オピニオン:ビジネス連携の未来
第2回 BtoBはプロトタイプ導入がおすすめ

深瀬 正人
BizTalk Server 2000プロダクトマネージャ
マイクロソフト
2001/11/14

 第1回「新しい企業の在り方がBtoBを求める」では、BtoBやEAI(Enterprise Application Integration:企業内アプリケーション統合)がなぜ必要なのかという点についてお話をしました。第2回では、BtoB、EAIの導入までをどのように考え、実践するのか、そのポイントを国内や海外で個人的に見聞きしたことをベースにまとめてみたいと思います。

新しいルールを作ろう

 BtoBの今後の必要性は皆さん理解していると思います。しかし、実際にBtoBを導入していく過程では大きな壁にぶつかることがあります。それは、「変化」を許容していく必要があるからです。BtoBには、単にいままでの業務を見直してITを導入するのではなく、まったく新しい仕組みを作っていく必要があります。少し昔の言葉でいえば、BPR (Business Process Reengineering)です。

 この変化は、いままでのように自社だけの変化では済みません。さまざまな企業がビジネスのプロセスにかかわってきている現在では、自社だけがいくら効率化しても、ほかの企業が効率化していないことで全体が非効率になっていることがあります。つまり、自社の効率化のボトルネックが他社にある、ということなのです。

 その点をどのように効率化するか、どのように行えばうまくいくのかを考え、全体として新しいルール作りをしていく必要があります。確かに、ビジネスのプロセスの細かい点を考えれば個々に改良すべき点はあるでしょう。しかし、こうした細部を検討しても全体は必ずしも最適にはならず、前には進みません(皆さんも体験されたことがしばしばあるでしょう)。

 まず、実行までの最初のプロセスとしては、下記のようなものが挙げられます。

  • 目標を明確に決める
    目標が明確でないために、最終的に目標を見失ってしまうことがよくあります。目標を明確にするためにも、数値的な目標を設定することが重要だと思います。

  • 目標を達成するための手段を考える
    次に、目標に向かってどのような手段をとるかを考える必要があります。それには、ITを導入するのが有効なのか、組織を変えるのが有効なのか、または取引方法を変えるのが有効なのか、などを検討します。

  • 目標達成のプロセスを考える
    目標を達成することは困難を極めるかもしれません。現状を変える必要があるケースでは、社内の調整が必要であったり、一気に全部を変えることは難しいはずです。ですから、達成までのプロセスを考える必要があります。今回はここまで、次はここまで、というように目標への階段が必要です。

  • 新しいルールを決める
    そして、目標→手段の決定→目標達成のプロセス、の検討を経た後に新しいルールを決める必要があります。このルールは、市場の変化に合わせたダイナミックなルールである必要があります。頻繁にルールを変えるのは「朝令暮改」だといわれることもあります。しかし、社会の変化が激しい現在、朝令暮改は必要です。余談ですが、“米国の優秀な経営者は朝令暮改をする”といわれているぐらいです。
    しかし一方で、「ルールは絶対」とする必要があります。いろいろな反発や意見があって、例外ばかり認めていては、条件に合わせた対応ばかりで条件分岐が多くなり、次第にルールが崩れていくことになります。

  • 相手との関係性を考える
    BtoBを行う際は、相手が必要です(1人でBtoBはできません)。ビジネスプロセスを効率化させるために、どのような方法で、またはどのように進めれば、取引先企業がBtoBを導入することができるかを検討する必要があります。

システムの導入手順を考える

 以上のことを考え、実際にシステムの検討をすることになります。検討すべき事項は、ビジネスプロセスをどのようにシステムへ展開するかです。例えば、電子調達を例に考えてみましょう。電子調達を行ううえで必須なこととして、だいたい下記のようなプロセスが考えられます。

  1. 電子化したカタログを見る
  2. カタログを検索して必要な製品を見つける
  3. 必要な部品を注文できる
  4. サプライヤーから、 注文した部品の見積もりを取る(納期なども含めて)
  5. 見積もりが妥当であれば、発注を行う(場合によっては承認ワークフローが必要)
  6. 発注情報を会計システムへ反映させる
  7. 納品情報をもらう

 これをWebや電子的に行うことができれば、発注業務は効率良く、迅速になります。しかし、どの部分をどういうシステムで行うかを、取引先企業や社内のシステムを併せて考え、決定する必要があります。

 例えば、電子的なカタログを見るためには、サプライヤーから電子的にカタログをもらう必要があります。例として、半導体・電子部品の業界ではRosettaNet標準などを利用してXML化したカタログの交換を行うことを始めています。また米国での、マイクロソフト製品で構築されたシステム事例では、ExcelとBizTalk Serverなどを連携させてExcelからシームレスにBizTalk Serverにカタログ情報のXML文書を送信するようなことも行っています。

 WebEDIなどを利用すると取引先企業にカタログをWebに手で登録する必要が出てくるので、相手にかなりの負担を強います。そのため、上記の例のように、Excelのテンプレートなどを配布してExcelから直接登録できるようにしたり、またSQL ServerやBizTalk Serverなどの製品を利用して、会社のカタログDBをXML化しHTTPを利用して購買側企業に送れるようにすることが最適な方法だと考えられます。

 また、部品を発注した場合、当然会計システムや管理システムへ反映させなければなりません。それは、日々の予算などの状況を把握するというニーズがあるからです。そのために、BtoBのシステムは、バックエンドの業務システムなどと連携させる、つまりEAIなどがこのような場面では必要になります。

 このほかのプロセスについても同様に、どこの企業と連携させるのか、どのようなシステムが連携しないといけないのか、どのような方法、テクノロジ、製品を利用すると最も簡単に実現できるのかを検討し、システム構成案を作っていきます。

プロトタイプの勧め ――すぐに実践しよう

 おおよその手段とシステムを検討したら、すぐに実践することをお勧めします。実際のBtoBシステムに先立つプロトタイプを構築することは非常に有効です。もちろん最初から、すべてを満たすシステムはありませんので、実行、検証、改良を繰り返すことが重要です。そのためにも、目標とその目標までの手段、プロセスを考慮する必要があると前述しました。

 アイデアを証明し、実際の運用で実現できるかを十分に検証するためにプロトタイプを作成するわけですから、間違っていることもあります。予想したような効果が出ない場合もあります。いきなり、本番環境としてシステムを構築したら費用もかかりますし、失敗をするとその費用が無駄になるというリスクもあります。ですから、すぐに実践し、効果があがるかどうかを検証し、リスクを減らすという点でプロトタイプは有効です。

 ではプロトタイプはどのように作成するのがいいでしょうか? マイクロソフトでは、各サーバ製品で120日限定の評価版(120日で動作しなくなるエディション)や、開発、検証するためのDeveloper Editionという製品を提供しています。120日限定評価版は、マイクロソフトの「Serversホームページ」からリンクをたどっていけば注文できますし、Developer Editionは通常の製品(Enterprise EditionやStandard Edition)と比べ、非常に安く製品を入手できます。MSDN(Microsoft Developer Network)を購入すると、各製品のDeveloper Editionを手に入れられます。このような製品を利用してプロトタイプを作成すると、BtoBやEAIをどのように構築すればよいか、また考えたモデル、ルールが有効かを検証することが可能です。

 このように、BtoB、もしくはEAIのシステムを構築するプロジェクトにおいて、マイクロソフトのBtoB、EAI製品であるBizTalk Serverなどを利用することで、プロトタイプで検証し、うまくいきそうであれば、本番環境を構築するというステップを踏むことが可能になるのです。当然、そこではシステムを構築するベンダ(SIベンダ)が必要になってくるわけですが、そうしたプロトタイプを構築するプロジェクトをSIベンダと共同で行うことで(当然、SIにかかる費用は必要ですが)、顧客、SIベンダそれぞれが、その案件にとってどのようなことをする必要があるのか、どのように構築することがよいのかを理解することができるという、プロジェクト成功の大きなポイントをクリアすることも可能です。

すぐに実践し、検証し、改良を繰り返す

 ここまでBtoB導入のプロセスやプロトタイプのお話をしましたが、BtoBやEAIなどの新しい取り組みは、ともかくプラン(Plan)を作成し、実践(Do)、検証(Check)、改良(Action)を繰り返すというPDCAが重要です。今後、BtoBやEAIというものは、企業間取引のグローバル化、効率化、そして連結決算など、社会の変化に伴って最も重要な位置付けになるのは明白です。そこで、より簡単に実装ができるようにということで、BtoB、EAI分野でXMLなどが注目されていますし、マイクロソフトでは、XMLやインターネットをベースにしたBtoB、EAIの製品であるBizTalk Serverなどの製品を提供し、着実に実践できる環境が整ってきていると思います。

 また最初の方でも書きましたが、取引の効率化は1社ではできません。逆にいえば、取引先がBtoBを導入したら、必ず、皆さんの会社も導入する必要が出てくるでしょう。実際、XMLやインターネットの取引ができない企業とは取引しないというケースもちらほら出てきているようです。

 いまの経済状況を生き抜くために、企業も変化を迫られています。そういう時期だからこそ、BtoBは最も取り組むべき、また取り組みを始めやすいものだと思います。

筆者紹介
深瀬 正人

東京都出身。中央大学法学部卒業。1994年、NTTデータ (当時NTTデータ通信)に入社し、金融システム事業本部で金融ネットワーク関連の仕事を行う。その後、1997年にマイクロソフトに入社。プロダクトマネージャとして、電子商取引システム製品の製品担当を担当。現在は、BizTalk Server、およびHost Integration Serverなどを担当。。

次回は12月上旬の予定です。



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