解決策を見つけるためにきちんと分析しよう BABOK 2.0を読んでみよう(2)(1/3 ページ)

BABOKバージョン2を解説する本連載の第2回となる今回は、BABOKの7つの「KA(Knowledge Area)」の中でも主要なビジネスアナリシス活動となる、「エンタープライズアナリシスKA」と「要求アナリシスKA」を細かく説明する。

» 2009年10月20日 12時00分 公開
[松尾潤子(豆蔵),@IT]

 2009年3月末に「Business Analysis Body Of Knowledge(BABOK)」のバージョン2.0が、International Institute of Business Analysis(IIBA)からリリースされました。

 本連載では、BABOKバージョン2.0の概要を紹介しながら、いま注目を集めている超上流のアプローチ、ビジネスアナリシスがどのようなものであるかを見ていきます。第2回では、7つの「KA(Knowledge Area)」の中でも主要なビジネスアナリシス活動となる「エンタープライズアナリシスKA」と「要求アナリシスKA」に注目します。

エンタープライズアナリシス(Enterprise Analysis)とは?

 エンタープライズアナリシスKAでは、次のことを実施する際に必要となるビジネスアナリシス活動が説明されています。

  • ビジネス上のニーズ、問題、チャンスを認識する
  • ニーズに合ったソリューション(解決策)の特性を明確化する
  • ソリューションを実現するための投資の必要性を正当化する

 エンタープライズアナリシスの結果は、要求アナリシスKAのコンテキストとなります。また、エンタープライズアナリシスは新規プロジェクトを発足させるための開始点です。変更があった場合や、さらなる情報を入手した場合には、繰り返し実施します。エンタープライズアナリシスをした結果、ビジネス要求が特定され、文書化されるのです。

 では、エンタープライズアナリシス活動とは、実際にどのような活動を指すのでしょうか? BABOKには次のように書かれています。

  • ビジネス上の問題とチャンスを十分に知るために、ビジネスの状況を分析する
  • ビジネスニーズと戦略的な目標達成に求められる変化を理解するために、企業の能力を査定する
  • 最も実現可能なビジネスソリューションのアプローチを決定する
  • ソリューションスコープを定義し、提案されたソリューションを適用したビジネスケースを開発する
  • ビジネス要求を定義し、文書化する(ビジネス要求にはビジネスニーズ、必要とされる能力、ソリューションスコープ、ビジネスケースが含まれる)

 つまり、よくいわれる「現状を把握し、あるべき姿を定義するためには何をしたらよいのか?」を定義しているのがエンタープライズアナリシスKAなのです。

 この部分をあいまいなままにしてしまうと、企業の本当の目的に適合しない、「使えないシステム」を生み出すことにつながってしまいます。「開発対象のシステムを、システムの視点だけで考えてはいけない」というコンセプトは多くの人が語っていますが、「具体的に何をすればよいのか?」を語ってくれる人は多くありません。そこでBABOKの出番となるわけです。

 また、エンタープライズアナリシス活動のパフォーマンスは、計画された内容に従って管理され、実績が測定されます。これらの管理活動については、第4回で取り上げる予定です。

エンタープライズアナリシスKAを詳しく解説

 それでは、エンタープライズアナリシスKAの各タスクをざっと見ていきましょう。

図1:エンタープライズアナリシスKA全体像(クリックで拡大) 図1:エンタープライズアナリシスKA全体像(クリックで拡大)

 『ビジネスニーズを定義する』タスクは、ビジネスアナリシス活動の中で、最も重要なステップです。ビジネスニーズとは、何らかのソリューションが必要な問題を定義したものです。「なぜ組織のシステムや能力に対して変化が求められているのか?」を特定し、定義するのが目的です。

 ビジネスニーズは、顧客からの苦情や収益の減少、あるいは新しい市場機会など、企業が直面する問題をトリガーに評価されます。

 組織は、その問題の根底にあるビジネスニーズを調査することなく問題を解決しようとしがちです。例えば、「独自のソフトウェアを開発する時代は終わった。これからは業務をシステムに合わせる時代だ」と、業務パッケージの導入を決め、結局ほとんどの部分をカスタマイズしなければならなくなったケースなど、皆さまもお聞きになったことがあるのではないでしょうか。

 また、前提条件や制約条件は、大抵、問題そのもののステートメントに埋もれてしまうため、ビジネスアナリストはそれらについても質問しなければなりません。

 定義されたビジネスニーズは、以降のエンタープライズアナリシス活動の入力となります。ですので、具体的なソリューションの提案を外部ベンダに依頼する際も、ビジネスニーズを提示することで、より「使えるシステム」の提案を得ることができるでしょう。

 『能力ギャップをアセスメントする』タスクでは、既存の体制、人、プロセス、テクノロジを利用してビジネスニーズを満たすことができるかどうかを判断します。ビジネスニーズに合致し、期待される結果を出すために求められる能力を特定するのが目的です。必要な能力が特定されてから、その能力を得るためのソリューションを考えていくわけです。

 『ソリューションアプローチを決定する』タスクでは、ソリューションに対するアプローチを決定します。最も実行可能で、ビジネスニーズに合致したアプローチを決定するのが目的です。もう少し具体的にいうと、

  • 既存のソフトウェアやハードウェアを更新することで性能を上げる
  • 新しいソフトウェアやハードウェアを購入する
  • 独自のソフトウェアを設計して開発する
  • 人員を追加する
  • 業務プロセスを変える
  • 業務提携やアウトソーシングする

などを検討します。

 『ソリューションスコープを定義する』タスクでは、ソリューションがもたらす新しい能力を定義します。『ソリューションアプローチを決定する』タスクで決定したアプローチ方法に沿って推奨されるソリューションをまとめ、ステークホルダー(利害関係者)が理解できるようにするのが目的です。

 『ビジネスケースを定義する』タスクでは、ソリューションを展開することによる費用対効果を定義します。プロジェクトへの投資を正当化するのが目的です。

 以上がエンタープライズアナリシスKAの各タスクの概要です。

 第1回の図の通り、タスクの説明には、そのタスクを実施する目的、実施内容の説明、タスクへの入力となる成果物や情報、出力成果物、そのタスク特有の事項、そのタスクの実施に当たって関係するステークホルダーなどが記述されています。

 タスク特有の事項は要素(Elements)と呼ばれ、各要素ごとにそのコンセプトがまとめられています。出力成果物の項目の候補としても大変参考になるものです。

タスク 要素(Elements)
ビジネスニーズを定義する ●ビジネスのゴールと目的
●ビジネスの問題と機会
●望ましい結果
能力ギャップをアセスメントする ●現在の能力分析
●新しい能力要求の評価
●前提条件
ソリューションアプローチを決定する ●代替案の作成
●前提条件と制約条件
●順位付けとアプローチの選択
ソリューションスコープを定義する ●ソリューションスコープを定義する
●実装法
●依存関係
ビジネスケースを定義する ●利益
●コスト
●リスク評価
●結果測定
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