再燃するインスタント・メッセージ戦争

山崎俊一
2001/05/10

 インスタント・メッセージ(Instant Messaging)、略してIMとは、例えばAOLやMSNのメッセージ機能を指します。中学、高校生は「めっせ」などと呼び、チャットの延長みたいに使われているようです。ここまでは「おこちゃま」の話題ですが、米国では1日1億通のIMが飛び交っているとされ、近い将来、Webコミュニケーションの中核をなす可能性が指摘されています。

IMの威力

 IMの詳細については、用語解説(インスタント・メッセージング)をご覧ください。

 その特徴は、何よりスピード感でしょう。ほぼリアルタイムの会話感覚でテキストを交換できるのはチャットと同様です。相手がオフラインなら、メールを送るとか、ページング(ポケベルやケータイ呼び出し)や(回線交換の)電話を呼び出すといった多様性も備えています。相手のプレゼンス(在/不在、会議中、昼食中などの状態通知)と連動するところがポイントで、インジケータ領域(システム・トレイ領域)のIMエージェントがコミュニケーション・ポータルを担う、という形が想定されているようです。

 例として、MSN Messengerの画面を以下に示します。

MSN Messenger
他のメンバがサイン・インしたり、メンバからメッセージが送られてきたりしたときには、インジケータ領域(システム・トレイ領域)に常駐しているエージェントから通知を受ける。このようにMSN Messengerのメイン・ウィンドウでは、他のユーザーの現在のプレゼンスをリアルタイムに確認できる。
  仲間を追加する。
  相手を選択して、インスタント・メッセージを送る。
  相手のコンピュータを呼び出すか、相手の電話(通常のボイス電話)に対して電話をかける。
  あらかじめ設定してあるページャ・アドレスに対してメッセージを送る。ただし米国向けのメッセージのみが送信可能。
  現在、MSN Messengerサービスにサイン・インしているユーザー。ただし一定時間アクセスがないと、自動的に「一時退席中」などに状態が変わる。
  現在、MSN Messengerサービスからサイン・アウトしているユーザー。これらのユーザーに対しては、電子メールの送信のみが行える。
 
インスタント・メッセージ・ウィンドウ
インスタント・メッセージを送信すると、専用のウィンドウが表示され、ここでメッセージをやり取りできる。画面は最新のMSN Messenger Ver.3.6.0026(米国版)のもの。
  相手との会話は、この部分に順次表示されていく。
  自分の発言はここに入力し、右の[Send]ボタンを押す(または[Enter]キーを押す)。

 MSN Messengerの主要な機能をまとめると次のようになります。

主な機能
追加したメンバ(「buddy」と呼ばれる)のプレゼンス表示
インスタント・メッセージの送受信(1対1、または1対多)
ページャ呼び出し(モバイル・デバイスへのメッセージ送信)。ただし筆者手元では動作未確認
MSN Messengerユーザー同士の音声通話、MSN Messengerと通常の電話間での音声通話(ただし接続ポイントは米国だけらしい)。在来メール機能の統合+着信アラート機能(Hotmail)
ファイル送受信
MSN Messengerの主な機能

業界対立の構図

 先の用語解説にあるとおり、IMの原点はイスラエル生まれのフリー・ソフトウェア、ICQです(“I seek you:アイ・シーク・ユー、君を探す”の語呂合わせ。1996年誕生)。そのAOLバージョンがAOL Instant Messenger(略称AIM)で、現在ではICQおよびAIMの無料アカウント総数は9000万前後に達し、圧倒的に他をリードしています。

 出遅れたMicrosoftは、1999年7月、MSN Messengerをリリース、AOLと激しい競争になりました。争点は、AIMのプレゼンス情報(ユーザー名データベース)の第三者利用で、これをAOL側は「サーバへの無断侵入」と非難し、MSN側は「AOLの排他的独占支配」を非難しています。このMicrosoftを始め、AOLに対抗する各社は、IMUnifiedという団体をつくり、プレゼンス情報の標準化も提案していますが、先は長そうです(IMUnifiedのホームページ)。

IM業界地図
各社の発表資料から、IMを巡る業界勢力を図示したもの。
:AOLの登録者数はAOL発表資料。MSN登録者数はNetRatings社による2001年1月の推計。Hotmail/Passportユーザー数はMicrosoft社広報資料。ただしこれは、登録はしたがほとんど使われてないアカウントも含む数値と思われる。
(Hotmail/Passportユーザー数に関する米Microsoftのニュース・リリース)。

24時間常時接続でIM利用が加速?

 IM戦争激化の背景として、以下の理由が挙げられます。

  •  IMユーザーの急増(過去1年で4000万人増加)。電子メールをしのぐ勢い
  • 24時間常時接続の普及傾向で、IM利用が加速
  • 企業あるいは業務でのIM利用増加

 ADSLなど、24時間常時接続になると、いつでもIMが使えることになります。その分、電子メール利用の減少が予測されます。ニュースなどの新着通知もIMが有利と考えられます。

 同様に、IMのボイス・チャットは回線交換の電話利用を減らすかもしれません。双方が常時接続されたPCなら、タダでいくらでも音声通話を行うことが可能だからです(ただしマイクは必要)。

 ただし前出のとおり、MSN Messengerには、PCから通常の電話に接続するサービスもあります(米国net2phone社のOEM機能)。一方では、海外ケータイ業界の大手3社、米モトローラ、ノキア(フィンランド)、エリクソン(スウェーデンも共通IM仕様の開発を始めています(ワイヤレス・ビレッジ構想、2002年製品化予定。ワイヤレス・ビレッジ構想に関するノキアのニュース・リリース[英文])。

MSNBCのニュース・アラート
ZDニュースやMSNBCの新着ニュース(動画)などの通知を受けられるサービス。HTTPプッシュを利用し、インスタントメセージとよく似た動作になる。MSNBCホームページ <http://www.msnbc.com/tools/newstools/d/news_alert.asp>からダウンロードできる。

IMの展開

 今後のIM普及のキーポイントとして、次の3点が指摘されています。

  • 企業向けIMシステム(グループウェアの機能強化)
  • セキュリティ問題
  • 複数サーバ接続。AIM、MSNその他にまたがるIM送受信

 IMの業務利用は、商談や会議はもちろん、警察やER(救急医療)など、電子メールでは遅すぎるといった分野への進出が期待されています。障害者の通信手段や遠隔教育、遠隔医療といった分野でも有望とされています。電子メールに比較すると、IMはより音声電話に近い位置づけで、交信記録も後々に残らないという前提のコミュニケーションなので、会話に必要な手間暇が激減するという2次効果も注目されています。ただし、だから危ないという一面もあります。つまり次に挙げるセキュリティ問題が最大のネックです。

最大の弱点、セキュリティとeFront社崩壊事件

 フリー・ソフトウェア育ちのIMには、セキュリティの概念が希薄です。今年3月、これを象徴するような事件が起きています。

 Web営業代行のような事業を展開していたeFront社(カリフォルニア州。eFron社のホームページ)は、ネットバブル崩壊で給料未払いとなり、怒った元社員がCEOのICQ記録を盗んで公開してしまいました。その交信内容で、会社経営の実態がすべて暴露され、大半の幹部は退社、業務は停止してしまいました。

 これは氷山の一角で、実際、仕事にIMを使っている人は無数にいるし、社内でプライバシー漏洩といったケースも珍しくはないようです。ICQに限らず、どのIMもセキュリティは保証していません。怖い話です。

 ちなみに、企業内IMシステムとしては、IBMのコラボレーション・ツール、Lotus Sametimeがあります。これはLotus Notesとの組み合わせで「e-ミーティング」や「Web会議」を可能にします。外部接続(AIM)も可能とのことです(Lotus Sametimeのページ)。

注目は第三者ソフトウェア

 AIMやMSN Messengerは、そのユーザー間でだけインスタント・メッセージを交換できます。これは技術的問題というよりIM戦争の弊害みたいなものです。そこで注目されるのが、AOLにもMicrosoftにも縛られない第三者製IMクライアントです。

 例えばOdigoは、AIM、ICQ、MSN、Yahoo!と相互通信可能で、その他さまざまな特徴を備えており、今最も注目されているようです(Odigoのホームページ)。このOdigoは、IMUnifiedの共通プロトコルであるIMIP(Instant Messaging Interoperability Protocol)に準拠しています。

 なお、細かい話ですが、MSN MessengerはWindows XPに同梱される予定です。IE 6で予定されていたエクスプローラ・バー拡張も微妙な問題をはらんでいます。Public Preview版では、新規に追加されたコンタクト・バーからIMを発信可能ですが、これはAIMメンバには送れません。しかし、また抱き合わせという非難を受けないように、製品版ではこの機能の変更が予想されています。これに対し、ごく最近、「AOLがIEの配布をやめるのでは?」という噂が流れています(以前はAOLのCD-ROMにIEとNavigatorが同梱されていた)。

 こうしてみるとIMが便利なことは確かですが、まだ安心できない点もみられます。ビジネスに使う場合、パスワードなど機密情報は隠し、最後にメールによる文書化で確認するといった慎重さも必要でしょう。それでも、この手軽さ、速さは大きな魅力です。やがては、デスクトップ上の唯一のメッセンジャー・オブジェクトがすべての対話(IM、メール、電話、ファイル転送、そしてスケジュールなども)を担うようになるかもしれません。そういう意味でも、しばらくは目が離せない話題のように思えます。End of Article


山崎俊一(やまざき しゅんいち)
CD-ROMの標準化やSGMLの標準化作業に参加。ドキュメンテーションとコンピューティングの接点で古くより活躍する。またパーソナル・コンピュータの可能性にいち早く注目し、MacintoshやMS-DOS、Windowsのヘビーユーザーとして、コンピュータ関連雑誌、書籍などで精力的な執筆活動を展開、業界の隠れた仕掛人である。

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