Insider's Eye

気になるプロセッサのマルチコア化とプロセッサ・ライセンスの関係

―― Microsoftがマルチコア・プロセッサに対しても、変わらずシングル・ライセンスを適用する狙いとは? ――

Michael Cherry
2004/12/28
Copyright (C) 2004, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.


本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌『Directions on Microsoft日本語版』 2004年1月号 p.16の「マルチコア・プロセッサにシングル・ライセンス適用の狙い」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 AMDとIntelがシングル・パッケージに複数のコア(プロセッサ)を組み入れ、新しいマルチコア・プロセッサを出荷するのに合わせて、Microsoftはソフトウェア製品のライセンス数はプロセッサに入っているコアの数ではなく、プロセッサの物理的な数だとする方針を発表した。マルチコア・プロセッサであってもライセンス費用が増加しないため、新たに投入されるデュアルコア・システムの需要が高まることが予想される。だがこの先、マルチコアのパフォーマンスが改善された場合には、何らかの変更が発生する可能性もある。

ハイパースレッドと次世代マルチコア

 半導体メーカーを板ばさみにする悩ましい問題の1つに、ユーザーがより高性能なプロセッサを求め続けることがある。しかし、消費電力と発熱の問題から、半導体メーカーはプロセッサの実装密度も、クロック・スピードも上げることができないでいる。

AMDとIntelはなぜデュアルコア化を急ぐのか?

 プロセッサがより多くの処理をこなすには、同時に複数のインストラクション(CPU命令セット)を実行させるのが1つの解決法である。例えば、Intelのハイパースレッド・テクノロジを採用したプロセッサ(HTテクノロジ・プロセッサ)は、一度に2つのスレッドを処理できる。しかし、HTテクノロジ・プロセッサ上のスレッドは、すべてオンボード・キャッシュのようなリソースを共有している。このためリソースへのアクセスの競合が発生した場合は、プロセッサのスループットが制限されることになる。

 次世代プロセッサでは、シングルプロセッサ・チップに複数のコアを装備することで、複数のスレッドをサポートできるようになる。プロセッサのそれぞれのコアが、メモリ・キャッシュのような専用リソースを持つようになる。その結果、消費電力と発熱を最小限に抑えるため、遅いクロック数で動作しているシングルプロセッサでも、現状のシングルコア・プロセッサと比較すると125%から140%のパフォーマンスを発揮できる。

 シングルチップ用デュアルコア・プロセッサのシステムは、プロセッサ2基の搭載システムほど速くはないだろうが、省電力性を考えれば、デュアルコア・プロセッサは受け入れられやすい。Intelは2007年までに少なくとも80%のサーバ用Intelチップがマルチコアになると見込んでいる。

マルチコアでも追加ライセンスは不要

 一般にソフトウェアは、デュアルコア・プロセッサ上で動作していても、2台の独立したプロセッサ上で動作していても、システム的な観点からいえば同じである。そのため、多くの企業向けソフトウェア・ベンダはそれぞれのコアをプロセッサとして取り扱い、デュアルコア・システムで動作するソフトウェアに関しては、必要なライセンス数を2プロセッサ分課している。

 これまでMicrosoftは、シングルプロセッサのスループット処理の性能により、ライセンス料を変動させることは行っていない。例えば同社は、ストリーミング・マルチメディア処理を高速化したMultimedia Extensions(MMX)が登場したときでもライセンス契約については変更していない。物理的には、1つのプロセッサをOS上で2つのプロセッサとして動作させるハイパースレッド・テクノロジの場合も同様になる。今回についても、Microsoftはこの流れを変えず、ライセンスの数はコア数でなくプロセッサ数で決めるという方針を固めた。

 例えば、シングルコア・プロセッサを4基搭載するサーバ上でMicrosoft SQL Server 2000を使用する場合、1つのWindows Server 2003 Standard Editionのライセンスと4つのSQL Serverのプロセッサ・ライセンスが必要となる。これは、デュアルコア・プロセッサを4基(プロセッサは物理的に4基だがコアは8個)搭載するコンピュータにサーバをアップグレードしたとしても、物理的なプロセッサ数が同じであるためライセンス数は変わらない。

 Microsoftは、マルチコア・プロセッサのライセンス体系が、エンドユーザー・ライセンス契約(EULA)や製品使用許諾契約(PUR)のどちらにも大きな変化をもたらすとは考えていない。

 もっともマルチコア・プロセッサが改良され、マルチプロセッシング・システムに対抗するスループット処理能力が提供されるようになれば、Microsoftはこのライセンス体系を見直すことになるかもしれない。しかしいまのところ同社は、価格的に魅力のある高性能のマルチコア・プロセッサがWindowsベースのサーバの販売を促進し、さらに多くのライセンス売り上げにつながることを期待している。もちろん、Microsoftがライセンス料を追加要求しないのに、競合他社がライセンス料を課すことになれば、他社とはよい意味で差別化を図れることになるだろう。End of Article

Directions on Microsoft日本語版
本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。『Directions on Microsoft 日本語版』は、同社のWebサイトより定期購読の申し込みができます。
 
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