前編 Web2.0の全体像を整理する
Web2.0の本質から読み取る
Webビジネスの心得とは?


野村総合研究所
技術調査室
堀祐介
2006/2/4

 ビジネスモデルの変化
 (実店舗型からロングテール・サービス型を意識したビジネスへ)

 ビジネスモデルの変化をとらえたキーワードの筆頭はロングテールだろう。ロングテールに着目したビジネスは、これまでのパレートの法則に従えばよかった従来のビジネスの在り方を根本から覆した。ニッチで需要の少ないものまでビジネスターゲットを広げることで、小さな売り上げを積み上げて大きな売り上げにすることに成功した

 店舗や倉庫の物理的空間の制限を受けないWebの特長を生かし、多様な商品や情報を武器にロングテールに着目したビジネスを展開することが、Webビジネスの定石になりつつある。

 ロングテールについてはロングテールの提唱者である米Wired誌のChris Andersonが運営するロングテールブログ/(英文)で興味深い考察がされているので参考にしてほしい。

 もう1つのビジネスモデルの変化をとらえたキーワードはアプリケーションのパッケージ型からサービス型への変化だ。従来はパッケージソフトウェアとして提供されていた部分をWeb上のサービスとして実現し、情報インフラとしてユーザーに使ってもらう動きである。例えばGoogleはGmail (Email)、Googleローカル(地図)、Google Reader (RSS/ATOMリーダー)をWebアプリケーションとして提供しているし、ほかにもWritely(ワードプロセッサ)、Num Sum(表計算)などがある。

 情報モデルの変化
 (静的な情報から混ぜ合わせ活用される情報へ)

 ビジネス構造の2つ目の軸は情報モデルである。

 Web2.0でいうマッシュアップとは2つ以上の情報源を混ぜ合わせ、新たに付加価値を提供することである。マッシュアップの手法を使えば他サイトの情報や機能を利用できるため、短時間・低コストでWebサイトを構築することが可能だ。

 またマッシュアップされる情報ソースの1つとして欠かせないのが、ユーザーから寄せられる口コミ情報である。多くの口コミ情報を集めるためにはユーザーが自ら参加してくれるような仕組み作りと、集められた口コミ情報(ここではコアデータと呼ぶ)を有効に利用する仕組み作りが重要だ。前者をユーザー参加型、後者を集合知の利用と呼ぶ(図表1-4)。母数が大きいほど情報の多様性、網羅性が向上すると考えられるため、一般的に参加するユーザーが多ければ多いほどサービスの利用価値が高まる。

図表1-4 口コミ情報の利用「出所:野村総合研究所」

 技術トレンドの変化
 (テキスト主体から構造化されたWebへ)

 3つ目の軸は技術トレンドのシフトである。Web2.0で登場する技術は、個別に見てみると特段目新しいものではない。AJAXはその名のとおり以前から存在していたJavaScriptとXMLの組み合わせであるし、RSS/ATOMの起源は1999年にNetscape Communications社が開発した仕様だ。

 Web2.0での技術の位置付けは、Webで流通する情報をまとめ上げ構造化するための手段である。例えばAJAXを用いてユーザーインターフェイスを構築し、JavaScript中でWebAPIを呼び出すことで複数のサイトから情報を集め、1つにマッシュアップするということが可能だ。またRSS/ATOMを用いれば、複数サイトにまたがる記事のヘッドラインを1つのRSS/ATOMリーダーに集約することができる。

 Web上を流通する情報の主体がテキストや体裁情報が中心のHTMLからメタデータを含んだXMLに移行することやWebAPIが増えることにより、Webの構造化ひいてはセマンティックWebの実現に向けた動きが緩やかに進行中である。

 つまりこれらの技術トレンドの変化は、ユーザーがさまざまな情報源を集約し利用することを容易にする。

 Webを取り巻く環境の変化

 さて、今度は視点を変えて図表1-1の“Webを取り巻く環境の変化”を整理してみたい。Web2.0の成功事例や先進的事例は、どのような環境変化をビジネスに結び付けたのだろうか? 環境変化の要素を端的に整理するとWebの世界を行き交うモノ(コンテンツ)・ヒト(企業・消費者)・お金(代金・広告料)の流れの変化であるが、ここでは2つの象徴的な例として「情報発信者の多様化」と「コンテンツ間・ユーザー間の相互連携加速」を取り上げる。

 情報発信者の多様化

 従来のWebでは、情報発信者は大手企業・マスコミ・情報リテラシーの高い先進的ユーザーなどに限られてきた。厳密にいえばユーザーがBBSやEmailで情報発信することは可能であったが、これら情報はさまざまなサーバ上やローカルマシン上に点在し、個々の情報はあまり大きな意味を持たなかった。

 Web2.0ではブログ・SNS(Social Networking Site)・Wiki・ユーザーレビューサイトといった情報を発信・集約するツールが誰でも簡単に利用できるようになった。集められた口コミ情報は点在するだけではなく相互に連携し(詳細は次項で説明)、口コミ情報はマス(集団)を形成するようになった。このことはCGM(Consumer Generated Media)と呼ばれ、「ユーザーが情報を発信するメディア」として注目される。

図表1-5 情報発信者の多様化とCGMの台頭「出所:野村総合研究所」(図版をクリックすると拡大します)

 「ユーザーが情報を発信するメディア」となるのはテキストや写真にとどまらない。ユーザー発のPodcastingによる音声や動画の配信もすでに始まっている。

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 INDEX

Web2.0の本質から読み取るWebビジネスの心得は
  Page1<すべては2005年にはじまった>
Web2.0の全体像から本質を整理する/Web2.0がもたらすWebビジネスの構造変化
  Page2<ビジネスモデルの変化(実店舗型からロングテール・サービス型を意識したビジネスへ)>
情報モデルの変化(静的な情報から混ぜ合わせ活用される情報へ)/技術トレンドの変化(テキスト主体から構造化されたWebへ)/Webを取り巻く環境の変化/情報発信者の多様化
  Page3<コンテンツ間・ユーザー間の相互連携加速>
Web2.0の全体像から読み取れるWebビジネスの心得とは?/ユーザー主導型のプラットフォームを取り込む/口コミ情報を最大限に利用する/ロングテールビジネスは規模(アクセス数)の獲得とターゲット(顧客)の設定が必要/自動配信する情報の中身とターゲット(配信先)を設定する/マッシュアップするのか、されるのかを考える/Web2.0でできること




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