中立だからこそ説得力がある

―― MSの主力コミュニティ支援活動、MVPプログラムの舞台裏 ――

マイクロソフト株式会社
コミュニティエンゲージメント推進部
部長 兼 MVPリージョナルマネージャ
沼口 繁 氏

聞き手:Windows Server Insider編集長 小川 誉久
2006/07/14

 ここ数年、マイクロソフトによるユーザー・コミュニティ支援が目立って活発化している。その中心的なプログラムとしてMVP(Microsoft Most Valuable Professional)がある。これは、インターネットなどで、マイクロソフト製品やテクノロジに関する熱心なコミュニティ活動を行った人を表彰するものだ。マイクロソフトがユーザー・コミュニティを積極的に支援する背景には何があるのか? 日本のMVPプログラムをリードしているマイクロソフトの沼口繁氏に伺った。

MVPプログラムとは?

 

沼口:MVPプログラムが米国で開始されたのは1992年。当初はパソコン通信サイトのCompuServe(コンピュサーブ)の電子掲示板などで、ユーザーの質問に積極的に回答してくれている人に感謝の意を表するものだった。その後2000年から、米国以外も含めた各国向けのプログラムに拡張した。2000年当時はまとまった予算もなく、社内体制も整っていなかったため、各国が独自の裁量と判断で活動していたが、2002年からは米国本社できちんと予算も付け、全世界で統一的な活動として整備され現在に至っている。2006年7月時点で、全世界で3559人、日本国内では221名がMVPアワードを受賞している。

MVPプログラムの目的は顧客との距離を縮めること

 

沼口:マイクロソフトはパッケージ・ソフト・ベンダであり、ビジネスは間接販売モデルの典型である。製品は販売店やSI(システムインテグレータ)パートナーなどを通じて販売するため、直接顧客と接する機会がない。このため顧客から見たマイクロソフトまでの距離、逆にマイクロソフトから見た顧客までの距離感は非常に大きい。コミュニティ支援活動を活発化させる以前は、製品は売れても顧客の支持が得られない、という問題意識が強かった。

 この問題を解決して、顧客とマイクロソフトの距離を縮めるために、ユーザー・コミュニティで活発に活動する人たちと双方向でやりとりできる場をつくること、これが2002年以降に本格化したMVPプログラムの狙いである。顧客にはマイクロソフトをもっと身近に感じていただき、マイクロソフトとしては、顧客からの声をフィードバックとして製品に反映させる。こうしてより優れた製品を開発し、顧客に届けることで、顧客満足度を向上させるのが目的である。

相互扶助で生産性を高めるコミュニティ

 

沼口:これはMVPプログラムやマイクロソフトに限った話ではないが、コミュニティの本質は「知識や経験を他人と共有する場」である。技術の発展と普及に情熱を持って、積極的にコミュニティ活動をしている人たちを支援するために、ベンダとして何ができるか。マイクロソフトが出した答えの1つがMVPプログラムである。マイクロソフト製品を理解してくれるコミュニティ・リーダーが少しでも増えて、知識や経験を共有してくれる人が増えれば、結果として、参加者自身を含め、相互扶助により参加者同士が互いに生産性を高められる場が形成できると考えている。

顧客の声を直接製品開発チームに届ける

 

沼口:MVPプログラムの外部へのアピールはもちろんだが、同時に、マイクロソフト社内に対するプログラム価値のアピールも重要だ。変化の激しい時代に、顧客満足度の高いソフトウェアを開発するには、顧客視点の要望に耳を傾けることが非常に大切である。現在のようなMVPプログラムができる以前は、開発担当者が顧客の声を聞きたくても一部の限られたパートナー経由しか手段がなかったが、MVPプログラムのおかげで幅広いチャネルができた。

 例えばVisual Studio 2005を例に挙げると、初期の機能レビューの段階で18名のMVPが参加し、以後のアルファ・バージョンでは290名がテストに参加した。ベータの段階で、Visual Studio 2005は10件の仕様変更をしたが、そのうち4件はMVPからの要望だった。ベータ段階での仕様変更は異例だが、そのうち約半分はMVPの声がきっかけになったということだ。もちろん、都合の良いベータ・テスターとしてMVPを利用しているわけではない。MVPの要望を反映することは、それを提案したMVPにとっても大きなメリットがあり、同時に多くの顧客にとってもメリットがある。

MVPに対するメリットがなければ実行しない

 

沼口:MVPプログラムを預かる私たちのチームの仕事の1つは、社内のさまざまな部門と、MVPや顧客をつなぐことだ。マイクロソフトはソフトウェア・ベンダであり、最終的には製品を販売して利益を得ている。このため誤解もやむを得ない側面があるが、単なるマーケティングの道具としてMVPプログラムを使うことは厳に慎んでいる。

 MVPプログラムを運営している母体はサポート部門であり、あくまで顧客側に立つ立場であって、製品販売にはいっさい責任を負っていない。もちろん、マーケティング担当者が、私たちのコミュニティ活動に関心を寄せることはある。しかし私たちMVPチームとしては、マーケティング担当者の期待だけでなく、MVPの方々の期待にも同時に応えられなければ実行しない。米本社のMVP担当ディレクターであるショーン・オドリスコル(Sean O' Driscoll、以下のコラム参照)も、常々「MVPを無料の外部ベンダとか、無料の外部エバンジェリストなどとして使ってはいけない」と繰り返し戒めている。MVPの意見や希望をねじ曲げてまで、何かを実行することはない。

 また製品の販売担当者の立場に立てば、製品の長所だけを主張して欠点は隠したいと考えるのは人情だと思うが、あくまでゴールは顧客に製品を信頼して購入してもらうことだ。欠点のない製品はないことをすでに顧客は十分理解している。いいことばかりを発信しても説得力がない。また仮にそうした情報発信を行っても、ブログや掲示板などで、個人の声が瞬く間に世界に伝わる現代にあっては、すぐにボロが出てしまう。MVPプログラムにより、ニュートラルでポジティブな人を大切にし、長所も短所も含めた彼らによる情報発信を支援していく。もちろん、誤解のない情報を発信してもらうために、出せる情報はどんどん提供していく。

IT技術者が胸を張れる環境をつくりたい

 

沼口:すでに日本のMVPも221名の規模になった。しかし日本の経済規模などを考えると、まだまだ増やす必要があると考えている。米国などでは、個人が持つネットワークの価値が社会で高く評価されており、たとえ企業に帰属していても、外部のコミュニティに積極的に参加して、個人の評価を高めることで、所属する企業の評価も高まると考えるのが一般的だ。しかし日本では、このような社会活動はあまり評価されていない現状がある。このため国内には、高い技術力と、社会貢献への情熱を持っていながら、企業に埋もれているIT技術者が非常に多いと考えている。こうした人たちが、MVPとして活動できる環境をつくっていきたい。

 また日本には優れたIT技術者がいるにもかかわらず、あまり注目されておらず、花形職業にもなっていない。若い人たちがあこがれる職業になっていないのが現状だ。MVPプログラムを通して、技術者は素晴らしいということを、これからの技術者のタマゴたち、また非技術者の人たちにもアピールしていきたい。

 そして、そんな素晴らしい技術者が日本にはたくさんいるということを、世界に対して主張しなければならない。このためには、米国でできたものを単に日本に持ってくるだけでなく、逆に日本から積極的に情報を発信する必要がある。マイクロソフトはグローバル企業であり、こうしたアピールをしやすい環境が整っている。2004年2月から開始されたMVP Insider では、すでに7名の日本選出のMVPがグローバルに向けて紹介されている。End of Article



驚くほど世界のコミュニティは共通している

Sean O'Driscoll
Senior Director
CSS Community & MVP
Microsoft Corporation

米MicrosoftにおけるMVPプログラムの総責任者であるショーン・オドリスコル氏にメールでインタビューすることができた。全世界の活動を総括する立場のオドリスコル氏には、世界における日本のMVPコミュニティの特徴について伺った。

 立場上、「世界のMVPコミュニティと比較して、わが国の特徴は何か?」という質問をよく受ける。しかし全世界を旅しながら、各国のコミュニティ活動を見て強く感じることは、違いよりも、驚くほどそれらが似通っていることだ。

 例えばMVPコミュニティを支える力はMVPの人々のモチベーションだが、これは世界のどこに行っても共通して「他人を助けたい」という気持ちだ。結果としてMVPによりマイクロソフトは助けられているが、MVPが活動するのはマイクロソフトを助けるためではない。

 また人々がコミュニティに集まる理由も世界共通である。「自分と同じユーザーからの情報を第一に信用する」ということだ。メーカーを信用しないというわけではないが、メーカーからの情報は公平でない場合もある。メーカーよりも、ほかのユーザーを信用しているのだ。

 日本のコミュニティを見ていて特徴的だと思うのは、匿名掲示板が非常に活況だという点だ。しかし私自身は、匿名掲示板よりも、投稿者が明らかにされる認証ベースのコミュニティの方がより重要だと考える。

 質問に答えたユーザーが「懸賞ポイント」を獲得できるというエンドユーザー向け相互扶助コミュニティ「答えてねっと」が日本では大変な成功を収めた。しかしほかの国でこのモデルがそのまま成功するとは思えない。例えば米国で同じようなコミュニティを立ち上げたとしても、一部の不心得な利用者に乱用されて正常に機能しなくなるのではないかと想像する。

 こうした共通点と差異を見極めながら、今後も世界規模でのコミュニティ活性化を進めていきたい。

 
 「IT PRO POWER INTERVIEW」


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