Insider's Eye

Windows .NET Server 2003の発売は2003年4月

―― COMDEX Fall 2002の基調講演にてゲイツ氏語る ――

デジタルアドバンテージ
2002/11/22


 米国ラスベガスで開催されるCOMDEX Fall 2002初日前夜の2002年11月17日、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が恒例の基調講演に臨み、同社の最新動向について語った。

 残念ながら、Windows .NET Server 2003の発売時期が公言されたことを除けば、IT業界にいるわれわれにとって、現実味を伴ったインパクトのある新情報はあまり多くなかった。しかし独禁法問題の決着も見えてきたいま、一皮向けた巨大ソフトウェア企業として、まだ始まったばかりのデジタル情報化時代の「次の10年間」(digital dicade。2000〜2009年)に向けて、家庭から企業までのトータルな情報戦略を進めるマイクロソフトが、どのような手駒を持っているのかが薄いながらも広く分かる講演であった。そこで本稿では、このビル・ゲイツ氏の基調講演から、主要なポイントを拾い上げてみる。

Windowsは家族の社会の窓になるのか?

家庭向け近未来情報端末Smart Displays
Smart Displaysは、リモート・デスクトップの技術と無線通信技術を応用した家庭向け情報端末(開発コード名はMira)。このようにキッチンでも、リビング・ルームでも、書斎でも、どこでも自由に持ち運んで情報端末として利用できる。近未来のコンピューティグがもたらす(であろう)家族団らんの風景。(写真提供:Microsoft)

 講演時間は、大きく、前半がコンシューマ向けに、後半がビジネス・コンピューティング向けに割かれた。このうち前半では、Windows XPのリモート・デスクトップ機能と、無線通信技術を応用して、ディスプレイ・デバイスを自由に持ち運んで使えるようにしたWindows Powered Smart Displays(以下Smart Displays)のデモンストレーションや、個人向けデジタル・ビデオ編集アプリケーションの最新版「Movie Maker 2」(米国版ベータ2がダウンロード可能になった。ダウンロードページ)、デジタル・カメラの画像やTV録画など家庭のデジタル・メディア・サーバとして機能する「Windows XP Media Center Edition」などが紹介された。

 

さまざまな情報を一元管理、参照、編集可能にするOneNote

 後半のビジネス・コンピューティングの話題は、先ごろ発表され、この冬の商戦で緒戦を迎えるTablet PCや、Pocket PCから始まり、2003年夏に発売が予定される次期アプリケーション・スイート製品Office 11に触れた。このOffice 11では、XMLデータ・フォーマットの統合が進められ、Officeの各製品で扱うデータがXML形式として共通化され、バックエンドの情報システムを含めたワークフローの中で、Officeアプリケーションをシームレスに利用できるようにするという(この機能を指して、マイクロソフトは「XDocs」と呼んでいる)。

Dell Axim X5 Pocket PC
デスクトップPCの覇者Dellが満を持して(?)発表したPDA。業績好調なデスクトップPCの勢いで、後発となるPDA市場でも強みを発揮できるのか?(写真提供:Microsoft)

 そしてOfficeファミリの一員として、新メンバが加わることが発表された。これはOneNoteと呼ばれるアプリケーションで、ワードプロセッサのドキュメントや電子メール、Webページなど、現在はそれぞれをバラバラに保存し、別々のブラウザが必要なデータを一元的に管理し、表示し、編集できるようにするというものである。Microsoft .NETの発表時、マイクロソフトは、OLEを使った従来の複合ドキュメントに代わる新しい情報の在り方として、ユニバーサル・キャンバス(universal canvas)を提唱していたが、これを実装したものがOneNoteだろうか。あるいは、ユニバーサル・キャンバスの実現に向けたアプリケーション側からの最初のアプローチということだろうか。今回のゲイツ氏の講演でもその点は特に触れられておらず、詳細は不明である。

 以下、マイクロソフトが公開したOneNoteの画面キャプチャをご紹介しよう。多数のウィンドウを(比較的)使いやすく・分かりやすく切り替え可能にするタブ・インターフェイスが駆使されていること、文書への手書き文字の追加や、重要部分へのマーカー(蛍光ペンによるマーク)の追加、メール機能が統合されていることなどが分かる。

 
OneNoteの画面(その1) コンサルタントが使うOneNoteの例
学生が使うOneNoteの例。ドキュメントに手書きメモが挿入されている。ドキュメントの上側と右側にそれぞれタブがある。このうち上側は「notebook tab」と呼ばれるもので、ノートを切り替える。右側は「page tab」と呼ばれ、ページを切り替えるためのもの。さらに右側には、ToDoリストらしきものが見える。(画面提供:Microsoft) ツール・バーとドキュメントの間にメールのあて先や件名を指定するフィールドが見える。どうやらOneNoteで受信メールを表示した所のようだ。(画面提供:Microsoft)
 
エンジニアが使うOneNoteの例
重要と思われる部分にマーカーがひかれている。また右側のペインでは、検索を実行している。(画面提供:Microsoft)

さりげなく触れたユニバーサルXMLストレージ

 エンジニアばかりが集まるわけではないCOMDEXの基調講演なので、あまり技術に踏み込んだ話はなかったが、同社が着々と進める新ストレージ・システムについてもさりげなく触れられた。これによれば、OS自身のファイル・システムも、「ユニバーサルXMLストレージ」に向かって根本的な改良が加えられる。これにより、さまざまに異なるデータ形式に対し、統一的な検索方法が確立し、横断的かつ統一的なナビゲートが可能になるという。「これは現在の私たちにとって最重点課題であり、最大の投資先でもある」(ゲイツ氏)。

 一時に比べると、話題性もひと段落してしまった感があるWebサービスであるが、講演では、ビジネス印刷サービスのメジャー企業「Kinko's」が開発中のWebサービスが紹介された。これは「File, Print, Kinko's」と呼ばれるサービスで、印刷サービスの受付インターフェイスをWebサービス化することで、出張先のホテルなどからでも、あたかも手元にあるプリンタを使うような感覚で、ドキュメントの印刷依頼を行えるようにするという。実用性は未知数だが、このようなWebサービスの開発案件は水面下で多数進行しているに違いない。さらなるWebサービスの拡充を期待したい所だ。

生活用具に知性を与えるSPOT(Smart Personal Object Technology)

SPOTデバイスを前にご機嫌のビル・ゲイツ氏
SPOTは、日常生活用具にマイクロプロセッサとネットワーク機能を搭載し、それらに知性を与える。もはや目覚まし時計は、自分がセットした時間に鳴るとは限らない。(写真提供:Microsoft)

 マイクロソフトは、これまでは高度な情報処理とは無縁だったさまざまな生活用具(オブジェクト)に通信機能と知性を与え、さまざまな局面で人間の生活をインテリジェントに支援するために、SPOT(Smart Personal Object Technology)と呼ばれる技術を発表した。SPOTとは、日常生活で使用するさまざまな物にソフトウェアを実行可能なコンピュータ(コンピュータ・チップ)を搭載し、ネットワーク機能を持たせることで、それぞれが自立的に情報処理を行えるようにすると同時に、ネットワークを通して相互に連携し、処理を行えるようにするための技術である。ビル・ゲイツ・氏の説明では、SPOT対応のデバイスとして時計や札入れ、ペン、キーホルダーなどが例に挙げられた。

 講演では、SPOT対応の目覚まし時計を例にとり、時計がスケジュール情報を読み込んでアラーム時間を設定したり、時計が現在の天候や交通状況を検知して、アラーム時間を自動的に調整したりするデモが行われた。

 11月19日付けのニュース・リリース[英文]によれば、米National Semiconductorが、マイクロソフトと共同でSPOTに対応したチップセットを開発するという。

 ビル・ゲイツ氏は「来年(2003年)にSPOTオブジェクトが発売されるまでとても待ちきれない」と呼べた。果たしてゲイツ氏の目覚まし時計は何時に鳴るのだろうか? それはさておき、オブジェクトに振り回されない生活であってほしいものだ。

Windows .NET Server 2003(英語版)の発売は2003年4月

 そして途中でさりげなく、Windows 2000 Serverの後継となるWindows .NET Server 2003(英語版)の現在の発売目標が2003年4月であることが発表された(この件に関するニュース・リリース[英文])。公式発表ではないものの、これまでは2003年初旬とする説が有力だったが、春までお預けである。ただし今回は、前述したとおり正式なニュース・リリースも発表していることから考えて、2003年4月というのはある種の決意表明とも受け取れる。Windows .NET Serverについては、本フォーラムの以下の記事も併せて参照されたい。

 ゲイツ氏の説明によれば、数週間のうちにRC2が公開されるとのことだ。このRC2は、かなり広範囲に提供されるとしている。

 これまでもそうであったように、すべてがビル・ゲイツ氏の思惑どおりに運ぶことはないだろう。けれども相変わらず、マイクロソフトは全力疾走している。ITバブル崩壊でNASDAQの株価低迷は悲壮感さえ漂う状態だが、それでも「次の10年」は動いているということだ。次のブレークスルーはどのようにしてやってくるのか。それを決める一票は私たちの手の中にもある。End of Article

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