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W3C/XML Watch - 11月版

IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求

加山恵美
2003/11/18

W3CディレクターのTim Berners-Leeが米国特許庁に、Eolasが所有する特許は無効として再度審査を申し入れたことを知らせるW3Cのリリース

 10月のW3Cでは、8月に勧告案になった3本が勧告へと進みました。IE特許問題では各方面から重要な動きがありました。それから、先月号でお知らせしたXMLマスターの合格ですが、認定証と名刺シールもちゃんと届きました。うれしいです。また、11月はイベントが盛りだくさんな月です。できるだけ足を運んでみようと思います。

10月の勧告、勧告案、勧告候補

 それではW3Cの動向から見ていきましょう。10月の発表は勧告が3本、勧告案1本、編集済み勧告案が1本、勧告候補が1本でした。

 勧告となったのは、XForms 1.0とXMLイベント、加えてMathML 2.0 第2版です。3本とも、前段階は8月に発表され、順調に2カ月後には勧告へと歩みを進めました。ちなみに前段階はMathMLだけ、勧告案ではなく編集済み勧告案だったのを覚えていますか。「編集済み勧告案」という用語を初めて見た人も多かったのではないでしょうか。すでに完成した勧告の改訂版で使われることが多いようです。

 XFormsはHTMLフォームの次世代版で、コンテンツとプレゼンテーション部分を分離するのが狙いです。XMLイベントは、DOM2インターフェイスを使ってXMLにイベントリスナとイベントハンドラを統合させる試みです。MathMLの目指す世界は、Web上でテキストと同じように数式を扱えるようになることです。

 勧告案、編集済み勧告案、勧告候補はそれぞれ1本ずつありました。勧告案になったのはCC/PP(Composite Capability/Preference Profiles)で順調に勧告案まできました。CC/PPとは、デバイスの許容値とユーザーの設定値を記述したもので、デバイスにコンテンツを表示させる際に重要な情報となります。編集済み勧告案となったのはXML 1.0 第3版です。第2版に見つかった間違いを修正しています。前の段階はXML 1.0 第2版ともいえますが、第3版としては初登場なのでNewマークを付けておきました。前のXML 1.0 第2版のドラフト初登場が2000年8月で、勧告に確定したのが同年10月だったので、もしかしたら第3版も同程度のペースで進むことが期待できます。またXMLといえば、XML 1.1も勧告候補として存在します。

 勧告候補となったのはXForms 1.0 基本プロフィールです。XFormsから派生して、この名前では初登場なのでNewマークを付けました。XForms 1.0 基本プロフィールは、非力な機器や制約のある環境でXFormsを実装するための最低限の仕様を定めています。

10月のドラフトとノート

 今回発表されたドラフトはラストコール付きが7本、それ以外が2本で合計9本でした。ノートは2本でした。

 ラストコール付きとなったドラフトはXMLスキーマにおけるXHTMLのモジュール化と、RDF関連が6本です。RDFの6本は9月更新された6本すべてがラストコール付きで再登場しました。ラストコール期間が1カ月なので、次の段階へも早々に進めるかもしれません。

 ラストコールなしのドラフトは2本です。1本は去年の夏から着々と進められているWWW(World Wide Web)アーキテクチャです。この文書の関係者にはW3CのTim Berners-LeeやDan Connolly、またAntarctica SystemsのTim Brayなど、過去にW3Cの根幹をなす文書作成にかかわった人物が名を連ねており、識別(identification)、相互作用(interaction)、表示(representation)の3つの側面からWWW(World Wide Web)のアーキテクチャを探求しています。もう1本はXHTMLとHTMLの国際化のためのオーサリング技術です。XHTML 1.0とHTML 4.01を用い、CSS1とCSS2(CSS3は一部)をサポートし、複数の国で利用できるHTMLを開発するための技術を議論しています。

 ノートは2本で、ともに更新が加えられました。SOAPメッセージ正規化では、意味的に同一なメッセージを生成するアルゴリズムを規定しています。LBaseは、セマンティックWeb言語の意味論を規定するフレームワークです。

OASISの動き

 まずはイベント情報から。11月下旬にOASIS Open Standards Days Tokyo 2003が開催されます。OASISが日本で初めて主催するセミナーで、XMLを中心としたオープン標準に関して最新情報と解説を聞くことができます。イベントの詳細は文末を参照してください。

 次にOASIS技術委員会の動きです。10月7日には複数のWebサービスを組み合わせたアプリケーションのフレームワーク技術委員会(WS-CAF TC)が設置されました。またebXMLビジネスプロセス技術委員会(ebXML BP)では、ebXMLベースのビジネスプロセス仕様「ebXML Business Process Specification Schema(BPSS)」の検討を進めると発表がありました。

IE特許問題の進ちょく

 10月はIE特許問題で各方面から重要な進展がありました。IE特許問題とは、Eolasが持つ特許をMicrosoftのIEが侵害しているという判決を発端にした問題です。

 Eolasは同社の特許を侵害した状態でIEを配布するのは許可しないと、シカゴの米連邦地裁にIE配布の差し止めを請求したそうです。そこでMicrosoftはIEに変更を加えることで特許侵害と配布差し止め命令を回避しようとしています。IEに加える変更は、デフォルトのActiveXコントロールの扱いを変更し、ユーザーにはダイアログボックスを表示する形となる予定です。そのほかにも、Microsoftは先の裁判で陪審員に先行技術について考慮させる機会が与えられなかったことなどを理由に、賠償命令の無効化と再審を求め、控訴に踏み切る方針を出しました(Microsoftプレスリリース)。

 こうして両社は法廷で引き続き争う様相ですが、W3Cは米国特許庁に対して、Eolasが所有する特許(米国特許5,838,906)は無効だと主張して、再度審査を申し入れました(W3Cリリース)。今回の判決でWWW(World Wide Web)に与えられる経済的および技術的な影響、また操作性の変化を防ぐためとW3Cは主張しています。またW3Cスタッフが開発した「HTML+」を再検討のための先行技術として挙げています。

 ところで、先行技術とは何か。そもそも、特許とはこれまでにない新しい発明に認められるものです。誰かが先に発明した技術を自分の特許として主張することはできません。特許を申請する前に存在していた技術を「先行技術」といいます。先行技術が存在していれば特許は無効となります。ところが先の裁判では、Microsoftは先行技術の証拠申請を行いましたが判事に却下されてしまったのです。これが再審査の請求理由ともされています。

 そうした背景から、各方面で先行技術を捜索する動きが広がってきました。問題の特許の申請が1994年10月なので、その前に公表された技術である必要があります。面白い考察例として、ロータスノーツ開発者のレイ・オジー氏の「埋め込み技術についての調査」があります。1993年4月にリリースされたノーツR3ではすでに「文書リンク」や「オブジェクトの埋め込み」が実装されていました。Eolasが主張するハイパーメディア手法を連想したくなるような技術です。ただしオブジェクトを実行するアプリケーションについて、Eolasの技術は内部または外部とされていますが、ノーツは内部にインストールされていなくてはなりません。従って、内容はよく似ていますが先行技術とはいい切れないのでしょう。ただ、この先行技術を理解し検討するのにとてもよい例です。

 それにしても、Eolasの狙いはなんでしょうか。EolasはIE配布差し止め請求をしていますが、アンチIEまたはアンチMicrosoftとは少し違うようです。アンチならマイクロソフト製品以外の技術を広めようとしますが、Eolasは賠償金と引き換えにpaid-upライセンスをMicrosoftに供与すると提案しています。つまり発明の「買い取り」を求めているのです。ちなみに同社のWebページによると、会社の「e」ロゴも自社が発明(日本なら「意匠登録」)したもので、1997年にIBMがこのロゴの使用権を購入したとも書かれています。発明の対価が同社の目的のようです。

 企業が特許で利益を得ることはよくある話です。ただ同時に、特許を取り入れた自社製品も存在することが多いのですが。少なくとも特許を主張すること自体は悪ではありませんが、今回の場合は影響があまりにも多大であり、問題を多くはらんでいます。なによりも、こうした特許訴訟はリスクの高い賭けと認識するべきでしょう。勝てば多大な収入が見込めますが、負ければ弁護士や訴訟の費用で赤字になりかねません。

Eolasの特許問題に関しては、W3C Day Japan 2003のために来日したDaniel J. Weitzner氏にインタビューを行いました(11月14日)。詳しくは、12月上旬公開予定の「W3Cの特許方針ついに決着へ」の【後編】で詳しくレポートしますので、お楽しみに。(編集局)

11月のイベント

 11月はイベントが盛りだくさんです。先月予告したとおり、11月14日にはW3C Day Japan 2003が開催され、Tim Berners-LeeをはじめW3Cスタッフ直々の講演や質疑応答がありました。当日は主役級となるTim Berners-Leeが飛行機の遅延でセッション10分前に会場に到着するというハプニングもありました。会場から出る質問を聞くと、実運用から生まれた疑問が増えてきて、XML技術の実践が確実に定着しているという印象を受けました。

W3C Day Japan 2003に参加したW3Cスタッフ。前列左からPhilippe Le Hégaret、Daniel J. Weitzner、Janet Daly、Tim Berners-Lee、Steve Bratt

 先に挙げたOASIS Open Standards Days Tokyo 2003のほかにも重要なイベントが開催されます。 

  • OASIS Open Standards Days Tokyo 2003
    日時:11月20〜21日、場所:渋谷マークシティ
    eビジネスを支える重要なXMLベースの標準の最新動向を満載したセミナー
     
  • Open Research Forum 2003
    日時:11月20〜21日、場所:六本木ヒルズ
    「天地共生:ユビキタス社会のかたち」をテーマにセッションや展示を行う
     
  • XMLマスターDay
    日時:11月25日、場所:青山ダイヤモンドホール
    XMLマスターの2周年および取得者6000名達成を記念し、XML活用の現状から将来の可能性まで探る

 ではまた来月、お会いしましょう。


バックナンバー

2001年
 ・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
 ・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
 ・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
 ・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
 ・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
 ・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
 ・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
 ・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
 ・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
 ・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
 ・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
 ・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
 ・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
 ・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
 ・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
 ・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
 ・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
 ・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
 ・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
 ・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
 ・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
 ・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
 ・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
 ・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
 ・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
 ・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
 ・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
 ・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
 ・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
 ・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
 ・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
 ・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
 ・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
 ・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
 ・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
 ・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
 ・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
 ・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
 ・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
 ・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
 ・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
 ・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
 ・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
 ・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」

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