三菱重工株式会社 神戸造船所

BizTalk Serverのオーケストレーション機能を活用し、ロング・トランザクション管理を実現

デジタルアドバンテージ
2001/12/06


 造船や原動機、機械、航空機、原子力プラントなど、いわゆる重厚長大型産業のリーディング・カンパニーとして、近代から現代にわたる日本の産業をけん引してきた三菱重工業株式会社(以下三菱重工)は、船舶に搭載するディーゼル・エンジンに最新のIT技術を応用し、“DOCTOR DIESEL”と呼ばれる技術診断システムを開発した。この“DOCTOR DIESEL”では、船舶のエンジンに取り付けられた各種センサーから得られたログ情報を通信衛星経由で三菱重工側のコンピュータ・システムに送信し、長年のノウハウの集積により特別に開発したエキスパート・システムで分析した後、エンジンの状態がひと目で分かるようにグラフ化して、船舶に返送すると同時に、船の運航を管理する運航管理会社にも同様のレポートの送信を行う。これにより、エンジンは無人で常時監視され、エンジン・トラブルの発生を未然に防ぎ、万一のトラブル時にも迅速・的確な対処が可能になる。これだけでも興味深い情報システムだが、今回三菱重工は、“DOCTOR DIESEL”を開発するにあたり、EC(電子商取引)で語られることが多いマイクロソフトのBizTalk Serverのオーケストレーション機能を応用し、船舶上のディーゼル・エンジンの運転状況を記録しているログ・データの取り込みから分析、診断、レポートの作成、送信までの一連の作業を自動的に実行できるようにした。今回は、“DOCTOR DIESEL”の開発を統括した三菱重工(株)神戸造船所 ディーゼル部 部長の須藤 俊氏、実際のシステム開発を担当した企画経理部 システム課 主任の佐々木康成氏を中心にお話をうかがった。

 1884年(明治17年)、三菱の創業者である岩崎彌太郎氏は、長崎にあった造船施設を当時の政府より借り受け、長崎造船所と命名して本格的な造船事業を開始した。それから1世紀有余年。ここであらためて説明するまでもなく、三菱重工は、日本を代表する企業として、日本の近代化を支えてきた*1

 造船事業を足掛かりに、主に重工業分野で成長を続けた同社は、原動機、航空機、鉄道車両、各種プラント、産業用機械、航空/宇宙機器、エアコンと、幅広く事業を展開し、さらに現在では、新エネルギー開発や環境保護、宇宙計画、海洋開発などにも取り組んでいる。現代人であれば、何らかの形で同社製品のお世話になっているといってよいだろう。

 このたび三菱重工 神戸造船所は、船舶に搭載する大型ディーゼル・エンジンに関する国内唯一の開発・製造者としてのノウハウと、最新のIT技術を組み合わせることで、従来は不可能だった船舶ディーゼル・エンジンの保守/管理システムを開発した。“DOCTOR DIESEL”と名付けられたこのシステムは、静止軌道衛星のインマルサットを経由して船舶と三菱重工側のコンピュータ・システムをインターネットで接続し、柔軟性の高いデータ交換を可能にするXML技術を用いて、船舶上から得られたエンジンの各種ログ情報をデータベースに取り込み、解析、診断する(三菱重工の“DOCTOR DIESEL”のニュースリリース)。この後データは、長年にわたるノウハウを集約したエキスパート・システムによって分析され、データは見やすいグラフなどとしてビジュアル化され、通信衛星を経由して再度船舶にメールとして戻される。レポートには、過去2カ月間のエンジン各部の稼働状況や、部品の寿命予測、交換時期を表すグラフなどが含まれる。さらに分析の際、何か異常が発見されれば、その原因と対処法なども即座に船舶側にレポートされる。従来は人間系に頼るしかなかった診断を無人で24時間処理可能にし、世界中を航行する船舶のディーゼル・エンジンの診断を24時間体制で行えるようにした。船舶に搭載されたディーゼル・エンジンを常時監視するこのようなシステムは、世界初とのことである。

 さらに“DOCTOR DIESEL”で注目すべき点は、メールの送受信やデータベースへの書き込み処理、分析処理、グラフ作成処理など、それぞれの機能単位をCOM(Component Object Model)としてコンポーネント化し、必要に応じてそれらを組み合わせることで、さまざまなニーズに柔軟に対応できるようにしたことである。そしてこれらコンポーネントを連携させるロング・トランザクション管理には、マイクロソフトのBizTalk Serverを応用したという。EC(電子商取引)などのBtoB向けソフトウェアとして語られることが多いBizTalk Serverを、エンジン診断システムに応用した背景には、ディーゼル・エンジンならではの特殊な事情と、将来への展望、そして偶然があった。

*1 1884年に創立された三菱重工(株)は、第2次大戦後の1950年、財閥解体によって一時的に分割され、その後の1964年に再度合併して現在に至る。
 
 

 INDEX
[事例研究]三菱重工株式会社 神戸造船所
    1.安全で効率的な船の運航を可能にする「24時間常時稼動の無人支援システム」の必要性
    2.VBでコンポーネントを開発、BizTalk Serverでそれらを連携させる
    3.コンポーネント化とオーケストレーションにより、柔軟なシステムを構築
      技術コラム:「システム統合」と「ワークフロー」の二面を持つBizTalk Server 2000
 
事例研究


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