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忘れていませんか? アクセシビリティ

ナレッジオンデマンド
宮下知起
2006/5/25


  リッチクライアントの導入を成功させるためには、用途に適した技術の選定が鍵となると同時に、UI設計が重要だ。UI設計がなぜ必要か、そして、UIがいかにユーザーの生産性に影響を与えるかは、連載「Webアプリケーションのユーザーインターフェイス」を参考にしていただきたい。

・連載「Webアプリケーションのユーザーインターフェイス」(リッチクライアント&帳票フォーラム)

 もう1つ、忘れられがちなポイントがある。それはアクセシビリティだ。
  アクセシビリティについては、国内では日本工業標準調査会が策定した規格「JIS-X8341」が知られている。「JIS-X8341」には、

8341=“(人に)やさしい”JIS

という意味が込められている。ソフトウェアおよびサービスの情報アクセシビリティを確保・向上するために、企画・開発担当者および経営者が配慮すべき要件がまとめられた標準規格である。とくに、本規格の第3部「JIS-X 8341-3」はWebブラウザを用いてアクセスするWebコンテンツやサービス等について規定されたものである。

 今後は、このJIS規格が政府・自治体では調達基準として用いられる可能性が高まっている。米国ではすでに、リハビリテーション法508条として電子・情報技術アクセシビリティ基準が法令化されており、調達基準として制定されているのだ。

 また、W3C(World Wide Web Consortium)も、アクセシビリティに関する基準を策定中だ。「WCAG」(ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン:Web Content Accessibility Guidelines)がそれである。現在、最新規格「WCAG 2.0」への要求が出され、策定作業がさらに進められていく。WCAGは、基本的には体に障害のあるユーザーがその障害によってWebコンテンツやサービスの利用を遮られることないようWebコンテンツやサービスを作る際の指針である。

アクセシビリティからの使いやすさを追求

 これらの規格が、高齢者・障害者にユニバーサルデザインを提供するための規格として認知されてきたために、一部では通常の情報システムやコンテンツ、サービスには関係のない事柄であると取られる傾向が強かった。

 たとえばJIS-X8341-3の基本方針には、「可能な限り高齢者・障害者が操作または利用できるように配慮する」という項目のほかに、「ウェブコンテンツは、できるだけ多くの情報通信機器、表示装置の画面解像度およびサイズ、ウェブブラウザおよびバージョンで、操作または利用できるように配慮する」、「ウェブコンテンツの企画から運用に至るプロセスで情報アクセシビリティを常に確保し、さらに向上するように配慮する」という基本方針が定められている。そして、その細目は独自性が高く、以下のようなWCAG 1.0にはない項目が定められている。

「入力に時間制限を設けないことが望ましい。制限時間があるときは事前に知らせなければならない」

「利用者がウェブコンテンツにおいて誤った操作をしたときでも、元の状態に戻すことができる手段を提供しなければならない」

「ウェブコンテンツの内容を理解・操作するのに必要な情報は、形または位置だけに依存してはならない」

 JIS X8341-3は、WCAG 1.0や米国508条にはない、ユーザビリティ的要素の強い項目が多く含まれている。

 ユーザーの操作性・生産性を追及するWebベースのリッチクライアントを構築する場面で、参考にすべき内容は多いようだ。

すでに国内のイノベータはアクセシビリティに取り組んでいる

 米国では、リハビリテーション法508条が政府の調達基準となっているため、自治体・政府案件でアクセシビリティに取り組む事例が多いようだ。ところが日本国内にいては、取り組みが遅れていると思いきや実情は逆のようだ。「海外に比べて日本の民間企業のアクセシビリティへの取り組みは実は積極的なのです」と語るのは、株式会社インフォアクシア 代表取締役社長 植木真氏だ。「欧米では、政府、地方自治体がやり始め、それに数年遅れて企業が始める傾向が強いのです。ところが、日本で2004年にJIS-X 8341が制定されてから、官公庁、自治体よりも民間企業のほうが積極的なのです」(植木氏)。

株式会社インフォアクシア 代表取締役社長 植木真氏

 たしかに、三越百貨店がECサイトにアクセシビリティを取り入れ、お歳暮やお中元の売り上げにおいて右肩上がりの成長を見せているという結果もある。しかし、国内の意識が高いのは、そういったシニア市場の拡大のみならず、企業の担当者がアクセシビリティの確保をWebスタンダードとして、しっかり認識していることが大きいと植木氏はいう。

「そもそも、Webの生みの親であるティム・バーナーズ・リーは、Webは障害があろうとなかろうと、誰もが同じように使えるものという発想でWebを作りました。そこにWebの本質があります。アクセシビリティを確保するということはWebの前提なのです。Webスタンダードに準拠した時点で、アクセシビリティの何割かは確保される状態になるのです」(植木氏)。

 数年前は、ブラウザ戦争があり、ブラウザの独自タグが登場していた。制作者はブラウザが異なっても同じコンテンツを表示するための作業に明け暮れ、大変な思いをした。しかし現在では、ブラウザもWeb標準に準拠していこうとする流れだ。それを象徴するのがFireFoxの普及でることは誰も否定しまい。マイクロソフトから新たに登場しようとしているIE7も、Web標準を打ち出している。Web全体が、スタンダードに従うトレンドを作ろうとしている。

 「今後は、Webスタンダードに準拠しないことが、さまざまな場面でマイナスになってくるでしょう。XHTML+CSSで構築することが、SEO対策にも、音声ブラウザ対応にもなる。すべてがW3Cの仕様をベースに作られているからです。検品、デバックの効率向上にも、スタンダードは成果を発揮するでしょう」(植木氏)。

 一方、ソフトウェアベンダもアクセシビリティへの対応には積極的だ。アドビシステムズはDreameweaver 8で対応するほか、Flashにおけるアクセシビリティ向上にも積極的だ。また、エンタープライズ向けのリッチクライアント「Flex」においても対応するという。「Flexでは、コンポーネント単位によるアクセシビリティへの対応に取り組んできており、次期バージョンFlex2.0で対応している」(アドビシステムズ マーケティング本部 公共・法人市場部 部長 小島英揮氏)。

 アクセシビリティを忘れたリッチクライアントは“プロプライエタリ”と認識される時代はもうすぐそこに来ているように思える。




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