価値があるものだと感じます。

 最後に技術的な側面に触れておきます。従来の検索エンジンでも、サイトを限定するオプションなどがあり、特定サイトの検索は可能でした。それとGoogle Co-opの決定的な相違は、検索対象のURLを「パターン」によって選択できることです。ワイルドカード文字である“*”をURLに含めることで、1つのサイトに含まれる多数のURLの中で、使うものと使わないものをきめ細かく区別することができます。例えば“ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83
%BC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%88*
”という指定は、最後の“*”が持つ効能により、 “エースコンバット”で始まるすべてのキーワードの項目を対象に含めます。

 これにより「エースコンバット」が含まれることはもとより、「エースコンバットシリーズ」や「エースコンバット・ゼロ ザ・ベルカン・ウォー」といった項目も対象に含めています。これによって得られる絞り込み精度の向上は絶大です。

 一方で、話題を限定するヒントをURLに含まないシステム(私の作成しているMagSite1、それによって運用されるオータムマガジンはまさにそれに当たる)では、うまく対象を絞り込めないという問題も生じます。しかし、たとえそうであっても、Google Co-opの効能は絶大であり、活用する価値は大であると感じます。

 ハイライト2・Microsoft Office Live 英語版正式開始・日本語版はベータテスト開始

 Microsoft Office Liveは小規模事業者向けに、サイトホスティングや顧客管理などの機能を提供するサービスです。英語版は正式に開始され、日本語版はベータ版が提供されています。

画面2 スケジューラ、電子メール、情報共有のためのホスティング、スモールビジネス向けの顧客管理サービスなどがある

 さて、Office Liveの話題はこの連載でも扱っているし、ほかでもいろいろと話題が出ているので、サービスの詳細についてはここでは踏み込みません。その代わり、ここでは「見落とされたLiveブランド」という話題を書いてみたいと思います。

 いうまでもなく“Live”というブランドは、マイクロソフトがAjax時代に投入したインターネット上のサービス群を示すものです。

 ところが、“Office Live”を含め、どうも“Live”ブランド関連のサービスが注目される頻度が低いような印象があります。実際に、“Live”関連の話題を書けるライターが少ない……という話も漏れ伝わってきます。そのため、プレスリリースから速報記事を書くようなレベルであれば潤沢に報道されるにもかかわらず、深く立ち入った技術解説のレベルになると記事が激減するような感があります。少なくとも、Googleが提供するAPIを使うための情報に比べれば、圧倒的に少ないのは間違いないでしょう。マイクロソフトの製品や技術を追いかけている人は決して少数ではないのに、これは奇異な話です。

 そこで考えてみたのは、実は世の中の2大潮流の中間に、“Live”ブランドがすっぽりと落ち込んで、多くの人から見落とされているのではないか……というアイデアです。ここでいう2大潮流とは、マイクロソフトの技術が好きではない人たちと、好きな人たちが生み出す潮流です。好きではない人たちは、もちろん“Live”ブランドに深入りすることはないでしょう。当然予測されることです。問題は、好きな人たちがなぜ“Live”ブランドに深く入っていかないのかです。

 あくまで漠然とした印象にすぎませんが、このようなタイプの人たちが注目するのはマイクロソフトの最新技術であり最新のソフトです。例えばInternet Explorer 7.0、Windows Vista、2007 Office、Visual Studio Team Systemなどであり、個別の技術でいえばOOXML、WPF、.NET Framework 3.0、VistaのGadgetなどです。

 ところが、そのような観点から見ると、“Live”ブランドのサービスは技術的な目新しさがまったく欠けています。すでに引退間近のお爺ちゃんといってもよいInternet Explorer 6.0の技術で稼働していて、目新しいきらびやかなキーワードとは直接縁がありません。

 しかし、Ajax的なリアリティを前提にすれば、このようなきらびやかさにはあまり大きな意味はありません。なぜなら、Ajax的なリアリティとは、いままさに大多数のユーザーが持っているWebブラウザをプラットフォームとして認識することが前提となるからです。どれほど刺激的な技術が出現しようとも、それが少数派である限り魅力的ではないのです。もちろん、新技術が普及して大多数のユーザーがそれを使うようになれば話は別です。いずれ、2007 OfficeやWindows Vistaとその後継ソフトを誰もが使っている時代は来るでしょう。

 しかし、それらのソフトが発売された瞬間に、誰もがパソコンショップに行って買ってくる……という状況は考えられません。おそらくは「数年」という時間を費やして徐々に進行していくものでしょう。ということは、これらの新ソフトが持つ刺激的な新技術は、現段階では「技術マニア」の対象にはなっても、実際に活用されるリアルな技術ではあり得ないのです。

 では、いまここで活用可能なリアルな技術とは何かといえば、それはすでに普及済みの旧世代の技術です。例えば、いま2007 Officeの利用ノウハウを語っても、それを活用できるのは全体の中の少数派でしょう。Windows VistaのGadgetを開発しても、それを実行できるのはやはり少数派でしょう。しかし、Office LiveやLive Gadgetはいますぐ手持ちのWebブラウザで試すことができます。潜在的な利用者層の厚みはこちらの方が圧倒的に大きいのです。

 それ故に、もしも本当により多数の利用者に使われ得る技術を語りたいと思うなら、そしてマイクロソフトという企業に注目していたいと思うなら、“Live”ブランドは決して外せないのではないかと思うわけです。

 ハイライト3・Firefox2リリース

 前回はInternet Explorer 7.0の正式リリースを取り上げましたが、対するFirefoxも2.0にバージョンアップしています。すでに多数の媒体、サイトで取り上げられているので、詳細の説明はここでは行いません。ここでは、Ajaxに強く関連する技術として拡張されたJavaScriptであるJavaScript 1.7に触れておきましょう。

 いうまでもなく、Ajaxで最も重要なプログラム言語はJavaScriptです。ECMAによる標準化(ECMAScript)が行われているほか、XMLリテラルを直接ソースコードに書き込めるようにしたECMAScript for XML (E4X)などの亜種も豊富に存在します。

 しかし、本家のJavaScript、つまりNetscapeより始まりMozillaプロジェクトに受け継がれた本流のJavaScriptの進化も止まっているわけではありません。言語としての価値を高めるために、改良が続けられています。実際、Firefox 2.0のJavaScript 1.7には、ジェネレータ、イテレータ、配列の内包表記、let 式、分割代入などの新機能が追加されています。

画面3 Mozillaディベロップセンターが提供するJavaScript1.7の説明

 しかし、上で述べたようなAjax的なリアリティからすれば、安易な改良は邪魔者でしかありません。要するに、世の中に似て非なる機能を持ったソフトが混在することになる、扱いが面倒になるからです。

 しかし、Firefox 2.0では、JavaScript 1.7の使用宣言が書かれた場合のみ新機能が有効になり、そうではない場合は従来どおりの機能のみが利用できるようです。これなら安心してFirefox 2.0を使うことができます。JavaScript 1.7対応のWebブラウザの普及動向を見ながら、いつでも利用宣言によって機能を有効化できます。

 ところで、Firefox 2.0を“FF2”と略すのは何となりませんかね? 人気ゲームのFINAL FANTASY 2の略称“FF2”と紛らわしく、検索時に困るのですが……。

 そのほかのみどころ

 Ajaxとそれに関連する話題を紹介します。

どきどきのコーフンの人生を、インターネット上に実現

画面4 要素の位置が自由に変えられる

 最近話題が流れないAjaxメーリングリストでアピールしていたサービスなので紹介します。Ajaxを使ったソーシャルブックマーク+ブログサービス+SNS的なサービスです。内容は、「どきどきのコーフンの人生を、インターネット上に実現するためのサイト」です。

 さて、日本人は奥ゆかしいのか、どうも何かを作ってもアピールしないことが多いように感じられます。しかし、それでは多くの人に知ってもらうことはできません。何かを作ったらぜひアピールを、ということはXMLユーザーメーリングリストでもたまに書くことですが、それでも自己アピールする人はほとんどいません。しかし、それではダメなのです。当たり前のことですが、存在そのものに気付かないものを評価することはできません。アピールすれば良いこともあるよ! と一言いうために、これを紹介しておきます。そうです。この連載の紹介枠は限られていますが、アピールされる「何か」はあまりに少ないので、いまアピールすればこの枠で紹介される確率は決して低くはありません!

地図+検索のコードを自動生成

画面5 簡単に自サイトに張れる手軽かつ強力な地図

 検索ボックスが付いたGoogle Mapsの地図を自サイトに埋め込むための支援サービスです。さまざまな条件を入力すると、自動的にスクリプトを含むHTMLコードを作成してくれます。英語版のサービスですが、日本の地名も検索可能でした。といっても、ピンと来ない人もいるかと思います。実際に私がコードを作成した事例を上の「GoogleのMap Search Wizardを使ってみる」のリンクに付けました。

 ちなみに、HTMLに埋め込まれたURL中の&記号が&にエスケープされておらず、手動で訂正する必要がありました。上記ページは、XHTMLを一度経由してHTMLとして送り出される仕組みであるため、この訂正を行わないと通らなかったのです。

 さて、余談ではありますが、相変わらず地図関係の話題は多数あります。それにもかかわらずこれを紹介したのは、地図を手軽に使うことの重要性が高まっていると思うからです。すごい地図、面白い地図もいいのですが、簡単に自サイトに張れる手軽かつ強力な地図へのニーズも高まっているのではないかと思います。

Ajax Samba Client

 Windows用ファイルサーバをLinuxで実現可能とするSambaの名前は有名です。このSambaが扱うファイルを、Ajaxによって操作可能にするものです。ちなみに、SSLBridgeという名前から分かるとおり、暗号化された通信経由で遠隔地のファイルサーバを操作するためのソフトです。具体的なイメージは、Screen Shotsのページを見ると分かるでしょう。

Ajaxで強化されたYahoo! Bookmarks

画面7 操作性をアピールする解説ムービー

 ともかく上記の解説ムービーを見てください。英語で解説されていますが、非常に画面と操作が分かりやすいので、見ていれば分かると思います。ともかく格好良いし、滑らかだし、使いやすそうです。

 PHPSPOT開発日誌のリニューアルされて使い勝手が格段にUPした「Yahoo! Bookmarks」では「Web開発者の方はUIの見本としても参考にできそうな部分が多々ありそうです。」と書かれていますが、まったくそのとおりだと思います。Ajaxのサイトはこう作るのだ……という1つの型、1つのお手本としてもいいと思います。

PlayStation 3

 ついに公私混同して道を踏み外したか……、という印象を持った方もいると思いますが、ACE COMBATが好きだからPlayStation 3発売という話題をここで取り上げようと思ったわけではありません。そもそも、ACE COMBATシリーズのゲームソフトが存在しないゲーム機は、まったく視野に入らないのが私です。それゆえにPlayStation 3の話題には、ほとんど興味もないのが現状です。

 一方で、ACE COMBATシリーズの最新作である最新作ACE COMBAT X Skies of Deceptionは携帯用ゲーム機のPSP対応ソフトということで、初めてPSPを購入して興味を持ちました。そこで、初めてGoogle VideoがiPod/PSP用のMPEG-4動画のダウンロード機能を提供していることを知り、ゲーム機とパソコンの境界線のあいまい化を強く実感したわけです。

 そして、ここからが本題です。境界線のあいまい化は、PlayStation 3でさらに進行しそうです。実は、上記の「西田宗千佳のRandomTracking」の記事で私が注目したのは、あらゆる本筋の話題ではなく、小さく触れられているAjaxというキーワードでした。PS3内蔵のウェブブラウザでも、Ajax対応サイトの閲覧を重視しているという、わずかそれだけの「SCE コーポレート・エグゼクティブ ソフトウェア・プラットフォーム開発本部本部長 兼 ネットワークシステム開発部部長 川西泉氏」の発言が強く印象に残りました。

 もし、本当にSCEの戦略が当たり、多数のユーザーが高解像度の大画面TVに接続されたPS3を使ってインターネットにアクセスするようになれば、Ajax開発者から無視できないスケールのユーザー層が生まれる可能性もありそうです。解像度の上がったTVは、かつてのアナログTVと違って、パソコン用のコンテンツを受け入れるだけの表現力を持ちます。もはや、1998年発売のSEGA ドリームキャストがWebブラウジング機能を提供した時代とは状況が異なるのです。

 AjaxうきうきWatch番外編・FlashシュシュッとWatch

画面8 Javaで書かれたオープンソースのFlashサーバ

 番外編として、少しだけFlashの話題も取り上げます。

Red5 : Open Source Flash Server

 Red5は、Javaで書かれたオープンソースのFlashサーバで、以下の機能を持ちます。

  • ストリーミング オーディオ/ビデオ(FLV and MP3)
  • クライアントストリームの記録(FLVのみ)
  • 共有オブジェクト
  • ライブストリームの公開
  • リモーティング

 現在はバージョン0.6で、開発者向けベータ版リリース(公開テストリリース)となっています。

 ちなみに、ロードマップのページに書かれた“0.9 Use the Force, Release Candidates”や“1.0 Jedi Power, Public Release”は、有名な映画スターウォーズ・シリーズの台詞をもじっていますね。彼らが無事にプロジェクトを完遂できるよう、フォースのご加護を(May the Force be with you)。




古くて新しいAjaxの真実を見極める
「Webインターフェイスの新しい手法」「画期的なWebアプリケーションの仕組み」であるとして開発者たちの人気を集めるAjaxとは何なのか、その真実を見極めてみよう
最終更新 2005/8/2


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