SCMの実行系システムとして欠かせない存在であるWMS(Warehouse Management System)。むろん、効率的活用のためにはしかるべきプロセス整備が不可欠だが、逆に導入で業務改革の口火を切る方法もある。WMSの要件を振り返りつつ、より効果的な導入を考える
昨今、SCMソリューションの中でも、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)が注目を集めています。これは業務の効率化はもちろん、トレーサビリティや、賞味期限・消費期限などの確実な管理が、企業の信頼性を担保する上で欠かせない要件となっていることと大きく関係しています。
特に最近は「食の安全」という言葉が、毎日のように各種メディアで聞かれるようになりました。今、製品の品質確保はコンプライアンス、CSRといった問題としてはもちろん、消費者1人ひとりの実感として求められる風潮が強まっているのです。
その点、サプライチェーンの要所として機能する倉庫の管理は、品質確保の要といえる重要な業務です。何より、製品に対する信頼あってこその販売活動ですから、現在、多くの企業がWMS導入に乗り出しているというわけです。
さらに、こうした前提に立ったうえで、企業は市場動向に即してスピーディに倉庫業務をこなさなければなりません。迅速な業務遂行と確実な品質確保。この相反する要件を両立しなければならないことも、WMSが求められている大きなポイントといえます。
では具体的に、どのような業務が求められるのでしょう。商品を入庫し、在庫保管をし、受注引き当てを行い、ピッキングをして出庫する、といった一連のプロセスにおいて、品質を確保するうえで必要な業務を、以下に少し整理してみました。
こうしたきめ細かな管理を、倉庫の限られた保管スペースの中、オペレーション・ミスなく、しかも迅速に行うのは、人手による作業では限界があります。結果として、システム化が必要となるケースが増えているわけです。
数年前までは、単なるコスト削減のための導入といった感がありました。しかし現在は、効率化と品質確保の両面に重きが置かれています。特に品質確保が社会ニーズと化している今、WMSは電話やFAXと同様、メーカーや物流会社にとって最低限のインフラとして位置付けられてきたといっても過言ではありません。それを証明する出来事として、サードパーティの物流会社が荷主から業務を受託する際、WMSの保有が必要条件になることもあるようです。
では、WMSには具体的にどのような機能があるのでしょうか。まず企業における導入目的を整理してみましょう。
一般に、WMS導入を考える企業のニーズとしては、これら5つにまとめられるかと思います。ポイントは「効率化」と「商流・物流の見える化」にあるといえそうです。これに対してWMSは次のような機能を備えています。
要は倉庫管理プロセスにかかわるすべてのもの、という理解でよいと思います。もっとも、昨今のWMSパッケージソフトの中には、単なる倉庫管理の枠を超えて、本社・本部などにおける複数の倉庫間の横持ち指示や、アロケーション(在庫の最適配分)まで推奨指示できる機能を持ち合わせたものもありますが、代表的な機能は以上に集約できると思います(ここではトラックの求車求貨管理機能や、拠点・在庫配置シミュレーション機能などについては、WMSの範囲外として位置付けています)。
以上の機能によって、企業のニーズはほぼ完全に満たすことができます。実際には、入庫、引き当て、出荷といった一連の倉庫管理プロセスを実施する上で、2次元バーコード、もしくはICタグとハンディ端末を使用して、WMSと連携させる例がよく見受けられます。これによって、在庫の移動状況を即座にコンピュータで管理し、情報流と物流の同期化を実現し、在庫のリアルタイム管理や、引き当て・ピッキングの精度向上を図っている形です。
こうしたなかでWMSの最も注目すべきメリットは、在庫引き当ての精度向上に大きな効果が期待できる点です。在庫引き当ては、業務効率化や信頼性確保のカギとなるプロセスです。現場スタッフが最も腐心している業務の1つでもあるゆえ、引き当てを自動化するレベルまでいけば、倉庫管理プロセスは大きくレベルアップしたと言えます。
さて、以上のようにWMSの機能は非常に豊富です。しかし、導入すればそれだけで今の業務が容易になり、物流品質も向上するのでしょうか? 答えはNoです。
WMSはカスタムメイドで作る場合と、パッケージソフトを導入する場合があります。そのいずれにせよ、今やっていることをそのままシステム化するだけでは、効率化や品質確保業務の精度向上は望めません。WMSを使い切るには、システム導入以前に、業務を適切かつスムーズに行えるような、業務プロセスの抜本的改革が必要なのです。
しかし「業務改革」とは、いざやろうとしてもなかなか難しいものです。何よりも、改革を行うためには、関係者の自主性が求められます。そう考えると、物流の現場は特に改革が難しいフィールドといえるのではないでしょうか。
物流会社は、荷主や出荷先の強い指示を受けて、業務を行ってきた経緯があります。自社の物流部門にしても、生産部門や営業部門の指示に沿って動いてきたケースが多いと思います。現場で働くスタッフも日々の業務に忙殺されているため、改革に向けた意識付けはかなり難しいことでしょう。
しかし、ロジスティクスが全社的な効率化や品質確保のカギを握っている以上、改革はどうしても必要です。ではどうすればよいのでしょうか? そこで求められるのが、現場業務に精通し、経営の観点を持ち合わせ、一定の権限を持ったリーダー的人材です。そうした人が旗振り役となり、多少の抵抗があっても活動を続けていくことが大切なのです。
とはいえ、いかがでしょう? 周りを見渡したとき、そのような人材がすぐに見つかるでしょうか? そう、なかなか見つからないことも、また一方の現実なのです。
それでは、一体何をよりどころに業務改革を行えばいいのでしょうか? そこで私が提案するのは、WMSパッケージソフト導入を改革のトリガーとすることです。
昨今のWMSパッケージソフトは、導入事例が増えたことで完成度が向上し、あらゆる現場業務にきめ細かく対応しています。業種ごとに機能を特化した業務テンプレートを用意しているほか、さまざまな業務タイプに対応できるよう、個々機能のパラメタ設定を可能としているものもあります。
よって、パッケージソフトを導入して、それに自社業務をあてはめていくことが、業界標準への対応や、余計なプロセスの省略、改善につながるケースが多々あるのです。いわば、パッケージソフトの提供してくれる手順を参考にして、業務を改善していく方法です。こうすれば、WMS導入を本格的な業務改革の入り口とすることができます。
これ以外にも「改革」の方法はあります。例えば、受注、引き当て、ピッキングといった一連のプロセスを実行する上で、荷主や出荷先ごとに専用体制を敷いているケースが数多く見受けられます。このオペレーションを共通化し、1つの体制で複数の荷主・出荷先の業務を行えるようにするのです。現在のパッケージソフトなら、1つのソフトで複数の荷主業務を管理することも容易に行えます。これによって業務の繁閑に応じて人的リソースを柔軟に活用できるようになります。
WMSの機能性を十分に引き出すには、それなりの導入準備が求められます。しかし一方で、パッケージソフトそのものの機能が適切な導入を後押ししてくれるのも事実なのです。業務改革に手をこまねいているくらいなら、WMS導入は改革の具体的なきっかけを作るうえで、非常に有効といえるでしょう。
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