連載
BPMとBPMSの常識(2)


BPMシステムが変える企業システム開発の在り方

日本BPM協会 副事務局長
宇野澤 庸弘

2006/3/14

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BPMを推進する人々……その2

 もう1つ、システム基盤としてのBPMSとの距離感ではなく、業務改善プロセスとしてのBPM(改善対象としての業務プロセス)を中心に置いた図で考えてみましょう。

図2 新しい領域を広げるBPMS(出所:Savvion)

(1)ユーザー、業務責任者

業務プロセスを可視化し、業務改革を実践します。

(2)コンサルタント

可視化した業務プロセスを顧客と共有しながら業務改革を支援します。

(3)システム事業者

可視化された業務プロセスから柔軟で拡張性あるBPMSベースの情報システムを高品質かつ迅速に構築します。

(4)情報システム管理者

業務プロセスを実行し、その結果を評価し、改善指針を策定します。

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 従来、ユーザー・コンサルタント・SI事業者・製品ベンダなど異なる立場の人々が、企業のITシステム構築の各フェイズでそれぞれ役割を果たしてきましたが、その中でしばしば問題が発生してきました。そのたびに「ユーザー仕様の無理解、変更」「規模の予想外の拡大」「状況の変化」などの問題の原因が挙げられてきましたが、そこで共通していえることは「見えなかった」ということではないでしょうか?

 BPMは、「モデラーによる業務プロセスの可視化」「BAMによる業績の可視化」に代表されるように、BPMSを活用して「見える化」を実現します。「見える化」により、立ち位置が異なる人々の間で問題点を共有化・相互理解して解決策を作り出していく──BPMは、そんな効果を持っています。それは結果として、上図の人々にシステム開発と業務改善における共通認識の基盤をも提供していくといえるのではないでしょうか。

米国のBPM市場

 米国のみならず、欧州・アジアの近隣諸国でのBPM市場は活況を呈しています。BPMSベンダは米国に百余社、そのうち強力なベンダは10社ほどといわれています。米国BPM市場は20億ドルほど(2005年 BPM Terendの記事による)で、年率20%から30%の成長率が見込まれ、ミドルウェアの中核として位置付けられています。

 BPMを冠に付したカンファレンスなども倍増で、本年は10回を超える勢いです。Web上での情報展開も活発に行われ、アナリストによるBPM関連記事やベンダによる啓蒙的ウェビナー(Webセミナー)なども数多く、新たなIT領域誕生の息吹きを強く感じることができます。いくつかを参考に挙げます。

米国のBPM関連サイト

  • BPTrends(Business Process Trend):啓蒙と技術紹介、情報交換、および市場に対してベストプラクティスを提供することを目標としている
  • BPM Group:1992年の設立以来、業務プロセス管理改善のための研修を全世界に提供してきた
  • BPM.com:BPMに特化した情報提供Webサイト。内容は多岐にわたる
  • Bruce Silver Associates:BPMとECMのアナリストとして著名なブルース・シルバー氏のWebサイト

BPMが作り出す新しいIT領域

 BPMS、BRM、BAMなどのミドルウェア製品市場の拡大とは別に、BPMをめぐる議論では従来のIT産業では省みられなかった新しい領域の重要性が語られています。

(1)テンプレート

業務プロセス、GUI、帳票などのテンプレートは、各企業の内部に埋め込まれていた暗黙知を形式知化したアセットとして価値を持つようになる。これらを知識移転の道具として活用するためには、テンプレートを生成・管理する仕組みが求められる。

(2)業務コンサルタント

特定業務に精通した経験豊富なコンサルタントは、テンプレートの製作者として位置付けることが可能である。ユーザー企業にとっては、最適な業務プロセスの早期実現が現実可能となる。

(3)特化型IT技術者

現在、IT技術者の教育・キャリアパスは、全方位技術者を志向しがちであるが、業務内容からの解放とSOAベースの開発の定着(標準化)により、特定領域に特化したIT技術者が必要とされるようになる。

(4)CPO(Chief Process Officer)

現行のわが国でのCIOの成功・不成功の議論はさておき、企業の業務プロセス全体を管理する責任者──CPO(最高プロセス責任者)が重要になってくる。業務改革から内部統制、ISMSなど、最近話題の多くのテーマにおいても業務プロセスの理解と管理の重要性を取り上げている。BPMの実践・定着を促進する組織、およびその責任者であるCPOは一体のものとして、今後議論の主題の1つとなるだろう。

 これらの点をサポートするためには従来とは異なる、新しいIT産業の立ち上がりが必要になるといえるだろう。(了)

筆者プロフィール
宇野澤 庸弘(うのざわ つねひろ)
日本BPM協会 副事務局長
アレス株式会社代表取締役
日本プロセス株式会社 サヴィオン事業部 事業統括本部長
東芝、ノベルで通信ソフト・ネットワークソフトの開発・販売に携わり、SSC栃木でテスティング事業を創設する。2000年、BPMと邂逅。現在、日本プロセス サヴィオン事業部 事業統括本部長としてBPM事業を展開中。BPMがIT産業の変革を促し、ユーザー視点からのITシステム実現を促進するため、業界横断的に活動を行っている。
オルタナティブ・ブログ「Hello! BPM」
■要約■
BPM(ビジネスプロセス・マネジメント)を実現・定着させるためには、BPMS(BPMシステム)をベースとしたITシステムが必要だ。

BPMSベースのシステムでは、ユーザーが主役となる。一番実業務を知っている実務ユーザーがモデラーを使って業務プロセスのモデル化を行う。ユーザーが望むタイミング、すなわち開発スピードが速くなること、業務プロセスの変更が容易にできること、システム連携、企業の成長や変化への対応なども特徴である。

BPMSを使うことにより、業務責任者とIT開発技術者の責任担当が明確になれば、「業務仕様定義の丸投げ」といった悲劇を避けることができ、最適システムの構築が近づくことになるだろう。

すでに米国、欧州、アジアの近隣諸国のBPM市場は活況を呈している。米国BPM市場は20億ドルほどで、年率20%から30%の成長率が見込まれる。

こうした新しいBPM市場の誕生は、従来のIT産業では議論されなかった新しい領域──「テンプレート」「業務コンサルタント」「特化型IT技術者」「CPO(最高プロセス責任者)」の重要性が語られている。

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米国のBPM市場
BPMが作り出す新しいIT領域


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