XML関連仕様の動向を毎月お届け!
W3C/XML Watch - 10月版

IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?

加山恵美
2003/10/11

マイクロソフトが侵害したとされるEolasの特許(米国特許5,838,906

 実りの秋に1つ収穫がありました。それはXMLマスター:ベーシックに合格したことです。「夏休みの宿題」と学生気分で独学を始め、9月には合格しました。白状すると合格点ギリギリでしたが。試験対策に重点を置いたとはいえ、整形式や宣言の記述などXMLの基礎をおさらいすることができました。いまはバッチが届くのを楽しみに待っています。


9月の勧告、勧告案、勧告候補

 それではW3Cの動きから見ていきましょう。9月の発表は勧告と勧告案がなし、勧告候補が1本のみでした。勧告候補になったのはQA(品質保証)フレームワーク運用ガイドラインです。この文書は一度9月12日にドラフトから勧告候補へ昇格したものですが、さらに文章を推敲(すいこう)し、「2. Guidelines」のチェックポイントに読みやすいスタイルシートを適用して、同月22日に再度勧告候補として更新されました。

 9月はこの勧告候補に加えて、ほかにもQA関連文書が2本更新されています。これら3本のQA関連文書はともに2003年2月にラストコール付きドラフトになったものです(参考:W3C/XML Watch 2003年3月版)。3本のうち、運用ガイドラインは勧告候補へ、仕様ガイドラインはドラフトとして更新(実際には勧告候補前の最終段階)、概要はノートへとステータスが枝分かれしました。ちなみにQA関連にはほかにもう1つ、テストガイドラインがあります。現時点ではドラフトのステータスです。

9月のドラフトとノートはRDF関連が活発

 今回発表されたドラフトはラストコール付きが1本、それ以外が9本で合計10本でした。ノートは5本でした。

 ラストコール付きとなったドラフトはCSS 2.1です。1998年に勧告になったCSS 2を基に改善を加えたもので、Webブラウザ以外の多種なメディア(音声デバイス、点字デバイス、ハンドヘルドPCなど)へのサポートを盛り込んでいます。2002年8月に最初のCSS 2.1のドラフトが登場して以来、初めてラストコール付きになりました。

 ラストコールなしのドラフトは9本ありますが、そのうち6本がRDF関連です。RDFとはXMLをベースにしたメタデータ記述言語で、ニュース速報やWebサイト更新情報の配信などに利用されています。RDF関連技術文書は細分化され現在に至っています。今回まとめて更新されたのは、RDFのコンセプトと抽象構文、セマンティック、入門、スキーマ、テストケース、RDF/XML構文仕様です。

 残り3本は、QAの仕様ガイドライン、CSS3のページメディア、そしてTimed Text(TT)です。TTとはマルチメディアの同期についての仕様で、異なるオーサリング・ツールで作成したコンテンツの同期を実現するためのものです。今年5月の初登場から2度目の更新になりました。

 ノートは5本です。デバイス非依存が2本で、チャレンジと原理についてです。チャレンジの目的は、デバイス非依存のコンテンツ作成で直面する困難を特定し、それを解決する可能性のある技術を明らかにすることです。ほかにはLBaseとQA、それから9月唯一の新登場となるXMLフラグメント識別子構文0.9への提案です。フラグメント識別子(fragment identifier)は、URIの後に“#”を付けて追加的に参照情報を記述する構文のことです。

“View by Editor”や“View by Title”などの見出しが追加された

 ところで、いつも本記事で参照しているW3C Technical Reportでは、各文書が勧告やドラフトというようにステータスごとに表示されています。最近、文書の表示を作成者やタイトルごとに切り替える見出しが追加されました。いつもと違う切り口から文書一覧を表示できるようになりました。


OASISでebXMLに新たな動き

 9月は立て続けにOASIS標準が承認されました。WebサービスポータルのWSRP v1.0、生体認証形式のXCBF v1.1、認証情報交換のSAML v1.1の3本です。

 新たな技術委員会の設置もありました。ebXML ビジネスプロセス(ebXML BP)技術委員会、Webサービス複合アプリケーションフレームワーク(WS-CAF)技術委員会、Webサービス実装のためのフレームワーク(FWSI)技術委員会です。

 ebXMLにはまだ話題があります。まず、新たなebXMLレジストリの発表がありました。OASIS ebXMLレジストリ参照実装プロジェクト(FreebXML)にて、ロイヤルティーフリーでオープンソースのebxmlrr 2.1がリリースされました。ebxmlrr 2.1ではOASIS ebXMLレジストリ技術委員会で定義されたebXML 2.1レジストリ仕様に必要な機能をすべて実装しています。

 もう1つebXMLといえば、UN/CEFACTとOASISの連携完了についての発表がありました。UN/CEFACTとは国連の下部機関で、OASISとともにebXML仕様を共同で策定してきた組織です。しかし8月末にUN/CEFACTは「重複作業を避けるため」と共同標準策定作業の完了を発表(PDF形式)しました。その声明の中で、今後はUN/CEFACTのワーキンググループと、WS-IとOASISのBPEL技術委員会との新たな連携に期待するとコメントしています。

 そのUN/CEFACTといえば、最近はビジネスの国際規格BCFに熱心です。BCFはあらゆる商取引をUMLでモデル化するものです。年末ごろからドキュメントがそろう予定となっています(UN/CEFACTの日本での記者会見については9月12日付のニュース記事を参照ください)。

XMLコンソーシアムの動き

 XMLコンソーシアムでの標準作成の動きを見てみましょう。9月はTravelXMLContentsBusinessXMLの発表がありました。

 まずTravelXMLです。旅行業界の企業間電子取引の標準規格TravelXMLは開発が終了し、9月24日にはXMLコンソーシアムと日本旅行業協会(JATA)の勧告案となりました。10月24日までがパブリックレビュー期間となっています。

 次にContentsBusinessXMLです。コンテンツ流通市場における配信や利用許諾の取引をXML形式で規定したのがContentsBusinessXMLです。こちらはパブリックレビューも反映させ、9月29日からはXMLコンソーシアムとデジタルコンテンツ協会の勧告として公開されています。

W3CがHTML PAGを結成、IE特許侵害判決の対応を探る

 先月も触れましたが、マイクロソフト対EolasとのIE特許侵害判決を受け、W3Cは緊急理事会を開くなどの対応を始めました。9月23日にはこの問題に関するHTML Patent Advisory Group(PAG)を結成しました。HTML PAGは結成されたばかりで具体的な見解や解決策はまだ発表されていませんが、FAQが公開されています。FAQをいくつか取り上げてみましょう。

Q.問題となる特許とは?
A.米国特許5,838,906で、「ハイパーメディア文書内にある埋め込まれたオブジェクトの相互作用や表示をもたらす外部アプリケーションを自動的に起動するために配布されたハイパーメディア手法」です。1994年10月に申請され、1998年11月に認可されました。この特許はカリフォルニア大学が保有しており、Eolas Technologies社を通じてライセンスを管理しています。

Q.Webにどのような結果をもたらしますか?
A.本件は何らかの相互作用機能を持ち、外部データを用いるブラウザの拡張機能を直接起動するものを含むすべてのWebページに影響を与えるかもしれません。そのようなブラウザの拡張機能は広く普及しています。例えば、Webページに搭載された音声や動画や相互作用的なメディアアプリケーションなどです。つまり、Webページの大多数に影響を与える可能性があります。

Q.ブラウザやほかのWebソフトウェアにどのような変更がありますか?
A.マイクロソフトはW3CにブラウザソフトウェアのInternet Explorerに近く変更を加える予定があることを表明しました。その変更は既存のWebページの大多数に影響を与えることになるでしょう。W3Cはまだどのような対処も示してはいませんが、もしあるならば、ほかのWebツールベンダも追随するかもしれません。長期的に見て、この法廷の判断が支持されるなら、ベンダの中には別の対応を提案するところも出てくるでしょう。W3C緊急会議では、Webソフトウェア、Webサイトやユーザーに与える影響を最小限に抑える解決策が必要だという幅広い合意を得ました。W3Cはより詳しい情報が明らかになり次第、このFAQを更新していきます。

Q.どのW3C仕様に影響がありますか?
A.HTMLに関係した仕様が含まれるものは影響が出る可能性があります。

 なお一部重複しますが、W3Cは問題となる特許についての判決やその影響をまだ分析している途中です。明らかにすべきなのは、特許が言及する「ハイパーメディア文書」や「ハイパーメディア手法」が具体的に何を示しているのかであり、その解釈次第で実際の影響範囲が定まってくるでしょう。問題の特許では技術名を特定する表現が具体的ではなく、抽象的なので影響が未知数となっています。

 おそらく近いうちに各社から具体的な発表が続くでしょう。特にマクロメディアでは早くから情報開示が行われています。Web開発関係者は今後の動向に注意して下さい。

W3C Day Japan 2003開催

 今年もW3C Day Japan 2003が開催されます。11月14日、場所は慶應義塾大学三田キャンパスです。今年の目玉はWebの生みの親であり、W3Cで中心的な存在であるTim Berners-Leeが自らセマンティックWebを語ります。ほかにも終日W3C技術セッションとなっており、セマンティックWebをはじめ、Webサービス、機種に依存しないWebアクセス、Webアクセシビリティなどの広範な解説がW3Cスタッフから語られます。

 ではまた来月、お会いしましょう。


バックナンバー

2001年
 ・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
 ・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
 ・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
 ・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
 ・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
 ・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
 ・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
 ・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
 ・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
 ・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
 ・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
 ・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
 ・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
 ・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
 ・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
 ・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
 ・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
 ・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
 ・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
 ・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
 ・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
 ・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
 ・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
 ・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
 ・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
 ・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
 ・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
 ・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
 ・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
 ・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
 ・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
 ・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
 ・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
 ・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
 ・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
 ・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
 ・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
 ・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
 ・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
 ・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
 ・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
 ・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
 ・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
 ・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」


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