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エンタープライズ・システム分野でよく耳にする「分かったようで分からない」4つのキーワード(1)

―― Microsoft Conference 2000/fallで行われたデモンストレーションをよりよく理解するための基礎知識 ――

デジタルアドバンテージ 小川 誉久
2000/10/27

 10月24日〜26日、マイクロソフトは、同社最大のビジネス・カンファレンスであるThe Microsoft Conference 2000/fall(以下MSCと略)を東京で開催した(以後、全国各地で同様のカンファレンスを開催)。3回目を迎える今回のMSCは、Windows 2000の最上位バージョンであるWindows 2000 Datacenter Serverの発表直後であること、エンタープライズ製品群である.NET Enterprise Serversの発表時期と重なったことから、マイクロソフトのエンタープライズ市場への強い意気込みを改めて感じさせるものとなった。

MSCのオープニング・セッションに臨むマイクロソフト(株)代表取締役社長 阿多親市氏
合併と買収などによる再編がさらに加速度的にスピードを速めていく現代のビジネス・システムには、アベイラビリティだけでなく、アジリティ(俊敏性)が重要だとした。

MSCの開会宣言にあたる24日初日のゼネラル・セッションでは、Windows 2000 Datacenter Serverを使用したサーバ・システムの高いスケーラビリティや高可用性(ハイ・アベイラビリティ)、同社が提唱するBtoBオーケストレーションによる生産性の大幅な向上を分かりやすく紹介したデモンストレーションなどが行われた。このMSCの第一報については、別稿の「@IT News:マイクロソフト、.NET Enterprise Serversのスケジュールを発表」を参照されたい。またマイクロソフト社は、同日(10月24日)付けで、SQL Server 2000日本語版や、SNA Server 4.0の後継となるHost Integration Server 2000の正式出荷日を始め、新パートナー・プログラム、.NET Enterprise Serversによるソリューションの体験・検証を可能にするEnterprise Computing Labの開設など、エンタープライズ・ビジネス戦略にかかわるいくつかのニュースをリリースした(これらのリリースについては本稿末の「関連リンク」を参照)。

スケールアップ、スケールアウト、アベイラビリティ、アジリティ

 MSCのオープニング・セッションにおいて、マイクロソフト(株)社長の阿多親市氏は、「スケールアップ(scale-up)」、「スケールアウト(scale-out)」、「アベイラビリティ(availability)」、「アジリティ(agility)」というキーワードを強調してWindows 2000 Datacenter Serverと.NET Enterprise Servers製品群に関するスピーチとデモンストレーションを行った。このうち最後の「アジリティ」を除けば、残りのキーワードは、エンタープライズ向け製品の特徴を語る際に、業界で合い言葉のように使われているものばかりである。

 これらのキーワードについて、すぐにピンと来る事情通の人は、以下の記事は読むに値しないだろう。しかし「何度耳にしても、分かったような、煙に巻かれたような気持ちになる」人は、今後は煙に巻かれないように、これらのキーワードについて復習しながら、具体例として今回のデモンストレーションを眺めてみよう。

機能モジュール自体の高性能化、大容量化を図るスケールアップ

 一昔前から、コンピュータ・システムの評価ポイントとして、「スケーラビリティ」という言葉が多用されるようになった。意味は、「現状のハードウェア/ソフトウェア資産を可能なかぎり引き継ぎながら、システムの規模を拡大できる能力」となろうか。たとえばWindows環境は、ポケットサイズ・コンピュータ向けのWindows CEから、デスクトップ クライアント向けのWindows Me/Windows 2000 Professional、サーバ向けのWindows 2000 Server/Windows 2000 Advanced Server、エンタープライズ・サーバ向けのWindows 2000 Datacenter Serverまで、共通性の高いアプリケーション・インターフェイス(Win32 API)を上位ソフトウェアに対して提供しており、各環境におけるアプリケーションやデータ互換性が高いとされる。これをもってマイクロソフトは、「スケーラビリティに優れたWindows環境」とうたう。

 こうしたスケーラビリティの能力を利用し、増大するコンピューティング・ニーズに応じながら機能モジュール自体の高性能化、大容量化などを図ることを「スケールアップ(scale-up)」と呼んでいる。「scale-up」という英語には「拡大された」という意味がある。

 たとえば、Intelアーキテクチャを持つPCサーバには、10万円台で購入できるPentium III搭載のエントリクラスのものから、ハイエンドではPentium III Xeonをマルチプロセッサ構成で搭載する数千万円クラスのものまで実に幅広い。しかしこれらの上では、基本的にアプリケーション向けの上位インターフェイスが共通のWindows 2000 OSを組み込んで使用することができる。このため、クライアント数が増大したり、処理のオーバーヘッドが大きくなっったりして、システムのグレードアップが必要になったときでも、ソフトウェアやデータなどはそのまま持ち越せる(代わりに、ハードウェアは置き換えることになるだろうが)。

日本ユニシスのエンタープライズ・サーバ、ES7000
MSCのデモンストレーションでは、Pentium III Xeon-550MHz×32個を搭載したES7000が使用された。出で立ちはまるで大型冷蔵庫のよう。写真はMSCの展示エリアにあったES7000を撮影したもの。

 MSCのデモンストレーションとしては、世界で20万を超える端末が接続されているという、2拠点間の最低航空運賃算出システム、Amadeus/ITAが紹介された。このデモでは、Pentium III Xeon-550MHz×32個を搭載したユニシスのES7000(写真)を使用し、これにWindows 2000 Datacenter Serverを組み込んでAMADEUS/ITAシステムを稼働させた。ES 7000は、ユニシスが独自開発したCMP(Cellular Multi-Processiong)アーキテクチャによってWindows 2000 Datacenter Serverの能力を最大限に引き出すことが可能とされる(日本ユニシスの「ES7000」のページ)。

 Windows 2000 Datacenter Serverでは、システムの各プロセッサをトランザクション処理に使用するかどうかを管理ツールからダイナミックに操作することができる。そこでこの機能を使って、当初は32個のうちの8個だけを稼働状態にし、端末からのトランザクションを想定した負荷をかける。この状態から、システムを稼働させたまま、16個、32個とCPUを有効化していくと、32個のCPUにトランザクション処理が分散され、システム全体のスループットが向上するというものだ。

 このデモンストレーションの例は、ES7000の搭載CPUを増加させることにより、システムのスケールアップを実現したことになる。

性能/容量の増強とともに、フォールト・トレランス(耐障害性)を向上させるスケールアウト

今述べたスケールアップは、PC本体やサーバの搭載CPUなど、機能モジュール自体を追加または強化することによって処理性能などを向上させるものだった。デモンストレーションにもあったとおり、これによってシステムの性能は向上するだろうが、フォールト・トレランス(耐障害性)とは直接の関係はない。基本的に、強化される機能モジュールは単一のもので、それが多重化されるわけではないからだ。

 これに対しスケールアウトは、システムの性能/容量の増強とともに、フォールト・トレランスをも強化する。この典型的な例は、コンピュータ・システム本体やハードディスク、ネットワークなど、それぞれ独立して機能することが可能な機能単位を多重化するクラスタリングに見ることができる。

 なお「scale-up」と異なり、「scale-out」は一般的な英語ではない(リーダーズ英和辞典にも、ランダムハウスにもそのような単語は収録されていなかった)。つまり、これはコンピュータ業界で作られた造語だということである。

 クラスタリングとは、それぞれ単一でも稼働可能な機能単位を多重化することで、システム全体の信頼性や性能を向上させる技術だ。広義のクラスタとは、独立した複数のサーバからなるが、あたかも1つのサーバ・システムとして機能するものを指す。そしてクラスタリング・システムでは、障害を起こして停止したノードをシステムから切り離し、残されたノードだけでサービス(処理)を続行できるようにする。

コンパックProLiant DL360
1Uサイズ(4.4cm)のラックマウント向けケースにホットプラグ対応ハードディスク・ベイを2つ持つProLiant DL360。スケールアウトのデモンストレーションでは、複数台のDL360にApplication Center 2000とCommerce Server 2000を組み込み、オンライン予約システムのフロントエンドWebシステムとしていた。写真はMSCの展示エリアにあったDL360を撮影したもの。

 MSCのデモンストレーションでは、Webを利用した旅行代理店のオンライン予約システムがスケールアウトの例として紹介された。このシステムでは、1UサイズのコンパックProLiant DL360(写真)を複数台ラックマウントに組み込み、ここにApplication Center 2000とCommerce Server 2000を組み込んで、フロントエンドとなるWebサーバ・システムを構築した。

 そしてバックエンドとなるデータベース・システムには、コンパックProLiant 8500(コンパック社のProLiant 8500のページ)4台をクラスタ接続し、SQL Server 2000 Enterprise Editionを組み込んだ。これによりトランザクション要求は、4台のSQL Server 2000で分散処理される。

 Webブラウザからのアクセスを想定した負荷をかけた状態から、4台あるSQL Server 2000マシンの1台の電源をオフにする。すると、クラスタ構成された別のサーバがこれを検出し、サービスを停止することなく、ダウンしたSQL Server 2000の機能を別のサーバがダイナミックにフェイル・オーバー(代替)する。

 このようにスケールアウトとは、機能単位を並列に配置し、機能・性能の向上とともに、フォールト・トレランス性能も向上させることをいう。今述べた例からも分かるとおり、スケールアウトでは、機能単位ごとに増設が可能なので、スケールアップに比較すると、小刻みな増強が可能というメリットがある。

  関連リンク
  @IT News:マイクロソフト、.NET Enterprise Serversのスケジュールを発表
  「ES700」のページ(日本ユニシス)
  ProLiant 8500のページ(コンパックコンピュータ)
  マイクロソフト、SQL Server 2000日本語版を10月27日より発売(マイクロソフト)
  マイクロソフト、SNA Server 4.0の後継となるHost Integration Server 2000日本語版を11月17日より発売(マイクロソフト)
  マイクロソフト、MCSPを大幅に強化した新しいパートナー認定制度「マイクロソフト認定パートナー」プログラムを2001年1月より開始(マイクロソフト)
  マイクロソフト、.NET Enterprise Serversによるソリューションを体験・検証する総合施設、「Enterprise Computing Lab」を11月下旬に開設(マイクロソフト)
  マイクロソフト、Windows 2000 Datacenter Serverをパートナー企業に提供するWindows Datacenterプログラムを発表(マイクロソフト)
     
 

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