特集 Windows Server 2003完全ガイド

エンタープライズ市場を開拓する64bit版Windows Server 2003

2.64bit版Windows Server 2003普及の条件

デジタルアドバンテージ
2003/10/16

64bit版Windows Server 2003における32bitアプリケーションの互換性

 ここからはAMD Opteron向けWindows Server 2003をベースに、32bitアプリケーションの互換性について見ていくことにしよう。AMD Opteron向けは、前述のようにService Pack 1のタイミングで追加される予定だ。現在、2003年5月に開催された(WinHEC) 2003で配布されたバージョンがテスト用として提供されている。AMD Opteronは、x86命令をベースに64bit化していることから、32bit環境との互換性が高いといわれている。そこで、ここではMicrosoft Office 2000など、32bitアプリケーションを実際に64bit版Windows Server 2003上にインストールし、動作を確認してみることにする。ただ、組織的に互換性を検証するものではないため、OSの互換性を広く一般に保証するものではない点にご注意いただきたい。なおテストに用いたAMD Opteron搭載サーバについては、System Insiderの「特集:x86互換の64bitプロセッサ「AMD Opteron」の実力と課題」を参照していただきたい。

 まず、Microsoft Office 2000(以下、Office 2000)の動作を確認してみよう。サーバにOffice 2000をインストールすることはあまりないと思われるが、Office 2000はWindowsコンポーネントを多用するため、互換性をチェックするにはもってこいだと考えられる。64bit版Windows Server 2003は、前述のように英語版のみで提供されている。そのため、インストール途中にダイアログ・ボックスに表示される日本語が文字化けを起こして読めない部分がある点と、Wordの編集画面で日本語のインライン変換ができない点以外はほぼ問題なく利用可能であった。ただ、この点も32bit版Windows Server 2003の英語版でも同様なので、64bit版特有の互換性の問題とはいえないだろう。なお、英語版のWindows Server 2003で日本語の入力を行う場合、事前に[Control Panel]−[Regional and Language Options(地域と言語のオプション)]−[Languages(言語)]タブ−[Supplemental language support]の「Install files for East Asian languages」をチェックし、OSのインストールCDから言語パックをインストールしておく必要がある(登録しなくても日本語の表示は可能だが、日本語入力システムが利用できない)。

[Regional and Language Options(地域と言語のオプション)]−[Languages]タブの画面
英語版Windows Server 2003で日本語入力システムを利用可能とするためには、[Languages]タブの「Install files for East Asian languages」をチェックし、インストールCDからフォントなどをインストールする必要がある。

 試しに、Wordで書いた文書をワードパッド(64bit版)にカット&ペーストしてみたが、まったく問題なく可能であった。また、64bit版Windows Server 2003上で登録したプリンタに対して、Wordからの印刷も試したが、これも問題なかった。そこで、実際にWOW64上で動作しているのかを試すため、%SystemDir%\SysWOW64(WOW64のシステムが含まれるフォルダ)の下にあるhhctrl.ocx(HTMLヘルプ・コントロール)をリネームして一時的にファイルを無効にし、Word上でヘルプの表示を行ってみた。その結果、やはりヘルプは表示されなかった。さらに、リネームしたSysWOW64\hhctrl.ocxを戻し、今度は%SystemDir%System32\hhctrl.ocxをリネームした。この場合、Wordのヘルプは、正常に動作した。このことから、32bitアプリケーションでは、%SystemDir%\SysWOW64フォルダにあるDLLやOCXなどが呼ばれていることが分かった。

Wordの動作画面
32bitアプリケーションであるMicrosoft Office 2000は問題なく動作した。64bit版Windows Server 2003であることを意識する必要はあまりなさそうだ。

 次に、デフラグ・ツールのPerfectDisk 5.0 Server版を試してみる。デフラグ・ツールはファイル・システムに依存するため、OSのバージョンが異なると動作しない場合がある。テストに用いたPerfectDisk 5.0 Server版は、Windows Server 2003に未対応であり、32bit版Windows Server 2003でも動作しない可能性がある。そこで、まず32bit版Windows Server 2003での動作を確認した。その結果、問題なく「分析」ならびに「最適化」が完了した。そこで、64bit版Windows Server 2003で試したところ、インストールは可能であったが、「分析」でエラーが表示されて「最適化」の実行はできなかった。32bit版Windows Server 2003では、動作したことから、64bit版の互換性の問題といえそうだ。このように一部のアプリケーションでは、32bit版Windows Server 2003で動作しても、64bit版では動作しないので注意が必要だろう。

 最後に32bit版SQL Server 2000の動作を確認してみよう。マイクロソフト製のデータベースということもあるのか、32bit版でも問題なく動作した。64bit版SQL Serverへの移行を考えた場合でも、32bit版と64bit版の両方が実行できることが望ましい。この点、64bit版Windows Server 2003は問題ないことが分かった。ただ、インストール時のダイアログ・ボックスの日本語表示が文字化けし、SQL Serverのインストールに慣れていないと難しいという点は記しておきたい。やはり日本語対応の64bit版Windows Server 2003のリリースが望みたい。

32bit版SQL Serverの動作画面
すでに64bit版SQL Serverがリリースされているが、64bit版への移植などを考えると、64bit版Windows Server 2003で32bit版と64bit版のSQL Serverが動くことが望ましい。この点についても問題はなさそうだ。

64bit版Windows Server 2003はエンタープライズ市場でシェアを奪えるか?

 さて、最後に64bit版Windows Server 2003の課題について整理しておこう。まず、前述のように64bit版Windows Server 2003 Enterprise Editionの購入は、ボリューム・ライセンスが前提となっていることが障害となりそうだ。大企業であれば、ボリューム・ライセンスで契約しているところも多いだろうが、中小規模の企業には若干敷居が高い。

 その上、64bit版Windows Server 2003には、現在のところEnterprise EditionとDatacenter Editionしか用意されておらず、中小企業への導入を難しくしている。Windows Server 2003自体がオープンプライスであることから、64bit版Windows Server 2003 Enterprise Editionの価格は明確でないものの、決して安いものではないのは明らかだ。マイクロソフトの「Windows Server 2003の出荷開始に関するニュースリリース」によれば、32bit版Windows Server 2003 Enterprise Editionは25クライアント・アクセス・ライセンス(CAL)付きの推定小売価格は71万9000円となっている。64bit版の価格は32bit版と同等であるとしているから、ここ価格をベースに考えると70万円前後となりそうだ。また大手ソフトウェア販売店などでは、32bit版Windows Server 2003 Enterprise Editionのパッケージが42万円前後で販売されていることから、ボリューム・ライセンスにおいても最低40万円はしそうだ。

 クラスタリングなどのWindows Server 2003 Enterprise Edition特有の機能が必要ないユーザーにとっては、単に64bitプロセッサのサポートがほしいだけで、3倍以上の価格を払わなければならなくなるわけだ(Windows Server 2003 Standard Editionのパッケージ価格は5CAL付きで13万円前後)。System Insiderの読者アンケートにおいても、64bitプロセッサ導入の障害として、64bit版Windows Server 2003 Standard Editionが用意されていないことが挙げられている。中小規模の企業へ64bit版Windows Server 2003を普及させるためには、64bit版Windows Server 2003 Standard EditionやWeb Editionが必要となるだろう。

 また64bit版Windows Server 2003を普及させる上でも、より入手が容易な64bit版Windows Server 2003 Standard EditionやWeb Editionが必要であると考える。現在、64bit版Windows Server 2003に対応したアプリケーションが揃いつつあるが、多くは大企業向けのデータベースやアプリケーション・サーバ製品である。64bit版Windows Server 2003が限定した用途向けに販売されている以上、32bit版Windows Serverのようにアプリケーションが豊富にそろうことはないだろう。

コラム
AMD Opteron向けには64bit版Windows Server 2003 Standard Editionを提供か?
 AMD Opteronと同じ64bitアーキテクチャ(AMD64)を採用するクライアントPC向けプロセッサ「AMD Athlon 64」の発表時に配布された、64bit版Windows XPのリリースノートには、「現在、AMD64対応の64bit版についてはWindows Server 2003 Standard EditionとEnterprise Editionのベータ版を提供している」という記述がある。Microsoftは、AMD Opteron向けの64bit版Windows Server 2003に関して、どのEditionを提供するのか明らかにしていない。しかしこのリリースノートを見る限り、IPF版とは異なり、Windows Server 2003 Standard EditionとEnterprise Editionの提供が行われそうだ。

 日本AMDは、「マイクロソフトに対して日本語版による提供を働きかけている」としており、日本語版によるWindows Server 2003 Standard EditionとEnterprise Editionの提供あるかもしれない。もし日本語版によるWindows Server 2003 Standard Editionの提供が行われれば、OSの価格も安いことから中小企業にとっても導入しやすいシステムとなるだろう。

 性能が高い64bitサーバを導入し、64bit版Windows Server 2003によって、複数のサーバを統合しようとした場合、管理ツール類などが64bit対応していないことが障害になると聞く。こうしたアプリケーションがそろうには、64bit版Windows Server 2003のインストール・ベースが増える必要がある。「ニワトリが先かタマゴが先か」の議論になってしまうが、アプリケーションが増えなければ、64bit版Windows Server 2003が普及しないのもまた事実である。そのためには、より広い市場に向けて64bit版Windows Server 2003を提供する必要があると考える。つまり、64bit版Windows Server 2003 Standard EditionやWeb Editionを提供し、フロントエンド・サーバからミッドレンジ・サーバ、バックエンド・サーバまで64bit版Windows Server 2003でサポートできるようにすることだ。そして、こうした環境を整えることこそがアプリケーションを増やす原動力になり、その結果、エンタープライズ市場におけるUNIXやLinuxに対する優位性になるはずだ。IA-32 ELのサポート開始ならびにAMD Opteron対応版の追加が行われるSP1のリリース時点では、64bit版Windows Server 2003 Standard Edition/Web Editionの追加という方針転換が行われることに期待したい。End of Article

 

 INDEX
  [特集]Windows Server 2003完全ガイド
  エンタープライズ市場を開拓する64bit版Windows Server 2003
     1.64bit版Windows Server 2003のメリットと機能
   2.64bit版Windows Server 2003普及の条件
 
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