IT技術者よ、自らの“価値”に目覚めよ!これからのITアーキテクト像(1)(1/2 ページ)

朝から晩まで働いても、評価されない、報われない……IT技術者にとって辛い状況が続いているが、そもそもIT技術者としての“価値”とはどこにあるのだろうか? いま注目を集めている“ITアーキテクトという存在”を掘り下げると、その答えが明確に見えてくる――日本IBMのシニアITアーキテクト、黒田茂生氏が、その豊かな経験から“未来のITアーキテクト像”を具体的にひも解く

» 2011年03月09日 12時00分 公開
[黒田茂生,日本IBM]

IT技術者は報われない仕事?

 「IT技術者は過小評価されているのではないか?」――IT業界の現場で働いているエンジニアの方なら、一度はこのような疑問を持った経験をお持ちではないでしょうか?

 データセンターや窮屈なオフィスで、休日も返上して朝から深夜まで缶詰め状態で働き、システムを構築するために全力を尽くす。それにもかかわらずプロジェクトが遅れ、システムは思うように動かず、トラブルは次々と発生する。

 このように過酷な労働環境で苦労しているにもかかわらず、思ったほど精神的な満足が得られない。キャリア、金銭などにおいて十分な見返りがあるように思えない。そのように感じる人が増えているのではないでしょうか? また最近、IT技術者は3K(7Kなどそれ以上)の仕事などと言われることも珍しくなく、他の職種からの評価が厳しく感じられることもあります。

 実際、IT技術者を取り巻く環境は、年々厳しいものになっています。かつてはIT技術者の主な活躍の場は、メーカーにおいては「コンピュータシステム販売における技術サポート」、ユーザー企業においては「コンピューターシステムを開発すること」や「運用すること」が仕事の中心でした。

 ところが、技術の進歩と普及により、メインストリームは「企業のITシステムを構築するために、労働サービスを提供する」という労働集約型のサービスへ移っています。この流れは、定量化しにくい技術者の“価値”を、「どれだけ高度な労働サービスを提供できるか?」、あるいは「労働した時間の対価をどれだけ向上させられるか?」といった“単純労働”に置き換えるような状況を生むことになっているのです。

 しかし、米国のニュースメディアであるCNNが行った調査、「BEST JOBS IN AMERICA 2010」では、No.1がSoftware Architectという、現場での感覚とは正反対のように思えるような調査結果が出ています。これはいったいどういうことなのでしょう? 厳しい環境に置かれているのはIT業界で働く一部の人々だけ、ということなのでしょうか?

米国では高評価。いま注目を集めるITアーキテクト

 結論から言えば、それは違います。米国において、Software Architect――以下ではITアーキテクトと呼びましょう――がそのように評価されていることには、それなりの理由があるのです。というのも、近年、大規模・複雑なシステム開発が増加するに従い、プロジェクトマネジメントの在り方が見直されるようになっていますが、これと同時にシステム設計についても上流から見直す風潮が強まっています。これを受けて、“ITアーキテクト”という存在が注目されるようになっているのです。

 ではITアーキテクトとは、具体的にはどのような人のことを指すのでしょうか? ここで「ITアーキテクト」の定義を確認してみましょう。ANSI(米国規格協会)と、米国の技術者団体であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)の合同制定規格「ANSI/IEEE Std」の 1471-2000では、ITアーキテクトについて次のように定義しています。

architect――The person, team, or organization responsible for designing systems architecture.


 要するに、「アーキテクチャの設計に責任を持つ人」ということです。では「アーキテクチャ」とは何でしょうか? 同じく「ANSI/IEEE Std」の 1471-2000では、次のような定義がなされています。

architecture――The fundamental organization of a system embodied in its components, their relationships to each other, and to the environment, and the principles guiding its design and evolution.


 すなわち、ITアーキテクトは「システムのコンポーネント、コンポーネント同士と環境との間の関係、およびその設計と進化を支配する原理に体現された、システムの基本的な構造」の設計に責任を持つ人、というわけです。

 ではいま、なぜそうしたITアーキテクトが注目されているのでしょうか? EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)のフレームワークの一つである TOGAF (The Open Group Architecture Framework)では、ITアーキテクトの重要性について次のように述べています。

・「ITシステムを必要としている人々(ステークホルダー)にはそれぞれの関心事があります。アーキテクトがアーキテクチャのビューを作成することで、ステークホルダーの関心事を明らかにして、要求を取り扱い、相反する要求に対して正しくトレードオフを行えるようにします。アーキテクチャがなければ、ステークホルダーの関心事や要求は正しく満たされないでしょう」

 より具体的になってきました。すなわち、“ステークホルダーの要求を正しく満たすべく、アーキテクチャを責任を持って設計できる人”といったところですが、情報処理推進機構(IPA)では、「ITスキル標準 V3」の中で「ITアーキテクトの役割」を、「ソリューションの枠組の策定と、ソリューションアーキテクチャの設計が主たる活動領域である」と示しています。その中身を見てみると、こちらはさらに具体的です。

・「ビジネスの課題を理解する」「要求を明確にする」「要求と制約の衝突を取り除き、解決策(アーキテクチャ)を設計する」「ステークホルダーを説得し、解決策についての合意を獲得する」「解決策の実装に責任を持つ」「ステークホルダーの満足を獲得する」

 以上をまとめると、「ITアーキテクトとは、上流――つまりビジネスと人に関わり、その両者にベネフィットを提供できるために重要と考えられている」と言えるのではないでしょうか。「BEST JOBS IN AMERICA 2010」のNo.1にSoftware Architectが選ばれた米国では、ビジネス界において、そうした点が広く認知されているということなのでしょう。

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