特集
Windows 2000とは何か?(改訂新版)

2.マイクロソフトのWindows 2000戦略

デジタルアドバンテージ
2000/05/25


 16bitのキャラクタベースのOSであるMS-DOSに対し、グラフィカルユーザーインターフェイスを搭載することを目的として開発が開始されたWindowsは、それを開発したMicrosoft自身も予想だにしなかった運命をたどり、今もなおその不思議な運命が続いている。

 1980年代後半、Windows Ver.2.0の開発と並行してMicrosoftは、OSとしてはあまりに非力だったMS-DOSの次世代を担うOSを開発するために、IBMと共同でOS/2の開発を進めていた。しかしこのOS/2上には、PM(Presentation Manager)と呼ばれるウィンドウシステムがあり、これはWindowsとは非互換のAPI(Application Program Interface)を備えていた。つまり、Windows用アプリケーションは、OS/2上では実行できなかったわけだ。巨人IBMと、MS-DOSの普及に成功したMicrosoftのコンビによって開発されるOS/2は、次世代のPC用OSの標準となることを誰も疑わなかった。しかし官僚的な体質を持つIBMとしっくりいかなかったMicrosoftの一部の物好きなプログラマが、静かに死を待っていたWindowsプロジェクトに加わり、勝手に保護モードへの対応を行ってしまった。それを見たビル・ゲイツは、「(OS/2よりも)われわれはこれをやるべきだ」と180度の方針転換を図り、輝かしいWindowsの歴史を切り開いた(その後OS/2は、IBM単独で開発が進められることになった)。

 しかしOS/2の共同開発を中止するという発表後、今度は次世代の32bit OSをMicrosoftが独自に開発することが決定された。こうして開発された32bit OSが現在のWindows NTであり、これはWindows 2000のベースとなったOSである(コラム:Windows NTの歴史)。するとWindowsは、今度は「Windows NTを普及させるまでのつなぎ」と位置づけられるようになった。

 ところがWindowsは、NTの陰に甘んじるどころか、Microsoftの予想を大きく超えて、多数のユーザーに支持された。マルチメディア機能を追加し、コモンコントロールなど、現在のWindowsインターフェイスの第一歩となる機能を追加したWindows 3.1は爆発的に普及し、さらに次バージョンのWindows 95では、ユーザーインターフェイスを一新し、ネットワーク機能を強化して、さらにユーザーの裾野を広げた。今やWindows 9xは、パーソナルコンピュータ向けのOSとして、圧倒的なシェアを確保していることはご承知のとおりである。MicrosoftのWindows開発の内幕については、『ビル・ゲイツの罪と罰』(マーリン・エラー、ジェニファー・エズトロム著/三浦明美 訳、アスキー発行)が詳しいので、興味のある方は参照されたい。

 OSカーネルの機能やエレガントさはさておき、少なくとも直接ユーザーの目に触れるユーザーインターフェイスの部分では、これまでは常にWindows 3.xとその後継であるWindows 9xラインアップが先行し、Windows NTラインアップは後塵を拝してきた。前バージョンのWindows NT 4.0で、ユーザーインターフェイスがやっとのことWindows 9xに追いついたところだ。昨年(1998年)10月に、Windows NT 4.0とWindows 98の双方のOSが、NTアーキテクチャで一本化され、Windows 2000となることが発表された。「16bitコードが残るWindows 9xを捨てるときがやっときたのか」。Windowsの歴史を知るユーザーの中には、このように感じた人も多かっただろう。

 しかし年が明け1999年になると、コンシューマ向けに、Windows 9xアーキテクチャをベースにしたMillennium(開発コード名)が開発されることが明らかになり、2000年中にはこれがWindows Millennium Edition(Windows ME)として発売されることになった。OSの一本化は、Windows MEの次バージョンとして開発が進められている、Windows 2000コアを持つWhistler(ウィスラー)までお預けとなった(Whistlerの詳細は「Insider's Eye:ベールを脱いだWhistler」を参照)。

 1999年初頭にMillenniumの存在が明らかになったときには、またもやWindows 2000に先んじてユーザーインターフェイスが革新されるという話があったが、Windows 2000コアを持つコンシューマ向け製品のNeptune(開発コード名)が見送りになり、コンシューマ/ビジネス向けを広くカバーするWindows 2000のメジャー バージョン アップとなるWhistlerを開発するという方針に切り替えられたときから、重心はMillenniumからWhistlerに大きく移動したようで、Millenniumでの各種改良は最小限に留められることになったようだ。とはいえWindows MEの登場により、OSの一本化によるサポート コスト、メンテナンス コストの低減は先送りになったことは間違いない。これまでの発表を見るかぎり、Windows MEはパーソナル ユーザーを強く意識したものだと考えられるが、これがビジネス クライアントとしてオフィスで使われないという保証はない。ご承知のとおり日本では、ショップで市販されているPCがそのまま企業で利用されるケースが少なくない。プレインストール市場では、未だにWindows 98 SEが圧倒的なシェアを持っていることを考えると、ネットワーク管理者としても、Windows MEを無視するわけにはいかないようだ。

ビジネスクライアントとしてもWindows 9xが利用される理由

 現行のWindows NT 4.0が発表されたとき、マイクロソフトは「個人が自宅で使うならWindows 9x、企業のビジネスクライアントにはNT」と言っていた。しかし現実には、企業のクライアントとしてもWindows 9xがかなり浸透している。この理由は、大きく3つあるだろう。1つは、NT 4.0をインストールするには、Windows 9xよりも多くのメモリやハードディスクが必要なことだ。たとえば、Windows 95搭載モデルのPCが爆発的に売れた1996年の標準的なマシン構成は、CPUがPentium-75MHz〜133MHz程度、標準搭載メモリは8〜16Mbytes、ディスク容量は600Mbytes〜1.5Gbytes程度だった。正直なところ、このマシンにNT 4.0をインストールするのは困難である。それではといって、PCシステムごと新しいものに買い替えようとしても、NTをプレインストールしたモデルは選択肢が限定的であることが多かった。こうした事情は、Windows 2000が発売された現在でもあまり変わらない。トップダウン的に、大量に一括導入するような場合はともかく、「お試し」感覚でWindows 2000プレインストールモデルは購入しづらい。

 第2の理由は、PCカードやドッキングステーションのホットプラグなど、NT 4.0はノートPCサポートが弱く、限定的な状況でなければ、実質的には使えない状態にあったことである。ご承知のとおり、米国と違って日本はオフィススペースが狭く、省スペースなデスクトップ用途としてノートPCを利用するケースが非常に多い。前バージョンであるNT 4.0は、このような日本のビジネスユーザーの要求に応えられなかった。この点Windows 2000では、PCカードや電源管理を始め、ノートPCサポートが大幅に強化され、Windows 9xに勝るとも劣らないレベルにまで向上されている。Windows 2000をプレインストールしたノートPCなども徐々に登場しつつあるので、今後は状況も変わっていくだろう。

 第3の理由は、日本国内ではまだ、PCネットワークやインターネットが普及の第一段階にあり、NTのメリットを実感できるような、ミッションクリティカルな作業を行うレベルにないのではないかということだ。第1の理由でも簡単に触れたが、日本では、かなりの大企業でも、部門決裁で「お試し」的にPCを購入するケースが少なくない。このような目的で、PCの可能性に触れたいと考えるなら、デバイスサポートやアプリケーションサポートが豊富なWindows 9xのほうが適している。

もっぱらビジネスアプリケーションを使うなら、ホームユースでもWindows 2000

 これに対し、Windows 2000では、Windows 9xと比較して、前バージョンのNT 4.0で見劣りしていた部分が大幅に改善された。必要となるシステム資源が減ったわけではないが、デバイスサポートやノートPCサポート、これらに関連するコントロールパネルなどの使い勝手や、デフラグメントツールなどの標準ツールの拡充などがなされた。実際のところ、筆者は現在、所有するノートPC(IBM ThinkPad 600。CPU:Mobile PentiumII-300MHz、メモリ64Mbytes、ディスク2Gbytes)にWindows 2000 Professionalをインストールして使用しているが、ネットワーク用PCカードのホットプラグや、サスペンド/ハイバネーションといった電力管理など、すべて安定的に動作しており、またアプリケーション環境としても非常に安定していて、電子メールやWebからの情報収集、原稿執筆まで、すべてこのマシンでこなして不都合を感じていない。

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Windows 2000 ProfessionalをノートPCにインストールした筆者の編集環境
この原稿は、筆者のノートPC(ThinkPad 600)にインストールされたWindows 2000 Professional環境の上で、HTMLエディタのMacromedia Dreamweaver 3を使って執筆されている。これ以外にも、電子メールの送受信などをこのノートPCで常時行っているが、リセットの必要に迫られることもほとんどなく、非常に安定的である。

 マイクロソフトの関係者によれば、Windows 2000のマーケティング戦略は、「会社にしろ、家庭にしろ、主にビジネスアプリケーションを使うならWindows 2000、家庭でもっぱらゲームを楽しむというならWindows 9x」だという。言い換えれば、「ゲームを楽しむ目的以外なら、すべてWindows 2000」ということだ。従来の、「家庭を中心とする個人利用ではWindows 9x、会社で仕事に使うならNT 4.0」という姿勢から、大幅にWindows 2000に傾倒しつつあることが分かる。

 この関係者によれば、こうしたマーケット戦略に合わせて、Windows 2000のプレインストールにも力を入れ、Windows 98一色だったこの市場で、とりあえずは全体の数十パーセントがWindows 2000になるようにしていくという。

サーバ導入の鍵を握るのはActive Directory

 今度はサーバ側に目を移してみよう。Windows 2000では、システムファイルの保護機能やデバイスドライバの署名、より高度なKerberos認証のサポート、ディスク クォータやダイナミック ボリューム管理など、サーバを安全かつ機能的に運用するための数々の機能が追加されている。しかし従来のNT 4.0からWindows 2000 Server(Advanced Server)へのアップグレードや、新規導入が進むかどうかの鍵を握るのはActive Directoryだろう。

 Active Directoryは、Windows 2000 Serverから新たに組み込まれたディレクトリサービスで、これを利用することで、ネットワーク上に分散するさまざまな資源(コンピュータ名やプリンタ名、ユーザー情報など)の場所(位置)や情報をツリー状に管理して、ネットワーク全体で組織的な資源管理を行えるようになる。従来のNT 4.0でも、ドメインと呼ばれる管理単位を構築することで、ユーザー管理や資源管理を集中的に行うことが可能だったが、複数のドメインを階層的に管理するのはかなり大変であった。異なるドメイン間で資源を共有できるようにする場合には、それらのドメイン相互でそれぞれ信頼関係を結ぶ必要があり、多数のドメインが存在するネットワークでは、管理が非常に煩雑になるのである。これに対しActive Directoryを利用すれば、ネットワーク上のさまざまな資源を階層的に管理できるようになる。

 中規模〜大規模なネットワークを構築し、運用しようとする管理者にとって、Active Directoryは待ちに待った機能である。Windows 2000 Serverでの新機能は、カタログスペック的にはさまざまに取り上げられているが、突き詰めてみると、このActive Directoryの機能に行きつくものが少なくない。Active Directoryは、ドメインよりもはるかにエレガントにネットワークを管理できるようにする魅力的な機能である。しかしそれがどんなにエレガントだったとしても、既存のネットワークを全面的にActive Directoryに移行させるには、多くの労力が必要である。また企業で利用されるコンピュータシステムでは、万一のトラブルによって被るリスクも十分に検討しておかなければならない。こうしマイナス要因を、Active Directoryに移行することで得られるプラス要因が上回れるかどうかが、少なくとも短期的に見たWindows 2000 Server普及の鍵になるだろう。

 
     
 INDEX
  [特集]Windows 2000とは何か?(改訂新版)
  1. イントロダクション
2. マイクロソフトのWindows2000戦略
    コラム:Windows NTの歴史
  3. Windows 2000 Professionalの概要(1) インストール/セットアップ
  4. Windows 2000 Professionalの概要(2) ユーザーインターフェイスの改良
  5. Windows 2000 Professionalの概要(3) デバイスサポート/電源管理機能
  6. Windows 2000 Professionalの概要(4) システムの強化
  7. Windows 2000 Professionalの概要(5) ネットワーク機能の強化
  8. Windows 2000 Serverの概要(1) 管理ツールとActive Directoryサービス
  9. Windows 2000 Serverの概要(2) ファイル/プリンタ共有サービス
  10. Windows 2000 Serverの概要(3) ネットワークとリモートアクセスサービス
  11. Windows 2000 Serverの概要(4) アプリケーションサービスとAdvanced Server
 
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